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2019/11/05

『One Of The Best Yet』ギャング・スター(Album Review)

 レジェンドを凌駕する存在として、後のヒップホップ・シーンに多大な影響を与えた東海岸の代表格=ギャング・スター。2010年にメンバーのグールーが死去し、復活を遂げることなく終焉を迎えたが、相方のDJプレミアがSNSで仄めかせた衝撃が事実に、前作『The Ownerz』(2003年)からおよそ16年ぶりとなるアルバム『One Of The Best Yet』が遂にリリースされた。

 本作からは、昨今のブラック・ミュージック・シーンを引率するラッパー/シンガーのJ.コールをフィーチャーした「Family and Loyalty」が、先行シングルとしてリリースされている。彼らの復活はもちろん、同曲がフィーチャリング・アーティストとしての最後の仕事だと公言したJ.コールにも、大きな注目が集まった。

 「Family and Loyalty」は、MCライトの「Stop, Look, Listen」(1989年)と、ブラック・シープの「The Choice Is Yours」(1991年)のクラシック・トラック2曲を起用した、ゴールデンエイジ・ヒップホップ直結のナンバー。ダイヤモンドを比喩的表現に用いて、音楽や友情の尊さを綴った歌詞に、ピアノベースのジャジーなイーストコースト・サウンドを乗せた復帰シングルに相応しい傑作。

 「Family and Loyalty」に続いて公開された「Bad Name」の歌詞には、昨今のヒップホップ・シーンを皮肉ったようなニュアンスが含まれている。ビギーと2パックの名前を出したのは、彼等がトップに君臨していたあの時代が、それだけ(ヒップホップ的に)栄えていたということだろう。スクラッチを炸裂させるトラックには、エド・O.Gの「Sayin' Somethin'」が一部使用されている。

 アルバムは、当時若者を中心に人気を博したギャング・スター自身の「DWYCK」(1994年)と、前作に収録された「Skills」(2003年)のライブ・パフォーマンスを起用したイントロで幕を開ける。なお、「DWYCK」は最終曲「Bless The Mic」にもエリック・B&ラキムの「My Melody」(1987年)と併せてサンプリングされている。

 イントロから間髪入れずに始まる「Lights Out」には、プレミアとも長い付き合いになる米ブルックリンのヒップホップ・デュオ=M.O.Pがゲストとして参加。ファンカデリックの「Get Off Your Ass And Jam」(1975年)イントロ部分を使用した東海岸らしい曲で、過去のアルバムを引っ張り出してきたと錯覚するほどまんま90's。Qティップが参加したクラブスクラッチ使いの「Hit Man」もそうだが、本作はその他のタイトルもほぼ、当時を再現したような音作りになっている。

 (個人的に)当時のLL・クール・Jを彷彿させる「What's Real」には、米NYのヒップホップ・デュオ=グループ・ホームと、ラッパーのロイス・ダ・ファイブ・ナインがクレジットされている。グループ・ホームは、名盤と受け継がれるデビュー作『Livin' Proof』(1995年)をプレミアにプロデュースしてもらい、ロイス・ダ・ファイブ・ナインは、PRhyme(プライム)というユニット名でDJプレミアと活動したことも話題となった。

 スクラッチを合間に強烈なフロウをぶちまけるハードコア「From A Distance」は、ギャングスター・ファンデーションのメンバーで、ギャング・スターの3rdアルバム『Daily Operation』(1992年)でも共演しているジェルー・ザ・ダマジャが、不安定な旋律のスロウ・ジャム「Get Together」には、R&Bシンガーのニーヨと、米NY出身のフィーメール・ラッパー=ニッティ・スコットがゲストとして参加した。後者は、3者のキャラクターがそれぞれ活きていて、ニーヨの演歌っぽいコーラスもアクセントになっている。

 スヌープ・ドッグをフィーチャーした自身の楽曲「In This Life...」(2003年)をサンプリングしたタリブ・クウェリとのコラボ曲「Business Or Art」も捨てがたいが、ビッグ・シャグ&フレディ・フォックスをフィーチャーした「Take Flight(Militia Pt. 4) 」はマスト。「The Militia」(1998年)の続編として、同曲とLL・クール・Jの「4,3,2,1」(1997年)を使用した、ストリングスとホーンを鳴らすスリリングなバック・トラック、一点のブレもないラップ・スキルと、本作一カッコいい。

 リリックでは、出ては消えを繰り返す、これまで輩出された多くのラッパーたちについて歌う「So Many Rappers」がいい。ラストの「名前を憶えられていればラッキー」というフレーズには、まさにと頷かされる。

 この時代に大ヒットを記録する……というのは到底考え難いが、J.コールが参加したこと含め、彼等の存在や当時の音が若い世代にも周知されるキッカケにはなったことは、大きな意義がある。何より、スタジオにグールーの遺灰を持ち込むという演出までして完成させたDJプレミアの仕事は、当時のヒップホップ・ファンへの最高の贈り物になったのでは?


Text: 本家 一成

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