2018/01/31 08:00
今や押しも押されもせぬ世界のトップピアニストの一人となったアンデルシェフスキ。昨年ツアーに引き続き、今年3月には東京でも来日公演が予定されている。今回のアルバムは、第21番と第24番、第20番に17番のアルバムに引き続く待望の第3弾、モーツァルトのピアノ協奏曲第25番と27番だ。
25番は、華やいだ冒頭のファンファーレからして、交響的、というよりオペラ的とすら言いうる祝祭的な協奏曲で、彼らは、音符を短めに刈り込んだフレージングで、室内管らしい。躍動感ある挙動をみせる。やがて入ってくるピアノも、オケと無理なく調和するようにダイナミック・レンジに抑制を効かせている。第1楽章再現部の入りにある和音など、スフォルツァンドで豪壮に叩き込む奏者も少なくないなか、トゥッティの前後に指示されているpの指示のまま優しく打鍵する。では起伏のない平板な演奏なのかといえばさにあらず、芯の一本通った、分離が極めてよい独特の音色が乱舞し、生き生きと立体的に響くピアノは、むしろ実に雄弁だ。
25番第1楽章のカデンツァは、2つの主題と展開部のモチーフに基づくもので、ポリフォニックな書法の各声部の色分けの巧みさは、さすがアンデルシェフスキ。はじめてフォルテで鳴らされる和音の重厚さも相俟って曲のにぎやかさをヴィトゥオーぞ風のパッセージで鮮やかに際立たせる。
第2楽章では、音符がポツポツとしかない間隙に即興的に装飾を用いているものの、違和感を呼ぶほど多用しない。これもアンデルシェフスキの特徴だ。第3楽章は序奏こそ手堅いテンポと響きだが、ピアノが入ってくると一気に引き締まる。即興的アインガングも魅力的だ。
第27番は、モーツァルト白鳥の歌の1曲で、清澄にして崇高なこの最期の協奏曲を、彼らはじっくりと弾き進む。レガートとセミ・スタッカートの対比は殊更際立たせてはいない。25番とは対照的性格の曲ゆえ、カデンツァでも息を潜め、しずしずとした歩みで、最晩年のモーツァルトが書き記した奇跡的な音楽を慈しむ。第2楽章では、第25番同様に、主に分散和音での即興的装飾を施すが、これも装飾音の発表会にはならず、しとやかな情緒が楽章全体を潤している。
第3楽章は、このディスクにおける彼のアプローチを象徴的に示している。いささか遅めのゆったりとしたテンポで、もう余計なことは一切しない、と宣言するかのよう。ガツンと鳴らせばかなり場違いに鳴るはずの和音を軽いアルペッジョに弾き崩す意匠は、無駄を削ぎ落とされた全曲の雰囲気に溶け込み、オケとピアノとの密接な対話に意を砕いた演奏に耳を傾けさせる。生硬にすぎず、柔弱に過ぎず、アンデルシェフスキとヨーロッパ室内管の演奏は真摯で、モーツァルトへのひたむきな敬愛に満ちたものだ。性格異なる協奏曲2曲を見事に捌いた彼らに喝采を。Text:川田朔也
◎リリース情報『モーツァルト:ピアノ協奏曲 第25番、第27番』
2018/1/31 RELEASE
WPCS-13746 2,600円(tax in.)
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