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<インタビュー>mikah “前作とは異なる自分が表現できた”――EP『PRETTY LIES』で始まる新たなスタート

Interview & Text:松永尚久
Photo:興梠真穂
Interpreter:渡瀬ひとみ
ボーイズ・グループのメンバーとして日本や中国などで活躍。2023年よりソロのシンガー・ソングライターとして作品を発表し、今年の【SUMMER SONIC 2024】では繊細かつ堂々たるパフォーマンスで注目を集めた、mikah(ミカ)。リリースされたばかりの2nd EP『PRETTY LIES』は、メランコリアが漂うエレクトロニックをベースにしながら、R&Bやポップスなど、多彩な音楽感覚にあふれたサウンドにのせ、ソロ・アーティストとして活動するなかで感じた・見えた風景をありのまま表現しているという。ディープと軽やかさが共存した、独自の世界を築いていく彼にじっくりと話を聞いた。
これまでのキャリアで一番と言えるくらい緊張した
――まずは、生まれたハワイにて音楽活動を始めたきっかけを教えてください。
mikah:日本に移り住むようになってから、音楽を自分のキャリアにすることを真剣に考え始めました。ハワイにいる頃も、音楽を通じて特別な気持ちになれたことは確かなのですが、好きで聴いていた程度。また、向こうではバイオリンとウクレレを習っていたのですが、それで生計をたてるとかは考えたことはなかったですね。実は、僕はとてもシャイな性格で、それを克服するために学校でコーラスのクラスを受けるようになって、聖歌隊にも参加したのですが、自分にはしっくりこなくて。だから、日本に来てシンガーとして活動するというのは、振り返ってみると不思議だなと思います(笑)。
――日本にいらしてから、本格的にミュージシャンを志すようになられたのですね。
mikah:ハワイから日本に来た時点で、音楽に全力で取り組んでいく決意をしました。以降、ボーカルやダンス、ステージングなどのレッスンをしながら、楽曲制作もスタートさせ、ギターも弾けるようになったので、来日して2年くらい経過した頃から、将来的にシンガー・ソングライターとして活動していくビジョンを描いていましたね。

――どういうアーティストに影響を受けましたか? ハワイの音楽からもインスパイアは?
mikah:その影響は少ない気がしますが、ブルーノ・マーズは大きなインスピレーションになっています。彼は僕と同じハワイ出身で、地元を離れて成功し、今やグローバルな存在になっている。どんな環境にいても、成功することは可能なんだということを教えてくれたし、また彼の持っている技術や表現力からも強い刺激を受けています。いろんな意味で、自分のモチベーションを高めてくれるミュージシャンといえますね。
――ソロになる前には、グループで活動をしていました。そこでの経験はいかがでしたか?
mikah:最初にグループで活動できた経験は、自分にとって良かったなと思う。音楽業界(ショウビズ)で始動するのがグループだと、いろんな出来事をメンバーと協力し乗り越えられたり、自分に難しい部分があると補ってもらえたり。特に、僕は日本に親戚がいて何度が訪れていますが、日本語をそんなにうまく喋れなくて。だからグループ活動していくうえで、メンバーに助けてもらう部分が多かったのですが、そこは本当に感謝していますね。
――日本語を覚えるのは大変でしたよね。
mikah:今は、中国語も学んでいるので、忘れてしまったことが多いのですが…。幼い頃から母親が僕には日本語で話しかけてくれたので理解はできるのですが、それを英語で答えてしまっていたので、うまく自分の感情を表現できなくて。もっと母親と日本語でコミュニケーションしておけばよかったと、今になって思いますね。
――そうしたら、中国に行った時の方が大変でした?
mikah:日本は言葉や文化も理解できるので、そんなに違和感はなかったのですが、中国は大変でしたね。英語を理解している人も多いのですが、基本的に中国語ですべてのコミュニケーションをとらなくてはいけなくて、最初の1年間はストレスやフラストレーションが溜まっていました。やがて、必死に覚えて3年目くらいになってようやく、日常会話レベルならば問題なく話せるようになりました。
――でも、そういった苦労もソロ活動するためのプロセスで大切な経験だったのでは?
mikah:そうですね。さまざまな機会を与えていただいて、良かったなと。新しいところに行って、その国の音楽や文化を学べたことは。それが、現在の僕の音楽スタイルにも、いい効果を与えてるんじゃないかなと思います。

――2023年から、ソロ活動を本格的にスタートさせたわけですが、やはりグループとは異なる楽しさや難しさを感じることがあるのでは?
mikah:ソロになれて本当に良かったなと思います。グループでの活動は、たくさんの方々にサポートいただきとても充実したもので、ソロ・ミュージシャンとしてどういうことを準備するべきなのかということを学ぶことができた。だから、ひとりで活動をするにあたり、自分が何にフォーカスすべきかということが明確に見えていたのです。またソロでは、クリエイティブな自由がある。グループだと、他の意見もあるから、妥協しなきゃいけない部分もあったけど、ソロでは自分自身をフルに表現できた。これまで2枚のEPをリリースしましたが、自分のアーティスト性をうまく表現できたと思うし。グループ活動っていうのはいい思い出ではありますけれども、断然現在のソロの方がいいです。
――そして2024年8月には、【SUMMER SONIC】のステージでパフォーマンス。
mikah:僕は相変わらずシャイな性格で、それは克服しなくてはいけない問題。グループにいた頃は、オーディエンスの視線が自分だけに注がれるわけではなかったのですが、ソロだと否応なしに僕に向けられる。それには、まだ慣れていなくて…(苦笑)。【SUMMER SONIC】はプライベートで何度か遊びに行っているものなので、そのステージに立つことの意味、大きさがわかっていた。だから、これまでのキャリアで一番と言えるくらい緊張してしまいましたね。

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これからも自信を持って自分のやりたいことを追求したい
――今回リリースされた2nd EP『PRETTY LIES』。そういったソロでの経験も制作に反映されていますか?
mikah:前作は、ソロとして活動し始めたばかりの頃だったので、いろんな意味でチャレンジがあったし、自分ひとりでいろんなことを考えていた。例えばオーディエンスにどんなものを届けたら響くのかとか。考えすぎてしまったような気がします。なので、今回は自分のアーティスト性を大切にすることをプライオリティにしたというか。リスナーのことを考えたりとか、ヒット曲を作らなくてはいけないみたいな、プレッシャーをかけることなく、純粋に自分が耳にして心地よいと思える音楽を追求しようと。それをオーディエンスが気に入ってくれたらという感じ。だから、自分自身に忠実で、全く嘘がない作品になりましたね。
――でも、タイトルは『PRETTY LIES』なんですね(笑)。
mikah:(笑)。タイトルは、作品のコンセプトみたいなものであって、作品自体は嘘のない自分が反映されています。
――ソングライティングはご自身でされて、トラックメーカー、プロデューサーとのセッションで楽曲が完成していくプロセスでしたか?
mikah:スタジオには、特にアイディアを持ち込むことはなく、そこで話しあうなかで、コンセプトやアイディアをまとめ、ギターやピアノなどの楽器を演奏しながら、メロディー・ラインができていく。そこに歌詞をのせていくというようなプロセスが基本。でも、その過程で新しいアイディアが浮かんだら、それを追加したりブラッシュ・アップさせながら、楽曲が完成していきました。

――リリックは、どういうトピック、エモーションを表現しようと思いましたか?
mikah:楽曲によって異なります。それぞれの曲でいろんな感情や観点を捉えていて。ただ、今回のEPは混乱や喪失、空虚感みたいなものを感じている自分を表現できたのではないかなと思います。
――では歌詞を作る時は、ディープに自分と向き合う?
mikah:それも楽曲によりますね。制作当時の気分にも左右されますし。今回は、収録曲の「CHASING PARADISE」に関しては、コンセプト、方向性みたいなものをベースに置いて制作したので、 1フレーズごとにじっくり考えて完成させたのですが、他の楽曲は空虚感、哀しみ、何かを探し求めている姿とかをストレートに表現したものが多い。特に「MISS YOU」は、マイクの前で歌い始めて、浮かんだフレーズをそのまま歌詞にした感覚で完成したもの。だから、楽曲によって向きあう時間は異なります。
――でも、じっくり制作した「CHASING PARADISE」はEPのなかでもっとも軽やかな仕上がりになっていますよね。
mikah:これは、今までの自分にはないポップ寄りなサウンド。そこに自分のディープな気持ちを投影させたかった。実は、早いテンポのポップ系の曲ってあんまり好きではないタイプなんですけど、重いテーマを扱っているので、サウンドはハッピーにしてコントラストをつけたかったのです。

――また、心を弾ませる展開になったのは、ライブでの反響を意識した部分はありましたか?
mikah:そうですね。「CHASING PARADISE」はもちろん、他の楽曲もステージ映えするというか。ライブの雰囲気にフィットするサウンドになったと思っていて。それを自然な形で表現できたことがよかった。前作に関しては、哀しいスローな曲が中心だったので、ステージにもそういう雰囲気が流れてしまった。その空気を変えたいという意識が、自分のなかで自然に発生したのかもしれませんね。
――一方で、「TOO HARD TO」で響かせるコーラスは、スタジオならではの濃密な雰囲気を感じられる楽曲に。
mikah:そうですね。この楽曲では、コーラス・ワークが全面的に展開されていて、今までのものと全然違う雰囲気に。だから今回のEPに関しては、完成度にとても満足しているし、前作とは異なる自分を表現することができた。 新しいスタートをきれた、という充実感がいっぱいです。
――ボーカリストとしてはどうでしたか? 今回すごく大切にしたことだったりとか。できるだけ感情的にならず、フラットな雰囲気を醸し出していたような。
mikah:自分をボーカリストとしてあまり考えたことがなくて、楽曲の世界を表現するためのひとつのツールとしてしかとらえていないのです。だから、自然な形でいろんなタイプの楽曲を歌っていただけなのですが、裏声と地声を駆使して展開のあるものもあるので、今後ステージで披露するのがとても難しいと思います(苦笑)。ボーカリストとしては、決して完璧とは言えないのですが、自分の気持ちを無理なく表現できたのかなと思います。
――今回のEPを完成させて、また次のビジョンが見えましたか?
mikah:このEPが完成したばかりの状況なので、次の作品のことはまだ考えられないですね。現在は、収録曲のビジュアルをどう展開していき、多くの人に拡散できるかということに集中したい。ただ、今の自分だからできることを表現できた作品になったので、これからも自信を持って自分のやりたいことを追求したいという気持ちが強くなりました。

――2024年はどんな1年でしたか?
mikah:楽しかったです。EP制作と同時に他のプロジェクトもやっていたので、結構大変だったんですけれども、今後どういうことをやればいいのかが少しずつ明確になってきたというか。音楽だけでないさまざまな分野も活用しながら、どう自分の音楽を展開したらいいのか、ということが見えてきました。
――そうしたら、2025年以降の活動が楽しみになってきました。
mikah:ソロになって、さまざまなスタイルの楽曲をリリースしているので、リスクはあったんですけれども、リスナーの方からの反響が良いので、今後も自分らしいサウンドを追求することに集中したい。僕自身のことをより深く理解していただき、方向性が伝わる音楽をこれからも発表していけたら。それを支持してくださるリスナーが、もっと増えていくことを願っています。




























