俳優として活躍する一方で、近年ではシンガーとしても注目を集めている三浦透子。
　映画『天気の子』の主題歌「グランドエスケープ」をはじめ、その澄んだ表現力豊かな歌声は映画やテレビの主題歌にも起用されてきた。そんな中、昨年11月に初のワンマンライブに挑戦。小田朋美（ピアノ）、有元キイチ（ギター）とのトリオ編成で素晴らしいステージを見せてくれたが、それが話題を呼んで3月には追加公演が決定した。
　前回のライブの際には、小田の家に定期的に集まって一緒に食事をしたり、遊んだりしながらリハーサルを重ねて信頼関係を築いていったという3人。追加公演を目前にした彼らに、前回のライブの舞台裏やライブにかける意気込みを聞いた。

Text & Interview：村尾泰郎
Photo：堀内彩香

初ライブのテーマは緊張と緩和

――小田朋美さんと有元キイチさんは、どちらも三浦さんに曲を提供されていますが、初めてワンマンライブにお二人に声をかけられたのは、どういう経緯からだったのでしょうか。

三浦：お二人に対しては絶対的な信頼感がありました。小田さんはクラシックからスタートして、今は幅広いジャンルで活動されています。私の曲はいろんな方に作詞作曲をお願いしてきたので曲調も様々なのですが、小田さんとだったらどんな曲でも素敵になると思ったんです。キイチさんは今いちばん音楽の仕事を一緒にやっているので、私の声をよく知っている。あとはお二人の人柄です。初めてのライブだったので、この2人となら緊張せずにやれると思ったんです。緊張しそうになったら2人の顔を見ると落ち着けるんじゃないかって（笑）。

――お守りみたいな存在ですね（笑）。

三浦：安心感のある小田さんの演奏に対してキイチさんは予想がつかない演奏をするんですよ。一緒にやっていてスリリングな瞬間がある。3人のコラボレーションがどんなものになるのか想像がつかなかったからこそ、やってみたいという好奇心もありました。

――小田さんと有元さんは、共演するのは初めてだったんですか？

小田：はい。確かにキイチくんは予想がつかないことをしてくるんですよね。でも、初めて一緒に音を出した時から、この3人なら良い音が出せそうだな、という予感がしていました。私は3という数字が好きなんですけど、この3人のトライアングルはバランスが取れている気がして。

有元：僕はバンドをやってはいるんですけど、サポートするような演奏技術があるかどうか不安なところがあって。小田さんは音楽家としては大先輩だし、CRCK/LCKS（クラックラックス）はかっこいいし、小田さんと一緒にやれるのか自信がなかったんです。でも、一緒にやってすごく勉強になりました。今回のライブを通じてプレイヤーとしての階段を少し上がれたような気がします。

小田：私も不安はありました。私もキイチくんもコンポーザー気質で、どっしり演奏で支えるというよりかは、常にどこかふわふわと空中に浮遊しているものを探しているような、焦点が少し遠くにあるようなところがあって、もちろんその良さもあると思うのですが、3人編成は演奏のごまかしがきかないので怖いなあって。

有元：ライブの前日、お客さんに怒られて殴られる夢を見ました（笑）。

――そんなに緊張していたとは（笑）。

三浦：みんな緊張していましたね。通しの練習も結構やった。

小田：スタジオで電気を暗くして、本番みたいな雰囲気にしてね。

――リハーサルは小田さんの自宅のスタジオでやられたとか。

三浦：そうです。小田さんの家で飲みながら話をして、3人の気持ちが音楽に向いたらスタジオに入る。そのまま飲んで終わってもいいし、今日は先にリハーサルをやって飲もう！っていう日もあったり。小田さんのお家に遊びに行くような自由な雰囲気でリハーサルができてすごく楽しかったです。

――ライブでは、小田さんの家のリビングにあった椅子をステージで使っていましたね。

三浦：シャーデーのライブ映像で、高さの違う椅子をステージの中央に3つ並べて演奏しているのを見てかっこいいな、と思ったんです。そういう話を小田さんの家でしていたら、小田さんが「この椅子とこの椅子を使ったらできるんじゃない？」って。自分がイメージしたステージを実現するために椅子を借りたんですけど、そうすることでリハーサルの時の空気をライブに持ち込めたのは良かったですね。

――その椅子に白い布をかけたり、ちょっとした演出で舞台のような空間になっていたのが面白かったです。

三浦：建築とか舞台美術を見るのが好きなんですよ。今回のライブでは、そういったところで少し遊べたらいいなと思っていました。でも、そこに力を入れすぎない、というのも大事な気がしたんです。演出に凝りすぎると緊張してしまう気がして。だから椅子に白い布をかけるくらいがちょうど良かったと思います。小田さんから日暮里に布が安く買えるお店があるというのを聞いて行ったんですけど、いろんな白があって悩んだりして（笑）。

小田：そこで透子さんがどういう白を選んだのか、というのが演奏にインスピレーションを与えるんですよね。どんな風に椅子を置くのか、そこにどんな布をかけるのか。そういうことを通じて、透子さんがライブでやりたいことのイメージが伝わってくるんです。

有元：椅子の布がずり落ちないように演奏しないといけない、という課題が増えましたけど（笑）。

三浦：そんなことを気にしてたの？（笑）。でも、こういう創作的なステージができたのも、この3人だったからだと思います。

――どんなライブにしたいのか、三浦さんの頭の中でイメージしていたことはあったのでしょうか。

三浦：自分の曲があまりにもバラエティ豊かなので、最初はどう構成しようか迷いました。例えば喋りを入れずに全体を通してひとつの作品みたいにするのか、それとも、お客さんに私たちの部屋を覗いてもらうような雰囲気にするのか。それでまず一度、3人で私の曲を全部演奏してみて、最終的には緊張と緩和をテーマにしようと思って。私たちもお客さんも緊張しすぎない雰囲気のライブになるよう、セットリストを組む時は、お客さんにスリリングに感じてほしい曲。リラックスして聴いてほしい曲をバランスよく並べることを意識しました。1曲1曲にいろんな風景が見られるようなライブにしたいと思ったんです。

――小田さんは2台の鍵盤を駆使。有元さんは曲によってはギターのエフェクトで空間を埋めたりして、たった2人のプレイヤーで曲にいろんな表情を生み出していましたね。

三浦：お二人とも作曲もされる方なので、作曲家の脳でいろんなアレンジのアイデアを出してくださって。演奏以上のことをやっていただいて、3人でアルバム一枚作ったような感じでした。

小田：透子さんに、こういうライブにしたい、というイメージが明確にあったからこそ、それぞれの曲をどんな風に組み立てていくのかが明確になって、キイチくんと相談しながら作っていきました。小さな三角形をたくさん積み上げて大きな三角形を作るみたいな感じでしたね。

3人は話し方もちょっと似てる

――ライブ用のアレンジで印象に残った曲はありますか？

小田：「グランドエスケープ」かな。透子さんの曲は曲ごとに作曲者のクセやアレンジが全然違う。原曲の良さを活かしながら、この3人でやる意味を考えてアレンジした最初の曲が「グランドエスケープ」でした。

有元：僕は「FISHANDCHIPS」ですね。2サビ前に音階がないようなパートがあって、それをどんな風に演奏するのか、リハーサルでは時間をかけて練習したんです。本番はこれまでで一番うまくいったと思いました。

三浦：私はお二人が書いた「intersolid」（作詞作曲：小田朋美）と「私は貴方」（作詞作曲：有元キイチ）です。すぐ横に作者がいるので、曲の深いところまでいく速度も速かった気がして。「intersolid」は一度、小田さんとやったことがあったんですけど、今回はキイチさんが弦のパートをギターでやってくれました。「私は貴方」はエフェクターを駆使することで、やりたかった音を実現できたので歌っていて楽しかったですね。

――三浦さんをフィーチャリングした有元さんの曲「聞いてたの？」では、有元さんとデュエットされていましたね。

三浦：あの曲は歌詞がすごく好きで。だからやれて良かったです。小田さんが「やらない？」って提案してくれたんですよね。

小田：そうでした、すごくいい流れな気がして。私もキイチくんの曲や歌詞がとても好きなので、今回演奏できて良かったです。

有元：三浦さんのライブで自分の歌をやって怒られるんじゃないかと心配だったんですけど、ちゃんとライブの一部になっていて良かったです。

――その心配がお客さんに怒られる夢を見せたのかもしれないですね（笑）。

三浦：そういえば、ライブを見てくださった方から「3人の声のバランスがすごく良かった」という感想をいただいたんですけど、私も歌っていて感じましたね。「聞いてたの？」をレコーディングした時に、キイチさんとの声の相性は悪くないな、と思っていたんですけど、今回は小田さんもコーラスをやってくださって。お二人ともシンガーでもあるので、すごく贅沢だなと思いました。

小田：私たち、話し方もちょっと似てるよね（笑）。

三浦：もともと似ていた部分がありつつ、一緒にやっているうちにさらに似てきたのかも。

有元：兄弟みたいですね（笑）。

――前回のライブを振り返って、どんな感想を持たれましたか？

三浦：1日に2回ステージがあるじゃないですか。初めてのライブなのにスパルタだな、と最初は思ったんですけど（笑）。いざやってみると毎回、歌も演奏も違うんですよ。その変化が面白くて。こういう言い方をするとお客さまに失礼かもしれませんが、その都度、新しい歌い方を試すことができたんです。一番素晴らしいものを見てもらおうと思って準備したんですけど、毎回それが更新されていくようなところがあった。それってリハーサルで出てくるものではなくて、本番だからこそだと思いました。お二人の演奏を聴いていても、初めて聞こえてきた音があったりするんです。

小田：ステージが1日2回あると、ずっと演奏が続いているような感じがするんですよ。自分が終わらない音楽の一部みたいな気がして自然体で演奏できました。ライブ中に良い瞬間がいっぱいあって、それはお客さんがいることで生まれたものだと思いますね。

――ビルボードライブという場所はいかがでした？

小田：昨年春頃にはじめてCRCK/LCKSで出演した時、緊張しそうだな、と少し構えていたのですが、思いのほか全然緊張しなかったんです。それは今回も同じくで、お客さんが一緒に楽しもうとする気持ちが直に伝わってきて、すごく良いバイブスがあるハコだと思いました。

――スタンディングのライブハウスだとお客さんの目がステージに集中しますが、ビルボードライブだと着席して食事をされたりもしているので、和やかな雰囲気がありますよね。

小田：そうですね。視線が直線的ではないというか、ほどよく混ざっているのが良いのかも。

三浦：観る側、観られる側、という風にパキっと分かれていない気がしますね。初めて会場を見た時は「客席が近い！」と思ったんですけど、演奏していると気にならない。逆にお客さんの顔がよく見えて落ち着けるんです。あと、客席を抜けてステージに行くじゃないですか。ライブって１曲目は緊張するんですけど、ビルボードライブではお客さんの横を歩いている間に落ち着いてきて、ステージに上がる頃にはちょうど良い感じに気持ちがほぐれているんです。

小田：確かに。ステージに向かって歩いている時にお客さんとエネルギーを交換し合っている感じがしますね。お客さんが私たちを送り出してくれているというか。

三浦：お客さんにとって、ビルボードライブに行くというのは特別な時間だと思うんです。ゆっくりライブを楽しみたい、というお客さんの気持ちが、私たちをリラックスさせてくれるんじゃないかと思いますね。

人前で歌を歌うということが想像できなかった

――3月に予定されている追加公演はベースに山本連さんとドラムに上原俊亮さんを加えた5人編成ですが、どんなライブになりそうですか？

小田：まだ何も話をしてないんですけど、前回のライブを拡大するような形になるんじゃないかと思います。原曲をリスペクトしつつ、それをただ再現するのではなく、この5人だからこそできることをやる。バンドというより、いい意味で、ふら〜っとたまたま集まった5人が演奏しているような感じになれば良いなと思っています。

三浦：前回のライブが終わった後、すごくいいものができたという実感があったんです。だから、そこで作り上げた空気感を受け継いでいくことが大事、という話をライブの後に3人でしたのを覚えています。

有元：今回、参加してくれる山本くんと上原くんは僕が選んだんですけど、すごくバランスのいい編成になると思います。ミュージシャンって四角いマスで音楽を捉えている人と、ふわっとした球体で音楽を捉えている人がいると思うんですよ。この5人はマスと球体のバランスが良い気がして。

三浦：へぇー、私はどっちなんだろう？

有元：三浦さんはマスかな。僕はマスなところもあるけど基本は球体。小田さんはマス。山本くんが球体で、上原くんがマス。

――ちゃんと混ざり合ってますね。

小田：でも、それぞれマスと球体のグラデーションじゃない？

有元：そうですね。みんな状況次第でマスにも球体にもなれる人たちです。

――でも、5人だと小田さんの家に集まるのは大変そうですね。

小田：今度も集まろうと思ってます。

三浦：その予定だけは立てたね（笑）。

――小田さんの家で生まれる空気というのが大切なんですね。ライブで間近に三浦さんの歌声を聞かれているお二人に伺いたいのですが、三浦さんの歌声の魅力はどんなところでしょう。

小田：そうですね……名前に引っ張られているかもしれませんが、芯のある透明さかもしれません。イメージが広がる透明感というか。どこに行ってもいいよって言われているような気がするんです。だから、支えなきゃって思いつつも自由に演奏できる。

有元：三浦さんは低域から高域まで無理して声を出していないんですよ。普通、高い声になるにつれて声が出なくなるので声を張らないといけなくなるんですけど、三浦さんはどんどん力が抜けていく気がして。だから、こっちも自然体で演奏できるんですよね。

三浦：力が抜けるのは、曲に対する解釈が大きいと思います。高音になる＝曲の盛り上がりと解釈すると、エネルギーを増やしていきたくなるんですけど、私の曲は必ずしもそういう作りになっていないような気がして。これまで曲ごとにいろんな方とコラボレーションしてきたことで、いろいろと鍛えられたと思います。曲ごとに自分の役割とか、自分が面白いと思えるものを見つけてきました。そうすることで、自分が知らなかったことや新しいことに気づけるのが楽しかったんです。そういうありがたい経験を経て、次は自分がやりたいことに的を絞ったアルバムを作ってみたいと思っています。

――音楽に対する向き合い方が変化しつつある時なんですね。そんななかでライブを経験したことで何か発見したことはありました？

三浦：歌を始めた時は、ライブをやりたいという気持ちを全然持てなかったんです。自分が人前で歌を歌うということが想像できなくて。歌の仕事は、とにかくレコーディングが楽しかった。自分の声に集中できて、一音一音に細かくこだわることができるのが面白くて。生で歌う時にどうするのかは考えていませんでした。でも、ミュージカルを経験したこともあって、私はシンガーなのだから生で歌を聴かせることができないとダメなんじゃないかと思うようになりました。そんな時にビルボードライブさんからライブの話をいただいたんです。

――タイミングが良かったんですね。

三浦：妥協せずに作り上げた曲をなぞるのではなく、ライブでしかできないことを妥協せずにやるにはどうしたらいいんだろう、と考えるようになりました。それで、まず楽器に負けないように身体を作ろう！とかいろいろと考えるようになったんです。そういった課題に初めて取り組んだのが前回のライブでした。次のライブはドラムとベースが入るので、もっと体力が必要になってくる。気合を入れて鍛えていきたいと思います。

小田：透子さんは音楽の自由さを引き出してくれるので、次はいろんなチャレンジができる気がしています。

有元：三浦さんは俳優もやられているので、大衆性がありながらも尖ったことを表現できたら良いですね。

三浦：参加してくれるミュージシャンの方々が歌をサポートする、という形ではなく、それぞれがやりたいことを実現できるライブになるのが理想です。良い五角形になりたいですね。