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<インタビュー>AI×映像監督TAICHI “グラミーを諦めたことは一切ない”――「Not So Different」が引き寄せた出会い

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Interview:川口真紀
Photo:堀内彩香

 2020年にリリースされたAIの楽曲「Not So Different」。「たとえ肌の色、立場、環境などが違って見えても、身に纏った外観を脱ぎ捨てれば何も違わない」というメッセージを歌ったこの曲にインスパイアを受けた国際的映像監督TAICHI氏が、ミュージック・ビデオ「Not So Different(film)」及び、MVと連動したショート・フィルム「STAY THERE」を完成させた。

 今回、Billboard JAPANではこの2人の対談を実施。プロジェクトが始まった経緯や、衝撃的な内容となっているMV及びショート・フィルムについて、撮り終えての手応えなど、たっぷり話を聞いた。2人はこのプロジェクトがこれで終わりとは決して思っていない。見据えるのはもっと先、ズバリ、グラミー賞獲得だ。自信に満ち溢れたこの対談を読めば、それが絵空事ではないということがわかるだろう。


「グラミー賞を取りたい」っていう初心に改めて戻らせてくれた


――まずは、「Not So Different(film)」の制作が始まった経緯を教えてください。

TAICHI:【CANNES GALA(カンヌ・ガラ)2026】という今年5月に行われたカンヌ映画祭の国際社交セレモニーで私がチェアマンを務めていたところ、各国チームから「AIさんが(賞を取るのに)ふさわしいんじゃないか」という声をたくさんもらったんです。もちろんAIさんのことは大好きでしたし、存じ上げていたんですけど、「カンヌ映画祭でAIさんがなぜ?」と、正直ビックリしたんですね。けど実際は、彼女のメッセージはすでに外国チームにも伝わっていて。結果、私のひいきも何もなく、AIさんは「Preuve de Do(道の証)」という賞を授与されたんです。その時、受賞のメッセージをビデオで送ってくださったんですけど、メッセージの最後にふいに歌いだしたのが「Not So Different」で。元々この曲のことは知っていて、メッセージに魅力を感じていたのですが、この時完全に撃ち抜かれたんです。


AI:英語でこれ以上喋ると余計なことを言っちゃいそうなので(笑)、歌った方がメッセージが伝わるかなと思ったんですよね。


TAICHI:加えて、各国のグラミー関係者が「なぜ日本人はグラミー賞攻略のために遠征してこないのか」って言うんです。例えばオリンピックに出たい選手がきちんと手続きを踏んで、トレーニングを徹底的にやって、ある数字(記録)を超えたら出場できるし、さらには金メダルも取れるよねっていうのと同じなんです。きちんと正しいプロセスを踏めば日本人だって受賞は可能なわけで。そのプロセスを聞かされた時に「私にも応援できるな」と思ったんです。ただ、そんな私の思いを押し付けたらいけないなとも思っていたんですが、AIさんのほとばしるマグマのようなグラミーへの思いを知り、この人なら絶対諦めないなと思って。人間、諦める人と、死ぬまで諦めない人に分かれますけど、彼女は完全に後者だなと思ったんですね。それを各国チームの人間に伝えたら、「AIさんならふさわしいよね。トライする価値があるよね」ってみんなAIさんのことを知っていて。そこから一気にプロジェクトが加速していきました。


――そこで「Not So Different」のフィルムを撮りたいとオファーしたんですか?

TAICHI:そうです。「曲を原作にMVを、MVを原作にショート・フィルムを撮りませんか。それを映画業界を介してより多くの人に届けさせてください」とお話をさせていただきました。ただ、あまりに突飛な話だったので、承諾していただけるわけがないと正直思っていたんです。だからご快諾いただけてビックリしましたね。



AI「Not So Different (film)」

――AIさんはこのプロジェクトの話を最初に聞いた時にどう思いましたか?

AI:最初、みんなで怪しいんじゃないかって言っていて(笑)。けどある時、私はレコーディングでスタジオに入ってたんですけど、うちのスタッフとTAICHI監督がミーティングをしていて、その様子がモニターに映っていたんですね。「この人がTAICHI監督」って紹介されて画面を見たときに、監督が「(笑顔で手を振りながら優しい声で)わあ~!」って言ったんです。その瞬間「あ、この人大丈夫だ」と思いました(笑)。なんか気持ちがほぐれたっていうか、初対面なんだけど久しぶりに会ったみたいな感じというか。すごいピュアな感じが画面から伝わってきたんです。そこで「この人となら大丈夫。一緒にやっていただけるならぜひ」と思ったんです。



――監督は初めてAIさんにお会いした時の印象は?

TAICHI:失礼かもしれませんが、一切緊張なく(笑)、気さくに話してくださって。もちろんAIさんのアーティストとしてのリスペクトは絶大だし、巨大な存在感としてAIさんを見てるんですけど、本当に裏表のない柔らかい言葉で穏やかに話してくださるので、この人は本物だな、これは戦い甲斐があるなと思いました(笑)。


――AIさんは今年に入ってから「Welcome To My City feat. Junior Reid Remix」や「Letter In The Sky feat. The Jacksons -空に届ける手紙」、10月2日に世界配信された最新シングル「It’s AI」など海外に向けた楽曲を次々とリリースしています。今回のプロジェクトの話があったことは、AIさんにとっても心強かったのではないですか?

AI:本当にそうですね。「グラミー賞を取りたい」っていう初心に改めて戻らせてくれたし、さらにその気持ちを後押ししてくれたと思ってます。結婚したり子供が生まれたり、長く活動している中でいろんな事が起きますけど、それでも私はずっとグラミーを諦めたことは一切なくて、いつか絶対取れると思っています。それを言うと大抵の人は笑うんですけど、監督は会ったばかりなのに(グラミー賞が取れると)すごく信じてくれていて。話してる時も迷いがないし、だから私もすごくパワーをいただきましたし、さらに取れるって自信をもらいました。あと、「Not So Different」を選んでくれたのもすごく嬉しくて。このメッセージは1回きりではなく、何度も届けたいと思っているものだから。



AI「It’s AI」(Official Audio Track)

TAICHI:彼女のメッセージはとてもシンプルだなと思うんです。言葉も世界観も美しいし幅広いんですけど、「私は世界をよくしたい」とは言わないんですよね。「私は涙溢れる世界は嫌だ」って、すごく正直な言葉を発する人で。「Not So Different」っていう言葉自体が強烈だし、みんなが言う勇気がないことを、こんなに小柄な彼女が真正面から世界に向かって発信しているのだから、私としても応援することはとても自然なことなんです。音楽業界に届いていない方法で応援できるなら私は手助けしたいし、そこで彼女はさらに自分を磨き上げてくれるだろうし。だから私は地図を渡しただけで、とんでもない山を彼女が登り始めてくれたんです。


――実際のMV、及びショート・フィルムはかなりショッキングな内容になっていますね。なぜこのような内容の作品を作ろうと思ったのですか?

TAICHI:今の時代にふさわしく、かつ誰にも描かれてないものは何かを探っているときに、あるテーマにぶつかって。それが「ヤングプア」「ヤングホームレス」というテーマだったんです。「引きこもり」ってよく聞く言葉ですけど、実は日本と韓国とイタリアにしか引きこもりっていなくて。他の国のいわゆる引きこもりの人は、健常者の家族を守って、社会不適格な人は追い出すという考えのもと、家から追い出されちゃうんです。身内から追い出された人達は、国が助成してもそんなヤツに税金を使うなって言われるし、NPO法人もその人達を助けても誰からも褒められないので立ちいかなくなっちゃうんです。そして彼らは完全にホームレスと化して、50歳まで生きられる可能性はわずか20パーセントなんです。そりゃあ、これは誰も描かないな、誰にも褒められないテーマだもんなと思ったんですね。




――そこであえて「ヤングプア」「ヤングホームレス」をテーマにしようと思ったのはなぜでしょう?

TAICHI:AIさんの楽曲で歌っていることは、「みんな幸せになろうよ」ではなく、「自分らしく生きようよ」だと思うんですね。自分らしく生きられないその人達の声を気づかせたいなっていう思いがあり、このテーマに挑戦することを選びました。文化人類学者とか社会学者から話を聞いたり、イギリスの養護施設やアメリカの教会をまわったり、時にホームレスに殴られたり包丁を向けられたりしながら取材をしていく中で、描かなきゃいけないものが見えてきたんですが、一方でこれはかなり危ない戦いになるなとも思って。そこにはAIさんもレコード会社さんもいらっしゃいますし、なにより大勢のファンの方々がいらっしゃるわけで、その方達を怖がらせるのは違うと思っていて。

私もエンタメ側の人間なので、逆算して飲み込みやすいものを届けるのがアーティストだと思ってはいるんですが、このテーマで絶対やりたい、やるべきだと思ったし、もしかしたら受け入れてくださるのでは…と思って一か八かそのまんま、丸ごとポンって提示したんです。そうしたらみなさん一瞬黙られましたけど、ありなんじゃないかって言ってくださって。今日まで驚くことにただのひとつもNOを言われたことがなく、すべてを受け取ってくださるので、私も過度な演出や味付けをするのではなく、本当に世界が求めている素材をそのままお渡しすることにしました。そうしたらきっと彼女とのシナジー(相乗効果)が本物の情熱を産むんじゃないかなと思ったんです。


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セリフが一つもなくてAIさんの声しか入ってないこのMVを映画祭が受け入れた


――AIさんはMV、及びショート・フィルムの内容を聞いてどう思いましたか?

AI:「こういうのよ、こういうの!」と思いました。綺麗に見せようとしてるわけではないっていうのが伝わってきて、本当に素晴らしいなと思いました。すごく自然なものって感じがしましたね。


TAICHI:撮影は6月末の、ものすごい熱波の中で撮ったんですが、あの時期にあのシチュエーションで撮らないと意味がなくて。みんなが求める煌びやかな太陽だけど、その太陽に殺されてしまう人もいるわけで。過酷な世界の残虐な話が実際にあるわけです。それをAI(エーアイ)でそれっぽく撮ることもできるんですけど、それは違うだろうと。実際に、みんな朦朧としながら撮りました。現場でもほとんど芝居をつけてないんですよ。役者の中から生まれたものをそのまま使ってます。だからこの作品は本物の塊なんです。


――そんな本物の作品を作り終えて、監督も手応えを感じていますか?

TAICHI:今、グラミー・アワード含む35(取材時)の国際映画祭に迎えられ、公式のエントリーを獲得したところなんです。サンダンス映画祭、サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)映画祭、トライベッカ映画祭、この3つの主要映画祭からもエントリーを受け付ける連絡がありました。これって本当にすごいことなんです。エントリーを受け付けてもらえるかどうかのハードルがまずもって物凄く高いので。セリフが一つもなくてAIさんの声しか入ってないこのMVを映画祭が受け入れたっていうのは、やっぱり彼らの心をAIさんが動かしたってことなんですよね。音楽業界以外の人が初めてAIさんを知っていく、その瞬間に立ち会えることが本当に光栄です。



――ズバリ、AIさんがグラミー賞を取ることは可能ですか?

TAICHI:もちろんですし、日本に必要なんじゃないですか。取るための方法はわかってますから。


AI:オーマイガー!すごくないですか、この自信。本当にありがたいなと思ってます。自分としても何としても取りたいと思ってます。


――今後、ますます海外に向けての活動が活発になりそうですね。

AI:そうですね。膝が痛くなって踊れなくなる前に(笑)、本格的に動かないといけないので。監督のような力強い人にも出会えましたしね。


TAICHI:音楽業界のかけらもかじってない人間なのに、彼女がグラミー賞の舞台に立つところが見られるわけじゃないですか。これ以上の楽しいエンタメはないですよ。



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