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<インタビュー>「紙・電子・音声、どれにしよう」が当たり前になる日へ——Audibleカントリーマネージャー・逢阪志麻が語る、聴く読書の10年と未来【WITH BOOKS】

インタビューバナー

Interview & Text: Aoi Harigaya
Photo: Shun Itaba


 ビルボードジャパンが2025年11月よりスタートした総合書籍チャート"Billboard JAPAN Book Charts"。本チャートは、紙の書籍(書店/EC)と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。

 本シリーズでは、アーティストや作家、書籍業界関係者にチャートへの期待をインタビュー。今回はAmazonオーディブル(以下、Audible)カントリーマネージャーを務める逢阪志麻氏に、“聴く読書”の現在地と、日本コンテンツの世界展開に向けた展望を聞いた。

2015年、概念のないところから始まった「聴く読書」

――逢阪さんはAudibleの日本でのサービス立ち上げから現在までを牽引してこられました。この10年で「聴く読書」に対する日本のユーザーや出版社の印象は、どのように変わったと感じていますか。

逢阪志麻:2015年に日本でAudibleをスタートした当時は、「オーディオブック」という概念がほとんどない状態で、ゼロから1を作るような状況でした。最初は「オーディオブックとは何か」「なぜ本を聴くのか」という認知を広げる活動にかなり力を入れていましたね。その間にスマートフォンが進化して、オーディオ機器の音声もすごくよくなったことで、環境面でも大きく整っていきました。

それとともに我々のサービスも順調に伸びていき、今ではオーディオブックという言葉を多くの方に知っていただけるようになりました。まだやるべきことはたくさんあると思っていますが、「音声で聴く本」をより身近に楽しんでいただける環境を、引き続き整えていきたいですね。


――私自身もAudibleを体験しており、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(著:アンディ・ウィアー)を聴きました。

逢阪:ありがとうございます。イチオシの作品です。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のオーディオブックはAudible Studiosによる独占配信作品でもあり、アンディ・ウィアーはAudibleにとっても非常に縁の深い作家なのです。このたびAmazon MGMスタジオで映画化されましたが、こうした展開はまだ多くはなくて。もっとこういったプロジェクトを実現していきたいと思っています。



――Audibleを体験して感じたのは、ナレーターや俳優の声によって、文章のリズムや抑揚、ニュアンスまで伝わり、紙の読書とは異なる体験ができるという点です。受け手の感情にはどのような作用があると思いますか。

逢阪:音声で聴く体験って、文字で読む体験とは少し異なると思います。だからこそ、ナレーターの声とストーリーの相性は我々も気を遣う部分です。リスナーに、「このマッチングいいな」と感じていただけるよう心がけています。

それと、音声で物語を聴くことは、文字を読む場合よりも受動的なので、自然と物語が入ってきます。それが没入感を高める要因にもなっていて。活字でも音声でも、ストーリーに触れていただくことに意義があると思うので、ぜひAudibleも選択肢のひとつとして手に取っていただければ嬉しいですね。


――出版科学研究所によると、雑誌と書籍を合わせた販売額が1兆円を下回ったとの報告もあります。いわゆる〝活字離れ〟をはじめとした出版業界の課題に対して、Audibleとしてどのような取り組みを考えていますか。

逢阪:実際にAudibleをご利用いただいているお客様は、紙の本を読む時間も増えているというデータが出ています。「Audibleで聴いてみたら紙でも読みたくなった」というお客様もいらっしゃいますし、聴き放題サービスで、「どんな作品だろう」と気軽に試していただく方も増えました。普段は手に取らないジャンルへの入口という意味では、我々も本に触れ合うきっかけを増やしていくことができればと思います。



――Audibleをきっかけに実際にAmazonで紙の本が読まれた具体例はありますか。

逢阪:湊かなえさんの『暁星』です。もともと、最初に音声で届けられる「オーディオファースト作品」としてAudibleが書き下ろしをお願いした作品なんですが、後に出版された書籍版でも人気が高まり2026年の本屋大賞で5位を獲得しました。音声化を念頭に置いてストーリーを書いていただく取り組みは多くの作家さんにお声がけしていますが、作家さんにとっても「音声で聴かれるストーリー展開はどう作ればいいのか」という新たな挑戦になっているようです。ネタバレになってしまいますが、(『誰かが私を殺した』を執筆した)東野圭吾さんは、亡くなった主人公が幽霊になって語り手を務めるという、音声ならではの語り口を採用されていました。川上未映子さんは「音声だからこそ言葉のリズムを大切にした。音にしたときにどう聞こえるかを強く意識した」とおっしゃっていましたね。


――働く世代を中心に読書時間が取りにくいという声もある中で、Audibleは〝活字離れ〟への処方箋になり得るでしょうか。

逢阪:Audibleは運動中や通勤・通学中、家事の場面での〝ながら聴き〟でご利用いただくお客様が多いです。忙しい1日の中でうまく時間を使えるという意味では、少しでもお役に立てているのかなと思っています。ただ、効率のためだけに使われているわけではなくて、リラックスしたいとき、物語に没入したいときに使われているお客様も多くいらっしゃって。それぞれの生活リズムに合った形で取り入れていただいているんだと感じています。


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  1. ビジネス書から文学へ、10年の変化
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ビジネス書から文学へ
10年の変化


――サービス開始から10年で、ユーザーの属性に変化はありましたか。

逢阪:当初はスキルアップや自己啓発を目的に使われる方が多く、ランキング上位もビジネス書が大半を占めていました。ですが、2022年に聴き放題制にサービスを移行してから聴かれるジャンルが大きく変わり、今では文学作品が上位の多くを占めています。ラノベもすごく人気で、アニメと同じ声優さんの声で聴きたいというニーズともうまくマッチしているんです。聴取時間も伸びて、ジャンルの幅も広がったという意味で、この10年で大きく変化したと思っています。


――音楽のストリーミング化によって、10年前の楽曲が突然再注目されるケースも増えました。Audibleでも旧作の再発見という現象は起きていますか。

逢阪:最近の事例で言うと、『国宝』が一番大きかったんじゃないかと思います。Audibleでのリリースは2019年でしたが、映画公開をきっかけにブームになって、昨年最も聴かれた作品になりました。この作品では歌舞伎俳優さんにナレーションをお願いしたほか、舞台の音響を再現して収録するなど、細部にもこだわっています。音の世界ですから、音でいかに作品の世界観を体験していただけるかにこだわることが大事だと思っています。


――Billboard JAPANでは2025年11月に、紙書籍・電子書籍・サブスク・図書館など複数の消費形態を合算した総合ブックチャートをスタートしました。オーディオブックを展開するAudibleの立場から、このチャートにどのような可能性を感じますか。

逢阪:面白いですよね。やはりAudibleから見えるトレンドと、本全体のトレンドを比べたとき、どこが重なってどこが違うのかが見えてくると思うので、とても素晴らしい取り組みになると思いますし、我々も注視したいと思っています。アメリカではすでに紙・電子・音声が横並びの選択肢として定着しているんですが、日本でも「この本は音声で聴くのが面白い」「この本は紙で読むのがいいかも」と選んでいただけるよう、Audibleが選択肢のひとつとなるよう根付かせていきたいですし、そうなるべきだと思っています。


――Billboard JAPANでは将来的に、海外で売れている日本の本を可視化するグローバルチャートも視野に入れています。「日本コンテンツの世界での受容を測る指標」は、Audibleにとってどのような意味を持つと思いますか。

逢阪:Audibleの強みのひとつが、日本の作家さんの作品を英語やドイツ語など多言語で海外展開できるという点です。海外進出を望んでいてもまだ実現できていない作品と世界とをつなぐブリッジになれればと思っていて、『暁星』も英語版『The Star at Dawn』を配信しています。マンガやアニメだけでなく、文学作品でも私たちがお役に立てる領域があると信じています。


――最後に、Audibleが取り組む日本発コンテンツの世界への展開について教えてください。

逢阪:川上未映子さんのオーディオファースト作品『春のこわいもの』をドイツ語と英語で展開したほか、現在検討中のプロジェクトもいくつかあります。Audibleは現在180以上の国と地域でサービスを展開していて、配信はグローバルに届きます。日本語でまず作品を出して、翻訳してニーズのある国に届けていく。その流れで自分たちの強みを最大限に活かしていきたいと考えています。


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