2026/07/10 19:00
2026年6月18日、東京・渋谷 WWWXにてライブ【水槽 presents "DUAL DISPLAY" feat. 音羽-otoha-】が実施された。タイトルの通り、この公演はシンガー・トラックメイカーとして活動する水槽が主催するツーマンライブであり、共演者として長らく交友のあるシンガーソングライターの音羽-otoha-を迎えている。本稿では、同公演のライブレポートをお届けする。
〈こんな強い歌を歌うのは/自分が弱いから〉
DJブースからトラックを操る水槽をバックに、テレキャスターを抱えた音羽-otoha-が「地球最後の一日」を歌い出す。ともにインターネットを拠点に、ジャンルやシーン、プラットフォームの壁を超えながら唯一無二の活動を続ける二人だが、なにより両者に共通しているのが「強い歌」を歌っているということ、さらに楽曲などの表現を通して赤裸々なほどに自身の「弱さ」を描いてきたことだろう。ともに対バン形式のライブは貴重ということもあってか、開演前の会場には興奮と緊張が同居したような独特なムードが広がっていた。だが、二人の歌が響いた瞬間、一人ひとりの想いが一つの場所へと結実したかのように見えた。ここにいる人々は、まさにそんな歌が聴きたいからこそ、この場所に集まったのだ。
音羽-otoha-の楽曲ではありつつ、水槽がマイクを握るパートも多く、スケールの大きなメロディが響くサビでは二人の美しいハーモニーが会場いっぱいに響き、ここが渋谷のライブハウスであるとは思えないほどに開放的な感覚が広がっていく。〈これが最後の一日だとしたら/君と歌うよ〉と歌い上げる二人の姿は、この時点でツーマンライブの成功を物語るほどにドラマティックな光景だった。とはいえ、これから繰り広げられる「ツーマンの限界」に挑むかのような二人のパフォーマンスの数々を踏まえると、本人たち側からしてみればまだまだ序章という感じだったのかもしれない。
余韻に浸る間もなく、DJを務める水槽の手で「SINKER」、「リインカーネーション」、「事後叙景」、「駆落」と双方の代表曲が交互にフロアへと放たれ、音羽-otoha-が軽やかにギターを掻き鳴らしながら応戦し、二人の歌声が楽曲に新たな色彩を描いていく。原曲でも印象的だったギターのカッティングが音羽-otoha-の生演奏によってさらにエッジーになった「事後叙景」など、どの楽曲も二人ならではのパフォーマンスとして仕上げつつ、あくまでDJミックスの一部として贅沢に駆け抜けていく。DJセットのラストを飾ったのは、水槽のキャリア屈指の艶やかでクールなデュエット曲「INCIDENT」。見つめ合いながら歌う二人の姿が、惜しみない楽曲の連打に沸き立つフロアの熱狂をピークへと導いていた。
興奮冷めやらぬなか、自己紹介のMC(水槽「今日は音羽-otoha-さんをお借りしております」→音羽-otoha-「お借りされております」)を挟んで、音羽-otoha-が一人でステージに現れると、強烈な歌い出しの「先生布告」で、一瞬で自身の世界に染め上げる。言葉が紡がれるにつれて徐々に表情が変わっていく歌声はあまりにも壮絶で、後半を迎える頃にはまるでメロディの向こう側から心臓が飛び出してきそうなほどの感覚に襲われる。続く「闇夜のダンサー -Dancer in the Dark Night」では、ブルージーな歌声と鋭利なテレキャスターの音色が身体を貫き、思わず踊らずにはいられない。この日はゲストとしての出演ということもあり、もしかしたら水槽目当ての観客が多かったかもしれないが、この時点で彼女が完全に会場を掌握していることは明らかだった。
ダメ押しとなったのが、ポール・ギルバート譲りの電動ドリル奏法で伴奏からソロまでギターボーカルを完遂(!)してみせた「engine」。まるで武器のようにドリルを自在に操りながらギターを弾きまくり、堂々と力強い歌声を響かせる姿はまさにロックスターという他なく、最後に勇ましくドリルを掲げた音羽-otoha-の姿に、会場は惜しみない歓声を贈った。
続いて、今度は水槽が一人で登場すると、最近ではお馴染みとなったDJブースに身を構え、「ロリポップ・バレット」で自身のステージを作り上げていく。原曲はミドルテンポでゆったりと盛り上げていくような楽曲だが、この日の水槽は明らかに音羽-otoha-のステージの熱量を引き継いでいて、普段のステージ以上に情感に満ちた歌声が会場を鋭く射抜く。続くアッパーな「イントロは終わり」では鮮やかなフロウが冴え渡り、観客の凄まじい熱狂も相まって、水槽自身が思わず「最高!!!」と叫ぶ一幕も見られた。
ソロセットの最後に披露されたのは、自身の代表曲の一つである「MONOCHROME」。複雑な楽曲構造や二転三転するリズムが印象的な楽曲だが、音羽-otoha-や観客の熱気から受けたヴァイブスがパフォーマンスにも投影され、まるで針の穴を通すかのような同楽曲を心地良いグルーヴを纏いながら華麗に歌い上げてみせる。その奇妙で心地良い感覚は、これまでに経験したどのライブでも味わったことのないものだった。ツーマンライブの醍醐味といえば、直前の共演者のステージに刺激を受けた出演者が、その勢いのままに普段以上にエネルギーに満ちたパフォーマンスを披露する場面だが、今回の「MONOCHROME」は、まさにそうした魅力が結実した瞬間だったと言えるのではないだろうか。
個人的に、この日最大のハイライトを挙げるのであれば、ライブの中盤に設けられたアコースティック・セッションだったように思う。それぞれの武器でもあるDJブース/ラップトップ(水槽)とエレキギター(音羽-otoha-)から離れ、音羽-otoha-の奏でるアコースティック・ギターのみを伴奏に据えた今回のセットでは、「お互いの大事な曲を相手にカバーしてもらう」というアイディアのもとに選曲が行われ、「あのミュージシャンのせいで」を水槽が、「ランタノイド」を音羽-otoha-がメインボーカルを務めるという形式で披露された。
どちらの楽曲も、個人的な感情が歌詞やメロディ、歌声の隅々に至るまで色濃く投影された両者屈指の“強い歌”であり、(のちのMCでも語っていたが)それを相手に託す時点で、お互いが相手をどれほどリスペクトしているのかが見て取れる。音像は微かな吐息や弦の震えまではっきりと捉えるほどに生々しく、その歌声もまた、相手の想いを全身全霊で受け止めているのがわかるほどに圧倒的で、視線を逸らすことができなくなる。何より感動的だったのは、そんな“強い歌”を相手が歌う姿を前に、水槽がコーラス、音羽-otoha-がギターを通して、どこか寄り添うように音を奏でていたことだった。それはまるで、歌を託した相手だけではなく、その歌声の中に存在する自分自身に対しても優しい眼差しで見つめているかのような、美しくてあたたかい光景だった。
セットの最後に披露されたのは、デュエットによる「箱の街」。生きづらさを抱えながらも、それでも不器用に生き続ける人々の姿を描いたこの曲を二人が丁寧に歌い上げると、観客たちは息を呑みながらその姿を見つめ、会場全体が一体となって、楽曲の世界にどこまでも沈み込んでいった。
さすがに本人たちにとってもヘヴィだったのか、アコースティック・セットを終えた後のMCでは、力の抜けた本音混じりの言葉が絶え間なく漏れていく。だが、ひとたびDJブース/ラップトップ(水槽)とエレキギター(音羽-otoha-)を取り出せば、空気を一瞬で変えられてしまうのがこの二人だ。反動とばかりに、激烈に歪んだギターが唸る「PLAMO」で一気に「動」のモードへと切り替えると、原曲のグルーヴはそのままに、強烈に踊れる&聴き手を翻弄するアレンジに再構築した「狂信者のパレード -The Parade of Battlers(水槽Remix)」(ライブ前日の21時にギリギリ完成したらしい)、バックDJを担当した音羽-otoha-の姿に観客から驚きの声が上がった「夜天邂逅」(リハーサル中に突然決まったらしい)と斜め上の角度のコラボでさらに熱狂を作り上げていく。
本編の最後を飾ったのは、水槽が弾くエレアコの音色がさらに楽曲の壮大さを増幅させた「no man's world」。圧倒的な祝祭のムードのなかで〈ただひとり/ただひとりの世界から/ただひとり/ただひとりを超えて/ただひとり/ただひとりの君の元へ〉の大合唱が響くと、ライブは見事な大団円を迎えた。
これまでの単独公演ではアンコールをやらないことに強いこだわりを見せていた水槽だが、この日は観客からの熱烈な要望に導かれるままに、初めて本編終了後にステージへと戻ってきた。音羽-otoha-が「自分たちが愛してやまないバンドの曲をカバーさせていただきます」と語ると、ともにエレキギターを抱えた二人が、ヒトリエ「ポラリス」を歌い始める。ヒトリエといえば、両者にとって深いゆかりのあるバンドだ(音羽-otoha-は対バンツアーや楽曲制作など幅広く共演。水槽も現メンバーの3人とそれぞれレコーディングで共演している)。何より、二人が青春時代に聴いていたというアーティストとしてのルーツでもある。
この日のためにSNSに練習動画をアップし続けていた水槽のギターもバッチリ決まり、(作詞・作曲のwowokaらしさが光る)言葉をぎっしり詰め込んだ早口のパートや起伏に満ちたメロディ、捻りの効きまくったアレンジに、まっすぐな歌が響く力強いサビに至るまで見事に自身の表現として昇華させた二人のカバーは、偉大な先人と今の二人を鮮やかな線で繋いでいるように見えた。それだけでも充分にエモーショナルだが、二人が「ポラリス」を演奏するという行為そのものを心から楽しんでいるように感じられたのが、ひと際印象に残っている(直後のMCでも、音羽-otoha-が思わず「いい曲だ……」と漏らしていた)。
何度か書いてきたが、今回の【DUAL DISPLAY】は明らかに一般的なツーマンライブとは異なる代物で、水槽自身も自虐混じりに「おもしろがって作った得体の知れないライブ」と語っていた。冒頭のDJセットだけでも相当な負担なのは間違いないし、ソロセットを除くほとんどの楽曲がデュエット形式で披露されている。さらに相手の楽曲のアコースティック・カバーにリミックス、パートチェンジや「ポラリス」カバーに至るまで、(観ている側はめちゃくちゃ楽しいのだが)どう考えてもたった一日のためとは思えない労力が割かれている。
過去の水槽の単独公演でも「その時やれることを全部やる」という姿勢が貫かれていたが、今回の公演は、それがそのままツーマンへと拡張された形と言えるのかもしれない。もちろん、決して簡単なことではなく、水槽の「誰でも誘えるわけじゃない」というMCに対して、音羽-otoha-も「この企画ウチらしかできん」と強く同意していた。単純に両者の仲がいいというのは絶対条件だが(終盤のMCでは、音羽-otoha-がついこぼした「こんなに友達でいてくれてありがとう」という本音に、水槽が「えー可愛いー!!」と反応する一幕も)、何より「ツーマンならできることがあるけれど、普通はやらない」という壁を「おもしろそう」の一言で無理やり突破してしまうという、無類の創作への愛情があってこそ実現できるものだろう。真摯でありながらも、時折音楽に対する無邪気な喜びが顔を出す「ポラリス」のカバーは、そんな二人のアーティストとしての在り方や、今回のツーマンが実現した理由を、鮮やかに証明していたように見えた。
この日一番の大合唱を生み出したキラーチューン「報酬系」を最後に披露し、観客からの惜しみない拍手を浴びながら、二人は全力で一緒に駆け抜けたお互いに対して「最高の友だち」(水槽)、「最高のソウルメイト」(音羽-otoha-)と紹介し、仲良く肩を組み、ありったけの声で感謝の想いを叫び、ライブの幕が閉じた。
ヒトリエ「ポラリス」に、次のような一節がある。
〈また一歩足を踏み出して/あなたはとても強い人/誰も居ない道を行け/誰も居ない道を行け〉
水槽も音羽-otoha-も、決して一言で説明できないほどにユニークな活動を続け、自身の内側にある「弱さ」を「強さ」へと変えながら、未だ見ぬ世界を開拓するかのように独自の立ち位置を築いてきたアーティストである。今回の【DUAL DISPLAY】は、そんな両者が歩む「誰もいない道」が交わった瞬間だったのだろう。
Text by ノイ村
Photos by Jin Tachibana
◎公演情報
【水槽 ONE MAN LIVE 2026 "REVOLTAGE" (BAND SET)】
11月7日(土)大阪・Yogibo META VALLEY
11月14日(土)東京・Spotify O-EAST
チケット:前売6,600円(税込)
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