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<インタビュー>「音楽で世代を超える」――トム・グレナンが語る全英No.1アルバム、30代の挑戦、オアシスへの想い

インタビューバナー

 2018年にリリースしたデビュー・アルバムで注目、その後21年発表のシングル「Little Bit Of Love」は翌年の【ブリット・アワード】で<ソング・オブ・ザ・イヤー>にノミネート、さらに英ロンドン・O2アリーナ公演を大成功させるなど、英国/EUを中心に人気を誇るシンガー・ソングライター、トム・グレナン。8月にリリースされたばかりのアルバム『エヴリウェア・アイ・ウェント、レッド・ミー・トゥ・ホウェア・アイ・ディドゥント・ウォント・トゥ・ビー』も3作連続で全英チャート1位を獲得、さらにプライベートでは父親になるなど公私共に絶好調な彼が、1年ぶりに来日し、初のヘッドライン・ショーを敢行した。そのバックステージで語ったアルバムについて、そしてまもなく日本での再結成公演を控えたオアシスへの思いを聞いた。(Text & Interview: 松永尚久)

来日公演のレポートはこちらから>>https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/154229



──昨年の【GREENROOM FESTIVAL】から1年ぶり、そして初のヘッドライン・ショーを大盛況のなか終了しました。日本のファンの印象は?

トム・グレナン:日本の映画やドキュメンタリーを観て育ったので、最初の来日は食べ物、文化、人など体験したすべてに興奮したし、さらに大好きになったんだ。今回においても驚きの連続で、日本のことがさらに好きになった。また、日本のファンやオーディエンスって特別な雰囲気で、ミュージシャンへのリスペクトを強く感じる。音楽というものの大切さを理解している気がした。だから、ここでしっかりと足場を固めて、コミュニティーを広げなくてはいけないという思いがますます強くなったんだ。

──また、この1年の間にはアルバムを完成させたのはもちろん、30代を迎え、さまざまな変化があったかと思いますが。

トム:20代はとても素晴らしい経験ばかりをさせてもらった。自分は音楽一家出身でもないし、知り合いに音楽関係者もいなかった。ごく普通の世界で過ごしてきた人間がショウビズの世界で生き抜くため、一生懸命に過ごしていった感じだったけれど、本当に新しい出来事ばかりだったし、クレイジーな時代だったと思う。この1年は、30歳になっただけではなく父親にもなったし、さまざまな変化が起こった。また新たなチャプターが開かれた感じがするんだ。

──最新アルバム『エヴリウェア・アイ・ウェント、レッド・ミー・トゥ・ホウェア・アイ・ディドゥント・ウォント・トゥ・ビー』は、どこに行っても自分の想像のつかない場所へと導かれるという意味だと思うのですが、その発言を聞いているとここにはポジティブな思いがこめられているように感じました。

トム:20代は本当にさまざまな旅を経験した。楽しいことはもちろん、失敗もしたし、自分のなかの悪魔との闘いもあったんだ。それを経験して、現時点ではスピリチュアルな境地に達している気がするというか。自分が自分らしくいる状態。タイトルに関しては、人生でいろんな間違いを起こしながら、それでもなんとか何かを成し遂げて、前に進んでいくっていうようなフレーズを選んだんだ。人間は、時に失敗してしまうもの。それでもなんとかやっていけるし、心配しなくて大丈夫というメッセージを届けたかった。また、自分自身ファイティング・スピリットが旺盛で、努力家でもあるので、ネガティブなことがあっても、絶対に自分は這い上がってやるという思いも表現しているんだ。

──だから、アートワークもボクサーに扮しているんですね。

トム:うん、その通り。日々、自分のなかで自分と闘っているところがある。メンタル的に大変なことがあったりとか、打ちのめされたりすることがあっても、それを最終的には倒してチャンピオンになるという強い意思の現れなんだよ。

──サウンドに関しては、ソウルやファンクなどを駆使したセレブレーション感に溢れた仕上がりになっていますね。

トム:今回は歌詞を深みのあるものにしたかった。これまでの自分とこれからの自分像を真摯に描きたかったんだ。だからサウンドに関しても、何かを克服したいものがあるとしたら、それを乗り越えられる力を与えるようなものにしたかった。また克服した瞬間、一緒にセレブレートできるような音にもしたかったんだ。



▲「Everywhere I Went, Led Me to Where I Didn't Want to Be (Album Trailer)」



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いい音楽を作り続けるということが基本、子ども世代にも響く楽曲を作りたい


▲「Full Attention」MV

──また、ライブのオープニングでも披露していた「Full Attention」は、1980年代のマンチェスター(アシッド・ハウス)的なサウンドに通じる祝祭感がありますよね。

トム:(笑)。今回、インスピレーションの源として古いレコードをたくさん買って聴いていたんだ。ジョージ・マイケル、ハッピー・マンデーズ、プリンス、クイーン、エルトン・ジョンなどね。だから、そういう要素が、アルバム全体に輝きをもたらしているのかもしれない。

──当時、彼らの音楽に熱狂したリスナーも絶対に楽しめるサウンドに仕上がっています。幅広い世代に響く音楽を目指して制作した部分はありますか?

トム:今まで自分は特定の世代に向けた音楽を制作したことはなくて。自分がその瞬間に好きなものを追求しているだけ。ただ、音楽って昔から現実逃避だったり、コミュニケーションの手段のひとつなのかなって思っていて。自分の音楽を通じて、リスナーがどんな反応をするのか、どんな会話が弾むのかというものに興味があるのは確か。だから、聴き手それぞれが自由な解釈で楽しんでくれる音楽を作ることに集中しているんだ。

──多幸感あふれるサウンドのいっぽうで、メロディはとてもクリアな印象。90年代のオアシスなどに代表されるブリット・ポップを連想させます。

トム:メロディックな音楽が好きなところが大きな要因になっていると思う。確かに、90年代生まれで両親が流していたオアシスの音楽を聴きながら育った。自分のなかに彼らの旋律が強く刻まれていて、作る楽曲に影響が滲み出ているのかもしれない。だから、そこに対して意識しているわけではなくて、自分らしさを追求していくなかで自然と湧きでるものなんだよ。



▲「Shadowboxing」Official Visualiser

──日本でもまもなくオアシスの来日公演を控え、大きく盛り上がっています。ロンドンやイギリスもすごいのでは?

トム:その通りで、説明できないくらいに盛り上がっているし、その声に応えて彼らはもっと素晴らしいことをやってくれると信じている。実は、自分はラッキーなことに2回もライブに足を運ぶことができたんだけど、そこでは父親世代の男の人が泣きながら大合唱をして、昔を取り戻していたような感じだった。また、自分たちのようなリアルタイムで体験していなかった世代もたくさんいて、彼らも全曲の歌詞を頭に叩き込んで大合唱をしていたのも印象的だった。それこそ彼らは世代を超え、みんなをひとつにする音楽を作った存在。いつまでも色褪せない、天から捧げられた音楽なんだなって改めて感じた。また、自分の知り合いに今回のツアーに参加するメンバーやスタッフもいて、彼らは日本でパフォーマンスすることをとても楽しみだと言っていたよ。絶対に最高のステージになるね。

──きっと、そういった経験も今後の音楽活動の良い刺激になると思いますが、30代ではどんな作品を残したいですか?

トム:それってなかなかハードな質問だね(笑)。まずは、いい音楽を作り続けるということが基本。30代ってまだ若いので、できることもたくさんあるし、叶っていない夢もある。現状、イギリスではある程度のリスナーに認知してもらっているけれど、世界を見渡すとまだまだ。子ども世代にも響く楽曲を作りたいしね。それぞれ異なる波長があるから、全部を網羅するような音楽を作ることは難しいけれど、だからこそのやりがいもあると思う。認知してもらうために、カルチャーや世界情勢など、さまざまなことにアンテナを張って、いずれは良いインスピレーションを与える存在になりたい。そして、どんなに年齢を重ねてもフレッシュな気持ちは忘れずに持ち続けたいね。

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