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<インタビュー>FictionJunctionが13年越しの『まどか☆マギカ』新作映画に捧げる「これ以上なくシンプル」な歓送の主題歌「彼方」

Text & Interview: はるのおと
3度の延期を経て、ついに『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』が劇場公開を迎えた。その主題歌「彼方」を手掛けるのは、長年、本アニメシリーズに携わってきたFictionJunctionこと梶浦由記。約13年越しとなる新作映画の主題歌・劇伴の制作舞台裏や、作品と登場人物たちへ注ぐ温かな思い、そして「答え合わせにしない」という音楽的アプローチについて、長年作品に寄り添ってきた音楽家の視点から語ってもらった。
──『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』の主題歌をFictionJunctionが担当されると発表された際に、梶浦さんは「ずっと心待ちにしていた」とコメントされていました。改めて、オファーを受け取られた時のお気持ちを教えてください。
梶浦由記:正直なところ、随時脚本を拝読していたので、新作の音楽も任せていただけるだろうとは思っていたんです。ただ前作の映画公開時は「2、3年後くらいに続編の話があるんじゃないかな」と思っていたのが、結果的に10年くらいずっと待っていた状態で。だからオファーが来た時は「やっと作れるんだ」という喜びが大きかったです。私はとにかく『まどか☆マギカ』シリーズが好きだったし、「次はどうなるんだろう」と思って待っていたファンのひとりなので、その続きを一足先に知れて、音楽まで作れるというのはやはりうれしかったですね。
──具体的にはいつ頃から制作がスタートしていたのでしょうか。
梶浦:具体的なお話としては3、4年前から動いていました。音楽自体は、最終的には打ち合わせを経て、今年の2月頃に納品しています。ただ、作業は半分コンテ撮の状態で行っていたので、私自身も公開されるのを、首を長くして待っていました。
──先ほどのコメントの続きに「答え合わせになるような曲にはしたくない」「作品の大ファンのひとりとして、彼女たちのこれからを華やかに、見送りたい」と記されていました。この境地に達した理由をお聞かせください。
梶浦:前作もそうでしたが、今回の作品もご覧になった方が10人いたら10人とも見終えたあとの感想が違うと思うんです。そこで音楽が「実はこういう終わりなんだよ」と何らかの答えを出してしまうと、逆に作品を裏切ることになってしまう。見終わったみなさんが考えたり迷ったりすることを想定して作られているなかで、音楽がミスリードをしてはいけないというのが一番難しいところでした。
──音楽で特定の感情に誘導しないように意識された、と。
梶浦:例えば、捉え方がバラバラなシーンで悲しい音楽を流してしまうと、「ここは悲しいと思っていいんだ」とみんなが思ってしまいますよね。そういうことは絶対にしてはいけない。だから「彼方」は映画の結末を決めたり、その内容を反芻したりするようなものではなく、映画を見終えた私が「彼女たちを見送りたい」という気持ちで作ることにしました。劇中の内容を振り返るのではなく、まどかたちの未来につながっていくような曲にしよう、と。
──作中の魔法少女たちの未来を祝福する歌だと。まさにそのような温かさを感じ、初めて聴いた時は『まどか☆マギカ』ファンのひとりとして自然と涙が溢れました。
梶浦:私もそうですし、ご覧になってきたみなさんの多くも作品や彼女たちに10数年付き合ってきたわけですよね。作品をご覧になって、最後に「彼方」を聴きながら、『まどか☆マギカ』という作品と出会えて、今まで好きでいてよかったなと思ってもらえたら、それに勝ることはありません。
──曲としては、全体的にものすごくストレートな内容で非常に驚きました。まず、冒頭の歌詞から〈さようなら さようなら〉という。
梶浦:自分でも思い切ったなと思います(笑)。彼女たちを送り出す歌にしようと考えた時に、変に悩みすぎずにすっと素直に出てきたのがこの言葉でした。
──メロディラインや曲調の構築において、特に意識された点はありますか?
梶浦:当初、実はもう少し複雑なサビの展開を考えていたんです。でも悩んでいる間に色々なものが削ぎ落とされて、これ以上シンプルにできないというくらい音数の少ないサビになりました。サウンドにもよりますし、ケースバイケースではありますが、基本的には昔から「メロディはシンプルなほうが伝わりやすい」と思っていましたので、今回はそのシンプルさを徹底できたことがうれしかったです。
──シンプルながらもダイナミックに展開していき、最後には大団円を迎えるところに、梶浦さんの彼女たちへの祝福を感じられます。歌詞でも、1番のサビは〈この世界をあと一度だけ/ただ信じてみようかな〉、2番のサビで〈この世界をあと何度でも/ただ愛してみようかな〉となり、視界が広がっていくような変化に胸を打たれました。
梶浦:今回の物語を終えた彼女たちの正確な気持ちは、私が決めていいところではありませんが、そこに余計な説明を加えるのではなく、この曲のような清々しい気持ちで未来に向かってくれたらうれしいな、それと同時に、ご覧になった方も彼女たちの未来の明るさを信じてくれたらうれしいな、という自分の願いや希望的観測を込めました。
──そんな風に思わせるまどかやほむらといった魔法少女たちは、梶浦さんにとってどのような存在なのでしょうか?
梶浦:テレビシリーズの脚本を初めて読んだ時から、彼女たちの魅力は「人としての普通さ」だと思っています。突飛で難しい世界観の中にいても、彼女たちの悩みや行動原理はすごく等身大でわかりやすい。世界に解らないことがあっても、彼女たちのことはわかる。だからこそ感情移入できるし、応援したくなる。彼女たちは友達でも自分の子供でもないけれど、私は間違いなく彼女たちの味方だし、ファンの方々もきっとみんな彼女たちの味方のはずですよね。
──未来に待つ希望を強く感じさせる、ラストの〈物語の終わりは 始まりの朝焼けに 続いて行く〉というフレーズからもそうした思いは感じます。
梶浦:映画も、「これですべてがきれいに終わりました」という閉じ方ではないですよね。この物語に次があるのか私に判断できるところではありませんが、これから物語として描かれても、描かれなかったとしても、彼女たちの人生や運命はどこかで続いていく。その未来は明るいものだと私は信じたいので、〈始まりの朝焼けに 続いて行く〉と書きました。ただ、聴いた方がそれぞれ彼女たちの未来を感じ取ってくだされば、それらすべてが正解だと思います。
──明るい未来を想像させる「彼方」の次に、灯台を意味するタイトルの「lighthouse」が収録されているのも上手いですよね。この曲は、2025年3月に配信されたゲーム『魔法少女まどか☆マギカ Magia Exedra』の主題歌で、今回同時収録されたのは偶然だとは思いますが、ワンパッケージになることでより深くテーマ性を感じられました。
梶浦:「lighthouse」の制作時期は「彼方」よりも前でしたが、ゲーム自体がこれまでの『まどか☆マギカ』シリーズを総括するような内容だったので、どこか過去を振り返りながら未来を目指すような空気感は「彼方」と共通していますね。おかげで1枚のシングル内で並んだ時にも、よいつながりを感じていただけるようになりました。
──「lighthouse」ではボーカリストのLINO LEIAさんがフィーチャーされていますが、キャスティングの意図は?
梶浦:LINO LEIAさんの声は若々しくてピュアで、鈴を鳴らすような響きが『まどか☆マギカ』の世界観にすごく合っているなと思ったんです。そのため「lighthouse」でも、「彼方」でもフィーチャーさせていただきました。
──「彼方」では、ボーカリストへのディレクションにおいてどんな点を意識されましたか?
梶浦:「彼方」はLINO LEIAさんとEMIKOさんのデュエットのような曲ですが、やはり少女たちの歌ですので、大人っぽくなりすぎないようには気をつけました。表現力を高めるように作り込むと、物事のわかった大人が上から俯瞰して歌っているような響きになっちゃうんですよ。だから、あえて少しだけ不完全というか、どこかまだ迷っているような青さを残すディレクションにしています。
──「完璧に作り込みすぎない」という塩梅が重要だったんですね。
梶浦:特にEMIKOさんのパートですね。彼女はとてもいい声をしていて、深く歌い込もうと思えばどこまでも大人っぽく歌えてしまう。冒頭の〈さようなら〉の歌い方はこの曲を決めてしまうような部分なので、あえてとても明るく、内省的になりすぎないよう歌ってもらっています。そうすることでこの曲に必要な切なさや「ちょっと不安な感じ」が逆に出てくるなと。
──少女たちの揺れる感情や未完成さが、歌声のニュアンスに込められているんですね。
梶浦:やっぱりどこかに少女の不安さが聞こえないと『まどか☆マギカ』の歌にはならないんです。歌って本当に繊細で、同じように歌っても2回と同じテイクは撮れないし、本人のちょっとした意識で印象がガラッと変わってしまう。だからこそ「これ以上大人っぽく歌い込まないほうがいいな」というラインを見極めながら、一番よいテイクを残していきました。
──今回の『ワルプルギスの廻天』において、劇伴制作時のアプローチについて教えてください。
梶浦:基本的にはお任せいただいています。ただ、脚本を読んだ段階で迷ったシーンがいくつかあったので、「ここはどのような意図でしょうか」と確認させていただきましたし、「ここは華やかな音楽にしてほしい」といったリクエストがあればそれに沿って構築していきました。
──どういった点で特に苦労されましたか?
梶浦:特に後半が難しかったです。前半のシーンは「『まどか☆マギカ』の世界へおかえりなさい」という感覚で、これまでの世界観を踏襲していたので作りやすかったんです。でも後半の、みなさんの解釈が分かれるであろう部分からは、主題歌と同じように説明しすぎない音楽になるよう、かなり神経を配りながら制作しました。
──本作に限りませんが、劇伴と主題歌を両方手がけられる際、メロディのリンクや相乗効果はどのように考えられていますか?
梶浦:リンクさせることで効果的になることもありますよね。例えば映画のテーマとなるメロディを劇中で何度も提示して、最後にそれを使った主題歌として流すような手法は一番わかりやすく、まとまりもいい。そういったことをすることもありますが、映画を観ている時の気持ちと見終わった後の気持ちが単純にはリンクしないケースもあって。
──と言いますと?
梶浦:最後にちょっと意外な展開や余韻が残る作品だと、直前までの劇中音楽をそのまま引きずったエンディング曲を流すと、少し違和感が生まれてしまうかなと。そういった時は思い切って音楽のムードを変える必要があります。そのため今回も、「彼方」のテーマメロディを映画の中に使ってはいますが、サブリミナル的に埋めるような作り方はせず、劇伴との結びつきはいつもより抑えめにしています。
──だからこそ、映画の枠を飛び越えた「見送りの歌」としての強さが生まれたのですね。
梶浦:おかげで物語に引きずられすぎず、思い切ったアプローチができました。
──「彼方」、そして劇伴の一部はすでにライブツアー【Yuki Kajiura LIVE vol.#22 ~precious pieces~】で披露されています。手応えはいかがですか?
梶浦:観客のみなさんはネタバレに配慮して、SNSなどでは深く語りすぎないように気を遣ってくださっているのを感じます(笑)。でもアンケートなどでは「聴けて本当によかった」という声が多く、とても温かい反応を感じています。映画が公開されたあとは、シーンやまどかたちの姿を思い浮かべながら、また違った味わい方で楽しんで聴いていただけるのではないでしょうか。
──2011年のTVシリーズから15年近く寄り添ってきた『まどか☆マギカ』ですが、今後梶浦さんご自身は、この作品やその音楽とどのように付き合っていかれるのでしょうか。
梶浦:これまでも『まどか☆マギカ』のいろんな楽曲をライブで演奏してきたし、もちろんこれからも大切な楽曲としてステージで演奏し続けていきます。ただ、作品については今回『ワルプルギスの廻天』の音楽を作り終えたことで、逆に昔のものをもう一度頭から見直したいなという気持ちがすごく強くなっているんです。
──とは言え、結構なボリュームになってますよね。
梶浦:でも、テレビシリーズの第1話から順番に観て、映画も含めても1日徹夜すれば観切れちゃうくらいのボリュームですよ(笑)。この壮大な物語を、ひとりのファンとしてもまたじっくり味わい直したいです。
リリース情報

シングル『彼方』
2026/9/2 RELEASE
<完全生産限定盤(アニメ盤)>
VVCL-2985 3,000円(Tax in.)
LP サイズアニメ描き下ろし特殊ジャケット
©Magica Quartet/Aniplex,Madoka Project
<通常盤>
VVCL-2988 1,600円(Tax in.)
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