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<インタビュー>サマソニ来日のAndrが明かす、リスナーと繋がったと感じた瞬間

Photos:辰巳隆二
今年5月の東京単独公演、福岡のフェス【CIRCLE '26】でのパフォーマンスを経て、8月の【SUMMER SONIC 2026】へ出演するため、再び日本に戻ってきた台湾出身のシンガーソングライター、Andr。オルタナポップからインディーロックまでを軽やかに横断するそのサウンドは、今や台湾国内だけでなく、海を越えてさまざまな場所でリスナーを増やし続けている。そんな彼女に、7月にリリースしたミニ・アルバム『SKIN』の制作秘話から、REJAYとのコラボ「Hangover」誕生の裏側、そして音楽以外の顔まで、じっくり語ってもらった。
──5月の単独公演やフェス出演、360度ステージなど、幅広いパフォーマンスを重ねてきました。会場が変わるごとに、気持ちの持ち方も変化するのでしょうか?
Andr:間違いなく変わります。お客さんが違えば、その場の熱量もまるで違うので。日本で演奏するたびに、いつも観客に驚かされるんです。想像していたよりずっと熱心で、その瞬間を全身で楽しんでくれている感じがして。【CIRCLE '26】や自分の単独公演も含めて、こうして何度も日本で演奏させてもらえていることに、すごく感謝しています。その場ごとにまったく違うお客さんのエネルギーが、ステージを毎回違うものにしてくれているんだと思います。
──【SUMMER SONIC】は、これまでのステージとどう違うと捉えていますか?
Andr:すごく楽しみにしています。というのも、私が観客として初めて海外のフェスに足を運んだのが【SUMMER SONIC】だったんです。2023年に訪れて、そこでケンドリック・ラマーやNewJeansを観て、本当に大好きになりました。台湾には、あれほどの規模で海外アーティストが集まるフェスはあまりないんです。韓国のHYUKOHのようなアジアのバンドとか、インディーバンドはよく来てくれますが、本当に大規模で商業的な海外アーティストを観る機会は正直あまりありません。ケンドリックのステージは、本当に忘れられません。生で観たのはあの時が初めてで、私は一人で観に行っていたんですが、周りの人たちは歌詞を一言一句全部歌えていて。あれは本当にすごい光景でした。

──【SUMMER SONIC】では、日本のファンにどんな時間を過ごしてほしいですか?
Andr:かっこいい印象を残せたらいいなと思っています。通りかかった人たちが思わず足を止めて、「あれ、誰だろう。ちょっといいかも」と思ってくれたら最高です。フェスのいいところって、そういう出会いだと思うんです。
ファンのみんなには、ビールでも飲みながら、楽しい時間を過ごしてもらいたいですね。外は暑いので(笑)。その場で起きることを、その瞬間として一緒に味わってもらえたら。それが一番の願いです。
──そもそも音楽との出会いは、どんなきっかけだったのでしょうか。
Andr:父が車の中で米ビルボードの“Hot 100”を流していたんです。子どもの頃は、車の中で同じ100曲を聴き続けることになって、それで洋楽のポップスにたくさん触れることになりました。高校ではロックバンドをやるようになって、ギターを弾きながらマイ・ケミカル・ロマンス、ミューズ、アークティック・モンキーズ、パール・ジャムみたいなロックの楽曲をカバーしていました。ちょっと反抗期だったのかもしれません。
その後、フランク・オーシャンやタイラー・ザ・クリエイターみたいな、プロデューサー兼シンガーソングライター系のアーティストに興味を持つようになりました。彼らの音楽を聴くようになって、一人でもこんなに多様なサウンドを作れるんだと気づいたんです。すごくパーソナルで、親密な感覚で。それが自分の音を作りたいという気持ちに火をつけて、ビートメイキングを始めたり、自分一人で曲を書いたりするようになりました。それが、私が音楽を作るようになった始まりです。

──一人で曲作りに向き合うことに、どんな魅力を感じているのでしょう。曲がいつ「完成した」と感じるのかも、気になります。
Andr:ソングライティングは、私にとって常に親密で、少し気恥ずかしくて、いろんな感情が混ざり合うものなんです。本当に正直になるためには、特に作り始めの段階では、一人か、本当に信頼できる人とだけ一緒にやるのが一番だと思っています。今でも、コラボレーションでは、まずは一人でソングライティングのプロセスを始めるほうが心地いいんです。そこから、アイデアを出し合っていきます。
曲作りがいつ終わるかを答えるのは難しいですね。感覚的にわかる、としか言えなくて。時にはちょっとしたフラストレーションを感じることでわかる場合もあります。私の人気の曲の一つ「她(her)」は、アコースティックでフォーキーな曲なんですが、確か30分くらいで書き上げました。自分史上、一番早く書けた曲です。逆に2年かかる曲もあります。正しい言葉が見つからない、正しいメロディが見つからない、アレンジが決まらない、あるいはどうしても完成した感じがしない。そうなったら一度そこから離れてみて、他のものを作ってみると、インスピレーションが湧くこともあります。逆に、もう飽きて「もうリリースしちゃおう」ってなることもありますね。

──今、音楽的に一番はまっているものは?
Andr:最近はブロック・パーティーのデビュー・アルバム『サイレント・アラーム』をよく聴き返しています。飛行機に乗る機会が多いので、事前にアルバムをダウンロードしておくんですが、そのせいでずっとその時代の音楽ばかり聴いていて。ブロック・パーティーとか、アークティック・モンキーズもまた聴き返しています。あと、まだそんなに有名じゃないんですが、ゴリラズともコラボしているアメリカ人のカラ・ジャクソンがすごくよくて、本当に大好きです。
──これまでのキャリアで、ターニング・ポイントと呼べる瞬間はありましたか?
Andr:去年、初めてワンマンライブを台湾でやったんです。1週間で1,200人分のチケットが完売しました。「本当にお客さんが来てくれるのかな?」ってすごくプレッシャーを感じていたんですけど、結果的にすごくいい形になって、「みんな本当に自分の音楽に共感してくれているんだ」と実感できた、まさにそんな瞬間だったと思います。ファンの姿を実際に目にするのは、ストリーミングの再生数を見るのとは全然違いますから。1年前の私なら、月間リスナーが20万人になるって言われても「そんなの絶対にありえない」って思っていたと思います。それが実現した今も、正直まだ全く同じ気持ちなんです。本当に信じられないし、すごいことだと思っています。
今のところ、数字的な目標は特にないんですが、もっと旅をしたいとは思っています。行ったことのない場所に行きたいですね。フェスやライブの機会なら、どこへでも呼んでほしいです。今考えているのは、スペインの【プリマヴェーラ】とか、【アイスランド・エアウェイブス】、それに【Coachella Festival】にもぜひ出たいです。

──7月にミニ・アルバム『SKIN』をリリースされましたが、この作品を作るきっかけになった出来事はありましたか? そして、作品の「核」になった曲はありますか?
Andr:正直、最初からアルバムとして作ろうとはしていなかったんです。曲ごとに、その瞬間に感じたことをそのまま書いたり、その時のサウンドを作ったりしていて。6曲全部完成させた段階で、「あ、これって結構ひとつのまとまった作品になっているな」と気づいて、そこから点と点をつなぐような感覚で整理していきました。だから、この作品全体を作るきっかけになった特定の出来事というのは、実はないんです。それぞれの曲に、それぞれの出発点があったというのが正しいと思います。
でも、核になった曲はあります。ミニ・アルバムのタイトルにもなっている「skin」という曲です。ミキシングとマスタリングのためにロンドンに仕上げに行った時のことなんですが、最後の1曲がまだ完成していなくて。Airbnbに泊まっていたんですけど、チームから「明日の朝9時には出発するから、それまでにボーカルを完成させて」と言われて。朝7時に部屋のカーペットに座って、ちょっと質の悪いマイクでボーカルを録音したんです。2テイク録ったところで、「これでいい、もうこれで完成だ」って感じました。あの生々しさが、このEP全体のテーマをうまく締めくくっているような気がして。すごく大事な曲だと思っています。あのプレッシャーが、いい方向に働いたんですね。もしあと2日あったら、たぶん100回くらいテイクを重ねていたと思うし、それでも最初のテイクを選ぶ自信は持てなかったと思います。曲自体も全然違うものになっていたはずですが、結果的にはすごくシンプルで削ぎ落とされた形になった。それがこの曲のあり方なんだと思います。
──制作を通して、自分の中で変わったと感じることは?
Andr:この作品に対して、特に台湾のリスナーから本当にいい反応をたくさんもらえたことに、正直すごく驚いています。作っている時は、自分がおもしろいと思うこと、やってみたいと思うことだけを純粋に考えていたんです。だから、こんなに多くの人が共感してくれるとは思っていなかったんですが、実際にはリスナーが音楽的にも歌詞の面でも、本当に伝えたかったことを理解しようとしてくれていて。アーティストとして、それはすごく胸に響きます。しっかりしたコンセプトを持って曲を書くよりも、「自分はこれをやりたいんだ」という部分に忠実であることのほうが、結果的に伝わるものなんだと思うんです。普段はどこかで「みんなはこれをどう思うだろう」という意識が少し残るんですが、この作品に関しては、その意識がほとんどなかったですね。
──嬉しかったファンからの反応も教えてください。
Andr:一番嬉しかったのは、みんなが私の歌詞を分析してくれることです。ミニ・アルバムに入っている「安Nest」という曲があるんですが、これは幼馴染たちとの会話がきっかけで生まれた曲なんです。誰が一番先に子供を持つかっていう話をしていて。その会話を通して、私はまだ自分の子供を持ちたいとは思えないんだ、ということに気づいたんです。世の中が、いろんな意味で、その準備ができていないと感じていて。どれだけ愛情や気遣いを持っていても、それでも起こってしまう酷いことがたくさんあって、子供がちゃんと自立した人間に育つのを保証するのはとても難しい。それがこの曲のきっかけになりました。
書いている時は特に反応を想像していなかったんですが、たくさんの人がこの歌詞にすごく心を動かされたようで、それが言葉にできないような形で伝わったと感じています。あと、曲の中で触れているのが、自分が子供の頃嫌だった“保護”という名の制約についてです。「夜は一人で出歩かないで」「こういう服装はしないで」とか、当時はまったく理解できなかった。でも今、誰かを守りたいと思う立場になった時に、真っ先に出てくるのがまさに同じような発想なんです。それってすごく疲れる考え方だなと思います。実際にそれをやる立場になって初めて、「あ、あの時こう言っていた理由がわかる」って思えるようになるんですよね。今の私は正直、責任を持たなくていい今の状態が心地いいというか、まず自分のことをしっかりやって、音楽に集中したい気持ちです。


──日本人シンガーのREJAYとの「Hangover」は、どのような経緯で生まれましたか? 東京でのレコーディングは、台湾での作業と違いを感じましたか?
Andr:実は彼女から声をかけてくれたんです。私の作品に興味を持ってくれたみたいで、このコラボを通じて彼女と知り合えたことをすごくうれしいです。彼女はとても優しくて、一緒にいて楽しい人。最初にいくつかデモを送ってくれて、そこからやり取りを重ねていきました。今年、東京でボーカルのレコーディングをしたんですが、それが私にとって初めての海外レコーディングだったんです。だから、違う環境で人がどうやって仕事をしているのかを見るのはすごくおもしろかったですね。あとレコーディングの間、おにぎりをすごくたくさん食べました(笑)。
普段は自分のプロデューサーのスタジオで、すごくリラックスした雰囲気の中でレコーディングするか、自宅で一人でやることが多いんです。REJAYと彼女のプロデューサーのJQとのレコーディングはすごく楽しい雰囲気でした。JQが本当にリラックスしていて、かっこいい人で。一度、口元にタバコを咥えているように見えて、「スタジオでタバコ吸うんだ~」って思ったんですけど、よく見たらお菓子だったんです。野菜スティックか、ロリポップみたいな。そんな感じでお菓子を食べていても妙にかっこよくて、おもしろかったです。
──日本で行われた「Hangover」のMV撮影についても聞かせてください。
Andr:MVは、富士山まで車で行って撮影したんです。本当は外での美しいシーンをいくつも予定していたらしいんですが、当日は天気があまりよくなくて、撮れなくなってしまって、結局多くのシーンを屋内で撮ることになりました。スタッフの皆さんがすごく手際がよくてスピーディーだったので、いろんなことがどんどん決まっていって、すごく楽しい撮影になりました。
──とはいえ、やっぱり富士山バージョンも見てみたかったですね。
Andr:10周年の時に、もう一度撮り直したらいいかもしれないですね!
──今後一緒にやってみたい日本のアーティストもいれば教えてください。
Andr:今後コラボしたい日本のアーティストとしては、King Gnuを前にも挙げたことがあります。すごくクールなバンドだと思います。好きな曲を一つだけ選ぶのは、正直難しいくらい好きです。
──音楽以外で、今興味を持っていることはありますか?
Andr:逆立ち(ハンドスタンド)ができるようになりたくて、今練習しているんです。単純に、できたらかっこいいスキルだなと思って。学生時代はいろんなスポーツを楽しんでいました。バスケットボールとか卓球とか、そういうものが好きでした。
──音楽以外にストレスやフラストレーションを解消する方法はありますか?
Andr:運動ですね。ランニングは正直嫌いなんですけど、今はよく走っています。トレッドミルの時もあれば、外を走ることもありますが、台湾は湿度が高すぎて、あまり走りやすい天気じゃないことも多いです。特に決まったプレイリストはなくて、聴いたことのない新しいアルバムを選ぶことが多いです。前に、スティーヴ・レイシーの新しいアルバムを走りながら聴いたんですけど、ランニングには向いていなくて、全然走れませんでした(苦笑)。
──最後に、5年後、10年後、アーティストとしてのビジョンを聞かせてください。
Andr:ただ、今の気持ちのまま在り続けられたらいいなと思います。今の自分の人生の在り方には、本当に満足しています。これまでやってきたこと、そしてまだやっていないことも含めて、今の自分に満足しているというか。「まだやりたいことがある、でもまだやっていない」という状態がずっとあるのって、実はすごく素敵なことだと思うんです。それこそが、今の活動を続けている大きな理由だと思うので。5年後も同じような気持ちでいられたら嬉しいですね。そして、その時もまだ音楽を続けていられたらいいなと思っています。

























