Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>小原綾斗が語るバンドの現在地、Tempalayとして“やるべきこと”



インタビュー

 Tempalayが2枚組の8cmシングルとして新譜『Q / 憑依さん』をリリースする。この2曲は『WOWOWオリジナルドラマ 青野くんに触りたいから死にたい』のW主題歌であり、ドラマ内ではTempalayの楽曲が要所要所で使用されている。人間と幽霊のラブストーリーという設定は、Tempalayが昨年3月にリリースした4thアルバム『ゴーストアルバム』で提示した世界とも親和性が高く、音楽的にも絶妙なバランスでさらなる進化と深化を両立させたサイケデリアとポップネスを形象化している。

 しかし、この2曲を制作し、レコーディングした2021年は、自らの精神状態も含めて難しい時期にあった、と小原綾斗は言う。その一方で、これだけ中毒性に富んだチャーミング・ポイントにまみれた独立したバンド・ミュージックを創造するのだから、やはり彼らは(その緊張感も含めて)とてつもなく面白い。あらためて、この2曲からも聴こえてくるこのTempalayの音楽性の妙、そして、バンドの現在地を、小原が歯に衣着せぬ言葉で語ってくれた。

『ゴーストアルバム』の延長線上

――ちょっと最初に遡ると、年末年始はどうしていたんですか?

えーと、どうやったっけな? このシングルをレコーディングしていたのはまだ2021年でしたね。年末もいろいろ忙しかったんですよ。だから正月はゆっくりしたいと思って、石垣島に行ったんです。でも、年越しから年明けまで遊んで帰ってきたら、溜まっていた疲れがドーンと一気にきて、体調を崩しちゃって。それとともにメンタル的な調子も悪くなってしまったんですよね。で、2022年になって1月いっぱいはほとんど家から出ませんでしたね。今はもう大丈夫ですけど。

――飲みすぎ説もあるんじゃないですか?(笑)。

まぁ、そうっすね。飲みすぎではありますね(笑)。今はバンド的にはゆっくりやらせてもらってる感じです。タイミング的には個人的にやりたいことをやらせてもらっていて。

――というのは?

Tempalay以外の活動を。




――それは去年立ち上がって、不定的にライブをやってる“小原綾斗とフランチャイズオーナー”を含めてのことですか?

そうですね。とか、いろいろ水面下でやってる感じです。

――2枚組8cmシングルでリリースするこの『Q / 憑依さん』は、『WOWOWオリジナルドラマ 青野くんに触りたいから死にたい』のW主題歌なんですが、そもそも原作漫画の内容然り、Tempalayの『ゴーストアルバム』以降との親和性がすごくあると思っていて。

被ってるところがありますよね(笑)。なんか、本当に“おばけバンド”みたいになってるなと思うんですけど。あとは、ドラマ全編がTempalayの曲で埋め尽くされてるという企画の内容も面白いなと思って。



青野くんに触りたいから死にたい/プロモーション映像(90秒)【WOWOW】


――こういう曲が欲しいというリクエストはドラマ・サイドからあったんですか?

「おどろおどろしくて、不気味なんだけど、美しくもあり、でも滑稽な感じで」というリクエストがありましたね。それをオープニング曲にしたいと。そういう細かいリクエストではあったんですけど、でも、その感じの曲はめちゃくちゃ作りやすいと思ったんです。で、「憑依さん」を先に作って、オープニング曲として提出したんです。でも、ドラマ制作側の意向で「Q」がオープニング曲になったんですね。ただ、テーマ的には作りやすかったし、プロとして書かせていただいたという感じですかね(笑)。音楽の仕事したなぁという感じ。

――あらためて、『ゴーストアルバム』は脳内をあの世に飛ばして遊ぶような、想像力が飛躍していく面白さを、音楽的にも新しいフェーズで形象化した作品だと思うんですが、この2曲はさらにその向こう側に行くような趣と聴き応えがあると思います。

ただ、自分としては『ゴーストアルバム』の延長線上のことだけをやっているという感じで、大きく新しいことができたという感覚はないんですよね。

――お世辞抜きで、めちゃくちゃすごく高いクオリティで成立している2曲だと思いますけどね。

うん。それはもちろんうれしいんですけど、やっぱり「音楽の仕事をしたな」という感じなんですよ(笑)。

――創造性として新しいとかではないと。

そう。Tempalayとして次のステップを踏んでいるというよりは、『ゴーストアルバム』の延長線上の曲として「いい曲ができたな」と思います。


ドカン!と当てたい

――『ゴーストアルバム』の延長線上という部分で訊きたいんですが、昨年11月に東名阪のZeppを巡った【続・ゴーストツアー】はどうでしたか?

ああ、あれはやることがないからやった、みたいなところもあったので。

――でも、昨年9月にリリースしたシングル『あびばのんのん』のタイミングで綾斗くんにインタビューしたときに、『ゴーストアルバム』を刹那的に消費させないようにするために【続・ゴーストツアー】をやるということを言ってたじゃないですか。

ん~、そうっすね。でも、それって遊び方というか、なんとでも言えるというか(笑)。要はツアーをやる理由付けでもあって。というかね、あの『あびばのんのん』のインタビューのときは僕、めっちゃ(精神的に)落ちてたっすね。

――ああ、それはすごく感じましたね。

うん、めちゃくちゃ落ちてた、あのとき。去年いっぱいまではけっこう精神的にキツかった。



――でも、そういう状態を隠そうとしてもいなかった。

そうですね。あのとき自分が何を喋ったかはあまり覚えてないですけど、たぶん「今の自分は『ゴーストアルバム』を聴けない」とか言ってたと思うんですよ。

――言ってましたね。ただ、そのうえで「リスナーに消費されず、忘れないものにするためにツアーをやる」ということを言ってたんですよ。

うんうん。

――それはすごくいいアイデアだなと思ったし、個人的にもあのアルバムがすごく好きだから、その考え方がうれしかったというかね。

まぁでも、それはカッコつけで言ってた感がありますね。本当のことを話すと、「GHOST WORLD」という曲のMVの制作が遅れて、それが「あびばのんのん」のあとに公開されるもので、時系列がおかしくなるから【続・ゴーストツアー】というタイトルにしたんですよ。精神的に疲れ果てていたので、ツアーのことも正直、ほとんど覚えてなくて。ただ、そういう精神状態でライブするのはお客さんにも申し訳ないし、そこから反省しまして。今年の2月に【寿司】というタイトルのワンマン・ライブを(Tokyo Dome City Hallで)やったんですね。あのライブはかなり真剣に取り組みました。ギターやシンセを担当してもらったNIKO NIKO TAN TANというバンドをやっているOchanというサポート・メンバーも増やして。そこからTempalayの活動に対して前向きになっていきましたね。



Tempalay “あびばのんのん” (Official Music Video)


Tempalay “GHOST WORLD” (Official Music Video)


――それはTempalay以外の個人的な創作活動などを通して、Tempalayに対するマインドも取り戻していった感じでもあるんですか?

そうですね。自分がやりたかったことを消化したり、そういう時間があるなかで前向きになっていきましたね。あとは引っ越したことも大きいです。自分の時間をめちゃくちゃ作れたので。映画とか本に一気に触れて。たとえば映画を2本観て、本を1冊読んだらもう1日が終わるじゃないですか。そういう時間がとにかくなかったんですよね。

――インプットの時間が。

そう。そういう時間を通して自分の音楽に対するマインドとかを取り戻せるようになった。そうするとワクワクしてくるわけですよ。あとは会う人も自分の中で限られてくる。無駄な人付き合いが減っていくのも精神的によくて。そこからTempalayとしてまだやるべきことがこんなにもあるということに気づけたので。

――Tempalayでやるべきこと、というのは具体的に言えますか?

やっぱり1曲、ドカーン!としたものを作らないといけないと思いますね。べつにアンダーグラウンドにいたいわけではないので。それを曲で示したいなと思う。お金ももっと欲しいし。それってすごくシンプルなことでもあるじゃないですか。でも、意外とそこに自分自身の照準が定まってなかったなって。

――射程に入ってなかった。

まったく外れてましたね。自分のためにも、バンドのためにも、会社のためにもより良い環境を作るために1曲ドカン!と当てたいというマインドを取り戻したというか。言い訳したくないし、しないための曲を作りたいなと。


意味のわからないことをやれるのがいいなと

――今回のシングルの話に戻しますね。「憑依さん」は冒頭、童謡のようなニュアンスがありつつ、Bメロから鍵盤が入ってきて、そこからネオソウルっぽいノリが入ってきながら、サビで相変わらず忘れがたいメロディが乗っかってくる。2回目のサビでサウンド・スケープがさらにデカくなり、アウトロのアークティック・モンキーズを彷彿させるようなリフもインパクトがあって。この構成自体がすごく練られたように感じるし、こういう曲を綾斗くんがまだ精神的にまいっていた昨年にできていたんだと思うと驚きもありつつ、そういう緊張感の中で生まれたからこそTempalayらしい曲ができたのかなとも思ったり。

うんうん。たしかに。構成はデモのままで、アレンジといっても僕たちの場合は結局、各々のメンバーが好き勝手に入れたい音やフレーズを入れるだけでもあるので。

――でも、めちゃくちゃ絶妙なバランスで成立してると思いますね。歌詞も「憑依さん」と「Q」がしっかり対になっていて。両方とも、ユーモアがありながらすごく切ない歌として存在している。




うん。“対”というのが今回のシングルのテーマで。作りやすかったし、あとは全部切ないっすよね、僕の曲って。

――切ないよね。

切ないっすよねぇ。なんでなんやろう? べつに普段そんな悲しいことはないんですけどね。でも、「なんでこんなに切ないんやろう?」って自分で聴いていても思う。今回やったら、ドラマの主人公の女の子はだいぶ狂気的やと思うんですよ。かなり歪んだ純愛やと思いますけどね。でも、それが核やし、それが美しいし、切ないというか。

――だから、綾斗くんとしては「仕事としていい曲を書いた」と言っていたけれど、しっかり自分の作家性の核の部分で曲を書いてると思うんですね。

はい。だから、そういう意味で自分でもいい歌詞やなと思いますし、メロディを一番美味しくできてる歌詞を書けたなと思います。

――あらためて、めっちゃメロディメーカーですよね。しかも独立した。

そうですね。メロディメーカーやなって自分でも思います。でも、自分に似てるメロディを書く人も探したらいるとは思うんですよ。自分の中で「このメロディいいな」ってフィットする瞬間があって。でも、そのフィット感って自分がこれまで聴いたことのあるものだと思うんですよね。

――一回、自分の皮膚感覚に染み込んでるものだから、親しみを感じるというか。

そうですそうです。みんながいいと思うものってなんでもそうやと思うんですよ。存在しないものに対しては絶対にいいと思わないですよ。基本的にはそういう親しみやすさを覚えるもののバランスと構築美やと思うんです。僕のメロディには、僕自身が寂しい幼少期を送っていたので、そういうところが出てるんでしょうね。

――さらに、サウンド・プロダクションの妙が、親しみを覚えるメロディを飛躍させる。「Q」もド頭は怖いんだけど――。

怖いっすか?

――怖いっすね。でも、その数秒後に切なくなっていくという感じ。その移行も見事だなと思って。あとこの曲は、ベースラインがまさにおばけが浮遊するように不可思議で気持ちいい動き方をしていて。さすが、高木祥太(BREIMEN)という感じですね。

いやぁ、彼には本当に助けられてますね。いい仕事しますよ、本当に。彼はBREIMENでは曲の作り手であり歌い手でもあるので。曲が面で見えてるんですよね。面で見えてるからこそ、Tempalayで試したいことがあるみたいで。いろんな挑戦することを楽しんでくれてるみたいです。あとは、「Q」はCメロと、そこからの間奏が気に入ってますね。

――<スポットライトに透けて半透明 おさらばよ>のところですよね。オルガンも効いてるし、僕もすごくいいと思った。

自分の中でサビの<踊る2人はせめて特別であれ>というのがけっこう重要なテーマになっていて。「せめてそこだけは」という感じを、Cメロと間奏で我ながら音楽で見事に表現できたなと。




――やっぱこうやって話すと、自分でもいい曲だと思うでしょ?(笑)。

いや、最初から思ってますよ(笑)。ただ、もっとすごい曲はこれから絶対作れるし、作りますけどね。

――で、これを2枚組の8cmシングルとしてリリースするというのもまたTempalayらしいというか、なんというか。

捻くれた言い方をしたら、買ってもどうせCDでは聴かないと思うんですよね。だから、最悪、(パッケージを)開けなくてもいいんです。でも、物としては捨てなければ残り続けるので。最後にBOOKOFFに流れ着こうが、残り続けたらいいというか。物に憑依してやった、という感じですね。今のは喩えとしてはちょっと弱めでしたけど(笑)、こういう遊びができなかったら、CDも本当に終わりですよね。ばけたん(※)とか意味わかんないじゃないですか? でも、まだこういう意味のわからないことをやれるのがいいなと。

※【天国盤】に付属する、超小型のおばけ探知機のTempalay ver.+ネックストラップ。ばけたんとは、特殊センサーによって空間に存在するおばけを探したり、悪いおばけに遭遇してしまった際に身を守るためのバリアモード機能を搭載しているというガジェット

――ばけたんは僕も資料読んで意味わからなすぎて、さっきネットで注文しました(笑)。

あ、マジすか!? 最初、こういうのが好きなマネージャーから提案されて「バカじゃねぇの?」って思ったんですけど、一晩寝たら「めっちゃおもろ!」って思って。今回のアートワーク全般をやってくれた森洸大(PERIMETRON、DWS、millenium parede)が言ってたんですけど、まだ電池も入れてないばけたんが光ったらしんですよ。

――マジで!?(笑)。

それで怖くなって隠したらしいです(笑)。

Interview by 三宅正一
Photo by Yuma Totsuka

Tempalay「Q/憑依さん」

Q/憑依さん

2022/05/25 RELEASE
WPDL-10001/2 ¥ 2,530(税込)

詳細・購入はこちら

関連キーワード

TAG

関連商品

((ika))
Tempalay「((ika))」

2024/05/01

[CD]

¥5,500(税込)

((ika))
Tempalay「((ika))」

2024/05/01

[CD]

¥3,850(税込)

from JAPAN 3
Tempalay「from JAPAN 3」

2022/10/12

[CD]

¥7,777(税込)

from JAPAN 3
Tempalay「from JAPAN 3」

2022/10/12

[CD]

¥3,080(税込)

Q/憑依さん
Tempalay「Q/憑依さん」

2022/05/25

[CD Single]

¥6,050(税込)

Q/憑依さん
Tempalay「Q/憑依さん」

2022/05/25

[CD Single]

¥2,530(税込)

あびばのんのん
Tempalay「あびばのんのん」

2021/09/08

[CD]

¥5,940(税込)

あびばのんのん
Tempalay「あびばのんのん」

2021/09/08

[CD]

¥1,430(税込)

Annihilation
AAAMYYY「Annihilation」

2021/08/18

[CD]

¥2,750(税込)

ゴーストアルバム
Tempalay「ゴーストアルバム」

2021/03/24

[CD]

¥4,400(税込)

ゴーストアルバム
Tempalay「ゴーストアルバム」

2021/03/24

[CD]

¥3,080(税込)

脱皮
John Natsuki「脱皮」

2020/03/04

[CD]

¥2,750(税込)

21世紀より愛をこめて
TEMPALAY「21世紀より愛をこめて」

2019/06/05

[CD]

¥2,860(税込)

BODY
AAAMYYY「BODY」

2019/02/06

[CD]

¥2,547(税込)

なんて素晴らしき世界
Tempalay「なんて素晴らしき世界」

2018/09/26

[CD]

¥2,037(税込)

フロム・ジャパン2
テンパレイ「フロム・ジャパン2」

2017/08/30

[CD]

¥2,530(税込)

5曲
Tempalay「5曲」

2017/02/15

[CD]

¥1,650(税込)

フロム・ジャパン
テンパレイ「フロム・ジャパン」

2016/01/06

[CD]

¥2,530(税込)

((ika))
Tempalay「((ika))」

2024/05/01

[CD]

¥5,500(税込)

((ika))
Tempalay「((ika))」

2024/05/01

[CD]

¥3,850(税込)

from JAPAN 3
Tempalay「from JAPAN 3」

2022/10/12

[CD]

¥7,777(税込)

from JAPAN 3
Tempalay「from JAPAN 3」

2022/10/12

[CD]

¥3,080(税込)

Q/憑依さん
Tempalay「Q/憑依さん」

2022/05/25

[CD Single]

¥6,050(税込)

Q/憑依さん
Tempalay「Q/憑依さん」

2022/05/25

[CD Single]

¥2,530(税込)

あびばのんのん
Tempalay「あびばのんのん」

2021/09/08

[CD]

¥5,940(税込)

あびばのんのん
Tempalay「あびばのんのん」

2021/09/08

[CD]

¥1,430(税込)

Annihilation
AAAMYYY「Annihilation」

2021/08/18

[CD]

¥2,750(税込)

ゴーストアルバム
Tempalay「ゴーストアルバム」

2021/03/24

[CD]

¥4,400(税込)

ゴーストアルバム
Tempalay「ゴーストアルバム」

2021/03/24

[CD]

¥3,080(税込)

脱皮
John Natsuki「脱皮」

2020/03/04

[CD]

¥2,750(税込)

21世紀より愛をこめて
TEMPALAY「21世紀より愛をこめて」

2019/06/05

[CD]

¥2,860(税込)

BODY
AAAMYYY「BODY」

2019/02/06

[CD]

¥2,547(税込)

なんて素晴らしき世界
Tempalay「なんて素晴らしき世界」

2018/09/26

[CD]

¥2,037(税込)

フロム・ジャパン2
テンパレイ「フロム・ジャパン2」

2017/08/30

[CD]

¥2,530(税込)

5曲
Tempalay「5曲」

2017/02/15

[CD]

¥1,650(税込)

フロム・ジャパン
テンパレイ「フロム・ジャパン」

2016/01/06

[CD]

¥2,530(税込)