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2020/06/05

<インタビュー>『あつ森』サウンド・ディレクター戸高一生が語る、シリーズにおける音楽の役割とその制作プロセス

 2020年3月20日のリリースから瞬く間に世界中で大人気となっている任天堂ゲームソフト『あつまれ どうぶつの森』。外出できない期間が長引く中、多くの人々が“あつ森”ののどかな世界観に癒されながら、ほかのプレイヤーたちとのヴァーチャル・コミュニケーション・ツールとしても活用しており、米国の有名セレブたちもハマっているようだ。

 多くの人に愛される“あつ森”の世界観に大きく寄与しているのが、その心地良いサウンドトラックだ。博物館の館長フータが日中に起こされた時に出す声や、土曜日の夜に広場でギターの弾き語りを披露する犬のミュージシャンとたけけの調べ、島の岸に打ち寄せる波の音など、何百時間も聴いているうちにすっかり心を奪われているプレイヤーも多いだろう。

 この音楽のサウンド・ディレクションを担当しているのが、とたけけとしてゲームにも登場している戸高一生(とたかかずみ)だ。2001年から同シリーズの音楽を担当している彼に米ビルボードがメール・インタビューを行い、のんびりしたサウンドトラックの細部に至るまでこだわった配慮について語ってもらった。

ーーいつ頃から作曲を始めたのでしょうか?

戸高:音楽の全体的なコンセプトは制作プロセスの早い段階で決定され、それからタイトル曲のデモ音源を2018年6月に完成させました。オープニング・テーマは作品全体を代表しています。ですから作っている間はゲーム体験全般を意識しながら俯瞰していました。残りの曲はデモが完成してから作り始めました。

ーー実際にゲームを体験してから作曲できたのでしょうか、それともその逆でしたか?

戸高:このプロジェクトに関しては、ゲームを体験してから作曲されたものがほとんどです。豊かなゲームプレイ体験を作り出すために、特定のシーンの特徴を正確に把握し、その特徴を元にどのような音楽的要素が求められているかを考え、その曲を当てはめることで実際にゲームをプレイしているときに最終的にどのような雰囲気が生み出されるかを想像することが重要でした。

ーーオープニング・テーマはゲーム全体を通してさまざまなヴァージョンで登場します。ゲームの鍵を握る部分になると分かっていただけに、このテーマの作曲には特に時間をかけられたのでしょうか?

戸高:メロディーが何かしらの形で島の時間ごとの曲として登場しますし、サウンド・エフェクトやほかの箇所でも使われていますから、オープニング・テーマはとても長い時間をかけて作りました。これを作曲している間、ゲームのために作られる音楽の核となる価値観や方向性をスタッフの間でたくさん話し合いました。オープニング・テーマが、作品を音楽面で代表することになるのはすでに明らかでしたから、そのような議論を交わしながら全員の理解を深めることがとても大事でした。

ーー島というゲームのテーマに音楽を合わせるために使用した特定の楽器や手法などについて教えていただけますか?

戸高:この島の設定のキーワードは“のんびり”と“自由”でした。アコースティック・ギターや、ほかの似たような弦楽器がそれらのキーワードにふさわしいのではないかと考えました。

ピアノのような鍵盤楽器は(博物館で聴けるような)アカデミックで複雑なフィーリングを生み出しますが、ヴァイオリンは無人島にはエレガント過ぎます。あと、アコギは誰でも覚えることができます。いくつかコードさえ覚えれば誰でも曲を演奏することができるという意味で参入のハードルが低いですよね。ギターが親しまれているのはこれも理由の一つだと思います。この親しみやすさによってプレイヤーにリラックスしてくつろいでもらえるかもしれないと考えました。あとは、かき鳴らされたコードが鳴り響く音は、遠くに地平線が見えて心地良い風が吹いているような広い空間を想起させるので、聴いている人が解放された気分になれると思います。

ーーどんなゲームにも音楽は必須ですが、気晴らしやちょっとした瞑想の場としてプレイヤーが頼る“どうぶつの森”では特にそうだと思います。このシリーズにおける音楽の役割についてどうお考えですか?

戸高:“どうぶつの森”は、色々な方法で楽しめるゲームです。動物の住人たちと穏やかに交流するのを楽しむ人もいれば、釣りのちょっとした緊張感を楽しむ人もいます。ですから基本的には楽しめる音楽でなければなりませんが、ほかの感情の方向へ傾き過ぎるような音楽的表現は避けるようにしています。

ーー流れ星や波、足音、ほかのキャラクターとの会話など、このゲームにはほかの音もあります。それらのさまざまな環境音をどのように音楽と合わせたのでしょうか?

戸高:「どんな音楽がそれら全てと調和するだろうか」という問いの答えが「余計な音を除外した音楽」であると考え、本当に必要な音だけを残しました。また、物語を全て音楽で語ることはしたくありませんでした。どちらかといえば、音と音の間の隙間を形作るような曲を作ることを最も重視し、そうすることでゲーム内の音と調和が生まれました。

そのアプローチで挑むことにより、前にも言いましたように、さまざまな方法で楽しんでもらえるゲームに合う音楽を実現することができました。全ての感情やイメージを音楽で想起させるのではなく、音と音の間の隙間をリスナー自身の感情や想像で補うことができるような音楽を作る努力をしました。

ーー皆のお気に入りのさすらいのミュージシャンとたけけは、“あつ森”でこれまで以上に楽曲を披露しています。彼の曲を作る際のプロセスはチームとしてどのようにアプローチしたのでしょうか?

戸高:それぞれの楽曲は、過去にもシリーズに関わった作曲スタッフによって作られたので、時間と共に多くの曲がたまっていきました。そのスタッフが得意なジャンルだから作られたものもあれば、チャレンジとして作られたものもあります。

ーーこのゲームで、現実からインスパイアされたとたけけの楽曲はありますか?

戸高:世界中に存在する多数の音楽ジャンルをそれぞれ深く掘り下げていくと、一つ一つの中にも多くのスタイルがあり、それを実践しているさまざまなミュージシャンがいます。世界の音楽ジャンルがこれほど多様で豊かなのはこれが理由だと私たちは考えています。ですから、それらのジャンル内のさまざまな種類の音楽に触れて、共通の型や特徴、雰囲気、特異性に耳を澄まし、作曲をする際にそれらに重点を置きたかったのです。あるジャンルの曲を作るのが初めてだったとしても、そのジャンルを本当に心底理解して、敬意を持って作曲するようにしています。

ーー最終的に、プレイヤーには“あつ森”の音楽から何を感じ取ってほしいと思いますか?

戸高:繰り返しになってしまいますが、余計な音がない音楽にする、音と音の間の隙間をリスナー自身の感情や想像で補えるような音楽を作るということを私たちは目指しました。非常にやりがいのある課題でした。

※このインタビューは、米ビルボードにより編集・要約されています。

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