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<インタビュー>上妻宏光が原点に立ち返る──ソロ活動25周年の集大成『繋-TSUNAGU-』に秘められた覚悟

インタビューバナー

Interview & Text:田中久勝


 世界を舞台に活躍し続ける三味線プレイヤー・ 上妻宏光。 これまで様々なジャンルのアーティストとコラボを重ね、三味線の可能性と新たな音楽を貪欲に追及し、海外のファンも熱狂させてきた稀代の表現者がソロ活動25周年を迎えた。

 これまでの集大成とでもいうべきアルバム『繋-TSUNAGU-』(2025年11月26日発売)は、「伝統とは革新とともに、繋ぎ続けること」という信念を軸に、次世代奏者たちとの共演を通じて“新たな時代へ繋 ぐ”ことをテーマに制作され、“上妻三味線”そのものの響きと表現に向き 合った意欲作だ。これまでとこれからについて、そして「この作品を通じて、伝統芸能という敷居の高さを取り払い、純粋に“今のカッコいい音楽”として楽しんでもらえたら」と語るこのアルバムに込めた思いをインタビューした。

“上妻三味線”という原点に立ち返る

――25年を振り返ってみて、どんな時間、月日でしたか?

上妻宏光:本当に「あっという間だった」というのが正直な感覚です。25年という数字を聞くと長く感じますが、僕の中では、2000年に初めてソロとして一歩を踏み出した時の、あの「三味線の音をどうやって今の時代に響かせるか」という初期衝動が、今も全く色褪せていないんです。振り返れば、ただがむしゃらに、三味線の可能性を求めて旅を続けてきた25年でした。でも、この節目の年に改めて思うのは、僕一人の力でここまで来たのではないということ。多くの先達から受け取ったバトン、そして共に音を紡いでくれた仲間たちがいたからこそ、今の僕の音がある。今回のアルバム『繋-TSUNAGU-』というタイトルには、その感謝と、これからへの覚悟をすべて込めました。


――聴き手としては津軽三味線って強いビートでインパクトを与えていくというイメージがありました。でも上妻さんの音楽を聴いてからそうじゃないんだと、イメージが変わりました。今回のアルバムの収録曲もそうですが、三味線が強いアタックで前に行くばかりではなく、すごく“間”を大切にして、歌詞と同じように“間”があることによっていろいろ想像を掻き立てられる楽器、音楽だなと感じました。

上妻:例えば以前はバラードに三味線ってあまり想像できなかったと思いますが、僕はそういう真逆や対極にあることを選んでやってきました。それは表現の幅を広げたいという気持ちが強かったから。どうしてもガンガン弾きたくなるけど、そうではなく空間をちゃんと感じるもの、色を埋め尽くす曲もあれば、水墨画的に空間を楽しんでもらえるような曲を作ってきました。


――やはり色々なアーティストのコラボが大きな刺激と経験になっているのでしょうか?

上妻:そうだと思います。特に矢野さんとのコラボ(やのとあがつま)で歌うようになったことも影響していて、歌うことで三味線で歌うように演奏できるようになった。今回のアルバムは特にそれが表れていると思います。


――三味線の可能性を追求し続けてきた四半世紀だったということが、今回のアルバムを聴いて伝わってきました。アルバムタイトルの『繋-TSUNAGU-』には、非常に強いメッセージ性を感じます。この言葉に込めた想いを詳しく聞かせてください。

上妻:この25年で、僕を取り巻く環境も音楽のあり方も大きく変わりました。かつての津軽三味線の名人たちも、その時代の最先端を取り入れ、人々を驚かせながら文化を更新してきました。だからこそ、僕も今の時代の空気を取り入れ、「革新」を繰り返すことでしか、本当の意味で伝統を「繋ぐ」ことはできないと考えています。今回のアルバムでは、あえて“上妻三味線”という原点に立ち返りながらも、自分一人の世界に閉じこもるのではなく、信頼する仲間や次世代の旗手たちと一緒に「これからの伝統」を作りたいと考えました。古き良きものを守りつつ、それをどうやって次の100年へパスしていくか。その「繋ぎ目」に自分がいたい、という想いが強くあります。


――今作の象徴的な一曲として、韓国の作曲家チョン・ジェイルさんとの「YUGEN (feat. 浅野祥)」があります。『パラサイト』や『イカゲーム』で世界を沸かせた作曲家との共作は、上妻さんにどのような刺激を与えましたか。

上妻:チョン・ジェイルさんとは以前から個人的に親交があり、いつか一緒にやりたいと話していました。彼は『パラサイト』や『イカゲーム』等の映画作品の音楽で特に注目を集めましたが、根底には伝統に対する深い敬意と、鋭い芸術的センスを持っている。今回、彼には「三味線の新しい可能性を、海外の、しかも映像音楽の視点から描いてほしい」とリクエストしました。彼から上がってきた譜面を見た時、三味線がこんなにも神秘的で、奥行きのある世界を構築できるのかと驚きました。三味線を「打楽器」としてだけでなく、壮大な物語を紡ぐ「旋律楽器」として最大限に活かしてくれた。「YUGEN(幽玄)」というタイトル通り、日本的な美意識と現代的な構築美が見事に融合していると思います。そして単なるコラボレーションを超えて、僕と彼、そして日本と韓国の「友情の証」であり、文化が混ざり合うことで生まれる新しい美しさを提示できたと自負しています。



左からチョン・ジェイル、浅野祥




「YUGEN (feat. 浅野祥)」


――和太鼓の林英哲さん、英哲風雲の会との11分を超える大作「NIPPON (feat. 林英哲、英哲風雲の会)」は圧巻でした。四季を表現した構成で、三味線奏者が太鼓のスコアを考えるという挑戦的な試みだったのではないでしょうか?

上妻:英哲さんは僕にとって、まさに伝統楽器を現代のステージへと押し上げた先駆者であり、大尊敬する大先輩です。僕がロックバンド「 六三四(MUSASHI)」に在籍していた時代に、和太鼓を叩いてリズム練習をしたことを思い出しながら、三味線弾きが太鼓のスコアを考えるのは、逆に面白いことができるのでは、と思いました。9割方自分が考えて、振りも含めてフレージングを組み込みました。この曲はホールを借りて一発録りでやったのですが、太鼓5人とのアンサンブルを作りたかった。ユニゾンでドーンとやるのではなく、四季を表現するために繊細なアンサンブルが必要でした。みんなものすごく緊張していましたが、最高のセッションでした。



林英哲




「NIPPON (feat. 林英哲、英哲風雲の会)」


――この曲は上妻さんの地元・日立市のお祭りで初披露されました。

上妻:【ひたち秋祭り】で披露させていただいて、和太鼓の地を這うような重低音と、三味線の鋭い高音がぶつかり合い、共鳴する。あの空気が震える感覚。会場を埋め尽くした観客の皆さんの熱量が、音の塊となって跳ね返ってくる。あれこそが日本の音の真髄だと思いました。理屈ではなく血が騒ぐ感覚。英哲さんと音を交わすと、言葉は要らないんです。お互いの覚悟が音を通して伝わってくる。地元の空気に包まれながら、あのような強烈なエネルギーを放つ曲を届けられたことは、僕自身の原点を再確認するような体験でもありました。


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  1. 「計算ではない『揺らぎ』や『魂の叫び』を届けたい」
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「計算ではない『揺らぎ』や『魂の叫び』を届けたい」

――今作には、津軽三味線奏者・浅野祥さん、 チェロ奏者・宮田 大さん、箏奏者LEOさんといった各界を牽引する次世代のアーティストが参加しています。彼らとの共演で感じた“未来への兆し”はどのようなものでしたか。

上妻:彼らはもう、僕が若い頃とは比べものにならないほど高い技術と、ジャンルを自由に横断する柔軟な感性を持っています。彼らと一緒に音を出すのは、本当に楽しくて刺激的です。例えばチェロの宮田大くん。彼はクラシックの世界でトップを走っていますが、三味線とチェロ、同じ弦楽器として、音の「歌い方」や「間」の取り方が非常にスリリングなんです。デュオって頼るものが他にないから厳しいんです。お互いが頑張らないと成立しない。宮田くんも本当はここで何かがあると楽だなとか、低音があったらもっと歌えるんだよなって思ったと思います。でも、ないほどに強くなる。

 ゆずの2人もそうですけど、2人で成立する音楽というのはものすごく強いと思います。でも今回は西洋の楽器と日本の三味線が、お互いの領分を越えてひとつに溶け合う瞬間があって、抒情性をより引き立ててくれました。浅野祥くんも僕と同じ津軽三味線の道を歩んできた後輩ですが、もう「後輩」という感覚ではありません。一人の表現者として僕の背中を猛烈な勢いで追い越していこうとする、そのエネルギーが僕をさらに引き上げてくれる。箏のLEOくんもそうですが、彼らには「伝統だからこうしなきゃいけない」という縛りがない。もっと自由に、純粋に「いい音楽」を追求している。彼らがいれば、日本の伝統楽器の未来は間違いなく面白いものになると確信しました。



LEO




「越天楽弦奏曲 (TSUNAGU Ver.) [feat. LEO]」


――上妻さんの表現の幅を広げた要因の一つに、歌舞伎や能楽といった伝統芸能との深い関わりがあると思います。特に市川團十郎さん(当時は海老蔵)との出会いについて、改めて教えていただけますか。

上妻:2014年に歌舞伎の【本興行】の舞台に立たせていただいたことは、僕の人生を変えるほどの出来事でした。普通、津軽三味線のような「外の楽器」が歌舞伎十八番のような格式高い演目に入り込むことは、まずあり得ないことです。でも團十郎さんは、「上妻さんに作曲してほしい、舞台で弾いてほしい」と言ってくださった。さらに驚いたのが、彼から「上妻さん、普通の三味線弾きみたいに黒紋付で大人しく座ってちゃダメだよ。白い着物を着て、もっと目立ってくれ」という提案があったことです。歌舞伎の様式美という鉄壁のルールがある中で、あえて異質な僕を「主役」として立たせてくれた。あの時の、舞台袖から見た團十郎さんの背中、そして客席とのヒリヒリするような真剣勝負。伝統を守る側の人たちが、これほどまでに過激に「革新」を求めている。その事実に打ちのめされたし、勇気をもらいました。能楽師の方々との共演もそうですが、引き算の美学、一音にすべてを込める精神性。それらを肌で感じたことが、今の僕の「上妻三味線」の奥行きを作ってくれたのは間違いありません。


――そうした伝統芸能での経験は、今作の楽曲制作にも影響を与えていますか。

上妻:強く影響しています。例えば、今回収録した「越天楽弦奏曲」は2015年の15周年の時にもアルバムに収録しましたが、この10年で僕の中の「和」の捉え方はより深く、鋭くなったと感じています。歌舞伎や能の舞台では、ひと振りの撥、一瞬の沈黙が物語を動かします。その「一音の重み」への意識は、今回のアルバム全体に流れていると思います。チョン・ジェイルさんとの「YUGEN」も、タイトル通り「幽玄」という日本的な美意識をテーマにしていますが、そこには伝統芸能の現場で感じた、目に見えない精神性が確実に反映されています。


――10代の頃のロックバンド「六三四(MUSASHI)」での活動から、今の歌舞伎や海外公演まで、上妻さんの活動は常に「ボーダレス」です。その原動力はどこにあるのでしょうか。

上妻:根っこにあるのは、やっぱり「三味線が好きだ、この楽器は最高にかっこいいんだ」という純粋な気持ち、それだけなんです。ロックバンドをやっていた頃は、大音量のギターやドラムの中で、どうすれば三味線の音が消されずに、むしろ一番の熱狂を生めるかを必死に考えました。あの時に身につけたビート感や、一音一音を際立たせる技術が、今の僕の血肉になっています。一方で、年齢を重ねるごとに「静寂」の美しさもわかるようになってきた。激しくかき鳴らすだけが三味線じゃない。一音鳴らして、その後の余韻の中にどれだけの感情を乗せられるか。そうした「動」と「静」の両極を往復できるのが三味線の魅力だと思うし、それを最大限に引き出したいという探究心が、僕を突き動かしているのだと思います。



――レコーディングにおいて、近年は「ライブ感」を非常に重視されていると伺いました。

上妻:2005年以降ほぼ一発録りでやっています。その場の空気感を残していくのがレコード=記録なので。由紀さおりさん、渡辺香津美さん、小野リサさんとのコラボも全部そうです。そういうプロのミュージシャンに囲まれて、いいテイクを録らせてもらったと思います。今の技術を使えば、音をきれいに整えることはいくらでもできますが、それではこぼれ落ちてしまうものがある。三味線という楽器は、撥が皮に当たる瞬間の衝撃音、弦が震えるノイズ、奏者の呼吸、そのすべてが音楽なんです。一発録りの緊張感の中で生まれる、計算ではない「揺らぎ」や「魂の叫び」を届けたい。特に「津軽じょんから節」のような古典曲では、その場の空気そのものをパッケージすることにこだわっています。


――現在マイクを通さない生音のコンサートシリーズ【生一丁!】を敢行中ですが、アナログな響きへのこだわりについて教えてください。

上妻:もちろんスピーカーから出る音も迫力があっていいのですが、三味線本来の「木の鳴り」や「皮の振動」がダイレクトに伝わるのは、やはり生音です。特に三味線は、奏者の指先の繊細なタッチひとつで音色がガラリと変わる。その「機微」を感じていただくには、生音が最適なんです。25年活動してきて、どれだけテクノロジーが進化しても、人間が肉体を使って奏でる音の尊さは変わらないと痛感しています。





【ソロデビュー25周年 上妻宏光「生一丁!」Tour 2025-2026】


――これからの上妻宏光を教えてください。

上妻:デビュー後の5年間は非常にアグレッシブに海外へ出ていましたが、その後、一度国内での基盤を固める時期がありました。でも最近、再び外へ目を向けるべき時が来たと感じています。今回ニューヨークでの公演で、自分の息子(上妻光輝)が猛練習してステージに立ち、現地の観客から温かい拍手をもらったことも大きな刺激になりました。海外の方は、先入観なしに「音」そのもので判断してくれます。三味線という日本の小さな楽器が、広い世界でどれだけの共鳴を起こせるか。それから、もっともっと三味線ならではの楽曲を作りたい。即興だけでなく、書き譜による音楽で、100年後でも再現できる作品を作りたいんです。

 即興と書き譜の両輪があると面白い。異なるジャンルを行き来することで創作意欲が湧くし、書き譜の面白さを感じることで即興の喜びも再認識できる。海外でもジャズ系アーティストとのセッションは想像できますが、打ち上げ花火にしたくない。洋楽の音楽理論に三味線が乗っかるだけではなく、三味線を中心にピアノやチェロをどう組み込んでいくかという土台作りが重要だと感じています。この年齢、このキャリアになったからこそ見えてきた景色もあります。コンサートの後、ホテルに帰ればケアも欠かせませんが(笑)、たとえ70歳、80歳になっても、「三味線はまだまだ奥が深くて、毎日が発見ですよ」なんて言いながら、笑ってインタビューを受けていたい。それが僕の理想です。


上妻宏光「繋 -TSUNAGU-」

繋 -TSUNAGU-

2025/11/26 RELEASE
COCB-54381

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.越天楽弦奏曲
  2. 02.螺旋
  3. 03.NIPPON
  4. 04.YUGEN
  5. 05.雨のダンス
  6. 06.NIKATA
  7. 07.三味男 -SHAANME-
  8. 08.津軽じょんから節 (旧節~新節)

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