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SPICY CHOCOLATE(スパイシーチョコレート)『TOKYO HEART BEATS』インタビュー



SPICY CHOCOLATE(スパイシーチョコレート)『TOKYO HEART BEATS』インタビュー

 ジャパニーズレゲエ界に名を馳せるKATSUYUKI a.k.a. DJ CONTROLER率いるレゲエサウンドクルー=SPICY CHOCOLATE(スパイシーチョコレート)。北米限定リリースの『THE REGGAE POWER』がグラミー賞ベスト・レゲエ・アルバム部門にノミネートされるなどワールドワイドな活躍を見せる一方で、日本のJ-POPシーンでも様々なコラボレーション作品でヒットを生み続けているKATSUYUKI氏だが、今回のインタビューでは、最新アルバム『TOKYO HEART BEATS』についてはもちろん、今の時代だからこそ届けたい音楽について語ってもらった。ぜひご覧ください。

反逆精神とその一方で愛を歌っている。レヴェルとラヴ

--SPICY CHOCOLATE、昨年で立ち上げから25周年を迎えたんですよね。

SPICY CHOCOLATE『TOKYO HEART BEATS』全曲紹介!!
SPICY CHOCOLATE『TOKYO HEART BEATS』全曲紹介!!

KATSUYUKI:そうなんです。立ち上げた頃は25年も続けることになるとは全く思っていなかったので、今もこうして音楽をやれていることにまず感謝ですよね。

--そもそもどんな想いや背景があって立ち上げたモノだったんでしょう?

KATSUYUKI:レゲエというジャンルに憧れて、日本から海を越えてジャマイカというレゲエ発祥の国へ行ったことによって、外から日本を見ることが出来たりして、「日本人は海外からこう見られているんだな」と気付いたり、黒人文化の中に日本人として入っていったら日本人なのか中国人なのか分からないような扱いを受けたり、もっと言えば、生まれて初めてカツアゲされたり。25年前は僕も若かったから威勢は良かったんですけど、ジャマイカに初めて行ったときにコテンパンにされたんです。それで「ジャマイカ人にギャフンと言わせたいな」と思ったんですよね。

--なるほど(笑)。

SPICY CHOCOLATE(スパイシーチョコレート)『TOKYO HEART BEATS』インタビュー

KATSUYUKI:あとは、文化の違い。貧困も凄かったし、例えば、ケンタッキーにご飯を買いに行ったら20人ぐらいの子供に囲まれて、持っている食べ物を本気で物乞いされる。日本で子供に物乞いされることってないし、マクドナルドで知らない人から「それ、ちょうだい」って言われることもないじゃないですか。あと、危ない目にも遭ったし、そういうスリリングさが自分には心地良くて、日本では受けられないような刺激をたくさん受けたことも大きかったですね。

--音楽的にはどんな刺激を受けましたか?

KATSUYUKI:そうした環境下でどんな音楽が出来ているのかと言うと、やっぱり反逆精神とその一方で愛を歌っている。レヴェルとラヴ、それがテーマのジャンルって日本では忌野清志郎さんや甲本ヒロトさん、ブルーハーツがやっていましたけど、そういうメッセージ性と不良性を持ったアウトローな感じってわりと少なくて。でもジャマイカでレゲエと会ったときにそれが強烈に感じられて、それでジャマイカに行き来するようになったんですよね。

--そんなレゲエからJ-POPまで精通しているSPICY CHOCOLATEが、今『TOKYO HEART BEATS』なるアルバムを打ち出そうと思った経緯を教えてください。

SPICY CHOCOLATE - 「シリタイ feat. C&K & CYBERJAPAN DANCERS」Music Video
SPICY CHOCOLATE - 「シリタイ feat. C&K & CYBERJAPAN DANCERS」Music Video

KATSUYUKI:いつもは1年に1枚ぐらいのペースでアルバムをリリースしているんですけど、今回は制作に約2年ぐらいかかったんです。その理由としては、今回の『TOKYO HEART BEATS』はたくさんのアーティストに参加してもらっているんですけど(※SHOCK EYE、APOLLO、ファンキー加藤、ベリーグッドマン、ハジ→、寿君、まるりとりゅうが、モン吉、Rude-α、Mi、C&K、CYBERJAPAN DANCERS、hibiki (lol-エルオーエル-)、裂固、RAY、Leola、CHEHON、erica、TAK-Z、Baby Kiy、シェネル、Beverly)多忙な方々なので、当然ながらスケジュールを抑えるのも大変なわけですよ。でもブッキングに極力妥協したくなかったし、急いでリリースすることよりそれぞれのフィーチャリングを実現することを優先していった結果としての約2年。だから後悔はしていないです。

--アーティストからすると理想的な制作の形ですよね。

KATSUYUKI:あと、今回はテーマソング的な楽曲を収録することが出来て。これまではラブソングで世の中から注目を集められるようになったこともあって、2014年から2016年まで毎年アルバムリリースしてきた『渋谷純愛物語』シリーズの中では、ラブソングを多めに発信していたんです。その前も『渋谷 RAGGA SWEET COLLECTION』シリーズで“ラブソングで踊らせる”というコンセプトを打ち出したりしていて。でも今回の新しいシリーズ『TOKYO HEART BEATS』では、ラブソングというよりはテーマソング。僕の人生におけるテーマソングだったり、皆さんを応援できるようなテーマソングだったり、そういう方向にシフトしていて。

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  1. 誰かを吊るし上げてフルボッコにしてしまう人々
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インタビュー写真

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誰かを吊るし上げてフルボッコにしてしまう人々

--なぜラブソングからテーマソングにシフトしようと思ったんでしょう?

SPICY CHOCOLATE「最後に笑おう feat. ハジ→ & 寿君」Music Video Short ver.
SPICY CHOCOLATE「最後に笑おう feat. ハジ→ & 寿君」Music Video Short ver.

KATSUYUKI:今の混沌とした世の中で何が求められるのか考えたんです。今っていろいろなことが起き過ぎているじゃないですか。そういう時代だからこそ「何を僕らは提供したらいいのか」と思ったときに、背中をどーんと押すんじゃなくて、背中をちょっと押してあげられるような曲だったりとか、誰かが転んでしまったらちょっと手を差し伸べて引っ張ってあげられるような曲だったりとか、そういうやさしい曲を届けたいなと思って。だからラブソングより応援歌的なテーマソングが今回は多めになりましたね。

--SNSで人間の素性が可視化された現代では、誰かが何か間違えたら袋叩きにしてしまったり、わりと見苦しい場面に遭遇する機会が多いじゃないですか。この人は困っているなと思ったら手を差し伸べたり、ひとこと「大丈夫?」と声をかけたり、そういうちょっとしたやさしさが欠如している中での『TOKYO HEART BEATS』は、まさしく2020年現在に必要な楽曲群だと思いました。

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▲『TOKYO HEART BEATS』初回盤ジャケット

KATSUYUKI:うれしいです。僕のまわりにも「そこまで叩かれる必要ある?」って急降下させられるような状況に陥っている人もいたし、誰かを吊るし上げてフルボッコにしてしまう人々が明らかに増えている。「そんなことやっていて、自分の人生の最後に笑えるの?」って本当に思うんですよね。今回のアルバム『TOKYO HEART BEATS』の「最後に笑おう feat. ハジ→ & 寿君」という楽曲は、そんな風に人を妬んだり、羨んだり、蔑んだりしていて「それで自分の人生に満足できるの?」という問いかけでもあるんですよ。

--なるほど。

KATSUYUKI:普通に与えられたモノや道があって、普通にごはんを食べられて、普通にお風呂にも入れて、普通にベッドで眠れて、普通に恋愛もできて、普通に家族もいて、普通にまわりに人がいてくれて、もちろん育ってきた環境はそれぞれ違うと思うけど、いろんなしがらみがあって大変な人もいると思うけど、人生の最後は「生きてきてよかったな」と自分で自分を称えながら笑いたいじゃないですか。だからこの曲は僕の人生のテーマソングでもあるし、そんな風に思える人生を生きてほしいというメッセージソングでもあるんです。

--なんでそういう想いが今、自分の中から滲み出てくるようになったんだと思いますか?

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▲楽曲「夢のカケラ」でフィーチャリングしているベリーグッドマン

KATSUYUKI:去年、別れが多かったんですよ。ものすごく近くに居た仲間との別れもあったし、そんな中で「人生は永遠ではないな」と改めて思って。同時に「たのしく人生を終われたのかな?」とも思ったんです。いきなりパタっと倒れて亡くなっちゃった人もいれば、病気と闘いながら亡くなっていく人もいるんですけど、常日頃から「最後は笑おうぜ」と思っているだけで人生って変わってくると思うんです。もちろん「もっと生きたかったなぁ」とも思うんですよ。でも天命だからそこは避けられないと思うし、だからこそ自分の気持ちの中で「最後は笑おうぜ」と思っていたい。それは1日の終わりでもそうだし、1週間の終わりでも、1ヶ月の終わりでも、1年の終わりでもそうだし、何かを成し遂げるまでの期間の終わりでもそうだし、どんな節目でも「最後は笑おうぜ」と思っているだけで人生は違ってくると思うんですよね。

--その通りだと思います。

KATSUYUKI:そう思って生きていくのは一人では無理だし、まわりで支えてくれるスタッフや作品に参加してくれるアーティストがいてこそ初めて輝いて花咲いて、そうして最後に笑うことができる。その為に一生懸命生きようと。そういう想いが「最後に笑おう feat. ハジ→ & 寿君」や今回のアルバム『TOKYO HEART BEATS』の根底にはあると思いますね。

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インタビュー写真

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「失敗しちゃった、もう人生終わりだ」なんて思ってほしくない

--逆説的に捉えると、KATSUYUKIさんがいつ終わりを迎えても後悔のないように形にした楽曲であり、アルバムであるようにも感じられました。

SPICY CHOCOLATE - 「最後のPiece feat. シェネル & Beverly」Music Video
SPICY CHOCOLATE - 「最後のPiece feat. シェネル & Beverly」Music Video

KATSUYUKI:そうかもしれないですね。なんで僕らが音楽をやっているかと言ったら、やっぱり「自分たちが生きた証をどれだけ残せるか」なんですよ。どれだけの曲を世に残せるかは分からないですけど、聴いてくれる人がいる限り、その曲を作ったり歌っていた人物のことはなんとなく忘れられていってしまったとしても、作品は残っていくじゃないですか。なので、ミュージシャンやアーティストはやっぱり普通の仕事とは違う職業だと思うし、自分の生きた証をちゃんと時代に刻んでいく。音楽は燃やしても消えないし、将来的に完全にCDやショップが無くなっていったとしても残っていくし、だからこそひとつでも多く残していきたいなと思って音楽活動をやっているし、その中のどれか1曲でも誰かの人生に刻まれたらなとは思いますね。

--それがあらゆる音楽家の夢かもしれませんね。

KATSUYUKI:最近「青春時代の初恋の人とよくSPICY CHOCOLATE聴いてました」みたいなことをよく言われるんですけど、そういう10代の頃の思い出の曲って、20代になっても、30代になっても、40代になっても、50代になっても「あー、あの人とよく聴いてたなぁ」って忘れずに残り続けるし、いくつになっても思い出す曲ってみんなそれぞれ持っていると思うんですよね。僕はそういう人の人生に入り込んでいけるような曲をひとつでも多く作りたいなと常に思っています。

--「今の混沌とした世の中で何が求められるのか考えた」それが今作『TOKYO HEART BEATS』の土台になっていると仰っていましたが、そのムードを最初に感じたきっかけは何だったんでしょう?

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▲楽曲「夢のカケラ」でフィーチャリングしているファンキー加藤

KATSUYUKI:ニュースを見ていても人の失敗ばかり取り上げていて、逆に人を褒めたり称えるようなことがほぼほぼ無いじゃないですか。誰がどんな失敗や過ちを犯したか、そこばかりがフォーカスされる時代になっていて、1回失敗したことに対して「絶対に許さないよ」という風潮もあるじゃないですか。果たしてそれが「若い世代に良い影響を与えているの?」という疑問を強く持っていて。ずーっと勝ち続ける人生なんてないし、どんなに上手で凄いプロ野球選手でも、ボクサーでも、格闘家でも、サッカー選手でも、負けないアスリートってひとりもいないと思うんですよ。負けがあるからこそ勝ちに対して努力するし、それと同じで失敗や間違いのない人生なんてないんですよ。失敗するから成功できるし、間違いがあるから正しい方向が分かるようになる。でも今の時代は失敗や間違いに対して叩くばかり。労うことも優しい声をかけることもなく、むしろ面白がって蹴落としたりするじゃないですか。それが非常にイヤだなと思って。

--そうした時代に対してのカウンターでもある訳ですね。

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▲『TOKYO HEART BEATS』通常盤ジャケット

KATSUYUKI:そうですね。失敗しても「そんなにクヨクヨしなくても大丈夫だよ」と。負けたって「そんなことで挫けなくたって大丈夫だよ」と。そうやって背中をそっと押すことが出来たらいいなと思って。

--かつてカウンターやラディカルな音楽って現状に対する強い否定、言うならばネガティヴなワードを敢えて多用する“反抗の歌”だったと思うんですけど、今の時代におけるカウンターはその真逆で“誰かの背中を押す歌”なのかもしれないですよね。愛とかやさしさとかが欠如し過ぎちゃった時代においては、ポジティブな歌がアンチテーゼになる。

KATSUYUKI:だからこそ「何とかしなくちゃいけないな」と思います。僕らは音楽で良い方向に導きたいなと思っているので、もちろん僕自身もたくさん失敗してきたし、間違ったこともたくさんしてきたし、いつでも正しく生きてきた訳ではないけれども、だからこそ分かったことがあるんで、それを上手く音楽で伝えていくことでバトンを繋いでいきたい。「失敗しちゃった、もう人生終わりだ」なんて思ってほしくないんですよ。そうじゃなくて「失敗したって、ハートひとつでやり直していけるんだよ」ってことを知ってほしい。そういう意味での『TOKYO HEART BEATS』でもあるんです。皆さんのハートに響いていく音楽であってほしいなって。

Interviewer:平賀哲雄

SPICY CHOCOLATE「夢のカケラ feat. ファンキー加藤 & ベリーグッドマン」Music Video Short ver.
インタビュー写真

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SPICY CHOCOLATE「TOKYO HEART BEATS」

TOKYO HEART BEATS

2020/03/11 RELEASE
UICV-1109 ¥ 2,750(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.めぐみ feat.SHOCK EYE & APOLLO
  2. 02.夢のカケラ feat.ファンキー加藤 & ベリーグッドマン
  3. 03.最後に笑おう feat.ハジ→ & 寿君
  4. 04.願いのせて feat.まるりとりゅうが & モン吉
  5. 05.美しい罪 feat.Rude-α & Mii
  6. 06.シリタイ feat.C&K & CYBERJAPAN DANCERS
  7. 07.変わりゆく街並
  8. 08.好きなのに愛せない feat.hibiki (lol-エルオーエル-) & 裂固
  9. 09.どんなあなたも… feat.RAY & Leola
  10. 10.君と出逢うために feat.CHEHON & erica
  11. 11.あの夏の feat.TAK-Z & Baby Kiy
  12. 12.最後のPiece feat.シェネル & Beverly
  13. 13.その先の未来へ

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