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2022/01/28

『ラ・フエルザ』クリスティーナ・アギレラ(EP Review)

 早いもので、クリスティーナ・アギレラの「ジニー・イン・ア・ボトル」(1999年)が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”でNo.1を獲得してから23年が経つ。同年にリリースしたデビュー・アルバム『クリスティーナ・アギレラ』もアルバム・チャート“Billboard 200”で見事1位に輝き、「ホワット・ア・ガール・ウォンツ」、「カム・オン・オーヴァー・ベイビー」の3曲を1位に送り込む快挙を達成。非の打ち所ないビジュアルと圧倒的歌唱力で、ここ日本でも大ブレイクを果たした……のも今は昔で、今や彼女も40代を迎え母親になり、ベテランの域にまで上り詰めた。

 そのデビュー作の翌2000年には、スペイン語による初アルバム『ミ・リフレホ~リフレクション』を発表。「ジニー・イン・ア・ボトル」をスペイン語に焼き直した「ヘニオ・アトラパード」や、ラテンによるオリジナル曲「ファルサス・エスペランサス」など、巧みなスペイン語とエキゾチックな魅力を存分に活かした傑作が並び、Billboard 200で最高27位、米ラテン・アルバム・チャート“Top Latin Albums”では計19週の首位をマークするスペイン語のアルバムとしては異例のヒットを記録して、【グラミー賞】にもノミネートされた。なお、本作には後に「デスパシート」(2017年)で大ブレイクを果たすルイス・フォンシが客演している。

 表題の『ラ・フエルザ』は、その『ミ・リフレホ~リフレクション』以来約22年ぶりのリリースとなるスパニッシュ・アルバム。その間にも『ストリップト』収録の「インファチュエイション」(2002年)や、アレハンドロ・フェルナンデスとのデュエット「ホイ・テンゴ・ガナス・デ・ティ」(2013年)など、ラテンに精通した曲はいくつか披露しているが、全編をスペイン語で仕上げた本格的なラテン・アルバムとしては随分なブランクを要した。前作には、スペイン語で録り直した5曲と4曲のオリジナル、2曲のカバーが収録されていたが、本作はカバーや既存の曲はなく、すべてがオリジナル且つ自身がペンをとった全6曲で構成されている。

 全曲がオリジナルであることもそうだが、前作との大きな違いは年齢とキャリアの成熟、そして母親になったことだろう。リリース前のインタビューでも、そういった要素が情熱となり完成したと話している。アルバムの制作においては、パンデミックがピークをむかえた2020年に子供たちと一緒に米マイアミへ引っ越し、感染対策を講じながら少しずつ曲を仕上げていったのだという。喧騒の中ではなく、外部の雑音を遮断したからこそ“原点回帰”できた……という見方もできるような。「ラテン・ミュージックに再び恋をした」という表現も彼女らしい。

 プロジェクトは、昨年10月に発表した第一弾シングル「パ・ミス・ムチャチャス」で発足。この曲は、アルゼンチン出身のラッパー/シンガー=ニッキー・ニコール、スペインを拠点にダンサーとしても活躍しているナティ・ペルソ、そして日本ではオースティン・マホーンの元ガールフレンドとして知名度を高めたベッキー・Gという、なかなかアクの強い女性ゲスト陣のみで構成されたコラボレーションで、女性のエンパワーメントをテーマとしている。カミラ・カベロの「ハバナ」(2017年)に近い雰囲気のサルサ風ラテン・ポップに、猫撫で声~ダーティー・ラップ~パワー・ボイスという4者の歌個性を発揮した意欲作で、レッドヘアに黒のボンテージで強さと妖艶さを主張したミュージック・ビデオも、曲にフィットした出来高だった。

 翌月にリリースした第二弾シングル「ソモス・ナダ」では一転、アギレラが単体で圧倒的歌唱力をみせつけるピアノ・バラードで、失意や痛みから立ち直る強さを歌った。低音から高音、硬軟も自在に熟すボーカルは、過去作の中でも3つ指に入るほどのクオリティではないだろうか?裏切った男への復讐~葬儀を連想させる悲しみにと怒りに満ちた「パ・ミス・ムチャチャス」の続編となるMVも、表情の見せ方等細部に拘りが感じられる。

 そして直前にリリースされたばかりの第三弾シングル「サント」は、プエルトリコのスーパースター=オズナとの共演曲。サウンドは(いうまでもなく)彼の代名詞でもある腰が浮くようなレゲトンで、制作にはフィフス・ハーモニーの「ワーク・フロム・ホーム」(2016年)などをヒットさせたダラス・ケイも参加している。本作には、その他にもアギレラの持ち味である力強い高音が映えるオープニング曲「ジャ・ジェゲ」や、ケリスの「ミルクシェイク」(2003年)を彷彿させるオリエンタルなヒップ・ポップ「コモ・ヨ」などのアップがあるが、『ミ・リフレホ』から支持する往年の一部ファンからは首をかしげるようなリアクションもあり、古典的なラテン・ミュージックに特化して欲しかったとの要望もみられた。

 その点では、ラストを飾る「ラ・レイナ」こそ“その本質”を捉えているといえるだろう。この曲は、昨年末逝去したビセンテ・フェルナンデスへのオマージュだそうで、メキシコの伝統的な音楽ランチェラを意識した古典的なサウンド・プロダクションとなっている。巻き舌に語り口調、スペイン語の発音もすばらしく、三連に転調した後の展開は、南米の古いウッド調のバーで弾き語りしている様子が目に浮かぶ、そんな雰囲気を醸していた。たしかにこれぞ彼女の真骨頂であり、『ミ・リフレホ』では出せなかった魅力に溢れた傑作といえるだろう。

 「ラ・レイナ」のような曲がもう少し聴きたかったという心残りもあるが、本作は現在進行中のスペイン語アルバムを構成する3部作の第1作だそうで、次作と最終章では同様の、それ以上の名曲を披露してくれる可能性も……?無論、レゲトンや今風のラテン・ポップも悪くないが、彼女ほどの実力があるからこそヒットに拘り過ぎず、無理なく自身のやりたいスタイルを貫いてほしいという期待が込められる。何はともあれ、フル・アルバムの完成がたのしみだ。

Text: 本家 一成

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