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カーラ・トーマス初来日記念特集~“メンフィスのソウル・クイーン”の魅力とキャリアを追う



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 スタックスを代表する女性シンガーで、“メンフィスのソウル・クイーン”と言われるカーラ・トーマス。ルーファス・トーマスを父に持ち、オーティス・レディングとの共演盤を吹き込みつつダニー・ハサウェイとも交流を図った歌姫は、サザン・ソウルに縛られないモダンな感覚を備えながら数々の曲をヒット・チャートに送り込んだ。73年以降は第一線から退くが、現在もライヴ活動を続行中。そんな彼女が、映画『ベイビー・ドライバー』の劇中で66年のヒット「B-A-B-Y」が使用されて話題になるなか、一般ヴェニューにおいては初となる単独来日公演をビルボードライブ東京/大阪で行う。今回は、メンフィスのハイ・サウンドを支えたホッジズ兄弟に加え、実の妹でソロ・ヒットも飛ばしたヴァニース・トーマスも同行。奇跡の来日とも言える公演を前に、カーラ・トーマスのキャリアと魅力を振り返ってみよう。

映画『ベイビー・ドライバー』で再評価された“B-A-B-Y”

 第90回アカデミー賞で3部門にノミネートされたエドガー・ライト監督による映画『ベイビー・ドライバー』(2017年初公開)。激しいカーチェイスが話題の同映画で、強盗集団の“逃がし屋”として腕をふるう天才ドライバーの主人公ベイビー(アンセル・エルゴート)が行きつけのダイナーにてウェイトレスのデボラ(リリー・ジェームズ)と出会うシーンで使われたのが、カーラ・トーマスの 「B-A-B-Y」だった。デボラが口ずさんでいた曲を「B-A-B-Y」だと知ったベイビーは早速レコード店に出向き、同曲を収録したカーラのアルバム『Carla』(66年)を手にする(LPのジャケットも映る)。同アルバムの冒頭を飾っていた「B-A-B-Y」は、恋にのぼせ上がるうら若き女性の心情をカーラが甘くチャーミングな声で歌ったラブ・ソングで、映画では後に恋人となるふたりの行方を示唆しながら、心ときめくベイビーのテーマ・ソングとして強いインパクトを残す(同映画のサウンドトラックにも収録)。

 66年にスタックスから発表された「B-A-B-Y」は、78年にレイチェル・スウィート、85年にアレックス・チルトンのカヴァーも登場したが、カーラの曲をリアルタイムで聴いていないはずの女の子(デボラ)が何気なく口ずさむほど、本国では今も幅広い世代に聴かれ続けているのだろう。何しろ「B-A-B-Y」はカーラがソロとしてR&Bチャート最高位(R&B3位。ポップ・チャートでは14位)を獲得したナンバー。作者は60年代のスタックスを代表するソングライター/プロデューサー・チームだったアイザック・ヘイズとデヴィッド・ポーターで、そのヘイズ=ポーターのコンビが手掛けたサム&デイヴの「Hold On! I’m Comin’」や「Soul Man」などと並んで、カーラの「B-A-B-Y」も全米を代表するソウル・クラシックとして人々の間に浸透しているのだ。



▲Carla Thomas – BABY


 カーラ・トーマスが所属したスタックスはデトロイトのモータウンと双璧をなすソウル・ミュージックの名門レコード・カンパニー。2017年に創立60周年を迎えた同社は、創設者であるジム・スチュアートの〈ST〉とエステル・アクストンの〈AX〉を取ってスタックス(STAX)と命名され、テネシー州メンフィスのイースト・マクレモア926番地を本拠地として、モータウンの〈Hitsville U.S.A.〉よろしく〈Soulsville U.S.A.〉という愛称でソウルの震源地となった。全国ヒットが出た60年代初期から活動停止となる75年まで、カーラをはじめ、カーラの父ルーファス・トーマス、オーティス・レディング、サム&デイヴ、ウィリアム・ベル、ブッカー・T&ザ・MGズ、バーケイズ、エディ・フロイド、アイザック・ヘイズ、ステイプル・シンガーズ、ジョニー・テイラー、ソウル・チルドレン、ドラマティックスなどのアーティストを輩出。その影響はロックなど他ジャンルにも及んだ。倒産後はファンタジー傘下で復活し、創立50周年を迎えた2007年にはコンコード・ミュージックのもとで再出発して旧カタログの再発と同時にアンジー・ストーンやレイラ・ハサウェイなどの新譜もリリースしている。

 そんなスタックスが57年にサテライト・レコードとしてスタートした際、いち早く楽曲を発表したのがカーラだった。最初に出したのは、コミカルな所作を交えながらファンキーなダンス・ナンバーを歌うことになる “世界で最も年をとったティーンネイジャー”こと父ルーファス・トーマスとのデュエット曲「Cause I Love You」(60年)。アレサ・フランクリンと同じ42年にメンフィスで生まれたカーラは、この時17歳。父ルーファスのダミ声にソウルフルに掛け合うカーラは、8歳の頃からザ・ティーン・タウナーズというグループで歌っていたこともあり、実に堂々としている。ここでバリトン・サックスを吹いていたのが、この後スタックスのサウンドを支えるブッカー・T&ザ・MGズのオルガン奏者ブッカー・T・ジョーンズだったことは同社のトリヴィアとしてお馴染みだろう。そして、「Cause I Love You」が地元メンフィスで話題となったことで、スタックスの作品を全国配給することになるアトランティック・レコーズとの関係が生まれたのだった。




 父娘での共演曲を出した約2ヵ月後には、10代の女の子の恋心を歌った甘酸っぱいバラード「Gee Whiz」でソロ・デビュー。これを筆頭に、61年のファースト・アルバム『Gee Whiz』を含め、スタックスが軌道に乗り始める65年まではアトランティックから作品を出していく。この間カーラはナッシュヴィルにあるテネシーA&I大学(現テネシー州立大学)に通いながら芸能活動を行なっており、ソングライティング(主に作詞だろう)においても才能を発揮。62年にはサム・クック「Bring It On Home To Me」に対するアンサー・ソング「I’ll Bring It Home To You」も発表している。ディープさと可憐さをあわせ持ち、仄かに色気も漂わせるカーラのヴォーカルは時にダイアナ・ロスを思わせ、楽曲も含めてサザン・ソウルに縛られないモダンな雰囲気が彼女を全国的なスターに押し上げたのではないかと想像する。



▲Carla Thomas - Gee Whiz


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“メンフィスのソウル・クイーン”の誕生

 所属レーベルをスタックス(配給はアトランティック)としてからは、当時のヒット曲カヴァーを多数含むセカンド『Comfort Me』と「B-A-B-Y」を収録したサード『Carla』を66年に発表。翌67年にはスタックスの人気スターであったオーティス・レディングとのデュエットでローウェル・フルソンのブルース・ファンク「Tramp」をカヴァーし、これがキャリア最高位となるR&Bチャート2位(ポップ・チャートでは26位)をマーク。同曲を含むオーティスとの共演アルバム『King&Queen』も67年に発表し、カーラはスタックスのキングであるオーティスの相手役を務めたことでクイーンの称号を手に入れた。“メンフィスのソウル・クイーン”という呼び名が定まったのは、おそらくこのあたりからだろう。半数以上の曲がヘイズ=ポーターの作となる4枚目のソロ・アルバムも『The Queen Alone』というタイトルで発売された。



▲Otis Redding & Carla Thomas - Tramp


 また、当時カーラはワシントンDCのハワード大学(院)に在籍しており、そこでブレイク前のダニー・ハサウェイとも出会っている。この頃にDCの名門クラブで行ったライヴ音源が『Live At The Bohemian Caverns』として2007年に発掘リリースされたが、ここではダニーがカーラのバックでピアノをプレイ。「Never Be True」はダニーのプロデュースによるスタジオ録音のシングルも出されていて、この曲をダニーと共作したのが、同じハワードの学生で先日初来日を果たしたリロイ・ハトソンであったことも申し添えておこう。かようにカーラはメンフィスやナッシュヴィルといった南部にとどまらず、東海岸などの空気にも触れて洗練を身につけながら音楽的な広がりを見せていくことになる。67年12月にオーティスがバーケイズのメンバーとともに飛行機事故で命を落とし、68年4月にキング牧師がメンフィスで銃弾に倒れたことも一因となってスタックスがアトランティックから離れるなど転換期を迎えると、ヘイズ=ポーターをはじめとするメンフィス勢と組みつつも南部のサウンドに執着しなかったカーラはアル・ベルが仕切る第2期スタックスの音楽的拡張にすんなり対応。デトロイトのサウンドにも向き合った69年作『Memphis Queen』や71年作『Love Means...』には、そうした多様性を感じ取ることができる。しかし、当時スタックス(傍系のヴォルト)にいたエモーションズをバックに従えて歌ったシングル「You’ve Got A Cushion To Fall On」が72年にチャートインしたのを最後に第一線から離脱。それでもライブ活動は続けていたようで、近年もイタリアの【Porretta Soul Festival】などに出演して元気な姿を見せている。



▲Carla Thomas & Vaneese Thomas - Porretta Soul Festival 2017


 そんなカーラが【フジロックフェスティバル‘18】への出演とあわせて、ビルボードライブ東京・大阪に登場。一般ヴェニューで行われる単独来日公演としては今回が初めてで、【カーラ・トーマス&ザ・メンフィス・オールスター・レヴュー】と銘打たれたショウには、「B-A-B-Y」のバックでも歌っていた妹のヴァニース・トーマス(87年に「Let’s Talk It Over」がヒット)に加え、ハイ・リズム・セクションのホッジズ兄弟(鍵盤のチャールズとベースのリロイ)も同行する。まさにメンフィス・ソウルの生き証人たちが顔を揃えるステージ。その事実だけでも驚くべきことであり、今回の来日公演はまたとない機会となるだろう。

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