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<コラム>『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』サウンドトラックが示すのは、癒しと失われつつあるマヤ文明への敬愛



コラム

Text:村上ひさし

 映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の公開に先駆けて、劇中歌と映画にインスパイアされた楽曲を収録したサウンドトラック・アルバム『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ミュージック・フロム・アンド・インスパイアード・バイ』がリリースされた。本作からのリード・シングル「リフト・ミー・アップ」は、リアーナの6年ぶりのソロ楽曲ということもあり、既に大きな話題を呼んでいるが、ひと足先の7月に公表されて予告篇にも用いられた「ノー・ウーマン、ノー・クライ」を歌っている女性シンガー、テムズ(Tems)にも熱い視線が注がれている。


 テムズはナイジェリア出身のシンガーソングライター。オルタナティヴR&B/ネオソウル系の楽曲を、温かみのある歌声で丁寧に歌い上げる。2020年のウィズキッドのヒット曲「エッセンス」にフィーチャーされたのをきっかけに注目を浴び、2022年のフィーチャーの全米No.1ソング「ウェイト・フォー・U」にドレイクと参加し、ビヨンセの最新アルバム『ルネッサンス』ではアフロビーツを導入した楽曲「ムーヴ」にグレイス・ジョーンズと共に参加。本作収録のソロ楽曲「ノー・ウーマン、ノー・クライ」では、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの名曲を、琴線に触れる慈愛に満ちた歌声でしっとり聴かせてくれる。


 またテムズは、リアーナの歌う「リフト・ミー・アップ」の共作者でもある。前作『ブラックパンサー』のティ・チャラ/ブラックパンサー役で人気を博したチャドウィック・ボーズマンは、2020年に大腸がんのため他界。同曲は彼に捧げられており、テムズは以下のようにコメントしている。

「(ライアン・クーグラー監督から)映画と音楽の方向性を聞いた時、私はこれまでの人生の中で失くした人たちに温かく抱擁されている、そんな曲にしたいと思いました。彼らに向かって歌いかけ、どれほど会いたいかを伝えたいと考えながら作りました。」


 アルバム『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ミュージック・フロム・アンド・インスパイアード・バイ』でエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるのは、スウェーデン人作曲家のルドウィグ・ゴランソン。俳優ドナルド・グローバーの音楽プロジェクト、チャイルディッシュ・ガンビーノの共作者/プロデューサーとして知られるほか、ハイムやチャンス・ザ・ラッパーも手掛けている。『ヴェノム』や『テネット』といった映画のスコアも多数手掛けており、本作のクーグラー監督とは前作『ブラックパンサー』のほか、『フルートベール駅で』『クリード チャンプを継ぐ男』などでもタッグを組んだ仲。トーキング・ドラムなどのアフリカの伝統楽器の導入でも話題を呼んだ前作に引き続き、本作の劇中オリジナル・スコアも担当する。


©Marvel Studios 2022


©Marvel Studios 2022

 前作のサントラ『ブラックパンサー ザ・アルバム』は、ケンドリック・ラマーがキュレート。2チェインズ、カリード、スウェイ・リー、ヴィンス・ステイプルス、ジョルジャ・スミス、アンダーソン・パーク、ジェイムス・ブレイク、トラヴィス・スコットほか、豪華な顔ぶれが多数参加した。全米チャートで1位を獲得した同作からは、ケンドリック・ラマーがシザと共演した「オール・ザ・スターズ」、ザ・ウィークエンドと共演した「プレイ・フォー・ミー」などのシングル・ヒットも生まれた。続編となる今回のサントラでは、ナイジェリアとメキシコのアーティストたちが中心に選ばれている。


 前出のテムズをはじめ、ジャスティン・ビーバーやエド・シーランともコラボするバーナ・ボーイ、セレーナ・ゴメスとリミックスで共演したレマ(Rema)、ファイヤーボーイDML、CKayらはナイジェリア出身のアーティストで、Vivir Quintana、Mare Advertencia、Alemán、Blue Rojoらはメキシコ出身のアーティスト。さらにガーナ系英国人のストームジーや、ケニア系英国人のピンクパンサレス(PinkPantheress)、E-40、フューチャーといったアフリカ系アメリカ人も参加する。ライアン・クーグラー監督とルドウィグ・ゴランソンの2人は、ナイジェリアとメキシコに長期間滞在して、現地のミュージシャンたちとセッションを繰り返したそうで、本作のストーリーに沿った背景、音楽性をもつアーティストたちが起用されている。マヤ語で歌われる「Laayli' kuxa'ano'one」というナンバーには、マヤ人ラッパーのパット・ボーイ、Yaalen K'ujとAll Mayan Winikが参加。失われつつあるメキシコのマヤ文明と音楽を守るためにも、ゴランソンはこの曲をサントラに収録したかったそうだ。


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