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<インタビュー>「本棚を見れば自分が分かる」――江口拓也が語る、本を通じて構築されるもの【WITH BOOKS】

Interview & Text: 荻原 梓
Billboard JAPANが新しく書籍の複合チャート“Billboard JAPAN Book Charts”をローンチし、読書好きの著名人にインタビューする企画がスタート。 本稿のゲストは、『SPY×FAMILY』のロイド・フォージャー役など、数々の人気キャラクターの声を務める声優、江口拓也。とにかく漫画が好きで、SNSで出会った漫画を大量に購入しているという。絵本にまつわる幼い頃の思い出とともに語られた、彼が考える本の存在意義とは?
没入感を感じる文章が、読書への一歩に繋がる
――江口さんは普段どんな本を読みますか?
江口拓也:漫画しか読まないですね。漫画は文字を読まなくても絵で理解できるから好きです。だから内容はよく覚えていないけど、絵で覚えていたりします。文字は読んでいるのか読んでいないのかよくわからない、特殊な読み方をしていると思います。小さい頃も絵本が大好きでした。
――では小説はあまり読まない?
江口:以前、燃え殻さんという作家さんとXを通じて知り合った時、「よかったら僕の小説を読んでください」と本を送っていただいたことがありました。普段小説は読まないけど、「せっかく送っていただいたから…」と思って読んでみたら、わりとすんなり読めてすごく面白かったんです。なんであんなに読みやすかったのかっていうことを(ご本人に)聞いたら、燃え殻さん自身も「僕も小説苦手なんですよ」と言っていて。燃え殻さんは経歴が特殊な方で、もともと映像関係の小道具のスタッフだったらしいんですけど、40歳を超えてからいろんな巡り合わせで今に至るらしいんです。だから、小説を読まない人の気持ちがわかる人の文章なんですよ。小説を読まない人が小説の何が煩わしいのかって、やっぱり難しい漢字だと思うんです。一度知らない漢字に出会っちゃうと調べる時間が必要ですよね。それでも楽しめる人と、テンポ感で読みたい人がいると思うんですけど、僕は完全にテンポ派なんです。燃え殻さんは基本、簡単な読める表現しか使わないので、すごく読みやすい。それと声優をしていると書き言葉と読み言葉という考え方があるんですけど、書き言葉だとどうしてもセリフとしては難しかったり、文字だと違和感なくすらっと読めるものでも、声に出すと意外と詰まっちゃったり、「ら行が続いているな」となると、ドラマでは読み言葉に多少変えているんです。燃え殻さんは自分で書いた文章を必ず自分で口に出して読むんだそうです。それで読みづらいものは表現を変えると言っていました。
――口に出して読みやすい文章なんですね。
江口:そうです。そうすると、より日常に寄り添った感覚になる。それで僕は没入感を感じることができたんだと思います。
――漫画の情報はどこで仕入れていますか?
江口:SNSを通じて知ることが多いですね。誰かがオススメしているものや広告って、美味しそうな部分だけを切り抜いてくれるじゃないですか。まんまとやられますね(笑)。広告って最近のものだけなのかと思ったら、意外と蓋を開けてみると30年前の作品だったりして、そういうものとの出会いのきっかけにもなるから、広告も馬鹿にできない。一瞬でもときめきを感じたらとりあえず買ってみます。
――漫画の広告は続きが読みたくなりますよね。
江口:たまに文字ベースの作品で刺さることもあります。『『種の起源』を読んだふりができる本』(著:更科功)という、ダーウィンの進化論を研究した人が噛み砕いて要約したものをわかりやすく伝えてくれる本があるんですけど、こういうタイトルに弱い(笑)。本当に研究している人が「この本はすごい」と紹介していると、つい気になっちゃうんですよ。
――今までのお気に入りの一冊は何ですか?
江口:絵本と小説の中間くらいの本で、『エルマーのぼうけん』(著:ルース・スタイルス・ガネット)かな。自分の母親がもともと保育士で、絵本の読み聞かせが得意だったんです。母に寝る前に『エルマーのぼうけん』シリーズの数ページを読み聞かせをしてもらって「続きは明日の夜」みたいな感じで寝かしつけてくれていたんですよ。それがワクワクした思い出があります。絵本って幼稚園とか小学校低学年の頃にはもう自由に読めるけど、噛み砕き方が問われますよね。絵だけじゃ埋められない数ページがあって、次の絵に辿り着くまでの文字だけのページを自分の中でどうやって噛み砕いて映像にするのかがわからなかった時に、母親の読み砕き方が上手で、寝る前にぴったりでした。読み返してはいないけど、今も心に残っています。
――印象に残っているシーンはありますか?
江口:冒険をする前にリュックの中にいろんなものを詰め込むんですけど、ライトとかスコップとか実用的なものの中にチューイングガムがあって、やたら美味しそうな思い出が残っています。寝る前って歯を磨いた後だからお菓子は禁止なので、お菓子の描写とかがあると羨ましくなるんですよ。
――いつも本はどういう時に読みますか?
江口:移動中です。一日3〜4件の仕事を梯子する時に、いつも場所がばらばらなので移動時間が結構あります。あとは寝る前。目を疲れさせてから寝るのが好きなので、漫画を読んでから寝るんですけど、読み進めているはずなのに、全然記憶にない(笑)。また次の日に前の巻から読み直すことになります。
――読んだ本を仕事仲間や知り合いとシェアすることはありますか?
江口:あります。漫画好きの知り合いに「このあいだ読んだあれ面白かったよ」って。たとえばいろんな人に『バーテンダー』(原作:城アラキ、漫画:長友健篩)はオススメしています。いろんなお客さんの一人ひとりのドラマを主人公のバーテンダーが最後にカクテルで癒す物語です。自分もよく一人で飲みに行ってそこのバーテンダーさんとお話ししたりすることが多いんですけど、バーの良さも描かれていますし、どっちかと言うと生き方や人生哲学的なところが多く描かれているので、バーを知らない人にもオススメしています。人が世の中を生きていく上で大切なものが詰まっていると思います。
――逆にオススメされたことは?
江口:知り合いの飲み友達に『サラリーマン金太郎』(著:本宮ひろ志)をオススメされて読んだんですけど、面白かったです。ドラマのイメージがありますけど、ドラマが放送されていた当時は自分の年齢的にも渋かったから読んでいませんでした。でも今読んでみると面白い。サラリーマンの世界の常識というものを乗り越えていく成り上がり物語なんですけど、読んでいて爽快でした。
- 「本は、自分という人間を構築するためのスパイスの一つ」
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本は、自分という人間を構築するためのスパイスの一つ
――最近読んだ本で印象に残った本はありますか?
江口:レシピ本を読むのが好きで、『フレンチシェフの引き算レシピ』(著:中村和成)は面白かったです。この中村さんという方は「LA BONNE TABLE」というところでシェフをされてる方なんですけど、YouTubeでも料理動画を発信している方で、発想がすごい面白いんですよ。「料理というものは決めつけないこと」という、楽しい発想から教えてくれる感じが面白くて。動画で観ているとパッションや感覚で伝えている瞬間も多いんですけど、その人が文字で書いたらどういう風になるんだろうと思って読んでみると、意外と細かく計算されていることに驚きます。文字にすると伝えることも変わってくるんだなと。特に料理というのは一つの工程の細かいニュアンスさえ間違えただけで、まったく違ったものになっちゃう。だから映像で説明するのと、文字で説明するのは全然違うと思いました。
――実際に料理するんですか?
江口:全然作らないです(笑)。自分で作る時は、作りたい料理だけですね。(調理師の)免許を取ろうとは思ってないんですけど、調理師免許を取るための勉強本を読むのも好きです。
――知識だけは蓄えておこうと。
江口:そうそう。学ぶのは楽しいので、知識を蓄積しながら、日々の料理の工程を趣味として楽しんでいます。
――歌う時やお芝居する時に、本から得たアイデアを反映させることはありますか?
江口:間接的なところではあると思います。本って自分の知らない世界とか辿り着かなかった発想とか、そういったエッセンスがたくさん散りばめてあって、自分の価値観に合うと思ったものを自由に取り入れることができる。だから、本は自分という人間を構築するためのスパイスの一つだと思うんです。そのスパイスを得た自分が、生きていく上で感じたあれこれが歌や芝居に関わってくると思います。なので、自分という人間を構築する上での何かにはなってると思います。
――書店やネットなど、読みたい本を探すのはどこが多いですか?
江口:一時期は本屋さんが大好きでよく行っていたんですけど、今はどうしてもインターネットですね。Kindleで読んだり、ネットショッピングで取り寄せたりすることが多くなりました。やっぱり便利さには敵わない。本屋さんは何が好きかと言うと、そこの店員さんのオススメの手書きポップが好きなんですよね。その人がオススメしていたらとりあえず手に取ってみる。読むか読まないかは置いておいて、とりあえず買う。信頼している書店の店員さんは書き方がすごく丁寧で、こちらが読んでみたくなるような上手い人がいます。そういう人が働いているお店だと「この人の次のオススメは何だろう」みたいに、毎月楽しみになったりします。
――なるほど。11月6日より、ビルボードジャパンでは新たに書籍チャートがスタートしました。本を探すためのツールになると思いますが、ご覧になった感想はいかがですか? (編集部注:江口さんには2025年12月17日公開の書籍チャートをご覧いただきました)
江口:チャートは人気のものが上位に来るから「とりあえずこれを読んでおけば絶対面白いんだろうな」って思いますね。あ、『×××HOLiC』(著:CLAMP)懐かしい! まだ『黒執事』(著:枢やな)入ってるんだ。『ONE PIECE』(著:尾田栄一郎)の新作も出てる。
――何か気になる作品はありますか?
江口:どれも世界観が表紙で一瞬でわかる中で、『ラーメン赤猫』(著:アンギャマン)って異彩を放っていますよね。読んだことないんですけど、今見て気になっちゃいました。
――書店、EC、電子書籍、図書館の貸出回数などの複数の指標を組み合わせた書籍の複合チャートは、世界的にも初の試みなんだそうです。
江口:抑えておかなきゃいけない本のリストになりますよね。何かのジャンルに手を出そうと思ったら、とりあえず一番に触れるのが重要だと思うんです。それに触れた時に自分がどう思うのかがもっと重要で、誰かが作ってくれたランキングではあると思うんですけど、そこに共感するのか、それとも全然合わないのか。もし世の中とズレた感覚を持っているのなら、それを大切にしてほしい。そういうコミュニティも絶対にあるし、それはそれで面白い。
――江口さんはどちらタイプですか?
江口:僕はとりあえず流行りに乗っとけタイプなので(笑)。特に漫画に関しては、いつか仕事として関わるかもしれないから。ただ映像になるとまた話は変わってきて、やたら騒がれて、みんなが「見なよ!」って言いだすと、逆に足が重くなるっていうのはあります。ついこの前も女子プロレスラーの話の『極悪女王』をNetflixで観たんですけど、やっぱり面白かったですね。一瞬流行った時に観なかったんですけど、当時その波に乗ってみんなと話しておけばよかったと思いました。
――江口さんにとって本はどんな存在ですか?
江口:自分を突きつけられるものです。自分って面倒くさがりだなとか、雑だなとか思わされます。こっちも受け入れ態勢でないとどんなにオススメされても読めない瞬間がある。かと思うと、急に集中して読み始めて気がついたら3〜4時間経っているような本もある。それって、その人の価値観が吸い寄せるものなのかなと思います。毎日でも小説を読んでいられる方もいるじゃないですか。それがその人の持っているキャパシティの大きさですよね。自分は頭の中のキャパシティが少ないから、保存期間も短いし、なるべくテンポ感よく読みたいタイプ。自分の買った本を並べた時に、これが自分なんだって思えます。
――本を通して自分を知れると。
江口:そう。自分ってどんな人間なんだろうっていうのがわからなくなった時は、自分の本棚を見れば何かが見つかるかもしれないですね。
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