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<インタビュー>成瀬あかりは、なぜ「みんなの青春」になったのか――「成瀬あかりシリーズ」担当に聞く、ヒットの実感とチャートの新しい見え方

Interview & Text: Aoi Harigaya
Photo: Shun Itaba
宮島未奈氏による「成瀬あかりシリーズ」は、『成瀬は天下を取りにいく』(2023年)、『成瀬は信じた道をいく』(2024年)、『成瀬は都を駆け抜ける』(2025年)の三部作。本屋大賞をはじめ数々の賞に輝き、三部作完結後もなお読者を増やし続けている。
今回は新潮社で本シリーズを担当してきた大嶋麻友子氏(『小説新潮』編集部)、羽毛田穣治氏(出版部)、上原子真衣氏(プロモーション部)の3名に話を聞いた。デビュー作の誕生から、発行部数という基準の外にある「ヒットの実感」、そしてチャートに映し出された成瀬シリーズの意外な動きまで、率直に語ってもらった。
「ありがとう西武大津店」から始まった、稀有なデビュー
――宮島未奈さんとの出会いは、どのような形だったのでしょうか。
大嶋麻友子:宮島さんは弊社の新人賞「女による女のためのR-18文学賞」に何度か応募してくださっていて、ついに受賞となったのが2021年、第20回のことです。選考委員は辻村深月さんと三浦しをんさんでした。受賞作は短編「ありがとう西武大津店」。書籍化のために「成瀬あかりの物語をもっと読ませてください」とお願いして、全6編をまとめたのが2023年刊行の『成瀬は天下を取りにいく』です。
――受賞作を読んだときの率直な感想は。
大嶋:一番覚えているのは「爽やかだな」という印象です。ちょうどコロナ禍で、応募作もどこか暗さをまとったものが多い中、この作品は泣かせに来ない。おばあちゃんが出てくる場面など、簡単に泣かせられるはずのところをあえて泣かせない。そこにこだわりのある、稀有な才能だと感じました。

――地元・大津での反響も大きかったと伺いました。
上原子真衣:私は当時滋賀の営業を担当していて、書店さんから「あの話、本になるのはいつ?」とずっと聞かれていました。『小説新潮』に掲載された時から大津ではすでに雑誌が売れていて、刊行までの9ヶ月間、書影のポスターを滋賀・京都の書店に届けたり、刊行前に何百人もの書店員さんに読んでいただいたり、かなり入念に準備をした作品です。
成瀬あかりに「嘘をつかせない」
――宮島さんとの創作において、意識してきたことは。
大嶋:成瀬あかりというキャラクターに嘘をつかせないことです。宮島さんの中には、「成瀬あかりはこれをする」「こうは言わない」という答えがすでにはっきりある。だから編集としては「こうしてほしい」という要望よりも、宮島さんの中にある答えを引き出すように聞いていく。 「無理に動かそうとせず、キャラクターの可動域を広げるように問いかける」というのが基本の姿勢でした。
「10万部でヒット」という基準の他にあるもの
――よく「10万部売れればヒット」と言われますが、この基準についてどう思われますか。
上原子:文芸書で10万部というのは、本当にそうそう届かない数字です。本屋大賞にノミネートされても届かないこともあります。『成瀬は天下を取りにいく』は本屋大賞ノミネートより前、発売から半年ほどで10万部に達しましたが、それは本当に作品が愛されて広がった結果だと思います。
羽毛田穣治:数字だけで測れるものの話でもないと思います。このシリーズに関して言えば、小説を読んでいなくても「成瀬あかり」というキャラクターを知っている人がいる。そういう作品の持つ潜在的な力も大きいのかなと。
大嶋:本は基本的に受け取るだけのものですが、ヒットしている本は読者が能動的に動き出すんです。おすすめしたり、ファンレターを書いたり。「成瀬」は本当にファンレターが多い作品で、受け取るだけで終わらない本というのが、ヒットの実感に近い気がします。

――「ヒット」の基準が多様化していくなかで、普段、ヒットを実感するために見ている情報は。
羽毛田:担当作が発売されたあとは、POSデータを毎日欠かさずチェックします。どうしても気になって、日課みたいになりますね。Amazonランキングや、トーハン・日販のベストセラーもよく確認します。
大嶋:私は書店さんの本に対しての熱量を見ます。業界内の評判ももちろん大事ですが、一般の方々のために本を作っているから、それが一番わかりやすく目で見えるのは、私は書店さんの売り場なのかなっていう気がしています。
上原子:聖地巡礼も実感のひとつでした。成瀬あかりがバイトしていたスーパーに「広島から来ました」というお客様の声が届いたり、びわ湖大津観光協会から来場者数の報告をいただいたり。文芸書でここまで聖地巡礼が起きるのは、他に見たことがありません。
- チャートに表れた、『成瀬あかりシリーズ』の"意外な"順位
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チャートに表れた、『成瀬あかりシリーズ』の"意外な"順位

――Billboard JAPANの総合ブックチャートは、店舗・EC・電子書籍・図書館・SNSの反響までを合算しています。普段ご覧のデータと違う点は。(※編集部注:『成瀬シリーズ』担当の皆さんには2026年7月23日公開の総合書籍チャート“JAPAN Book Hot 100”をご覧いただきました。)
上原子:一番違うのは図書館とSNSの指標が入っていることです。図書館でたくさん借りられることはありがたい一方、出版社としては「無料で読まれてしまう」という側面もあり、これまであまり数字として見る機会がありませんでした。チャートにその指標があるのは新鮮です。
大嶋:書店で平置きを見ている感覚と近いものも感じます。30位に直木賞を受賞した朝倉かすみさんの『けんぐゎい』が入っていて「やっぱり売れているんだな」と思ったり、伊坂幸太郎さんの『777 トリプルセブン』も(書店の)いい場所に置かれていた実感と合っていたり。総合順位という形で、そういう肌感がちゃんと表れているのが面白いですね。
羽毛田:コミックも入っていたりと、ジャンル分けせずにあらゆる書籍を比較したデータなのも新鮮です。連載再開の話題で盛り上がっている『HUNTER×HUNTER』が何冊も入っていますね。小説に限らず、世のエンタメ好きの人たちが今なにを読んでいるのかが見えてくる気がします。
――『成瀬は天下を取りにいく』は、図書館の指標ではずっと1位を記録しています。
上原子:それは嬉しいですね。1作目の『成瀬は天下を取りにいく』が出るとき、学校司書さんや図書館に案内を送ったりしていたので。「〇〇県司書の選ぶ本」のような選書にも入れていただいていました。

――文芸チャート“Hot Bungei Books”では、2026年1月22日・29日公開のチャートに『成瀬は天下を取りにいく』が1位となっています。これは何が理由だと思われますか。
羽毛田:前月の12月1日に完結編『成瀬は都を駆け抜ける』が発売されていて、シリーズが完結したことで「頭から読もう」という方が増えたのかもしれません。11月に舞台化決定が発表されたり、1月19日には大津市の膳所駅前に「成瀬は天下を取りにいく」デザインマンホールが設置されたりと、直近の数か月は話題の多い期間でもありました。
地元色の強い物語は、海外でも読まれるのか
――Billboard JAPANでは、海外で読まれている日本の書籍・漫画のグローバルチャートの展開も予定しています。「成瀬あかりシリーズ」は滋賀・大津という非常にローカルな舞台設定が特徴ですが、海外で読まれる可能性についてはどう考えていますか。
羽毛田:「成瀬あかりシリーズ」はすでに韓国、中国、台湾、ロシア、ブラジルでの翻訳も進んでいて、おもてなしの精神やけん玉、漫才といった、日本ならではの文化や精神性が随所に描かれているので、広がる余地はまだまだあると思っています。
大嶋:海外の方が期待する「日本らしさ」という視点で見ると、3作目『成瀬は都を駆け抜ける』が一番応えている気がします。京都の風景、着物、観光大使としてのおもてなし。そこから入って1作目・2作目に遡ってもらうのもいいかもしれません。それに、「地元」というのは特殊な設定でありながら、実は誰もが持っている普遍的な感情でもあります。国籍を問わず、青春時代や地元への思いに繋がっていってほしいなと思います。
――三部作が完結した今、このシリーズにどう読まれてほしいですか。
大嶋:すべての時代の少年少女に読んでほしいです。図書館に置いてもらって、書店にも置いてもらって、10代の読書の入り口になれるような本であってほしい。多くの人の青春を彩る一冊に、「成瀬」はなってほしいなと思っています。
























