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<2022年上半期Artist 100首位記念インタビュー>YOASOBI×直木賞作家で生み出す『はじめての』プロジェクト、チームで挑戦した楽曲制作について

インタビュー

 2022年上半期のBillboard JAPAN各種チャート結果が発表された。ソング・チャートとアルバム・チャートを合算した総合アーティスト・チャート“Artist 100”で首位となったのは、小説を音楽にするユニット、YOASOBI。今年は直木賞作家4名とのコラボレーション・プロジェクトを始動させたほか、各地の夏フェスへの出演も決まり、活動の幅をますます広げている。2021年の年間チャートでは同部門2位となり、悔しい思いをしたと語る二人に、上半期の精力的な活動を振り返ってもらった。

――2022年上半期のBillboard JAPAN総合アーティスト・チャート“Artist 100”で首位となりました。まずは率直な感想をお聞かせください。

Ayase:めちゃくちゃ嬉しいです。去年は上半期で首位だったけど、年間では2位ですごく悔しかったので。それに、この半年間で音源のリリースは「ミスター」だけなので、びっくり嬉しいみたいな感じです。今までに比べると、みんながYOASOBIに触れてくれる機会は決して多いわけではなかったし、そんななかでもたくさん聴いてくれたというのは本当に嬉しいなと。

ikura:私も驚き嬉しいって感じで。アルバムのチャートを見ると今でも『THE BOOK』も『THE BOOK 2』も入っていて、たくさんの方に長く聴いていただいているんだなという実感があって、嬉しい気持ちでいっぱいです。3月には映像作品集『THE FILM』も出ましたし。

Ayase:小説『はじめての』もね。曲を聴いてもらえるきっかけはたしかにあったのかなと思いますね。



▲ 「ミスター」MV / YOASOBI


――その小説『はじめての』は、直木賞作家4名による短編集で構成されています。それぞれを題材とした楽曲をYOASOBIが制作するプロジェクトで、その第一弾が「ミスター」ですね。

Ayase:もともとプロの作家の方ともコラボしてみたいとは思っていて。きっといろんな展開ができるだろうなって構想はありました。ただ、monogatary.comで応募してくださった方々の小説も、今回の4作品も、接し方や曲作りの心構えは一緒で。今回もプロの作家さんだからというより、シンプルにみなさんの作品が素晴らしかったので、これはいい曲作らなきゃなって思いましたね。

ikura:私も今回コラボさせていただくみなさんの作品を読ませていただいていたので、本当に夢のようというか、こんな光栄なことがあっていいのかと思いつつ、今まで2年半かけて小説を音楽にする活動を続けてきたので、そこは自信を持って臨まなきゃいけないなという気合で向き合いました。

――この上半期、お二人が何かチャレンジしたことがあれば教えてください。

ikura:それこそ「ミスター」のレコーディングは挑戦でした。この部分は出せるか分からないけど地声のほうがいいんじゃないかとか、いろいろとみんなで話し合って、家で一人で練習したときには出てこなかった声が出せたりして。そのときに出せる一番いい歌を録るんだって気持ちで臨んだからこそ録れたテイクが何本かあったなと思います。

Ayase:もう何度もレコーディングしているとはいえ、僕はボーカロイドでデモを作るし、やっぱり実際に歌ってみてもらわないと分からないことってかなりあって。歌も自宅でデモは録ってきてもらうこともあるんですけど、スタジオで全力で出す声とは全然感触が違う。そのニュアンスの違いで楽曲の良し悪しも本当に変わるんですよ。特に「ミスター」は、僕も自信を持って作った曲だったし。この曲のレコーディングは、みんなで一緒にいいものを作ろうという空気感がすごくあった気がしますね。俺が乗り越えてほしいと思ってikuraに託した課題が、ikuraもそのときに乗り越えるべきだと思っていた、みたいな感情が一致する瞬間があって、そういう共鳴によって起きる成長というか。





――「ミスター」の原作は島本理生さんの『私だけの所有者』ですが、お二人は読んでみてどんな感想を持ちましたか?

Ayase:僕が一番感動したのは、この作品のテーマである“はじめて人を好きになったときに読む物語”という部分で。あくまで僕の解釈ですけど、アンドロイドは感情を持つこともないし、人間になることもない。だからこそ、初めて芽生えた気持ちと向きあって、そのうえで社会の中でどうやって生きていくか、人を初めて好きになったときの怖さとわくわくの両方について考えさせられました。他者との付き合い方をもう一度考え直すきっかけになる作品だなと思います。

ikura:アンドロイドの子が持ったのは感情に近い何かだけど、それ自体も人工的に作られたもので。逆になんで人は感情を持つんだろうって部分に戻ってくるというか。自分はどうして音楽を聴いて感動するんだろうとか、そういう感情が生まれる瞬間について考えたりました。

――Ayaseさんは作詞作曲をするうえで、この小説のどんな部分を表現しようと思いましたか?

Ayase:ひとえに“小説を音楽にする”と言ってもいろんなパターンがあるんですけど、特にこの「ミスター」は原作を読んでもらうことを前提にしている曲で。原作が複雑な設定だし、物語の核の部分にたどり着くために必要な材料が多いというか。それらがあってこそディテールもちゃんと見えるし、感動も増すから大事な部分なんですけど、1曲の中でまとめて説明しようとするとかなり情報量が多くなる。なので、曲においては核心の部分、アンドロイドの揺れ動く気持ちの部分にフォーカスして作るのがいいだろうと。

――ikuraさんはいかがですか? ボーカリストとして、原作をどのように歌へ昇華させましたか?

ikura:小説を読み込めば読み込むほど、やっぱり自分は人間だなって思ったし、アンドロイドになることはできないなって。なので、どうやったらアンドロイドの心を表現できるか、それを歌声として聴かせることができるということはすごく考えました。それで思ったのは、どんなにキーが高くても、どんなメロディーでも、どんな声色を出すとしても、そこに陰というか、儚さや悲しさが乗っているような歌にしようということで。逆に、事前に決めていたのはそれぐらいで、あとはレコーディング現場でAyaseさんと話し合いながら詰めていきました。

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――上半期の総合アルバム・チャート“Hot Albums”では『THE BOOK 2』が総合4位、『THE BOOK』が総合24位でした。『THE BOOK 2』はCDセールス14位、ダウンロード1位、ルックアップ2位で、幅広いリスナー層から根強く聴かれ続けていることが分かります。お二人はリスナー層、ファン層が広がり続けている実感ってありますか?

Ayase:そこまで実感はないかもしれないですね。なかなか目に見えるものでもないので。

ikura:今回『はじめての』が出版されて、実際に手に取ってくれた友達から「小説から生まれた音楽を聴くのって、こういう感覚なんだね」って連絡が来たりして。今は電子でも本が読めますけど、同世代の人たちも本を買いに行ってくれているんだなっていう、新しい実感はありました。

――そして、この「ミスター」に続く第2弾楽曲「好きだ」がリリースされます(※取材はリリース前)。原作は森絵都さんの『ヒカリノタネ』です。

Ayase:個人的にはこういうストレートな恋愛モノを読んだことがあまりなかったので新鮮でした。

ikura:私は恋愛小説が大好きなので、きゅんきゅんしてました(笑)。好きな人にずっと想いを寄せ続けているけど、何度も告白しては失敗してっていう。「この話、どこかで聞いたことあるな…」って思ったんですけど、自分が中学生のときに同じ人に2回告白したことがあって。

――自分の思い出と重なったんですね。

ikura:たとえ過去にタイムトラベルしてやり直せたとしても、自分自身がそのときに伝えた想いに勝ることはないんだろうなと思います。自分の過去を振り返ってみても、やっぱりあのときにしかできない告白だったと思うし、そこに大きな意味があるというか。自分の思い出の続きなんですけど、2回告白したあと、次の年にその人が告白してくれたんですよ。2回フラれてしまった過程があったからこそ、その後も物語が続いたんだろうなって思います。その実体験と小説がリンクして、私はすごく感情移入しちゃいました。



▲ 「好きだ」 / YOASOBI


――作詞作曲はどのようにアプローチしましたか?

Ayase:タイムトラベルというSF的な要素もありつつ、意外とそこは重視していなくて。ライトSFな世界観はありつつ、全体的を通していい意味でのへんてこりんな空気が流れていると思ったので、そういうコミカルな感じがあってもいいなと。とはいえ、恋愛モノに対する胸がきゅっとするような気持ちはちゃんと乗せたいと思ったので、サウンドは軽快で楽しい感じにしつつ、歌詞はストレートに伝えるニュアンスで作りました。

――恋する学生の瑞々しい衝動とかキラキラした日常をストレートに描くのではなく、むしろそういうものに突き動かされて告白した過去をなかったことにする。たしかにちょっと奇妙でニヒルな面白おかしさがありますよね。

Ayase:あとは“だるさ”ですね。主人公もあれこれ言っている通り、恋愛ってわくわくするし楽しいものだけど、面倒くさい側面もいっぱいあるわけで。こんな気持ちがなければ、みたいな気だるさがあるんですよね。これは決してひねくれた見方をしているわけではなく、恋愛のしんどさ、だるさって絶対にあるので、そういった面の気持ちも乗せられたらいいなって思いました。軽快でポップなんだけど、ちょっとだるい感じ。

ikura:私は最初、片思いのピュアな気持ちを強く感じたので、あまり決め事はせずに感情をそのまま、とにかく瑞々しく歌おうと思っていて。歌詞も口語調だったので、そのあたりも高校生らしい感じで歌えたらなと思っていました。でも、そのだるさを表現してみてほしいというディレクションもあったので、テクニック的な部分だとちょっと息が漏れたり、「あぁ…」ってなるようなニュアンスを相談しながら入れていった感じです。自分的にはピュア成分のほうがちょっと多めだったんですけど(笑)。

――残りの2曲も楽しみです。

Ayase:今年は『はじめての』で始まって終わる1年になると思います。




――残りの2022年、どんな半年間にしたいですか?

Ayase:目標を言うなら、このまま年間1位を獲りたいです。やっぱり去年が本当に悔しかったので。もちろんチャートが全てではないというのは分かっているけど、自分たちの音楽を聴いてもらえたことの指標の一つであるのは間違いないので。絶対に1位になるぞっていう心意気を持って今後の制作にも挑みたいし、ライブ含めていろんな展開も気合入れてやっていれば、きっと結果がついてきてくれると信じているので、頑張ります。

ikura:これから夏にかけてフェスもありますし、もっといろんな場所に行けたらなと思っているので、ライブに対してもしっかり気合を持って臨みたいなと思います。

――ちなみに上半期、お二人がリスナーとして楽しんだ音楽についてもお伺いしたいのですが。制作で忙しかった時期だとは思いつつ、どうでしょう?

Ayase:グラミーを見て改めて思ったんですけど、やっぱりリル・ナズ・Xめっちゃかっこいいなと。去年ぐらいからよく聴くようになったんですけど、ステージ上のパフォーマンス含めてセンスがすごい。今の世代のニュー・ヒーロー感がありますよね。曲に込めるメッセージ性も含めて、尖ったことをがんがんやっているのが清々しい。

ikura:私は最近、改めてジャスティン・ビーバーの『ジャスティス』をよく聴いていて。11月に来日するじゃないですか。なので改めてちゃんと聴いとこうと思って。そこでまた新しく好きな曲が増えたり。10年以上ずっと第一線にいるのって本当にすごいなって改めて思いました。ときには音楽性も変えながら、ずっとかっこいい音楽やり続けていて。オンリーワンな声なんだなって。

Interview by Takuto Ueda
Photo by Yuma Totsuka

<衣装クレジット>
■Ayase
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(03-5454-1705)
AIVER (Sian PR/03-6662-5525)
JUSTIN DAVIS(JACK of ALL TRADES press room/03-3401-5001)
asics(アシックスジャパン株式会社/0120-068-806)

■ikura
LENZ(03-6874-8383)
ReFaire(UTS PR/03-6427-1030)
MANA(株式会社コンコルディア/03-5829-6611)

Stylist 藤本大輔(tas)
Hair makeup YOUCA

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