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<インタビュー>YUKI 映画『この本を盗む者は』によせた新曲「Share」で歌う、“分かり合えなさ”の先にある希望

Interview & Text:矢隈和恵
2021年【本屋大賞】ノミネートの深緑野分による同名小説を原作とする劇場アニメーション『この本を盗む者は』の主題歌に起用された、YUKIの最新シングル「Share」。人は分かり合えないからこそ分かり合いたい。そんな想いから生まれたこの曲は、YUKIの内側から出てきた言葉たちがいくつもの音色に彩られながら、大切な人と“シェア”することのあたたかさ、そこから生まれる優しさが溢れる楽曲へと仕上がった。ホーンのメロディーと心地よいリズム、そして、YUKIの軽やかでポップでソウルフルな歌声が耳と心に残るこの曲について、YUKIに語ってもらった。
「分かり合いたい」という気持ちは、
「分かり合えない」ということから始まる
――この「Share」という曲は、劇場アニメーション『この本を盗む者は』の主題歌に起用されていますが、このアニメのために書き下ろされた曲なんですか?
YUKI:始まりはこの劇場アニメーションのお話からでした。『この本を盗む者は』という原作本があって、その本がアニメ映画になるので主題歌を、というお話をいただいたのは1年以上前ですね。まだアニメーションもこれからという時期だったので、原作を先に読ませていただいて。そのときは私もツアーをやっていた時期だったので、ツアーが終わって落ち着いたタイミングの、今年の頭から曲作りを始めました。
――YUKIさんの曲作りは、イメージにある曲を探して、そこに歌詞をつけていくという作り方ですよね。
YUKI:いろいろなデモ音源を聴いて、この曲だったらこの映画に合うかなということと同時に、純粋に自分の新曲として出したいと思う曲を探しました。私はいつもメロディーとリズムを聴いて、そこにはまる言葉を探して歌詞にしていくんですけど、いろいろな曲に言葉を乗せてみて、メロディーの呼ぶ言葉にはどうしても抗いたくないし、抗えないとも思っています。無理に逆らってアニメに寄り添った歌詞を作るのも曲としてどうかなと思っていたことと、劇場アニメーションの制作サイドからも、この本のストーリー通りではなくても、むしろ全く寄り添わなくてもYUKIさんの世界があるもので、ということを言っていただいたんです。
――アニメの世界のことだけを考えるのではなく、YUKIさんの中から出てくる言葉たちを、純粋に歌詞にしていったんですね。
YUKI:今までもそうですけど、自分の奥底にあるものというのはどうしても出てくるし、私は生活が全て制作に影響するので、歌詞にも私の中にあるものが出てしまうんです。ということは、この本を読んだことはもう“私の中に入った”ことになるので、その本から受け取ったものは、もう私の中に蓄積されていて、そこから出てきたのがこの曲でもあるんです。
――歌詞を書く上で、何かテーマのようなものはあったんですか?
YUKI:歌詞の中にもありますけど、やっぱり自分でコントロールできないこと、ここでは〈私のエゴ〉というふうに書いていますけど、何とかして少しでもその人のことを分かりたい、何とかしてその人に寄り添いたいと思っても、できないことはあると思うんです。自分のことさえもコントロールできていないのに、どうやって人のことを理解することができるんだろう。そういうものはテーマでもありました。でも、縁というものがあるのなら、縁の糸は誰かに繋がっているんだと思うんです。
映画『この本を盗む者は』公開直前予告
――昨年『SLITS』というアルバムができて、そのツアーも終わり、それ以降はどういうモードだったんですか?
YUKI:『SLITS』という作品を一枚作り終えて満足して、そのツアーを終えて、ひとつのストーリーが完結した感じでした。だから、今年はたぶん“吸収する”年だなというのはぼんやりあったんです。たくさん遊んで、いろいろなものを見て、エンタメを楽しんで。そこで吸収したものをまた音楽に出していくために、自分の中に蓄えるぞと思っていました。だから今年は、また新しい物語を作るために、冒険に出ているような一年ですね。また曲を作るために、いろいろな人と会ったり、旅行に行って体感したり、歌詞を書いたり。そういうもの全てが自分の実になるんです。
――実際、歌詞はどのように書き進められたんですか?
YUKI:歌詞を書き始めて、この〈最高峰の解像度なら 分かり合えるか?〉という歌詞がいちばん先に出てきたので、〈分かり合える〉という言葉に引っかかっていたときだったんだと思います。そこからまた原作を読んで感じたことを入れていったと思います。
――『この本を盗む者は』の原作を読んで、YUKIさんはどういうことを感じられたんですか?
YUKI:幼少期の頃を思い出しましたし、“何者にでもなれる”という想像力の深さは、幼なければ幼いほど強かったと思います。今もその延長線上で、こういう歌詞を書く仕事ができていて、普通が何かというのは定義できないですけど、私は想像力を働かせて楽しめる人間ではありますね。私は次の日が楽しみで、早く朝になってほしいと思って毎日眠りについているんですけど、それは幼少の頃からそうなんです。『この本を盗む者は』を読んだとき、その幼少の頃の自分を思い出す感覚でした。
――自分の幼少期と重なる部分があったんですね。
YUKI:幼少の頃にすごく大事にしていたものなのに、大人になると忘れていることってあると思うんです。それを思い出したときの感情が、この本の主人公と同じだなと思いました。忘れていた大切なことを思い出して、どんどん年を重ねてきて、素直になる気持ちとか、手放せなくなる思いとか、強くなっていくエゴさえも分かり合いたいと思う。「分かり合いたい」という気持ちは、「人は分かり合えない」からということから始まるんですけど。
――分かり合えない、というのが前提としてあるんですね。
YUKI:「どうせ分かってもらえない」という気持ちが、私の10代の反抗期の頃にもあって、それを頑なに守ろうとする自分がいました。それは自分の想像力の世界で、誰にも分かるわけないし、特にそういう反抗期のときは自分の両親、肉親とか、大事にしてくれている人にこそ甘えて、反抗して。反抗というのは、自分の世界しか見えていないということですね。自分しかいない、自分はひとりなんだと思ってしまう感じは、今なら分かるんです。今だったら、頑なに拒否して守るのではなく、分けてもらっていたと思える。それを一言で言うなら、きっと「愛」という言葉になるのかもしれないですね。それがこの歌詞になっていったので、素直に「Share」というタイトルがいいなと思いました。
――この曲は、強さを持つ言葉も優しさを含んでいるというか、優しさをシェアすると、そこからまた優しさが生まれるような、そんな温かいものが全体の雰囲気から伝わってきます。
YUKI:弱い部分もダメな部分も、それを優しい感じで許し合えたらいいと思うんです。この本の主人公もまだ10代で、いろいろあやふやだし、まだ自己が確立されていなくて。でも、その時間というのは今思ってもすごく大切で。そのとき読んだ本や聴いた音楽、出会った人は、何十年経っても、今でもやっぱり、影響が強いなと自分は思うんです。当時の危うい感じさえも宝物なんだ、ということです。それで、人にもまたひとつ優しくなれるんです。
自分とどこか似ている人たちと
いろいろなことを“シェア”しながら、
これからもやっていくんだと思います
――今回、歌詞を書いているときに、YUKIさん的に「ここはいいな」という言葉はありましたか?
YUKI:今回は、何度も繰り返している、というイメージが自分の中にありました。人は本当にずっと繰り返しで、失敗を繰り返して、それでも少しでも良くなろうとする。何かで読んだんですけど、人生で会う人の数は決まっていて、そのご縁はもうずっと繋がっているものだというんです。今こうして会っている人たちは、もしかしたら前の世界では家族だったかもしれないし、何かで縁があった人かもしれないと思っていたときに、この曲のデモに仮歌で入っていた〈アスファルトの水玉模様 境目なくなって〉という言葉がすごくいいなと思って。混ざっていって、マーブル模様のようになっているのが自分の中で映像的に浮かんだんです。なので、ここは元からあった仮の言葉を、そのまま使わせてもらっています。元は違う意味で入っていたんですけど、混ざっていく、境目がなくなっていく、というのがすごくいいなと思って。それでその後が〈何度もまた 出会うだろう?〉という歌詞になりました。そこが好きで、いいなと思っています。
――この曲のアレンジは、ポップスやジャズなど、幅広いサウンドプロデュースに定評のある小西遼さんです。
YUKI:小西くんは6年前に、Chara+YUKIの「愛の火 3つ オレンジ(2020version)」という曲のホーンアレンジをしてもらったんですけど、劇場作品を楽しく作っていくのが好きな人で、今回の曲にピッタリだなと思ってお願いしました。映画館で流れる曲なので、芳醇で分厚い感じのサウンドがいいなと思って。もちろん歌を聴かせる部分もありますけど、音楽として楽しめるようなアレンジがいいなと思っていたんです。たとえば、歌のメロディーよりも後ろで鳴っているホーンセクションの音が印象的で、そこのメロディーを口ずさんでしまうというか。私も、この曲のアレンジをやってもらってから、歌よりホーンのメロディーばかり歌っています(笑)。
――アレンジは、すごく歌詞に寄り添っているなと思いました。
YUKI:そこはリクエストしました。アレンジをしているときはまだ歌詞が完成していなかったんですけど、作業をしている隣で私はずっと歌詞を書いていたので、「ここはこういう感じになると思う」というように、その場で少しずつ伝えていきました。
――YUKIさんの歌入れはいかがでしたか?
YUKI:私がいつもレコーディングで歌うときは、ここでこういう音が鳴っていてほしいな、ここにこういう音を足したいな、というところが出てくるんですけど、今回はそういうことが全くなかったです。小西くんのアレンジは、ここにこういう音がほしいなというところに、いろいろな楽器の音色がもう入っていて、私が後から足すことはありませんでした。なので、歌入れは早かったですね。入れたいと思った隙間には、全部音が入っていました(笑)。
――そしてカップリングには、ユニットのPeterparker69が手がけたリミックスが収録されています。これも言葉がすごく伝わってくるリミックスで。
YUKI:このリミックスは、元の曲のアレンジとは逆のことをやってくれていて。小西くんは今回、歌や歌メロをあまりフィーチャーしないアレンジをしていて、私が埋めたいなと思う隙間にいろいろな楽器の音を埋めているアレンジだとしたら、Peterparker69の彼らは、まさに歌。歌詞を全面に出すリミックスをしてくれて、すごく対比があっていいなと思いました。
――本当に歌が心地よく、ずっと言葉を聴いていられる感じです。
YUKI:歌が気持ちよく聴けて、しかも、私のボーカルの感じや息継ぎまで聴こえる。少し加工はされているけど、改めて今の自分の声を聴いて、いいなと思えました。このリミックスは聴き応えがありますよね。リミックスというのはどちらかというと、あまり止まらないビートで作ることが多いと思うんですけど、意図的に私の歌を真ん中にしてリミックスしてくれているのがすごく嬉しいです。

――YUKIさんの作る楽曲からは、そのときそのときのYUKIさんが映し出されていて、いつも新鮮さを感じます。
YUKI:こうしていろいろな人と音楽を作るのが楽しいからできているんだと思います。こんなことをやってみたい、こういうことができたから次はこういうことをやってみたい、という欲望がある限りは続けていきたいですね。そういう欲望が多ければ多いほど、私は幸せだと思います。
――YUKIさんの中からは、まだまだいろいろな音楽が生まれてきそうですね。
YUKI:そうですね。自分とどこか似ている人たちと、いろいろなことを“シェア”しながら、これからもやっていくんだと思います。全てが似ているわけではなくて、本当に一筋でいい。いろいろなことが違うけど、ここだけすごく気が合うというような、その一筋の光があれば、一緒にものづくりをするのは面白いと思うんです。全く同じ人というのはいないですからね。でも、ここは尊重したいとか、ここが楽しいから好きというような、これからもそんな楽しい人たちと一緒に音楽を作っていけたらいいなと思います。
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