Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>新しいかたちで絆が深まっていくのを感じた――幾田りら×ano、映画『デデデデ』声優&主題歌の挑戦【MONTHLY FEATURE】

top

Interview:Takuto Ueda

 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(以下、『デデデデ』)で主題歌を担当した幾田りら、anoの対談インタビューをお届けする。

 『デデデデ』は、浅野いにおによる同名マンガを原作としたアニメ映画。宇宙から襲来した母艦が空に覆いかぶさる東京で青春を謳歌する“門出”と“おんたん”の物語を描いた本作は、前章が3月22日、そして後章が5月24日に公開された。門出こと小山門出役を幾田、おんたんこと中川凰蘭役をあのが声優として演じ、二人はそれぞれ主題歌も担当。前章はano feat. 幾田りら名義の「絶絶絶絶対聖域」、後章は幾田りら feat. ano名義の「青春謳歌」が起用されている。

 ともにミュージシャンとして活動し、幅広い世代から支持を集めるが、表現する世界観や活動スタイルは異なる二人。そんな異色にも映るコンビが映画『デデデデ』を通じ、どのように表現を交わしてきたのか。二人に話を聞いた。

それぞれの正義を持っていてもいいんだなって

――映画『デデデデ』は、前章と後章の2章立て。まず3月22日に前章が公開されましたが、その後、お二人のもとにはどんな反響が届きましたか?

幾田:原作の漫画作品があって、ファンの方々もたくさんいるなかで、自分が門出の声として受け入れてもらえるか、というのは映画が公開されるまで本当に分からなくて。楽曲のほうも同じですけど、自分が全身全霊で臨んだぶん、すごくドキドキもしていたので、そこに対して良い反響をいただけたのは率直に良かったなと思いました。

ano:声優は初挑戦だったし、原作ファンの方々は不安もあったと思うんですけど、でも、「実際に見たらこの二人で良かった」とか「選ばれた意味が分かった」という声をすごく多くいただいたので、そこでようやく安心できました。




映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』本予告解禁!【前章3月22日(金)・後章5月24日(金)全国公開】


――そして今回、後章が公開されました。まずは完成した作品の率直な感想をお聞かせください。

幾田:あらためて門出とおんたんの日常が愛おしくなりました。後章の主題歌もようやく作品の中で流れて、全てのピースがはまったところで、この作品に携わることができて本当に良かったなと思いましたね。

ano:本当にとんでもないものができたなと思いました。原作は2014年に始まった作品ですけど、コロナ禍も経て世界の状況ががらっと変わって、でも変わらないものもたくさんあるなかで、そんなタイミングに自分と幾田さんでやれたことにもすごく意味があったし、「全てのピースがはまった」と言ってくれたけど、本当にそうで。計算していないのに計算され尽くされているように全部がつながっていて、そういう意味でも達成感がとてもありました。

――まさに現代社会のメタファーのようにも受け取れる作品で、このタイミングで公開されることにも意味があるように感じました。お二人は現代を生きる一人の人間として、この作品からどんなメッセージを受け取りましたか?

幾田:「何を正義として生きていくか」とか「自分の命が終わる瞬間をどんなふうに過ごしていたら幸せか」とか、そういうことをすごく考えました。全員がハッピーエンドじゃなかったとしても、大切な人と一緒にいられたら、何を差し置いても最後の瞬間に幸せだったと思えるなってあらためて思ったし、そういう大切なことをたくさん教えてくれる作品だと思います。

ano:この作品に出会う前から、何かを得たり、守り抜くには、何かを捨てなきゃいけない世界だと思っていて。僕はいままでそうしてきて。でも、この作品を見て、それでいいんだなと思わせてもらったというか。それぞれの人生があって、それぞれの正義を持っていてもいいんだなって。たとえ残酷な終わり方だったとしても自分は自分で、自分が守りたいものを守るという考え方はすごく腑に落ちたというか、すっきりした気分でした。

――もし世界が終わってしまうとしたら、お二人は最後にどんなことをして過ごしていたいですか?

幾田:やっぱり門出とおんたんのように、大切な人と何気ない日常を過ごしたいです。あと、私は美味しいご飯を食べているときが一番幸せなので、大切な人とご飯を食べている瞬間に終わりを迎えたい。そういう当たり前の日常ですかね。

ano:今の自分は仕事仕事な毎日で、ごく平凡な普通な日常生活を送ることが当たり前ではないことも分かっているし、僕も門出とおんたんみたいに普通に過ごして、適当にテレビを見て「こいつキモいね」とか言いながら終わりたいです。

――主題歌についても聞かせてください。楽曲について、映画サイドからイメージの共有やリクエストなどは事前にあったのでしょうか?

幾田:いや、けっこう全任せというか、「好きなようにやってください」という感じでした。

ano:僕もです。

――二人で話し合ったりは?

幾田:なかったよね。

ano:なかったです。

――偶然とは思えないぐらい対照的な2曲ですよね。前章の主題歌「絶絶絶絶対聖域」ですが、作詞はanoさんで、作曲がTKさん。これは詞が先ですか?

ano:いや、メロが先です。前章の主題歌を歌わせていただくことが決まったとき、“デストラクション”の部分をフィーチャーしたいと思って、それでTKさんにお願いすることにしたんです。実際にTKさんと会ってお話しして、僕からは「ぶち壊すような、もう何も気にせず全部が崩壊するような曲がいい」というのと、「シャウトはマストで入れたい」という注文をさせていただいて。そこからメロが上がってきて、僕が歌詞を付けていくという流れでした。




ano feat. 幾田りら 「絶絶絶絶対聖域 」Music Video


幾田:最初にデモが届いたとき、とんでもない曲が来たなと思って。でも、いろんなことがハチャメチャになって、物語が混沌となっていく前章の最後に流れる曲として、この破壊的な楽曲が出てきたらすごいことになるだろうなって、最初の第一印象で思っていました。こんな楽曲が届いたからには、自分が今まで出したことのない新しい歌声を出さないと、それに相応しい表現にはならないなって。なので、自分を捨てようと思いました。それぐらい楽曲と歌詞も素晴らしかったので。果敢に挑戦していこうって気持ちになりましたね。

――ボーカリストとして新しい引き出しが増えた感覚もある?

幾田:そうですね。シャウトは初めてやったので。最初はどうやって声を出したらいいかも分からなかったんですけど、レコーディングでTKさんがレクチャーしてくれて、手取り足取り教えていただけたので、やっと出すことができました。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>

一つひとつの挑戦が大きな壁だった

――詞の部分ではどんなところを表現したいと思いましたか?

ano:物語が終わっていく戦いでもあるので、そういう終末感をサビに持っていきたいなって。でも、やっぱり二人の平凡な日常が終わってほしくないなって気持ちも込めて、2番のBメロとかはそういう歌詞になったと思います。

――お気に入りのフレーズなどがあれば教えてください。

ano:<革命前夜はあいつのキモいとこ言おう>の部分は、好きだと言ってくれる人が多くて。門出とおんたんも「渡良瀬がキモい」みたいな話をずっとしているのが日常で、僕はそれが続いてほしいと思ったので、あえてそういう言葉を選んでみました。

幾田:これはanoちゃんにしか書けない歌詞だと思いました。おんたんだけど、anoちゃんという人の人生観や想いもすごく練り込まれた歌詞で、本当に衝撃を受けました。その言葉で歌声も引き出してもらった感じがすごくあって。自分が普段使わないようなニュアンスの言葉も綴られていて、そこから引き出された表現が自分の中にはもともとなかったものだと気づいたときに、すごくワクワクしたし興奮しました。

――作詞の作業はいつ頃?

ano:去年です。

――その時期の周囲の環境とか、自分の生活からインスパイアされた部分もあったりしますか?

ano:モデルの撮影をしたり、バラエティ番組に出たり、レコーディングやツアーをしたり、この作品で声優もやったりしていて、去年は本当に目まぐるしい一年だったので、自分が自分じゃなくなるというか、どこかに吸い込まれるんじゃないかって瞬間になるときがちょっとあって。そういうときに自分はどういうことを伝えたいかとか、それこそ自分が大切にしたいこと、何を正義と思って生きるかとか、そういうこともたくさん考えたし、おんたんにとっての門出みたいな“絶対的な存在”がいたとして、それを守るのに世間の正論は要らないよねって考え方にはすごく影響されたと思います。

――続いて、後章の主題歌「青春謳歌」について。作詞作曲は幾田さん。

幾田:まず原作の漫画を全部読み終えて、一人の読者として、後章のエンディングにどんな音が流れてきたら納得できるかをすごく考えました。そのなかで、どんな結末を迎えたとしても、門出とおんたんが絶対的な二人で、その二人が一緒にいて、それぞれの正義が貫かれていればそれでいいし、いつもの何気ない会話がいつまでも続いていてほしい、というのが一番の願いだなというところにたどり着いて。だったら、この二人らしい青春ポップチューンにしたいと思って、その想いのままに書いていった感じです。




『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』後章 本予告


――そんな青春の煌めきと儚さを感じさせるギミックもたくさん盛り込まれていて。

幾田:最初の「ワン、ツー、スリー」とか最後の笑い声とかは、もともとイメージしていたアイデアで。あと、二人の会話をラジオボイス的に入れるというのも最初の構想のときから決めていました。映画が終わった瞬間、まるで全部が門出とおんたんの作り話だったかのような、この作品すらも二人の手のひらの上で転がされていただけみたいな、そういう感じ方をしてもらえるような曲を目指しました。

――anoさんはどんな第一印象を抱きましたか?

ano:一番最後の締めくくりにとても相応しい曲だと思ったし、原作ファンの気持ちに応える部分だったり、僕が歌っていても違和感のないような歌詞にしてくれている優しさだったり、いろんなものを感じました。

――レコーディングのときにこだわったポイントがあればそれも教えてください。

ano:普段の自分の曲ではパキッと歌いがちというか、けっこう声を張る曲が多いんですけど、「青春謳歌」が優しい部分を引き出してくれたし、個人的には裏声を使いながら歌うのは挑戦でした。今までやったことがない歌い方で、新しい自分を見つけたなと思いました。

幾田:よかった。

――幾田さんの中にはどんなボーカル像があったのでしょう?

幾田:どんな声で歌ってもらうのがいいのか考えるなかで、anoちゃんの楽曲もたくさん聴いたんですけど、個人的に好きだったのは、柔らかい曲なんだけど、その中にちょっと感情表現が見え隠れしたときの、ぎゅっと胸を掴まれるような感じで。それが光る曲、光るメロディーにしようと思って作りました。レコーディングは別だったんですけど、ちゃんと120パーセントで返してくれたのを聴いて「ああ、天才だ、ありがとう」って気持ちになりました。私が歌う「青春謳歌」ともまた違う、anoちゃんにしか表現できない感じ。私もコラボ曲を書くのは初めてだったし、いろんなものが積み重なって完成した「青春謳歌」だと思うので、全方向に感謝だなと思います。

ano:うれしい。本当に曲が良い。

――<僕らの必殺技で>の掛け合いはちょっと泣けました。

幾田:なんかもう楽しくなっちゃって。歌うのが自分だけじゃないので「こんなこともあんなこともしちゃおう」みたいな。ここ最近で作った曲の中で一番楽しかったです。遊びまくっちゃいました。




幾田りら feat. ano「青春謳歌」Official Music Video


――門出とおんたんがそうであったように、日常をともに過ごしていくなかで、お互いの関係性にも変わらない部分と変わる部分があったかと思います。振り返ってみていかがですか?

幾田:プライベートでご飯に行ったりは一度くらいしかなかったんですけど、こうやって作品を通して表現をぶつけ合ったり、大きな作品を一緒に手探りで作ってきて、一つひとつの挑戦が大きな壁だったので、実際に過ごす時間が長くなくても、新しいかたちで友情や絆が深まっていくのを感じていました。こういうのもあるんだなと思いましたね。

ano:本当にその通りで。僕、もともと人との会話が得意じゃなくて、人間関係において諦めている部分も多いんですけど、こうやって作品を通してだったり、同じ仕事をしていくなかで、言葉を交わさなくても相手のことをここまで信用できるんだなとか、そういう大切なことに気づかせてもらいました。

――門出とおんたんの絆のように、二人の縁がこれからも続いていくといいですね。今後、また二人がコラボする機会があったら、どんな曲を一緒に歌ってみたいですか?

幾田:想像したことない。どんなのがいい?

ano:何だろう。ラップとか、クラブ・ミュージック的な? 二人があまりやってなさそうな。

幾田:たしかに。今回はそれぞれの得意分野を生かした曲だったから、次はお互い初めてっていうのはいいかもしれない。

ano:うん。

幾田:あと、ミュージック・ビデオとかも含めて、けっこうお互いに何でも屋さんというか、いろんなことをするタイプだから、ボーダーレスにいろんなことをやってみたいなと思います。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>

幾田りら feat.ano「青春謳歌」

青春謳歌

2024/04/17 RELEASE
XSCL-86 ¥ 2,200(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.青春謳歌
  2. 02.青春謳歌 [Anime Edit]
  3. 03.青春謳歌 [Instrumental]
  4. 04.青春ッ!!あのりらじお

関連商品

愛してる、なんてね。
ano「愛してる、なんてね。」

2024/08/21

[CD]

¥1,650(税込)

愛してる、なんてね。
ano「愛してる、なんてね。」

2024/08/21

[CD]

¥4,400(税込)

青春謳歌
幾田りら feat.ano「青春謳歌」

2024/04/17

[CD]

¥2,200(税込)

絶絶絶絶対聖域
ano feat.幾田りら「絶絶絶絶対聖域」

2024/03/20

[CD]

¥2,200(税込)

猫猫吐吐
ano「猫猫吐吐」

2023/12/13

[CD]

¥3,850(税込)

猫猫吐吐
ano「猫猫吐吐」

2023/12/13

[CD]

¥11,000(税込)

Sketch
幾田りら「Sketch」

2023/03/08

[CD]

¥3,300(税込)

Sketch
幾田りら「Sketch」

2023/03/08

[CD]

¥4,950(税込)

INSPIRE
(V.A.) 瑛人×yama 幾田りら LiSA Kizuna AI 春茶 アイナ・ジ・エンド 中島美嘉「INSPIRE」

2020/10/28

[CD]

¥10,230(税込)

INSPIRE
(V.A.) 瑛人×yama 幾田りら LiSA Kizuna AI 春茶 アイナ・ジ・エンド 中島美嘉「INSPIRE」

2020/10/28

[CD]

¥3,630(税込)

INSPIRE
(V.A.) 瑛人×yama 幾田りら LiSA Kizuna AI 春茶 アイナ・ジ・エンド 中島美嘉「INSPIRE」

2020/10/28

[CD]

¥6,230(税込)

フェイフェイと月の冒険
(オリジナル・サウンドトラック) Steven Price 幾田りら 大平あひる ルーシー・アン・マイルズ、ジョン・チョー&キャシー・アン キャシー・アン フィリッパ・スー フィリッパ・スー&ロバート・チウ「フェイフェイと月の冒険」

2020/10/23

[CD]

¥2,640(税込)

愛してる、なんてね。
ano「愛してる、なんてね。」

2024/08/21

[CD]

¥1,650(税込)

愛してる、なんてね。
ano「愛してる、なんてね。」

2024/08/21

[CD]

¥4,400(税込)

青春謳歌
幾田りら feat.ano「青春謳歌」

2024/04/17

[CD]

¥2,200(税込)

絶絶絶絶対聖域
ano feat.幾田りら「絶絶絶絶対聖域」

2024/03/20

[CD]

¥2,200(税込)

猫猫吐吐
ano「猫猫吐吐」

2023/12/13

[CD]

¥3,850(税込)

猫猫吐吐
ano「猫猫吐吐」

2023/12/13

[CD]

¥11,000(税込)

Sketch
幾田りら「Sketch」

2023/03/08

[CD]

¥3,300(税込)

Sketch
幾田りら「Sketch」

2023/03/08

[CD]

¥4,950(税込)

INSPIRE
(V.A.) 瑛人×yama 幾田りら LiSA Kizuna AI 春茶 アイナ・ジ・エンド 中島美嘉「INSPIRE」

2020/10/28

[CD]

¥10,230(税込)

INSPIRE
(V.A.) 瑛人×yama 幾田りら LiSA Kizuna AI 春茶 アイナ・ジ・エンド 中島美嘉「INSPIRE」

2020/10/28

[CD]

¥3,630(税込)

INSPIRE
(V.A.) 瑛人×yama 幾田りら LiSA Kizuna AI 春茶 アイナ・ジ・エンド 中島美嘉「INSPIRE」

2020/10/28

[CD]

¥6,230(税込)

フェイフェイと月の冒険
(オリジナル・サウンドトラック) Steven Price 幾田りら 大平あひる ルーシー・アン・マイルズ、ジョン・チョー&キャシー・アン キャシー・アン フィリッパ・スー フィリッパ・スー&ロバート・チウ「フェイフェイと月の冒険」

2020/10/23

[CD]

¥2,640(税込)