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<インタビュー>「ストリーミング時代の動員をどう読むか」― クリエイティブマン清水直樹に聞く、データの活用戦略

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 世界200以上の国と地域の音楽消費行動を分析しているデータ会社Luminate。日本でも、2024年から阪神コンテンツリンクを独占代理店として販売しており、レコード会社や出版社など様々な企業の意思決定の場に採用されている。本インタビューでは、国内のクライアントの一つである、株式会社クリエイティブマンプロダクションの代表取締役社長 清水直樹氏にインタビュー。データの価値や活用方法について、話を聞いた。(Interview & Text: 高嶋 直子 l Photo: 辰巳隆二)


──2024年末から、Luminate社が提供する分析ツール“CONNECT”を契約していただいています。日頃、どのように活用されていますか?

清水直樹:最も使うのは、“検索”画面ですね。日本に招聘したいと思ったアーティストは、日本や各国でどのくらい聴かれているのを必ずチェックしています。日々のストリーミング数ももちろんですが、これまでの集客数とどのくらい比例しているのかを見てみたり。ストリーミング数の多さと動員は必ずしも一致していませんが、何度も使っていくうちに、少しずつ感覚が掴めてきましたね。例えば2025年の【SUMMER SONIC】に、17年ぶりの出演を果たしたアリシア・キーズはチケットが完売しましたし、会場も非常に盛り上がりましたが、ストリーミング数はそこまで多くありませんでした。ストリーミングとの相関性については、ファンの年代層など様々な要因によってギャップが生まれるので、ストレートに受け取らず、他の要因も含めて調べるようにしています。

──繰り返し調べることによって、相関性の高いアーティストと、そうでない人が見えてきたのですね。

清水:そうですね。なので、この部分は参考にしよう、これは違うかもねと社内で会話しながら決めています。思いついたアーティストは、とりあえず検索してみて自分の感覚とすり合わせていく作業は、仕事なんだけど半分遊びのようで、とても楽しいですね。

──社内では、清水社長以外にどのような部署で活用されているのでしょうか?

清水:主には、海外アーティストをブッキングしている部署と、SNSなど様々なデータを分析しているデジタルマーケティング部ですね。これまでは、YouTubeや各社のランキングなど公開されている情報を元にレポートを作成していました。ですが、日々チェックしないといけなかったり、欲しい情報が得られないなど、とても非効率的だと感じていました。今はブッキング担当も含めて、個々が知りたいアーティストの再生数をすぐに調べられるので、圧倒的にスピードが上がりましたね。

 また、最近は邦楽アーティストをブッキングする部署も使い始めました。ここ最近、日本の音楽がアジアを含めた様々な国に広がっています。これがあればアジアも含めた、世界各国でどのように聴かれているのか、ストリーミングの実数を知ることができますから。

 我々は2024年からタイ・バンコクでも【SUMMER SONIC】を開催していますが、これにも非常に役立っています。いまバンコクで誰が最も聴かれているのかを、現地の人にヒアリングするのではなく、同じレベルで会話することができる。これから日本のアーティストを海外に広げていく中で、Luminateを見ずに戦略は立てられないとまで感じていますね。契約金額は決して安くはありませんが、このツールがないと知り得ない情報を得られるわけなので、データの価値を日々、実感しています。

──邦楽アーティストの海外ツアーに関するビジネスも増えてきているのでしょうか。

清水:当社は海外とのコネクションの強さを、評価していただくことが多いです。なので、マネジメントの方とお話するときに、日本以外の国でのツアーの可能性についてもディスカッションしています。その時にLuminateのデータを持って話せるというのは、かなりの強みです。

──アメリカやカナダにおいては、都市別の再生数も見られますので、より具体的な会話ができますね。

清水:そうですね。あと最近ニーズが高いのは、南米ですね。南米はニュースソースが全然見当たらないので、Luminateのデータが必須です。北米、南米、ヨーロッパといった候補地の中で、どこが最適なのかを移動中のスマートフォンでもチェックしています。

──具体的に、Luminateのデータがあったからブッキングを決めたアーティストはいますか。

清水:2025年の【SUMMER SONC】だと、ソンバーですね。主要なアーティストは決まっていて、あと一枠あるかどうか…という時にエージェントから提案されたんです。実際に楽曲を聴いてみると、めちゃくちゃ良いなと。なんだか分からないけど、感覚的にこのアーティストはいけるなと感じました。そんな時に、Luminateで日本のストリーミング数を調べたところ、すごく伸びてきていて。なので、自分の直感とデータを照らし合わせた上で、ソンバーの可能性に賭けました。

 決めたのが4~5月くらいだったので、そこから急いで告知などを進めていきましたが、その後 日本のチャートにも入りだして、どんどん話題になって。

──すごく良いタイミングでしたね。

清水:データだけを見ても、各アーティストの可能性には気づけないと思います。むしろ仇になってしまうかもしれません。我々のように音楽に対しての知識がある人間が、正確なデータを持つと、すごい強みを発揮するんだなと感じた瞬間でしたね。



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──コンサート市場はコロナ禍以降、成長を続けていて2024年の日本国内における総売り上げは前年比119.1%(ACPC調べ)となりました。来年以降の課題について、どのように感じていますか?

清水:(Bリーグ「夢のアリーナ構想」の影響で)首都圏を中心に、アリーナが増え続けています。会場が増えるということは、我々にとって非常にありがたいですが、どうしても集客のことを考えるとライブが土日に集中します。その結果、運営に関わるスタッフが足りないというケースが増えてきていて。

──需要が増えすぎて、別の課題が生まれてきているのですね。

清水:世界から見ると、日本はとても特殊な場所で。首都圏には1万人以上の公演が開催できるアリーナやスタジアムが20か所以上あり、どこも絶えず埋まっています。2025年の12月に発行された『Pollstar:2025 Year End Special Issue』で、Kアリーナ横浜が世界のアリーナランキングの観客動員数で1位を獲得しましたし(2024年の1位はマディソン・スクエア・ガーデン)、日本は洋楽や邦楽、K-POPそしてアニメや2.5次元など様々なコンテンツが人気なので、世界でも群を抜く動員数なんです。

──インバウンドの増加も影響しているのでしょうか?

清水:そうですね、これまでは日本の人口減少に伴って、ライブに来る人が減るだろうというネガティブな意見が多かったのですが、フェスにもインバウンドの方が増えています。ですが、需要があるからと言って会場を増やし続けても、危険だなと。地方からバスでスタッフの方に来ていただいたり工夫していますが、会場もアーティストも押さえられたのにスタッフが集まらなくて、開催できなかった公演は、いくつもありますから。

──今後、どのような対策が考えられますか。

清水:最近やり始めたのはステージの共有ですね。例えば、東京ドームでライブを開催する場合、2~3日かけてステージを組み立て、公演を開催して、また2~3日かけてステージを撤収します。設営したり解体したりするのに、多くの人手が必要ですが、作ったステージをそのまま次の主催者に渡せば、そのリソースを節約することができますから。このやり方を採り入れる会場や主催者は、少しずつ増えてきています。

──御社の今後の目標については、いかがでしょうか。

清水:アジアの音楽シーンに可能性を感じているので、アジア各国のアーティストの招聘に力を入れていきたいですね。あとは、日本のアーティストの各国ツアーも一層サポートしていきたいと思っています。

──インバウンドとアウトバウンドの、どちらも。

清水:ええ。バンコク以外にも【SUMMER SONIC】をやりたいという国は、数多くあって。シンガポールやインドネシア、台北、香港、中国といった様々な国が、数年前から声を掛けてくれています。日本以外で開催する場合は、各国でどんな音楽が聴かれているのかを正確に知る必要があって。そのためにも、Luminateは今後も欠かせないデータになるでしょうね。

 アジア各国と連携することによって、アメリカやヨーロッパのアーティストを共同で招聘しコストをシェアするというメリットも生まれます。なので、アジアのプロモーターとの連携は、今後より強化していくつもりです。

──先日、Luminateはテンセント・ミュージック・エンタテインメント・グループとの提携も発表しました。今後、中国のデータの精度も高まっていく予定です。

清水:楽しみですね。日本の音楽の可能性を世界に伝えていくためにも、よりチャートやデータの精度を高めることは重要だと感じています。先ほど、お伝えしたPollstarのKアリーナの事例も、その一つです。Pollstarの年間ランキングは、各社から提出されたデータを元に集計しています。日本の音楽市場の大きさを伝えるためにも、各社が正確なデータを出せば日本の景色は、もっと変わるのではないでしょうか。

 今は日本以外の様々な国のデータが手に入る時代です。日本は、あまり自社のデータを出したがらない風潮があるように感じますが、これまで表に出ていなかった数字を出すことで、見えてくるものはたくさんありますし、市場の拡大にも繋がるんじゃないかと思っています。

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