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2017/11/06

ASA-CHANG&巡礼の生を揺さぶる音楽へ、押見修造が彩りを添えた【アウフヘーベン! vol.4】

 それは、まほう、のようだった。

 作品をスローペースで発表しつつ、ライブ活動を精力的に行っている音楽ユニット・ASA-CHANG&巡礼が、2017年10月30日に【アウフヘーベン! vol.4押見修造×ASA-CHANG&巡礼】を開催し、漫画家・押見修造とのコラボレーションを繰り広げた。会場は渋谷・晴れたら空に豆まいて。カフェバーのようなエスニックの雰囲気漂うイベントスペースで、観客は畳敷きのフロアに腰を下ろし濃厚な一夜を楽しむこととなった。

 押見と言えば、現在は『ハピネス』『血の轍』という2作品の連載を持っているほか、小説や文芸誌の表紙を手がけるなど、イラストレーターとしても幅広く活動している。メディア化された作品も多く、関東地上波では『ぼくは麻理のなか』の実写ドラマが放送中だが、その名を一気に広めたのは2013年にアニメ化された『惡の華』だろう。そんな押見はその昔、某大学で行われたASA-CHANG&巡礼のライブに行き、2001年発売のミニアルバム『花』で虜になったというが、両者に正式な出会いをもたらした作品こそ『惡の華』である。このエンディングテーマにミニアルバムのタイトル曲をリアレンジした「花 -a last flower-」が起用され、その後は同アニメのオープニングテーマを手がけていた宇宙人(2014年解散)の、しのさきあさこも交えた3組で楽曲「白日夢」も発表。2015年には【アウフヘーベン! vol.3 押見修造×ASA-CHANG&巡礼】を開催し、今回が2度目となる両者の共演イベントとなった。

「色々なシーンを感じ取っていただければと思います」

 ステージ上には後関好宏(sax,flute,vo)と須原杏(violin,g,vo)が、そしてASA-CHANG(per)が観客に背を向ける形で畳に鎮座。押見は右後ろのスペースに座ったのだが、その手元がステージ奥のスクリーンに映し出される仕組みである。準備が整い、最初に披露された楽曲は、2016年リリースの最新アルバム『まほう』より、ボカロPとして活動していた故・椎名もたととフィーチャリングした「行間に花ひとつ」。椎名もたの歌声と民族的なパーカッションサウンドが全面に押し出されたこの楽曲をバックに、押見も鉛筆で少年の輪郭を描き始めた。

 それぞれの担当楽器に加え、アコーディオンやトランペット、ASA-CHANGが自ら開発した青い箱状のサウンドシステム『巡礼トロニクス』など、自作の楽器も多数使用するASA-CHANG&巡礼。音声サンプリングをはじめとするエレクトロを生楽器に絡ませ、アレンジを加えながら、冒頭3曲を約20分に渡り演奏してみせた。白熱電球のようなオレンジ色に染まる会場は薄暗く怪しげな雰囲気も漂うが、ASA-CHANGは至ってのんびり「みなさん、こんばんは」と一言。それから「普段行われないライブ形式だとは思いますが、色々なシーンを感じ取っていただければと思います。一つのテーマがあるとか、そういうものでもございません。是非、押見先生と我々の空間を楽しんでいただければと思います」と語りかけ、2015年公開の映画『合葬』サウンドトラックより、チャイムを始めとする音の波にカヒミ・カリィによる日本語の美しい独白が乗る「慶応四年四月十一日」にてパフォーマンスを再開させた。

 前回のイベント時は『惡の華』の別の結末として、全22ページのオリジナルマンガ『百万回の帰郷』を描いた押見、この日はイラストレーションという手法を取った。その少年に表情はない。しかし、深い青を中心とした水彩絵の具が重ねられていくと、その空虚な瞳には底なしの絶望や猟奇的な光が宿る。かと思えば、押見はそれを隠すかのようにトレーシングペーパーを重ね合わせ、少年の頭を巡る思想や感情を直に暴こうとでも言わんばかりに、今度はリアルな脳みそを描いていった。今にも動き出すのではないのかという、冷たく、それでいて肉感的な絵は、ポップ且つ前衛的なアプローチで生を揺さぶるASA-CHANG&巡礼の即興的な音楽へ、水彩絵の具にも劣らない鮮やかな彩りを添えていく。

「一つのテーマがあるとか、そういうものでもございません」

 その場で生み出され、その場で融合する両者の息。押見が使うドライヤーの音すら楽曲の一部として機能したほどの親和性であるが、途中で押見が自らスイッチを入れたプリンタの音もまたしかり、そのパフォーマンスによっても会場には不思議な一体感が生み出された。プリンタは天井にも及ぶほど高い位置に設置されており、吐き出される大量の印刷物は自動的に舞い落ちるため、その少年の線画は人の手を渡って拡散されていく。そんな中、後関が語ったのは次の演奏曲「まほう」について。この楽曲は、押見自身が吃音(どもり)に悩んだ経験を基にして描いた『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』のセリフを引用し、サウンドループによりその世界観を表現したものだが、後関はしゃべりながら漫画の結末にまで触れそうになったことに気づき、慌てて「続きは漫画を読んでください」と物販紹介。刺激的な演奏とは打って変わり、合間に流れる空気はとても温かい。

 そして奏でられた「まほう」に加え、『惡の華』を思い出させる「花」も披露。アニメの台詞や、今回のために録音された押見修造の音声も組み込まれた「花」からは、瞬く星のようなサウンドの流れを汲み、【アウフヘーベン! vo.2】に出演した映像作家・勅使河原一雅のプロフィール文をそのまま歌詞に落とし込んだという「告白」で本編は締め。それまではずっと背を向けていたASA-CHANGだが、アンコールでこの日初めて観客の方を向き、昭和初期の楽曲カバー「家へ帰りたい」を楽しそうに歌い上げた。このとき押見はステージの隅にちょこんと正座し笑いを誘っていたが、最後「カクニンの唄」では4人横並び。観客にも歌詞カードが配られ、約二時にわたって共にそれぞれ内観した仲間、と言っても過言ではない、全員での大合唱が巻き起こった。

 ときに凄惨なほど命を抉り、ときに優しく命を讃えるASA-CHANG&巡礼と押見修造。音楽に合わせて描かれた絵はいつの間にか美しい少女になった。「光はイラネ水ヲクダさイ」とも言い出しそうな、闇の中にあっても光を隠しきれないのであろう少女である。

TEXT:佐藤悠香

■ASA-CHANG&巡礼
◎リリース情報
アルバム『まほう』
2016/03/02 RELEASE

◎ミュージックビデオ
「告白」http://youtu.be/wu2zarfTTZA

■押見修造
◎【アウフヘーベン! vol.4】イラスト
Twitter:http://bit.ly/2lUmhU5

◎セットリスト
【「アウフヘーベン! vol.4」押見修造 × ASA-CHANG&巡礼】
2017年10月30日(月)渋谷・晴れたら空に豆まいて
漫画:押見修造
音楽:ASA-CHANG&巡礼
01.行間に花ひとつ(3人太鼓バージョン)
02.海峡
03.影の無いヒト
04.慶応四年
05.つぎねぷ
06.ビンロウと女の子
07.まほう
08.イントロコーラジュ
09.Preach
10.ASA-CHANGソロ(コピー機の音と)
11.花
12.告白
EN1. うちへ帰りたい
EN2. カクニンの唄

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