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<コラム>ニュー・ジャック・スウィングを生み出した音楽界のレジェンド、テディー・ライリー待望の来日に寄せて――NONA REEVES西寺郷太

インタビューバナー

 グラミー賞受賞プロデューサー/アーティストであり、“ニュー・ジャック・スウィング”というジャンルそのものを創り上げた音楽界のレジェンド、テディ―・ライリーが待望の来日。コロナ禍で幻に消えた2020年を経ての来日を記念し、POP’N SOULバンド「NONA REEVES」のシンガーでありながら自身も音楽プロデューサーとして活躍し、日本屈指の音楽研究家としても知られる西寺郷太が公演へ向けて想いを巡らせる。

 ※この記事は、2025年9月発行のフリーペーパー『bbl MAGAZINE vol.211 10月号』内の特集を転載しております。記事全文はHH cross LIBRARYからご覧ください。

音楽界に与えたその影響と軌跡 - ニュー・ジャック・スウィングの誕生

 テディー・ライリーの緊急来日、ビルボードライブ東京公演が決定。その公演タイトルを知って、心が震えた。
Teddy Riley Presents New Jack Swing”The Experience
"featuring GUY 2.0, Sounds of BlackStreet,Sounds of Michael Jackson and More.
 彼の輝ける歴史において、自身のグループであるガイとブラックストリートが重要な位置を占めることは言うまでもないが、なんとマイケル・ジャクソンとの楽曲にもスポットを当てたセットリストになると高らかに宣言しているではないか。



 1973年生まれの自分にとって、キャッチーなメロディーと芳醇なハーモニーを跳ねる強靭なリズムで抱きしめた“ニュー・ジャック・スウィング”の登場はまさに革命だった。その首謀者こそが、テディー・ライリー。僕がいつも思い出すのは、20歳そこそこのテディーに9歳年上のマイケルが伝えた、時を超えるソング・ライティングの秘密に関するこの教えだ。

 「マイケルはこう言ったんだ。『テディー、昔の人はコンピューターを持ってなかっただろう?』って。『バックトラックから作る音楽は駄目なんだよ。昔の人はピアノかギターの伴奏で曲を作っていたよね』それが大切なんだ、とね。シンプルにピアノで弾いて歌ってみて美しい曲じゃなきゃ。マーヴィン・ゲイもそうだろう?」

 改めて、テディー・ライリーの軌跡を振り返ってみたい。1967年10月8日生まれ、ニューヨーク州ハーレム出身、今年58歳(まだ若い!)。教会で楽器を始め、12歳の頃には後にガイの最初期メンバーとなるティミー・ギャトリングと共にキッズ・グループ、キッズ・アット・ワークとして活動し、1984年にメジャー・デビューを果たしている。特筆すべきは10代半ばにしてすでに自らサウンドをクリエイト、実質的な音楽プロデューサーの役割を担っていたことだ。

 1985 年、クール・モー・ディー「ゴー・シー・ザ・ドクター」をプロデュース、ダグ・E・フレッシュとスリック・リック「ザ・ショウ」に鍵盤奏者として参加。この頃すでにクインシー・ジョーンズに認められ、マイケル・ジャクソン『バッド』(1987年)への制作参加をオファーされていたが、当時のテディーの後見人であった悪名高きジーン・グリフィンが妨害したことで実現しなかった。





 1987年、秋から翌年にかけてキース・スウェット「アイ・ウォント・ハー」、ジョニー・ケンプ「ジャスト・ガット・ペイド」を矢継ぎ早に世に送り出し世界中に衝撃を与えると、ほぼ同時に圧倒的な歌唱力を誇るシンガー、アーロン・ホールを擁した自身のグループ、ガイを始動させ一世を風靡。1989年の全米年間アルバム・チャートを制したボビー・ブラウン『ドント・ビー・クルエル』からの2ndシングル「マイ・プリロガティヴ」(2004年にブリトニー・スピアーズもカバー)の野生味溢れるグルーヴは新たな“ニュー・ジャック・スウィング時代”を確立させる決定打となった。1990年には、ヘヴィ・D & ザ・ボーイズによるオージェイズの傑作カヴァー「ナウ・ザット・ウィ・ファウンド・ラヴ」をプロデュース、20代前半にして世界的プロデューサーとしての地位を不動なものとしている。









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とどまることのないプロデューサーとしての躍進

 1991年、名匠クインシー・ジョーンズと袂を分かつこととなったマイケル・ジャクソンの新たなる金字塔『デンジャラス』でメイン・プロデューサーに任命され、二人の魅力を濃縮させたタイトル曲の他、永遠のクラシック「リメンバー・ザ・タイム」「ジャム」「イン・ザ・クローゼット」を生み出す。




 その後も「ブラッド・オン・ザ・ダンス・フロア」「ゴースト」と、マイケルにとって結果的に最後のオリジナル・アルバムとなってしまった『インヴィンシブル』(2001年)に収録されたこのうえなく美しいメロディーを持つ「ブレイク・オブ・ドーン」「ヘヴン・キャン・ウェイト」まで、共作者、プロデューサーとしてテディーは協力し続けた。今回、ビルボードライブ東京公演でどの曲がセレクトされパフォーマンスされるのか、楽しみで仕方がない。






 90年代に突入してもテディーの勢いは止まることはなかった。ホイットニー・ヒューストンとの夫婦デュエットを含むボビー・ブラウンとの再タッグ『ボビー』(最高!)や、新たに結成したR&Bグループ、ブラックストリートで円熟したその才気を炸裂させていく。ブラックストリートでは、マイケルとの共作楽曲「ジョイ」の他、ドクター・ドレーとクイーン・ペンを迎えたキャリア最大の「ノー・ディギティ」を世に問う。当初はグループのメンバーやレーベルからもその“童謡”的なムードが原因か忌み嫌われ、頑なにリリースを反対されたというが、結果的には全米4週連続1位、グラミー賞まで獲得する世紀の代表曲となった。






 2000年代になると落雷による火事でヴァージニア州のスタジオが消失するなどの不運にも見舞われるが、彼の信奉者が多かった韓国の音楽シーンに注目して身を置き、K-POPの世界的伝播の牽引者として新たな時代を築く。テディーによる90年代を代表するガールズ・グループ、SWVの「ライト・ヒア(ヒューマン・ネイチャー・ミックス)」(ファレル・ウィリアムスも参加)が、2020年代現在に至るまでどれほど後進に影響を与え続けているかについては、ニュージーンズを例に挙げるまでもなく、指摘する方が野暮なほどだ。




 クインシー・ジョーンズ、クリス・ジャスパー、スライ・ストーン、ブライアン・ウィルソンという、ここ一年の間に次々と亡くなった世界中の人々の運命や生き方を美しく変えたミュージック・レジェンド達のことを思い出さない日はない。生きているテディーの存在をビルボードライブ東京のステージで確かに感じられる。その喜びをあたりまえと思わず、大切にしたい。



Text:西寺郷太(NONA REEVES)
2000年に再結成したガイのシングル「ダンシン」が大好きなので、どうかセットリストに入っていますように!


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