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大原櫻子『Enjoy』インタビュー



大原櫻子『Enjoy』インタビュー

自分が楽しむ。そして、お客さんにも楽しんで頂く。 それが私たち表現者としてのやり甲斐。

 大原櫻子が「やるんだったら120%やる!」の精神で各方向へ振り切ってみせた最新アルバム『Enjoy』をリリース。今作は、女優業と音楽活動の両方に全力で臨んできた彼女ならではの、ひとつの到達点とも言える。そこに辿り着くまでの大原櫻子ストーリー、ぜひご覧いただきたい。

レズビアン役を演じた舞台「観た人の感想が「ここまで分かれるか?」」

--去年11月のシングル『さよなら』発売時以来半年ぶりのインタビューということで、この間もライブや舞台などいろいろありましたが、今年2018年は大原さんにとってどんな年になっていますか?

大原櫻子 - 3rd ALBUM「Enjoy」リスニング・ムービー
大原櫻子 - 3rd ALBUM「Enjoy」リスニング・ムービー

大原櫻子:時が経つのが速すぎて……「ちょっと待ってほしい」っていう(笑)。有り難いことに、そういう風に思えるぐらい充実していまして。舞台があって、映画撮影もあって、シングルリリースもあって、今回アルバムという感じで、すごく濃密な2018年を過ごさせてもらっています。

--女優業も音楽活動も並行して忙しく展開していく中で、気持ちの切り替えはどうしているんですか?

大原櫻子:多少重なるときはもちろんあるんですけど、私は音楽は音楽の精神的な注ぎ込み方をするというか、本当に音楽のことしか考えられなくなるし、芝居に入ったら芝居のことしか考えられなくなるんです。それをスタッフの皆さんが分かって下さっているので、あんまりごちゃごちゃにはならずに活動できていて。あと、舞台が終わって、映画も終わって、そのあと1週間ぐらいお休みを頂いたので、そこで役を抜く時間もありましたし、すごく良い具合に進められています。

--大原さんにとって舞台というのは、音楽のお仕事にも演技のお仕事にも良い影響を与えていて、毎回大きな成長を遂げていると思うのですが、今回のミュージカル【FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇】は大原さんにどんな影響を与えてくれましたか?

大原櫻子:今回のアルバムタイトル『Enjoy』が、まさにその【FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇】のときに生まれたものだったんですけど、すごく繊細な舞台だったこともあって、みんなで本番前に集まって円陣を組んで「Enjoy」と言ってから舞台に上がっていたんですね。それは「芝居を楽しもう、役に入って楽しもう!」という意味での「Enjoy」でもあって、そのときに「今年の私のテーマは「Enjoy」だな」と思ったんです。そこから「アルバムタイトルどうする?」という話になって、私は毎回アルバム1枚でいろんな表情を見せたいし、それを楽しんでもらいたいと思っているので、そういう意味でも「Enjoy」という言葉はピッタリだなと思ったんですよね。

--なるほど。

大原櫻子:でも今回の舞台は本当に大変でしたね。初めてのレズビアン役だったこともあって、すごく責任感があるというか、精神的にも鍛えられましたし……

--前回の舞台【Little Voice(リトル・ヴォイス)】も、実在した伝説のシンガーたちを憑依させて歌うという、非常に難易度の高い作品だったじゃないですか。そして今回はレズビアン役ということで、なかなか理解できない部分も多い役だったと思います。

大原櫻子『Enjoy』インタビュー

大原櫻子:そうですね。でもお芝居の面白いところ、そして重要になる部分は本当に想像力で。例えば「死ぬ役やります」となって「じゃあ、ちょっと気持ちが分からないんで、一回死にます」という訳にはいかないじゃないですか(笑)。なので、想像力を働かせて、自分の身近にある別の物事に置き換えていく。今回もそういう作業ではあって。私はレズビアンの役ではあったんですけど、その前に、本当に父親のことが好き。父親を愛しているひとりの少女の役で、その父親が死んでしまって心が動いたりいろいろあるんですけど、まず父親への愛情を膨らませたりして。そして、レズビアンであることについてもいろいろ考えたんですけど、最終的に「好きになったのがたまたま女性だった」という答えに辿り着いたので、それからは役に入りやすくなりましたね。

--やり終えてみてどんな作品になったなと感じましたか?

大原櫻子:本当は「もう1回やりたいな」と思うぐらい、良い作品でした。だけど、観た人の感想が「ここまで分かれるか?」と思うぐらい違ったんです。「すごくよく分かった」という人と「全然分からなかった」という人がいて……

--賛否両論があったと。

大原櫻子:そうですね。でも「すごくよく分かった」という人は、涙をずっと流しながら観てくれたりしていて。……そういう反応を見て改めて「すごく挑戦的な作品だったな」と思いましたね。

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「やるんだったら120%やる!」それが今回のアルバムは出来ている

--舞台は、ある意味タブーにも踏み込んでいける表現の場じゃないですか。ギリギリのところまで攻めた衝撃的な作品が残しやすい。ゆえに賛否両論も起きやすいと思うんですけど、それを受け止めていくのはどんな感覚だったりするんですか?

大原櫻子『Enjoy』インタビュー

大原櫻子:最初はやっぱり複雑というか……。特に同性愛者の役となると責任もあるし、半端な知識で臨んだら絶対に失礼になる。なので、今回はその役を務めるにあたってレズビアンの方とお話させて頂いたんですけど、そのときに別のキャストの方が「レズが……」という言い方をしたらその人がちょっと怒ったんですよ。それぐらいシビアな世界だし、レズビアンの人がこの舞台を観たときに「大原櫻子ちゃん。なんか違う」みたいな風に絶対思われたくなかったので、今回は常に緊張感がありましたね。だからずっと成りきっていました。普段もスカートを穿かないとか、座り方や歩き方もなるべく女の子にならないようにしていましたね。

--大原さんが舞台をやることになると、どうしてめちゃくちゃ難しい役どころに挑戦する流れになっていくんですかね?

大原櫻子:いつもそうなんですよね(笑)。

--難しい役しか与えられない。そういう意味では、なかなか稀有な女優人生を歩んでいらっしゃいますよね(笑)。

大原櫻子:すごく大きな壁が毎回用意されていて、それは舞台に限らずドラマや映画でもそうですし、このあいだ撮影した映画は保母さんの役だったんですけど、ずっとオルガンを弾いている役で、音楽を後から映像に重ねて編集するようなことは全く許されない現場だったので、それも「シビアだな」と思いながら挑戦していましたし。でも本当に有り難いことだなと思います。「良いモノを提示する」ということだけじゃなくて、人間くさい作品に携われることが多いのは嬉しいです。

--そうした表現の場に次々と恵まれていくと、自ずと表現の幅や深みは増していきますよね。いろんなモノに理解が示せるようになっていく。ゆえに今回のアルバム『Enjoy』はこれだけ表現力豊かな作品になり、あらゆる方向に振り切れた楽曲群になったのかなと。大原櫻子がお芝居で経験してきたモノが思いっきり生かされている。

大原櫻子:間違いなくそうだと思います。今回はいろんな方に楽曲を手掛けて頂いているんですけど(※亀田誠治、秦 基博、水野良樹(いきものがかり)、高橋久美子、いしわたり淳治、多保孝一、いであやか、坂井竜二、Sally#Cinnamonなど錚々たるアーティストが作詞作曲アレンジで参加)、いろんな世界観に染まりたかったし、いろんな意見が世の中にはたくさんあるから「正解はひとつじゃない」ということも表現したかったんですよね。だからバラエティに富んでいる作品にしたかったんです。

--そうしたポップスアルバムはこれまでも制作されていましたけど、今回はひとつひとつの濃度や純度が高いですよね?

大原櫻子:1枚目『HAPPY』は初のアルバムで右も左も分からない状態、でもなんとなく自分のやりたいことは提示して作った作品で、2枚目『V(ビバ)』は二十歳を過ぎたので大人っぽさをテーマに置いているけど、まだ自分を探している状態の作品。で、今回の3枚目『Enjoy』に関しては、すごく客観的な自分も今いるし、何を求められているのかも考えられるし、自分がやりたいことや挑戦したいこともしっかりある。その求められていることとやりたいことが合致した上で出すことができるアルバム、という実感がすごくあります。

--それゆえか、いろんな方向に振り切れたアルバムでありながら輪郭はハッキリしていますよね。ロックな曲でもエレクトロな曲でもバラード曲でも、いろいろやってるから薄まっているんじゃなくすべてを濃く表現できている。

大原櫻子:そこは意識しました。「振り切り方が甘いとダメなんだな」というのは、それこそ芝居の現場で学びました。役に入りきれていなかったら怒られるし、「やるんだったら120%やる!」っていう。それが今回のアルバム『Enjoy』は1曲1曲に対して出来ているんじゃないかなって。例えば、4曲目「energy」から5曲目「ひらり」の流れとか、8曲目「Jet Set Music!~Album ver.~」から「甘えてしまうんだよ」の流れとか、本当に全然180度違うテイストのモノを並べているので、その振り切っている感じは強く感じてもらえると思いますし、遊び心のある一枚になっている。そういう意味でもEnjoyできるアルバムになっているんじゃないかなと思います。

--仕上がりを聴いたときはどんな気持ちになりました。

大原櫻子:すごく私らしいアルバムになったなと思いました。ユニークだし、自分の色をひとつに定めたくないからこういう楽曲たちになっているし、今の私らしいなって。ジャケット写真もいつもと違ってカメラ目線じゃないし、自由なんですよね。「カメラ見ないでいいよ。自由に遊んで!」って感じだったので、それも今の私らしいなと思います。

--本当に、過去最も振り切れたアルバムだと思います。

大原櫻子:結構振り切りましたね。いちばん最後の曲「Joy & Joy」は、多保さんに「明るくて、ライブで盛り上がる曲をお願いします」とオーダーしたので、自分の中では「夏のおいしいところだけ」的なイメージをしていたんですけど、全く違うパーティー感のある楽曲が来て。自分が歌うイメージが想像つかなくて、このリズム感も初めてだし、どう歌っていいか分かんないし、お客さん的にも「これ、入れちゃったら戸惑わないかな?」とちょっと迷っていたんですけど、今回は振り切りたいから「いや、入れよう!」と思って。それでレコーディングしてみたらすごく大好きな曲になりましたね。今回のアルバムのテーマ曲になったなとも感じています。だからいちばん最後に収録しました。ライブでは踊りたいですね!

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「いとしのギーモ」サビの頭文字を4つ並べてみてもらってもいいですか?

--先ほど【FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇】の掛け声から『Enjoy』というアルバムタイトルに決めたと仰っていましたが、そもそもなんで「Enjoy」という掛け声だったんですかね?

大原櫻子『Enjoy』インタビュー

大原櫻子:演出家の小川絵梨子さんがロンドンでお芝居を学ばれている方でして、その海外のお芝居のメソッドを私たちに対しても用いてくれたんですね。なので、話しているとちょこちょこ英語が出てくるんですよ。その中で「たのしんで。Enjoy!」とよく仰っていたんです。自分がお芝居を楽しむ。そして、お客さんにも楽しんで頂く。それが私たちの表現者としてのやり甲斐だし、そこはアーティストでも女優でも絶対的にそうだし……そう思うと、初心を忘れない為の『Enjoy』かもしれませんね。すごくしっくり来る言葉でした。

--今回の『Enjoy』はまさにそうですけど、ポジティブな印象や力を与えたい気持ちが大原さんの中に強くあるんですかね?

大原櫻子:ありますね。二十歳を超えてから大人っぽさをすごく意識していたんですよ。ビジュアルに関しても楽曲に関しても。でも求められているものは、音楽をやっているときは明るさなのかなと思って。なので、今回は久々にハジける感じというか、自由さだったり、遊び心だったり、そういう自分を見せたいなとふと思ったんです。

--そこがいちばんに似合ってますし、大原さんのテンションがいちばん高まるのも明るくてポジティブな自分なんでしょうね。

大原櫻子:たぶん、根明(ねあか)なんですよ。常に「楽しいことないかなぁ」って見つけていくことも好きですし、楽しい遊びも好きですし。

--その明るくポジティブな自分を思いっきり出せるのは、その逆側の表現も舞台などでやってきているからなんでしょうね。

大原櫻子:本当にそうだと思います。お芝居の要素はあらゆる面で影響しているんでしょうね。今回のアルバムの選曲や曲順に関してもそう思います。アルバム全体のストーリーもそうですし、1曲1曲に対してちょっと仮面をかぶっている感覚もあるんですね。例えば「甘えてしまうんだよ」だったら可愛らしい、なよっとしている男性をイメージして歌っていたり……「いとしのギーモ」とかは完全に私なんですけど(笑)。「夏のおいしいところだけ」であれば大人な女性の可愛らしさを表現したいからOLさんをイメージしていたり、「one」はクールな女性をイメージしていたり、「ツキアカリ」は同世代の女の子を等身大で歌わせてもらったり、「energy」は意外と私自身だったり……1曲1曲別人なんですよね。そこは間違いなくお芝居の影響があると思います。

--ちなみに「いとしのギーモ」の「ギーモ」は大原さんの愛犬か何か……

大原櫻子:ハハハ! やっぱりみんな気付いてくれない(笑)!

--え?

大原櫻子:サビの頭文字を4つ並べてみてもらってもいいですか?

--…………(笑)。

大原櫻子:私の大好物なんです。

--これは気付かなかった!

大原櫻子:ギーモ! スナギーモ!

--砂肝の歌だったんですね(笑)。これ、当てた人いました?

大原櫻子:……ひとりぐらい。

一同:(笑)

--そんな砂肝ソングにも注目のアルバムを携えた全国ツアー【大原櫻子 5th TOUR 2018~Enjoy?~】は、どんなツアーにしたいと思っていますか?

大原櫻子:前回のツアーは歌を聴いてもらうことに重点を置いていたんですけど、今回は汗をかいてもらい、一緒に歌ってもらい、たまには叫んでもらい、全身で楽しめるライブにしたいなと思っています。今までいちばん「ライブしたぜ!」感がある内容になるんじゃないかな。あと、ステージの装飾もすごくポップなんですね。目でも楽しめるし、世界観に入り込みやすい感じになっていると思います。あと、ライブでは「甘えてしまうんだよ」がCDのサイズじゃないんですよ。レコーディングはここまでだけど、その続きはライブだけで歌うという。そこも楽しみにしていてほしいです!

Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada

大原櫻子『Enjoy』インタビュー

大原櫻子 - 3rd ALBUM「Enjoy」DVD Trailer (from Shokai“A”)
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