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<わたしたちと音楽 Vol. 71>宇賀なつみ 存分に楽しむ、“自分で選ぶ”働き方

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは、テレビ朝日のアナウンサーとして『報道ステーション』『モーニングショー』などに出演しキャリアを重ね、2019年からフリーランスで活動する宇賀なつみ。今は朝日新聞デジタルでの連載『わたしには旅をさせよ』などを始めとした旅に関する仕事を中心に、日々自分らしい働き方を実践しているのだそう。宇賀さんに、キャリアの築き方や女性の働き方について聞いた。(Interview:Rio Hirai l Photo:Yukitaka Amemiya l Hair & Make-Up: Tomoco Ookado)

自分で扉を叩いて始まった旅連載

――今はフリーランスとしてご活躍の宇賀さんですが、長く勤めた会社を辞める決断に勇気がいったのではないですか?

宇賀なつみ:ぼんやりと「いつかは独立したい」という気持ちはずっとあったんですけど、悩んでいるうちは決めなくていいと思っていました。ただ、会社員10年目の夏休みにベトナムを訪れたとき、「あ、もう会社辞めよう。生き方を変えよう」って急に“腹落ち”したんです。そこからは一度も迷わなかったですね。せっかくフリーになったので、やりたいことがあったらまずは声に出す。人に伝えることが大事だなと。ダメでも損するわけじゃないし、どこかで誰かが覚えていてくれるかもしれませんから。結果として、会社員のときは担当番組も取材先も自分で決めることができませんでしたが、今は100%自分で選んでいるので、感覚は全く違います。

――『わたしには旅をさせよ』を連載するにあたり、はじめはご自身で売り込みに行かれたそうですね。

宇賀:旅が好きなのでどこかでエッセイを書かせていただきたかったのですが、出版社や雑誌編集部からの依頼を待っていても来なくて(笑)。それで、Webメディアならページ数が決まってないから受け入れてもらえるかもしれないと思って、朝日新聞さんのWeb部門の扉を叩いてみたんです。そしたら「いいですよ」って。この連載を始めたことで旅の仕事が増えましたし、それによって今は仕事とプライベートが良い循環で回っている実感があります。

知らないことを減らしたくて、コロナが明けに30か国

――毎月、旅に出ていらっしゃるとか。

宇賀:コロナが落ち着いてから、30か国を訪れました。ちょっと異常ですよね、自分でもそう思うんですけど(笑)。コロナ禍が明けてからの2、3年は、月の最終週を休みにして毎月旅に出ていたんです。旅って、時間とお金と体力のバランスが揃ったときが一番自由にできるタイミングです。学生時代は時間と体力はあってもお金がなかったし、会社員になったら極端に時間がなくなりました。フリーランスになって、30代の今が、自分のやりたかったことにチャレンジできる最初で最後のチャンスかもしれないと思ったんです。やっぱり、せっかくこの地球に生まれてきたんだから、知らないことをできるだけ減らしたい。興味を持ったことはちゃんと見て、自分なりの思いを持っておきたいんです。

――旅の中で印象的だった体験は?

宇賀:アフリカに行くと、“思っていたのと違った”という衝撃が毎回あるんです。ナイロビにはおしゃれなレストランもあって、クリスマスイブには女性たちがビビッドなドレスで女子会していて「真似したいな」と思ったりして。それと、ルワンダに行ったんです。1994年に大虐殺があった国ですが、首都キガリはゴミひとつ落ちていなくて、夜でも歩けるほど安全なんですよ。あんな大変なことがあったから二度とそうならないようにと、良い国を作ろうと努力してきた人間の底力を感じました。

休むことに罪悪感は抱かない

――宇賀さんが長くキャリアを続けるために大切にしていることは?

宇賀:忙しすぎたり大変すぎたりすると、好きな仕事でも続けられないと思うんです。私も、20代の頃のテレビ局の働き方を経験して、今思えば、あのままだといつかプツンと糸が切れてしまっていたんじゃないかと感じますから。でも、私は人生トータルでワークライフバランスを取れればいいと思っていて、一度は頑張る時期は必要なんじゃないかと思っているんです。とはいえずっと頑張り続けるのは大変だから、いろいろ試しながら自分で計画を立てるようにしています。その中で、「週2日休みって理にかなってるんだ」「長期休みは年2回あるといいんだ」とか、世の中に浸透してることってそれなりに意味があるんだなっていうことに気づきましたね。

――休むことへの罪悪感はありませんか?

宇賀:全くないですね。どうしても“休みをいただいている”という感覚がある人が多いと思うんですけど、私の場合は、休みをもらってるのも自分、与えてるのも自分なので。それがフリーランスの楽しさでもあります。それに、休みの日に目にした本や映画だったり、出かけた場所での気づきがすごく大きい。仕事ってアウトプットが多いですけど、インプットしてないと枯れていく。自由な時間はエネルギーをチャージする大事な時間で、働くために絶対必要だと思いますね。

――キャリア1年目の自分に声をかけるとしたら?

宇賀:「ゆっくりおいで」と言いたいですね。1年目から『報道ステーション』で気象キャスターをしていて、周りからは「いきなり報ステなんてすごい」と言われましたが、私は1年間お天気しかできないことに焦っていました。でも人生は長いし、今思えばあの経験があるから、番組が作ってくださった役割やイメージで今もお仕事をいただけている。ちゃんと育てていただいたんだなと思います。

やってみたいという気持ちがあるなら、やってみたほうがいい

――エンタメ業界で、女性が働く環境は変わってきていると思われますか?

宇賀:私がテレビ局に入った2009年頃は8割方男性だったと思いますが、仕事についていくのに必死で“女性であること”を忘れていたくらいでした。今は現場に本当に女性が多くて、監督もプロデューサーも技術さんも全員女性という現場が今年だけで2回あったくらい。10、20年前に比べてかなり働きやすくなっていると思います。私が小学生のとき、宇多田ヒカルさんやaikoさん、MISIAさんがデビューして日本の音楽が変わった感覚があったんですけど、その方たちは20年以上経った今も活躍されている。そういう方たちを見て育った世代が増えれば、「女性だから長くできない」なんて思わなくなるんじゃないでしょうか。

――自分らしく働きたいと迷っている女性に、メッセージをお願いします。

宇賀:やってみたいという気持ちがあるなら、やってみたほうがいい。どうにもならなかったらやり直せばいいし、「やりたかったのにやらなかった」が一番もったいないと思うんです。今は会社に所属していても柔軟に働ける時代で、急にパシンと区切らなくても、少しずつグラデーションをつけていくこともできる。私は今年40歳になりますが、自由で自分らしく生きられている実感があるからか、20代の頃より今のほうが気持ちが若いんです。年齢にとらわれず、自分の好不調にだけ向き合って、良い面に目を向けていけるといいんじゃないかなと思います。





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