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<コラム>KATSEYEが放つ衝撃に世界が夢中 多様性を再定義したガールグループのグラミー受賞に期待



コラム

Text: ノイ村
Photo: Rahul Bhatt

 最近では冷笑の意図をもって使われることも多くなってきた「多様性」という言葉。だが、2024年にデビューしたKATSEYEは、そんな風潮をものともせず、全力で多様性が生み出す「楽しさ」を世界に向けて発信し、多くのダンスグループが台頭するレッドオーシャンの中で、瞬く間に世界的な支持を獲得することに成功した。

 2026年の【コーチェラ・バレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル】のラインナップに名を連ね、【第68回グラミー賞】には、今年の顔となったアディソン・レイやオリヴィア・ディーンらとともに主要4部門の一つである〈最優秀新人賞〉にノミネート。さらに〈最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞〉にも「Gabriela」でノミネートを果たすなど、その勢いは留まるところを知らない。筆者個人としてもK-Popを中心に多くのダンスグループを見てきたが、ここまで一気にグローバルな成功を手にした例は極めて稀だ。


 躍進に至る大きなきっかけとなったのは、今年4月にリリースされた「Gnarly」のスマッシュヒットだろう。ハイパーポップのシーンで名を馳せる中国出身の女性アーティストであるAlice Longyu Gaoによるデモを元に作られた同楽曲は、「Touch」に象徴されるような従来のスタイルとは大きく異なったエッジーな作風から、当初はファンを含めて多くの困惑が生まれていた。だが、楽曲が定着していくにつれて、「Gnarly」というフレーズとともにバイラル化し、遂にはグループ初となる全米&全英シングル・チャート入りを達成したのである。

 楽曲の冒頭で〈They could describe everything with one single word(この世のすべてはたった一つの言葉で説明できる)〉と語られているように、ここでの「Gnarly」(元は“ヤバい”といった意味)は良い/悪いを問わず、ほかにはない突き抜けた“何か”を感じさせるものを表現するフレーズとして使われている。それは、異質なビートを放つ楽曲そのもの、あるいは、この方向性がクールだと確信し、賛否を恐れず全力でベットした今のKATSEYEそのものを表現しているとも言えるだろう。


 さらに完璧な追撃となったのが、6月にリリースされた「Gabriela」である。スパニッシュなギターの旋律や妖艶な歌声が聞き手を魅了する、ラテンポップからの影響を色濃く投影した同楽曲は“Billboard Hot 100”で最高位31位を記録し、アジアやヨーロッパなど世界中のチャートにランクインするというグローバルヒットを実現した(ビルボードのグローバルチャートでは16位をマーク)。

 近年、ラテンポップはメインストリームにおけるトレンドの一つとして完全に定着しており、「Gabriela」をその潮流の一つとして語ることもできるだろう。だが、今年の【サマーソニック】に初出演した際に、同楽曲のパフォーマンスを終えたDANIELA(ダニエラ)が「自分のルーツを表現したこの曲を日本で披露することができて本当に嬉しい」とMCで語っていたように、この曲はキューバ出身の母とベネズエラ出身の父(ともにラテン・ボールルーム・ダンスのプロであり、母は世界大会で1位になったことがあるという)を親に持つDANIELAのルーツをもとに、メンバー全員でその魅力を思いっきり表現した楽曲でもある(ブリッジのスペイン語パートはその真骨頂だ)。


LARA, YOONCHAE, DANIELA, MANON, MEGAN, SOPHIA

 ニューヨーク出身のインド人であるLARA(ララ)、スイス出身でガーナ系イタリア人のMANON(マノン)、中国系アメリカ人のMEGAN(メーガン)、フィリピン人のSOPHIA(ソフィア)、韓国人のYOONCHAE(ユンチェ)、そしてキューバ系/ベネズエラ系アメリカ人のDANIELAと、KATSEYEのメンバーのバックグラウンドは多様で、グループ自体がグローバルな存在感を体現している。だが、最も重要なのは、「ただ異なるバックグラウンドのメンバーを集めただけ」で終わるのではなく、メンバー自身がそれをグループの魅力であると信じ、メンバー同士の繋がりを特別なものであると感じているということだろう。

 今年4月に実施されたThe FADER誌のインタビューで、共同生活(HYBEとGeffen Recordsの共同プログラムから生まれたKATSEYEは、K-POP式の育成メソッドを採用している)について尋ねられたKATSEYEは、次のように答えている。

「私たちの多くが故郷を離れ、このプロジェクトのために犠牲を払う必要がありました。まったく異なる文化や出自を持った人々が一緒に暮らすんですから。そして今、私たちは一つになっている。そもそもこのアイディア自体がカオティックですよね。」(SOHIA)

「そして、美しい。」(YOONCHAE)

「6人の文化的衝突を経て、一つになるんです。」(SOPHIA)

 ここで「美しい」という言葉が出てくることが、KATSEYEのグループとしての魅力を何よりも物語っている。その「美しさ」は、ファンも予想していなかった形で、世界中の注目を集めることになった。GapによるFALL 2025のグローバルキャンペーン「Better in Denim」に起用されたKATSEYEは、テーマである“オリジナリティ”、“自己表現”、“デニムがもたらす一体感”を体現したパフォーマンスを披露し、モダンなデニムアイテムを見事に着こなしながら、しなやかでアグレッシヴなダンスで「グループらしさ」を鮮やかに解き放っている。


 公開と同時に「Better in Denim」は絶大な反響をもたらした。GapのCEOいわく、同キャンペーンは全プラットフォームで4億回以上の視聴回数を記録し、TikTokの検索ワード1位を獲得。公開初日からわずか3日で、過去4回のキャンペーンの合計再生回数を上回ったという。同キャンペーンの成功は、KATSEYEが表現した「多様だからこそ美しい」というメッセージが多くの人々に共感と憧れを与えたことを証明した。

 「多様性」といえば、セクシャリティについても触れる必要があるだろう。今年の3月、ファンコミュニティ・プラットフォームのWeverseで、LARAは自身がクィアであることを語った(LARAは性別に関係なく、誰でも好きになると語っており、直接的なラベリングを好まないとしている)。6月には、同じくWeverse上で、MEGANがバイセクシャルであることを明らかにしており、配信でLARAと飛び跳ねながらカミングアウトをお祝いしている。以来、KATSEYEはグループ全体でクィア・コミュニティを積極的にサポートする姿勢を強め、クィア・アイコンとしても支持を集めるようになった。世界最大級のLGBTQ+向けマッチングアプリとして知られる「Grindr」の2025年まとめ「Grindr Unwrapped」でも、HUNTR/X(今年大ヒットした映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』に登場するグループ)やBLACKPINKといった強豪を抑えて、KATSEYEが〈今年のガールグループ〉の1位に輝いており、クィア・コミュニティからの支持の厚さが伺える。


 瞬く間にグローバルな成功を手にした2025年のKATSEYEの躍進の理由を一言でまとめるのであれば、やはり「Gnarly」の一言に尽きる。多様なバックグラウンドを持つグループだからこそ持つ「美しさ」を信じ、楽曲やパフォーマンスのみならず、プライベートな側面においても、「反発を恐れることなく、徹底的に突き抜ける」という姿勢を貫いてみせたKATSEYEのようなグループは、K-POPどころか世界を見ても前例がない。だからこそ、多くの人々が「今までにない何か」を感じ、強い共感や憧れを示しているのだ。

 デビュー前の2023年末に実施されたi-D誌のインタビューにおいて、グループとしての夢を尋ねられたDANIELAは「コーチェラ!グラミー賞!」と答えていた。当時は無邪気で楽観的な発言の一つとして受け止められていたかもしれないが、今やその夢は間近へと迫っている。“Gnarly”な一年を駆け抜けたKATSEYEの勢いは、2026年も止まりそうにない。

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