Special
<インタビュー>Billboard Global Power Players vol.12 ハン・ヒョンロック 株式会社HYBE JAPAN 代表取締役兼CEO

Interview& Text: 高嶋直子
Photos: 興梠真穂
米Billboard誌が、アメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard Global Power Players】。各国から音楽業界を牽引するリーダーが選ばれた中、HYBE JAPANで代表取締役兼CEOを務めるハン・ヒョンロック氏が初めて選出された。今回、本選出を記念しハン氏へインタビュー。着任時20人ほどだった会社を、どのように約300人規模まで成長させたのか、そして、兼任で代表を務める〈YX LABELS〉の所属アーティストである&TEAMでの挑戦についても話を聞いた。
──まず、プロフィールをお伺いできますでしょうか。
ハン・ヒョンロック:私はこれまで金融や製造、商社といった様々な業種で経営戦略などを担当し、2019年にBig Hit Entertainment(現HYBE)へ入社しました。前職はミスミグループに所属し、タイに駐在しながらアジア地域を担当していたのですが、友人経由で、HYBEを創業したバン・シヒョク取締役会議長と出会いました。そして、彼の掲げるビジネス哲学や圧倒的なクリエイティビティ、そしてその人柄などに深く感銘を受けました。私はそれまでエンターテインメント業界で働いた経験はありませんでしたが、彼のもとであれば、自分がやってきた戦略や様々なプロジェクトの経験が活かせるのではと思い、韓国に戻ったのが2019年のことです。
──はじめから、日本に配属されたわけではなかったのですね。
ハン:当初は韓国で数年ほど働く予定でした。ですが、入社して半年ほどしたら「日本に行ってくれないか?」と言われて。どうしようか迷いましたが、「私の経験に基づく経営や運営のやり方は、従来の音楽業界の慣習とは異なるかもしれない。組織を改革し、形にしていく過程の中で、摩擦や反発も生じるかもしれないが、どんな声が上がろうとも3年間は私を信じ、任せてほしい」とその覚悟を伝え、来日を決めました。

──その後、2020年にBig Hit Solutions Japan(現HYBE JAPAN)の社長に就任されますが、当時の社員数は20人弱でした。それから6年が経ち、今は約300人の社員数にまで成長されています。
ハン:同じことを、もう一度やるように言われても、できないかもしれません(笑)。そのくらい、大変な6年間でした。私が日本に来るときに掲げたミッションは大きく分けて、2つありました。1つは自律したソリューション組織を内在化すること。2つ目が日本オリジナルのアーティストを育成することです。
私が来日した時のHYBEは、ほぼすべての事業を業務提携といったような形でアウトソーシングしていました。公演の企画制作はA社、ポップアップストアはB社、グッズ制作はC社で、ファンクラブ運営はD社に……といったように。ですが、これだとデータもナレッジも社内に蓄積させることはできません。なので、すべての事業を社内のスタッフができるように組み換えました。着任した1年目は、ほぼ毎日2~3人の方を面接しているような日々を送っていましたね。音楽業界での経験がある方にこだわらず、店舗運営やマーチャンダイズ、ロイヤリティ顧客とのビジネスの経験がある方など、各分野のプロを採用していきました。
また、私が意思決定するときには常識とロジックとデータをもとにしています。なので1年以上かけて、当社が保有する様々な顧客データを整理し、紐づけていきました。「公演に来てくださった方がアルバムは購入されているのか」「ポップアップに来場した方が、オンラインだとどのような行動をされているのか」など、様々なデータを基盤にしてビジネスを推進するような組織を作っていきました。
データがあれば、ビジネスが成功した時も、失敗した時も正確に振り返ることができます。そして、そのあとも仮説を作って実行するといったPDCAを回していくことができる。そういったことを繰り返して組織を成長させています。
2つ目の日本オリジナル・アーティストは、&TEAMです。&TEAMは、HYBEにおいて海外法人では初となる現地化アーティストなので、すべてが手探りでした。彼らの練習室を作るために内見した物件だけでも、50軒以上だったと思います。そういった立ち上げから、練習生との契約など、一から社員で話し合って作り上げていきました。

──様々な業界から集まった人達を1つにまとめつつ、やったことのないプロジェクトに立ち向かっていくというのは、とても統率力が必要な仕事だと思います。常に社員の皆さんに伝えていることは何でしょうか。
ハン:私が大事なこととして皆に伝えているのは「人間力」と「問題解決力」です。人間力というのは、人を共感させ、巻き込み、動かし、束ねて新しい事に推進させることを意味します。パッションで人を動かせる人や、ロジカルに説明しながら共感を生む人、持って生まれたチャーミングな魅力がある人など、100人いたら100通りの人間力があるでしょう。人と人が協力しあわないと、大きなビジネスは動かせません。なので、社員同士がストレートに物を言い合いながら、人を巻き込んでいけるような力を身につけてほしいと伝えています。
──問題解決力とは、どういった力でしょうか。
ハン:いくら徹底的にプランニングしても、必ず想定外のことは発生します。なので、何かあった時にトラブルシューティングできることが非常に重要です。私自身もその2つの力を常に意識していますし、皆にもそう鼓舞しています。また、HYBE JAPANもこれだけ組織が大きくなると、それぞれの事業が縦割りになっていきます。なので、日本ではアーティスト戦略という組織をつくりました。
──どういった役割なのでしょうか。
ハン:公演やマーチャンダイズ、楽曲リリースといったそれぞれの事業を、アーティスト単位で把握するチームですね。彼らのおかげで、アーティストのブランディングをブレさせずに、一貫性を持たせることができていると思います。
──2つ目の取り組みとして手掛けられた&TEAMは、どのような戦略を取られたのでしょうか。
ハン:私がレーベルヘッドに就任した2025年6月時点の&TEAMは、「Japan to Global」という目標を掲げているものの、「彼らが日本発のアーティストであること」や「日本から世界に挑戦していること」が、まだ世の中に十分に伝わっていないという課題を感じていました。ですので、まずはより多くの方々に&TEAMを知っていただくこと、そして様々な世代の方に愛されるアーティストになることを意識しました。
──『Go in Blind (月狼)』は、ビルボードジャパンの年間シングルセールスチャートで5位を獲得しました。
ハン:ありがとうございます。応援してくださったすべてのファンの方々に感謝しています。そして、彼らの「Japan to Global」という挑戦を多くの人に知っていただくため、ドキュメンタリー番組『&TEAM 100日密着 ~Howling out to the World~』を配信しました。本来、ドキュメンタリー映像というのは活動が一段落してから、そのビハインドシーンをお伝えするケースが多いと思います。ですが、この番組はほぼリアルタイムに配信していました。
──ファンの皆さんも、並走しているような感覚を味わえたのですね。
ハン:ええ。新曲の振り付けなど、事前にお見せできないことが多くて、やってみると非常に大変でした。先ほどお伝えした通り、韓国デビューは我々にとって大きな挑戦でした。どんな葛藤や苦しみ、課題とともにチャレンジしているのかを、視聴者の皆様にも体験していただきたいと思ったんです。地上波やHuluで配信しつつ、抜粋したバージョンを&TEAMの公式YouTubeチャンネルでも公開し、全世界にいるファンにも伝えていきました。
──グローバル進出を目標にされているのであれば、韓国ではなく北米をまずターゲットにするというやり方もあると思います。韓国デビューに挑戦した理由は、なんですか。
ハン:K-POPや韓国のテレビ放送の「発信の仕組み」に注目したからです。韓国では音楽番組が放送されると、その番組の公式映像がYouTubeでも配信されます。テレビで放送した高品質な映像を、すぐに世界中に届けることができる。このグローバルな波及力を持つエコシステムを通じて、アーティストのパフォーマンスを世界中に届けたいと考え、韓国デビューに挑みました。韓国には世界にK-POP産業を拡大するノウハウが凝縮されています。BTSが韓国の文化を世界中に広げたように、今後は&TEAMも自分たちの音楽だけでなく、日本の文化や食べもの、ライフスタイルやトレンドなどを世界へ繋ぐような存在になるのが、1つの目標です。
──2022年以降、エンターテインメントの新体験として自治体や企業などと連携した『THE CITY』という取り組みも行ってらっしゃいます。ライブがもたらす経済効果について、どのように感じていますか。
ハン:矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、テクノロジーが高度化し、配信ライブを見られるようになった結果、オフラインの価値や希少性が高まりました。そして、そのオフラインを柔軟に楽しむために、またIT技術が重要になるといった循環が生まれています。例えば、アーティストとの思い出を刻む「デジタルスタンプ」や、ライブ会場のグッズ売り場での待ち時間を解消する「WEVERSEピックアップ」などのサービスです。これらのデジタルを上手に活用することで、オフラインでの時間はより有意義なものになると考えています。
HYBEは韓国発の企業ですが、しっかりと日本に根差して展開していくことが、我々HYBE JAPANの共生モデルの基本です。公演の前後を楽しんでいただくことは、地域の活性化にも繋がりますし、ファンの皆さんがアーティストとの繋がりをより深く感じられるという点でも重要だと考えました。

まず取り組んだのはグッズ販売の予約システムですね。これまで会場でグッズを買うためには、列に並ぶ必要がありました。ですが事前にアイテムを選んで決済し、指定した時間に取りに来ていただくシステムを作ったことで並ぶ必要がなくなり、そのための時間をポップアップの体験や食事など、他のために使えるようになりました。
公演には近隣の方だけでなく、新幹線や飛行機を使って遠方から参加される方もいます。そういった方のために、その地域の特産物を楽しめるようなショップを展開したり、逆にたまたまその場所に足を運んだ方が、アーティストとコラボしたポップアップなどを見たりすることで、新しくファンになってくださる可能性もあります。そうすることで、お互いのプロモーションに繋がると感じました。
──日本でも、コンテンツ輸出を加速させるための施策として2025年から【MUSIC AWARDS JAPAN】がスタートしました。どんなことを期待されていますか。
ハン:日本から世界に様々なアーティストを発信するための取り組みとして、非常に意義のある音楽賞だと思いますし、NewJeans「Ditto」が昨年、〈最優秀K-Pop楽曲賞〉を受賞しましたが、HYBE MUSIC GROUPのアーティストがポジティブな評価をいただけていることについて、とてもありがたいと感じています。今後、この音楽賞がしっかりと根付き、日本から世界にアーティストが羽ばたくための軸になっていくことを期待しています。
関連リンク
株式会社HYBE JAPAN 公式サイト関連商品

























