11月30日にビルボードライブ横浜にて行われた、【Play Like Kids♡ with ひぐちけい、コレサワ、東京女子流、のん、ヒグチアイ】。同公演はギタリスト／アレンジャーのひぐちけいが主宰し、“親友”であるコレサワ、東京女子流、のん、ヒグチアイを招いて行ったライブだ。ハッピーなオーラに包まれた同公演は、どのようにして生まれたのだろうか。ひぐち本人、そして同公演の企画・制作を手がけた編集者・音楽ライターの矢島由佳子に話を聞いた。1stステージが終わってすぐの声をお届けしたい。（Interview & Text: 高橋 梓、Photo：久保寺美羽）

大人にしかできない、子どものように遊ぶというコンセプトのライブ

――ライブ、お疲れ様でした！　1stステージが終わったばかりですが、いかがでしたか。

ひぐちけい（以下、ひぐち）：ありがたいです。ほとんどのお客さんが一緒に出てくれたアーティストを見に来た方だと思うので、私を見て「お前誰だよ」という反応になるのかなって思っていました（笑）。でも、顔馴染みの方もいたし、みなさん温かく迎えて入れてくださったので、すごく嬉しかったです。

――「子どものように遊び尽くして、ヘトヘトで早寝しちゃうような日になればいいなと思います」とコメントされていましたが、1stステージでの実現度はどうでしたか。

ひぐち：正直、もう家に帰って寝てもいいくらいです。

矢島由佳子（以下、矢島）：もう1ステージ頑張って（笑）！

ひぐち：そもそも、2回まわしのライブの力の配分があまりわかっていなくて。ホストバンドのメンバーも、アーティストのみんなも、1部は1部でやり切って2部は2部でやり切るんだと思います。ただ、ライブ中は嬉しくなっちゃって「これも言いたかった」ということが今湧いてきているので、2部ではしっかり伝えていきたいです。来てくださった方、出演者のみんな、ビルボードライブのスタッフさん、全員にとにかく「ありがとう」と言いたいと思います。

矢島：子どものように遊ぶというテーマの達成度で言うと、素晴らしいと思います。MCでも「ファミリー」という言葉が出ていましたが、仕事で集められた人たちのライブではなく、友だち同士で遊んでいる雰囲気があって。かつ、演奏も歌も質が高いのがいいですよね。全員がプロフェッショナルだからこそ、大人が子どものように遊ぶというのが実現できていた気がします。

ひぐち：たしかに。ちょっとしたヒリヒリ感もありましたよね。ふざけていたのかと思いきや、真剣な部分もあったし。

矢島：そうそう。ライブの演奏がグダグダだったら温かい雰囲気やファミリー感は絶対に生まれないけど、みんながプロフェッショナルでスキルがある上での遊びだったからね。最高の大人の遊びだと思います。

――おっしゃる通りです。今回は「仲良しのアーティストと一緒にライブがしたい」という思いを実現したとのことですが、どういった流れでライブという形になっていったのでしょうか。

ひぐち：今回出演してくれたみんなとは、プライベートで遊んでいることも多くて。それにバンドメンバーも大好きな人たちだったので、みんなに紹介したかったんです。その「紹介したい！」という思いを矢島さんに伝えました。

――ひぐちさんと矢島さんはお仕事繋がりなんですか？

矢島：今のライブで「たばこ」をけいちゃんとアイさん、コレサワさんが演奏したじゃないですか。この3人で「たばこ」を録音した当時、私はコレサワさんのマネージャーをしていたんです。なので、その頃からけいちゃんのことは知っていて。多分、2012年くらい？

ひぐち：そうですね。

矢島：今年9月に行ったコレサワさんの日本武道館ライブでも、コレサワさんとけいちゃんが一緒にステージに立っているのを見て思わず泣いちゃいました。一緒に物作りする人との関係性が10年続くって、なかなかないことだと思っていて。人間関係が10年以上続くこと自体、奇跡じゃないですか。

ひぐち：本当に。当時から何も変わっていなくて、コレちゃんとはたまにケンカしつつも楽しくやっているだけ。だから「月日が経って、年齢を重ねていることに違和感があるよね」とも話していて。矢島さんにそういう話もしました。

矢島：けいちゃんが、今回お呼びした4組といる時は「ただ純粋に遊んでいた子どもの気持ちに戻れて、それが幸せで心地良い」と言っていたんです。そういう雰囲気のライブを作りたいし、それが伝わるタイトルをつけたいという話になった時にいろんな候補が出たのですが、「Play Like Kidsじゃない？」って。

――その時点で出演者は決まっていた、ということですよね？

ひぐち：そうです。

矢島：けいちゃんが「この組み合わせでライブをしたい」と相談してくれたのが、今年の1月頃。そこからビルボードライブさんに相談して、協力してくださることになって。そこからタイトルを決める、という順番でした。ビルボードライブでやろうと思ったのも、大人できれいめなイメージがあるから。そういう箱で、わちゃわちゃ子どものように遊ぶというコンセプトのライブをやるのも、大人にしかできないと思ったんです。

――なるほど。ひぐちさんが矢島さんに相談したのも、理由がありそうですね。

ひぐち：最初に出会ってから、すごく頻繁に会っていたわけではないのですが、周りのアーティストから矢島さんの話をよく聞くんですよね。コレちゃんやアイちゃんからも「矢島さんに会ったよ」と聞いていて。そうしたら、会社（Hugen Inc.）を始めたっていうのをどこかで見たんですね。それがすごく気になって。

矢島：嬉しい。「株があるんだったら買いたい」って言ってくれたもんね（笑）。

ひぐち：そう（笑）。それで、会社概要に「ライブ企画・制作」と書いてあったから、矢島さんに相談しようと思いました。

――まさに「縁」ですね。

矢島：本当にコレサワさん、ヒグチアイさん、のんさんがもたらしてくれた縁です。けいちゃんと会うのはそれぞれのライブ現場が多かったから、この3人がいてくれたからずっとけいちゃんとのご縁が続いているのだと思います。

姉・ヒグチアイをはじめ共演者たちとの関係性

――そんなお二人でライブのコンセプトや内容を詰めていったと思いますが、コンセプトの大元となるアイデアはひぐちさん発信だったのですか？

ひぐち：一応そうなのかな。でも、今考えると矢島さんに引き出された気もしていて。何を喋るにしても全部レールを敷かれていたかも、と今思い始めました（笑）。

矢島：嬉しいことを言ってくれますね（笑）。意識的にそういうことをやったわけではなく、カフェで「そろそろタイトル決めなあかんで」と言いながら、ただけいちゃんの思いを聞いただけ。

ひぐち：私はふわっとしたことを言語化するのが得意ではないので、矢島さんが全部きれいに言葉にしてくれました。それを見ながら「すごい、プロだ」と思っていたのを覚えています。

――そんな同公演の出演者さんと矢島さん、ひぐちさんの関係性や思い出をお伺いしたいです。

ひぐち：矢島さんは、私が音楽の仕事を始めてから初めて出会った大人の人。初めて出会った矢島さんが優しかったので、「業界の大人の人ってみんな優しいんだ」と思っていましたが、後々そんなことはないと知りました（笑）。なので、最初に会ったマネージャーさんが矢島さんでラッキーだったなと思っています。

矢島：あはは！　嬉しい。

ひぐち：アイちゃんは生まれた時から一緒にいる、大好きなお姉ちゃんです。生まれ変わっても絶対にアイちゃんの妹がいいと思うくらい。

矢島：それすごいよ！

――本当に！

ひぐち：なので、最近は遺伝子について考えてしまうくらいなんです。アイちゃんの妹になれたのは奇跡だなって思います。コレちゃんはずっと一緒にいる友だち。コレちゃんに「そのギターうるさいな」とか「その音変やな」とか「それええやん」と言われてきたことで育ったギタリスト人生でした。なのでコレちゃんが好きな音がわかるし、私の好きな音と一緒のことが多いんですよね。音に関しては同じ物を見て育ってきているので感性が似ているし、2人で成長できていることが嬉しいです。

矢島：だからずっと一緒に続けられているのかもね。

ひぐち：東京女子流は、今までやってきたサポートの中で一番難しかったです。今でこそちょっとAORっぽい小粋な感じですが、前はフュージョンみたいな雰囲気の曲も多くて。それがめっちゃ大変！　東京女子流のサポートをやるとギターがうまくなると言われているくらいでした。しかも、自分が専門学生の時から東京女子流を知っていて、一緒にやるようになって、メンバーとも仲良くなって。それが感慨深いですよね。本人たちって小学生くらいからずっと好きなことをやって大人になっていて、本当にすごい。しかも、あんなにいい子たちに育っていてリスペクトしかありません。解散が決まってしまっているけど、新たな門出をお祝いしたいという気持ちで、今回お呼びしました。

矢島：私にとって、出演者の中で東京女子流だけは、今回が初めてお仕事させていただく機会だったんです。リハや本番で彼女たちを見ながら、「もっと早くに出会いたかったな」という気持ちがどんどん大きくなっています。

ひぐち：そして、のんちゃん。のんちゃんと一緒に音楽をやること自体が青春っぽいんですよね。「こういうバンドがやりたかった」というような学生の時の気持ちを思い出して、めっちゃ楽しいんです。流行っている音楽や「こうしたらウケるんじゃないか」というものを抜きにして、ただやりたい音楽をやれているというか。ライブをする度に、毎回「うちらってかっこいいよね」と思えるアーティストです。

――羨ましいくらい素敵な繋がりですね。

矢島：そうなんです。今回ゼロからけいちゃんと一緒にライブを作って、リハも立ち会って、改めてけいちゃんの人間性の素晴らしさを感じました。サポートミュージシャンって、間違えずに正しく弾いて当たり前の世界じゃないですか。だからこそ、この仕事を続けられている人たちは、プロフェッショナルな技術だけでなく人間性も必要とされている人たちだと思うんです。けいちゃんのプレイや会話にはボーカリストや他のメンバーへの気遣いがふんだんに詰め込まれているし、現場の空気を和ませる技術や感性ももっていて。だからけいちゃんは引っ張りだこであり、これだけいろんなアーティストたちと素敵な繋がりが生まれているんだろうなと感じました。私もみんなにけいちゃんのことを知ってほしいという気持ちが生まれました。

ひぐち：えへへ。嬉しい。

――ちなみに、セットリストも秀逸だなと感じていて。各アーティストさんの個性を活かしながらも、ギュッと一つにまとめられているというか。

ひぐち：コラボ曲は「これでやってみたい」とみんなに提案をして。のんちゃんに関しては「全部まかせますよ。けいさんがやりたい曲をやってください」と言ってくださったので、私が決めさせてもらって。アイちゃんは本人とLINEをしながら決めていって、コレちゃんはよく会うので「どうする？」と相談をしていきました。東京女子流は、バンドで映えそうな曲を選んでくれて、「ガールズトーク」だけは絶対にアイちゃんとやってほしかったので提案しました。結果、楽しい曲ばかりになりました。

――まとまっているのに空気の切り替わりもあって、あっという間に感じました。

矢島：その流れを作ったのも、けい様です！

ひぐち：いやいや（笑）。通してリハができていなかったので、どんな感じになるのかと思っていましたが、思った以上に良いセットリストになりました。

矢島：想像していた以上にハッピーな空間ができあがったよね。

ひぐち：アーティストからアーティストにステージを引き渡す時のひと言も、みんな各々シミュレーションしてきてくれたみたいで。みんな、頼れるお姉ちゃんたちでした。

矢島：でも、けいちゃんがサポートギタリストだけでなく、バンマスもできるっていうのが大きいよね。それができなかったら、今回のイベントはできなかったかも。

ひぐち：あぁ～、たしかに。ここ何年かでバンマスの現場が多くなっていて。今回一緒にやったホストバンドのメンバーがいれば間違いなく大丈夫だと思って。信頼できるミュージシャン仲間も増えました。

――では最後に。「Play Like Kids」、今後の展望はあるのでしょうか？

矢島：第二弾もやりたいねと話しています。今回はけいちゃんの友だちと遊んだけど、逆に私と繋がりのある、けいちゃんがまだ弾いたことがないボーカリストと組んでみてもいい化学反応が起こるんじゃないかなと考えたりもしています。アーティストにとっても、見てくださる人にとっても、「ここに来れば、ただ純粋に遊んでいた子どもの頃の気持ちに戻れる」という場所にしていけるといいですね。

ひぐち：それに、ライブという形じゃなくてもいいんじゃないかと思っています。たとえばポッドキャストやYouTubeで子どものように遊ぶ企画をやってもいいのかもね、と話していました。ライブにこだわらず、ゆるゆる「Play Like Kids」し続けるのが今後の目標です！

▼公演のライブレポートはこちら
＜ライブレポート＞ギタリストひぐちけい、コレサワ／東京女子流／のん／ヒグチアイと届けた一日限りの温かなステージ