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トレヴァー・ホーン 来日記念特集~40年間第一線で活躍してきた稀代の才能

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 「Video Killed The Radio Star〜」という、ゴキゲンながらちょっとシニカルなフレーズが耳に残るバグルスの「ラジオ・スターの悲劇」。きっと誰もが耳にしたことがあるだろうが、この名曲を生んだのが英国を代表する音楽プロデューサーのトレヴァー・ホーンだ。大ヒットから40年近く経った今も、彼のサウンドは古びることなく、ますます新鮮な輝きを感じさせてくれる。そしてこの夏、元10CCのロル・クレームらとともに5年ぶりの来日公演を行うことも決定し、ますます再評価の兆しが高まっているのだ。

 トレヴァー・ホーンは、1949年生まれ、英国のダラム出身。エンジニアでありベース奏者でもあった父親の影響で、学生時代にベースを弾き始める。14歳の時にテレビ番組名から名付けたジ・アウター・リミッツというバンドで活動し、その後はローカル・ミュージシャンとして生計を立てていた。そして、セッション・ミュージシャンとして徐々に実力を付けていき、70年代後半にはディスコ・サウンドで人気だったシンガー、ティナ・チャールズのバンドに加入。このバンドに在籍していたのが、キーボーディストのジェフリー(ジェフ)・ダウンズだった。

 1977年に、トレヴァーは意気投合したジェフととともにバグルスを結成する。そして、1979年にシングル「ラジオ・スターの悲劇 / Video Killed The Radio Star」をリリース。あっという間にヒット・チャートをかけ上り、全英で1位を獲得。翌1980年にはファースト・アルバム『プラスティックの中の未来 / The Age Of Plastic』を発表し、こちらも大きな評価を得た。テクノ・ポップやニューウェイヴ時代を象徴する作品として燦然と輝くことになる。



▲ 「Video Killed The Radio Star」MV


CD
▲『ドラマ』

 トレヴァーとジェフは、そのままプログレッシヴ・ロックの名門バンド、イエスに合流。アルバム『ドラマ / Drama』を制作した後、ツアーをスタートする。しかし、トレヴァーをヴォーカリストに迎えた新生イエスは、長年のファンから大いに不評を買ったこともあり、すぐさま脱退しバンドは解散。あらためてバグルスのレコーディングに取りかかるが、ジェフはエイジアに参加するため、バグルスを離脱する。1981年には、バグルスのセカンド・アルバム『モダン・レコーディングの冒険 / Adventures In Modern Recording』が完成。アルバム自体は非常にクオリティの高いものであったが、すでにトレヴァーのソロ・プロジェクトとなっていたこともあり、すでに裏方志向だった彼は本作とともにバグルスを終焉させた。



▲ 「The Look Of Love」MV


 トレヴァーは、その後プロデューサーとしての道を歩むことを決意し、1982年には妻のジル・シンクレアとともに音楽出版社パーフェクト・ソングスを設立。ABCの「ルック・オブ・ラヴ / The Look Of Love」をプロデュースして大ヒットさせる。そして、翌1983年には再結成したイエスのアルバム『ロンリー・ハート / 90125』のプロデュースを手がけ、シングル「ロンリー・ハート / Owner Of A Lonely Heart」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot100”で1位を獲得するほどのメガ・ヒットとなった。この曲におけるオーケストラ・ヒットと呼ばれる派手なフェアライトの音色は、トレヴァーの十八番となり、その後の彼の作るサウンドの特徴のひとつである。



▲ 「Owner Of A Lonely Heart」MV


 1983年にZTTレコーズを立ち上げたトレヴァーは、その刺激的なサウンドを武器に時代の寵児となっていく。覆面ユニットとしても話題を呼んだアート・オブ・ノイズでは、イエスの名盤のタイトルをもじった「クローズ / Close (To The Edit)」(1983年)やデュアン・エディのギターをフィーチャーした「ピーター・ガン / Peter Gun」(1987年)などがヒット。なかでも、トム・ジョーンズをヴォーカルに据えたプリンスのカヴァー「キッス / Kiss」(1988年)は、全英で5位という記録を残した。また、ドイツ出身のバンド、プロパガンダは「不思議の国のデュエル / Duel」(1985年)などのヒットを生み出し、グレイス・ジョーンズも「スレイヴ・トゥ・ザ・リズム / Slave To The Rhythm」(1985年)で新機軸を打ち出した。

 しかし、ZTT最大のヒットといえば、なんといってもホリー・ジョンソン率いるフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドだろう。「リラックス / Relax」(1983年)、「トゥ・トライブス〜フランキーの地球最後の日 / Two Tribes」(1984年)、「プレジャードーム / Welcome To The Pleasuredome」(1985年)など、トレヴァーの個性が強烈に刻印されたエキセントリックなサウンドの大ヒット・ナンバーの数々は、80sアンセムとして不動の地位を築いている。実際にトレヴァーはメンバーではないが、彼の作ったグループといっていいほどの存在感に満ちている。



▲ 「Relax (Laser Version)」MV


 ZTT以外では、ペット・ショップ・ボーイズやシンプル・マインズ、そしてポール・マッカートニーの『フラワーズ・イン・ザ・ダート / Flowers In The Dirt』(1989年)まで幅広いプロデュース・ワークを行っている。そして、90年代に入るとシールが大ブレイクし、UKエレクトロ・ソウルの礎を築いた。以降もトレヴァーの活躍ぶりは衰えることなく、マイク・オールドフィールド、シェール、ロッド・スチュワート、ティナ・ターナー、シャルロット・チャーチなどジャンルを超えて様々なアーティストから慕われることになった。

 21世紀に入ると、様々なスキャンダルで世間を騒がせたロシアの美少女デュオ、t.A.T.u.のワールド・デビュー盤『t.A.T.u. / 200 km/h In The Wrong Lane』(2003年)のプロデュースを担うことになり、トレヴァーの健在ぶりを見せつけた。他にも、リアン・ライムスやベル・アンド・セバスチャン、ロビー・ウィリアムスなど、これまた幅広いジャンルに関わっているのが面白い。



▲ 「All The Things She Said」MV


 自身の活動としては、2004年に、ウェンブリー・スタジアムにてトレヴァーのデビュー25周年記念コンサートが行われ、バグルス、アート・オブ・ノイズ、イエス、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドなどが参加して大いに盛り上がった。また、このメンバーから派生して、ロル・クレームやアッシュ・ソーンなどとザ・プロデューサーズというグループを結成。2012年にはアルバム『メイド・イン・ベイシング・ストリート / Made In Basing Street』をリリースし、ビルボードライブでの来日公演も行った。



▲ 「Two Tribes」(Live)


 トレヴァーはその後もプロデューサーとしての活動を行っているが、最新の仕事として、2017年7月からNHKテレビでオンエア中の日米合作アニメ『ザ・リフレクション』にも音楽プロデューサーとして関わっている。アメコミ界の巨匠であるスタン・リーが原作、ジャパニーズ・アニメを牽引する長濵博史がタッグを組んだ話題作で、全面的にサウンドトラックを手がけるということで、すでに大きな話題になっている。そのタイミングでの来日公演ということで、また多くのファンに彼の鬼才ぶりを見せ付けることになるだろう。この機会に、70年代後半から40年に渡って第一線の音楽を作り出してきた稀代の才能に、ぜひ酔いしれてもらいたい。



▲ 「THE REFLECTION」最新PV


 

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