Billboard JAPAN


Special

<わたしたちと音楽 Vol.84>鞘師里保  17歳ですべてを手放して知った、“無理をしない”という強さ

インタビューバナー

Interview: Rio Hirai l Photo: Shinpei Suzuki

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から"音楽業界における女性"をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回ゲストに迎えたのは、鞘師里保。12歳でモーニング娘。に加入し、10代半ばで“エース”と呼ばれた彼女は、17歳ですべてを手放し、誰も自分を知らないニューヨークへ渡った。自主レーベルでのソロ再始動を経て、2025年にメジャーデビュー。現在はドラマ『付き合ってあげてもいいかな』でW主演とエンディング主題歌を担当し、活動の場を広げ続けている。紆余曲折を経て辿り着いた現在地で、彼女が今思うこととは。

“戦闘体勢”が整った
自分の足跡を持って、メジャーへ

――2025年にavexからメジャーデビューされ、EPのリリースに全国ツアー、現在放送中のドラマ『付き合ってあげてもいいかな』ではW主演とエンディング主題歌も担当されています。今のご自身を取り巻く状態を、どう感じていますか。

鞘師里保:マイペースながらも、たくさんの周りの方とのご縁やアイデア、チャンスをいただけていて、すごく良いペースで音楽活動ができています。『付き合ってあげてもいいかな』では、お芝居と音楽を掛け算するチャレンジもさせていただけましたし。とても嬉しい現状ですね。

――自主レーベルでの再始動から約4年でのメジャーデビューでした。メジャーという大きなフィールドに挑戦しようと思った理由は何だったのでしょう。

鞘師:音楽活動を再始動するにあたり、まずは自分がどういう方向性で音楽活動をやっていきたいのかを、自分自身で探す必要がありました。だから自分のペースで歩める自主レーベルを選択し、「ライブってどこに問い合わせたらできるんだろう」というところから一歩一歩やってきました。そうやって足跡ができてきて、「自分はこういう方向に歩みたい」「こういうメッセージを届けたい」と“戦闘体勢”が整った今だからこそ、avexさんと共に歩む道を選択できました。関わってくださる方が増えて、選択肢も、表現したいもののアイデアも何倍にも膨らんでいます。本当に良いタイミングでご縁をいただけたなと思っています。

――そのようにチームが大きくなっていく中で、変わらず譲らないようにしていることはありますか?

鞘師:私の音楽の作り方は、作詞作曲に直接関わる場合もあれば、そうでない場合もあります。だけど、曲が生まれる瞬間には、必ず自分の魂が宿るようにしていて。「こういう表現をしたい」という自分の意思を持って「一緒に世界観を作ってください」と1曲1曲チームができていく。“生まれる瞬間”が自分発信だという点は、いつも大事にしています。


▲鞘師里保 - 幸福失格 Music Video (MBSドラマ特区「付き合ってあげてもいいかな」ED主題歌)

――ドラマのエンディング主題歌「幸福失格」も、そうやって生まれた1曲なんですね。

鞘師:作品やキャラクターたちから得たインスピレーションをもとにできた曲です。私が演じる猿渡冴子の視点ですね。普段は自分が日々感じていることから曲を生み出すことが多いので、作品がきっかけで楽曲を制作するのも新鮮でした。恋愛についての歌もほとんど歌ってこなかったので、ソロのキャリアとして考えても、新しい実験をするきっかけをいただいたなと感じています。

中学生で武道館を経験し、
17歳で「立て直そう」と決意

――モーニング娘。への加入は12歳の頃で、10代半ばでグループの中で“エース”と呼ばれる立場でした。大きな期待の中に立っていた子どもの頃の自分を、今はどう振り返りますか?

鞘師:最初は、何をしていても自分が憧れのステージに立っている喜びを噛みしめていました。中学生にしてあのように日本武道館のステージに立っていたことは、今思えば恐ろしくもあるのですが(笑)。月日が経つにつれて、長い歴史のあるグループの一員であることを意識したり、部分的には自分がメンバーを引っ張らなければいけないと意識する瞬間も増えて、自分がいる場所を徐々に自覚していきました。当時は、がむしゃらに1人で戦っているように錯覚した瞬間もありました。でも振り返ってみれば、側にいるメンバーや周りの人たち、応援してくれる人たちに何度も勇気づけられて、大きなステージに立たせていただいていたなって。走り抜けた後になって、より深く実感するようになりました。

――17歳でグループ卒業を決めたのは、どんな思いからだったのでしょうか。

鞘師:その時点では、キャリアについてはあまり考えていなかったですね。しかも、1人でエンタテインメントのキャリアを築くなんて全く想像していませんでしたが、20代以降の自分の人生を想像したときに、「“自分で何かをつかみ取っていく感覚”をもっと覚えていかなければいけないな」と思いました。それまでは、使命を与えていただいて、それに全力で向かっていく毎日。そうではなく、1歩目が自分自身である生活をしないと、それ以降の人生がイメージできない。それで、「環境を変えないと、それができないのではないか」という不安に駆られるようになって。「ソロになりたい」というより、「立て直したい」「新しい自分の生活の仕方を見つけなければいけない」という、“人間として”のことのほうが先行していました。

――あれだけのものを手放す決断は、大きな勇気が必要だったと思います。

鞘師:決断というより、進歩しなければいけないという焦り……焦燥感のほうが勝っていて。“行動せざるを得なかった”というほうが近いかもしれません。冷静になった今、同じ判断が自分にできるかは分かりませんが、それから過ごした時間を考えても、「これでよかったんだな」と思います。


教室ひと部屋ぶんの拍手で
一歩踏み出せるように

――卒業後はニューヨークでダンスと英語を学んだそうですね。トップアイドルだった自分を誰も知らない場所に身を置く時間は、どんなものでしたか?

鞘師:日本で過ごしているときは、防犯カメラのようなもので誰かにずっと見られているような感覚がありました。誰もそういうつもりはなくても、自分が無意識にそう思ってしまっていた。でも留学先では、誰も自分を知らないことで開放感があって。限りなくゼロベースで、また自分の人生について考えることができそうだという期待が持てました。「自分は座学が好きだったんだ」と思い出したりして。それまでは「鞘師里保だったら、こうするだろう」というのを自分に課していた部分があったのですが、ニューヨークでは本当に心の赴くままに、興味のあること、ワクワクするものに手を伸ばせる感覚で。満たされていなかったタンクがちょっとずつ満ちていくような時間を過ごすことができました。

――印象に残っている出来事はありますか?

鞘師:ダンスのクラスで自分らしさを発揮できない時期があったとき、リスペクトしている先生が急に「1人で踊ってみなよ」と声をかけてくれました。私、自分で挙手して意見を言うタイプではないので、1人でみんなの前で踊るなんて普段なら絶対……「断固拒否!」なんですけど(笑)、「これを今乗り越えたら何か変わるかも」と思って。そういうときは、グループ時代に培った“やると決めたら全力で立ち向かう精神”が役立ちました。チャレンジしてみたら、クラスの中でたくさん拍手をもらえて。範囲で言えば、学校の教室ひと部屋ぐらいのクラスでしたが、グループのときに大きい舞台に立ったときのような嬉しさを感じました。一歩踏み出せたのは、あの先生の言葉のおかげだなと思います。

――2021年には自主レーベル・Savo-rを立ち上げて、ソロを再始動されました。自分で居場所を作る選択には、どんな覚悟があったのでしょう。

鞘師:実は、アメリカで就職するつもりだったんです。でもビザの手続きが長引いて少し日本に戻っていた時期に、いろいろなご縁が重なって。「このご縁を信じてみたい」と前向きな気持ちになり、たどり着いたのが自主レーベルのスタートでした。自主レーベルで1人で歌っていくことは、グループを離れたときに感じた「自分で責任を負ってやっていきたい」という思いと通ずる部分がありました。そして、エンタテインメントの舞台に戻るなら、エンタメを志した最初のきっかけである“踊る、そして歌う”がマスト。そういった思考が、アメリカでゆっくり時間を過ごせたことでクリアになっていました。「自分は表舞台に立ち続けることに耐えられる人間ではないのかも」と悩むこともありますが、チャレンジしたい気持ちを周りの方が肯定してくれて。たくさんの言葉に背中を押されましたね。

できるだけ無理せず
自尊心は、自分で満たす

――アイドル卒業後のキャリアは十人十色です。自分の道を歩いていくうえで、大切にしていることはありますか?

鞘師:今までよりも軽やかに過ごせているのは、しっかり“生活”ができる余白と余裕を持ってお仕事ができているからです。そのバランス感は、理解してくれる方々に囲まれて保たれているものだと思っていますし、大切にしていきたいです。それと、期待していただけるもの、楽しんでもらえるものを見せていきたいのはもちろんですが、その中にちゃんと自分が表現したいことを込めるというか、表現するものが自分のポリシーから離れないことを常に意識しています。自分を、過剰に綺麗なイメージにしようとしない。期待されるものがあっても、“応えられるもの以外は応えない”という線引きを大事にする。簡単に言えば、無理をしない、みたいな(笑)。目の前のことに突き進んでいた時期には、「自分から職業がなくなったとき、何が残るんだろう」という気持ちになってしまうことがありました。それはいつでも危惧すべきだなと思っていて。常に振り返りながら過ごさないといつの間にか心を消耗するので、立ち止まって立ち返る時間を作ることが大事だと今は思っています。

――この連載のテーマでもあるのですが、女性であることは、活動や人生にどう影響してきたと思いますか?

鞘師:活動している中で、他人からの「若々しくあってほしい」という期待を強く感じていた瞬間がありました。それが、ときに過剰で負担に思うことも。時代は変わってきているかもしれないけれど、ネットで見える範囲では、今も“合格点”をもらえる範囲が年齢や容姿で限られているように感じます。ただその負担を負う必要はないと自分自身で気づけたからこそ、今の自分の活動の仕方や表現についても考えることも変わりました。

――以前、SNSでの誹謗中傷に触れて、「私も幸せでいたいし、みんなにも幸せであってほしい」と発信されていました。

鞘師:ジャッジされることで安心したり不安になったり、左右される時期もあったし、意識していないと今でもそうなりそうな瞬間はあります。その危険さに気づいて、自尊心は自分自身で満たしてあげられるようにならなければいけないなと思うようになったんです。ライブに来てくださるお客さんがいて、ファンの方がいて、自分がいて──何かを差し出す関係性ではなく、みんなでシェアしているような気持ちで、それぞれが生活の糧にして幸せになっていきたい。そういう環境を作ることができれば、とても理想的だなと思っています。私自身も、受け取る人たちの“他人をジャッジする”思考を助長させないように、体重や骨格のような具体的な数字を出さないとか、言葉にはいつも気をつけていて。留学したとき、側にいた友達に「もうちょっと脂肪を落として……」という話をしたら、本当に怒られるぐらいの勢いで「そういうことは口を慎みなさい」と言われたことがあるんです。衝撃的でした。アメリカでは、見た目については、みんなかなり多様な捉え方をしているなと思いました。

――次の世代の女性たちに、伝えたいことはありますか。

鞘師:失敗も成功も、いろんな試行錯誤を自分の思うままに試していってほしい。ただ、健康を害することに関しては、周りの大人たちがちゃんと指導して、できるだけ防げるように考えたほうがいいと感じていて。体とメンタルの基盤を整えることを、次世代の女性たちだけじゃなく、周りの環境や人たちにも、もっともっと意識してほしいなと思います。

――このシリーズでは、皆さんに「音楽からエンパワーメントされることはありますか?」とお聞きしています。歌って、踊って、曲も作る鞘師さんにとって、音楽はどんな力を持ったものですか?

鞘師:他言語であっても、そこに込められたアーティストのパワーを受け取って、力をもらえるのが音楽のすごいところだなと思います。私は音楽を聴くと細胞が動き出して、その日の活力になったり──歌詞よりも、音自体にパワーをいただくことが多かったタイプ。普段生きていると自分だけの範囲で生活を考えがちですが、すごく大きな、見えない“輪”みたいなものを感じられるのが音楽の素敵なところだなと思います。自分が「これがカッコいい」と思って作ったものを、同じように「好きだ」と思ってもらえた瞬間にも、“仲間”というか、“輪”を感じますね。

――キャリア1年目、12歳の自分にアドバイスをするなら?

鞘師:「もっと無邪気にやってもいいよ」って言葉を投げかけたいですね(笑)。「賢くやっていきたい」「上手くやっていきたい」と、12歳なりにプライドを持ってやっていて、それに助けられた部分もたくさんありますが。結果的に、ただただがむしゃらにステージで頑張っていた瞬間が一番楽しかったので、もっとのびのび感じても良かったんじゃないかなと思います。

――最後に、これから先の夢を聞かせてください。

鞘師:地道に続けていることが、思わぬ展開になっていく。それがこれからも生まれるといいなと思っています。「こうなったらいいな」という想像はしていますが、あまり決めすぎないでいたい。想定外のことを楽しんでいける、これからであり続けたいなと思います。どこかに向かいたい、というのはあまりないですね。

関連キーワード

TAG

関連商品

OWN
鞘師里保「OWN」

2026/09/02

[CD]

¥2,750(税込)

OWN
鞘師里保「OWN」

2026/09/02

[CD]

¥15,000(税込)

Too much!
鞘師里保「Too much!」

2025/07/23

[CD]

¥2,750(税込)

Too much!
鞘師里保「Too much!」

2025/07/23

[CD]

¥7,700(税込)

Too much!
鞘師里保「Too much!」

2025/07/23

[CD]

¥9,900(税込)

Symbolized
鞘師里保「Symbolized」

2024/07/24

[CD]

¥3,300(税込)

Symbolized
鞘師里保「Symbolized」

2024/07/24

[CD]

¥3,850(税込)

Symbolized
鞘師里保「Symbolized」

2024/07/24

[CD]

¥6,600(税込)

Hi(gh) Life
RIHO SAYASHI「Hi(gh) Life」

2024/02/07

[CD]

¥2,000(税込)

UNISON
鞘師里保「UNISON」

2022/11/16

[CD]

¥4,800(税込)

UNISON
鞘師里保「UNISON」

2022/11/16

[CD]

¥3,500(税込)

UNISON
鞘師里保「UNISON」

2022/11/16

[CD]

¥2,500(税込)

OWN
鞘師里保「OWN」

2026/09/02

[CD]

¥2,750(税込)

OWN
鞘師里保「OWN」

2026/09/02

[CD]

¥15,000(税込)

Too much!
鞘師里保「Too much!」

2025/07/23

[CD]

¥2,750(税込)

Too much!
鞘師里保「Too much!」

2025/07/23

[CD]

¥7,700(税込)

Too much!
鞘師里保「Too much!」

2025/07/23

[CD]

¥9,900(税込)

Symbolized
鞘師里保「Symbolized」

2024/07/24

[CD]

¥3,300(税込)

Symbolized
鞘師里保「Symbolized」

2024/07/24

[CD]

¥3,850(税込)

Symbolized
鞘師里保「Symbolized」

2024/07/24

[CD]

¥6,600(税込)

Hi(gh) Life
RIHO SAYASHI「Hi(gh) Life」

2024/02/07

[CD]

¥2,000(税込)

UNISON
鞘師里保「UNISON」

2022/11/16

[CD]

¥4,800(税込)

UNISON
鞘師里保「UNISON」

2022/11/16

[CD]

¥3,500(税込)

UNISON
鞘師里保「UNISON」

2022/11/16

[CD]

¥2,500(税込)

Reflection
鞘師里保「Reflection」

2022/01/12

[CD]

¥3,500(税込)

Reflection
鞘師里保「Reflection」

2022/01/12

[CD]

¥2,500(税込)

DAYBREAK
鞘師里保「DAYBREAK」

2021/08/04

[CD]

¥3,500(税込)