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<インタビュー>樋口楓が2ndシングル『Baddest』をリリース 「偏見と偏見の間で、壁を壊す存在になりたい」



にじさんじ所属・VTuberの樋口楓が、2ndシングル『Baddest』と、ワンマンライブの模様を収録した『Kaede Higuchi Live 2021 “AIM” Blu-ray』を8月25日にリリースする。「Baddest」はTVアニメ『100万の命の上に俺は立っている』(以下『俺100』と表記)のオープニングテーマに起用され、自身初のアニメタイアップが実現した。

今回は樋口楓にインタビューを実施。「Baddest」制作秘話、自身初のアフレコ体験、そしてVTuberの彼女が目指すアーティスト像に迫る。

初めてのアフレコは聖地に来た感覚「すげぇ!台本だ!」

――自身初のアニメタイアップ、おめでとうございます。

樋口楓:ありがとうございます! 『俺100』は第1シーズンの1話と2話を同時視聴させていただいた、ただのいち視聴者だったんですよ。お話をもらったときにはもうびっくりして、宛先を間違えてるんじゃないかと思ったぐらい(笑)。

▲TVアニメ『100万の命の上に俺は立っている』第2シーズンPV3

――ランティス所属ですし、アニメタイアップは、ご自身にとって目標ではあったんでしょうか?

樋口:恐れ多いですが、「そうなったらいいな」とは思っていました。死ぬまでにやりたいことの1つという感じで。こんなに早く叶うとは本当に思っていなかったので、驚きが大きいですね。

『俺100』は1期でも「いらすとや」の絵を使った“ワケあり版”が流れたり、「100万回生きたねこ」とコラボしたりと、面白い試みをされているアニメなんですよね。VTuberを起用するのも業界的には相当チャレンジングなことだと思うので、本当にありがたいです。

――それこそ先日放送された第1話では、樋口さんと同じにじさんじ所属の静凛さんが「女子生徒役」としてアニメ本編に登場し、大きな話題となりました。アフレコはどのように行いましたか?

樋口:実際のアフレコスタジオに行って録りました。このご時世だったのでパーテーションをして、さらに超少人数編成だったから、他の声優さんにはお会いできなかったんですけど。

セリフは一言二言でしたけど、すごく貴重な経験をさせていただきました。コンテ撮といって、制作段階の映像を見ながらの録音だったんですよ。だから口の動きじゃなくて、画面に表示されるカウントでタイミングを計らなきゃいけなくて、それが難しかったです。カウントに合わせようとすると気持ちが焦って、でも焦ったら感情が入らなくて。

▲樋口楓&静凛「俺100」アフレコ参加コメント動画

――いつもやっている歌の収録とは、また違った緊張感がありそうですね。でもアニメ好きの樋口さんとしては、思い入れの深い経験となったのでは?

樋口:それこそ声優さんのイベントや特典の映像に出てくるようなアフレコブースが目の前にあって、キューボックスが点灯したりして、「あ、見たことある!」って感じでした。もう聖地に来た感覚ですよね。一人のオタクとして、憧れを持って見ていたような場所だったので。

しかも感動したのが、自分のための台本があるんですよ! たった一言二言担当する私のために台本をくれて、「うわぁすげぇ!台本だ!」って(笑)。

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「視聴率に関わるんじゃないか」アニメタイアップのプレッシャー

――今回のシングルの表題曲「Baddest」についても教えてください。レコーディングはどのように進んだのでしょうか?

樋口:ええと、実はタイアップってことで頭がいっぱいで、最初はすごく力んじゃっていました……。「89秒で想いを伝えるにはどうしたらいいんだろう」とか「歌の出来が視聴率に関わるんじゃないか」とか考え始めてしまって。

――そこまで……!

樋口:実際に自分自身も、主題歌がきっかけでアニメを見ることもあるんですよ。そういうことで頭がいっぱいになって、空回ってましたね。

でも作編曲とディレクションを担当してくださった光増ハジメさんが「タイアップだからって緊張しなくていいんだよ、いつも通りの樋口さんでいいよ。樋口さんがタイアップするんだからね、自分の曲になるんだからね」って言ってくれて。そこからはちゃんと歌えるようになりました。

――光増さんはこれまでの制作もずっとご一緒されていますね。

樋口:1年半一緒にやってきたから、私のことをよくわかってくれていて。光増さんの言葉がなかったら、歌えてなかったかもしれませんね。

――初めてのタイアップゆえの責任感や緊張感が、ご自身の中で強かったんですね。でもできあがった音源は堂々とした歌唱になっていますし、冒頭からいきなりデスボイスなのも驚きました。デスボイスはどういう経緯で入れたんでしょうか?

樋口:デモの時点ではサンプリングが入っていて、自分でデスボを出すとは思っていなかったんですよね。でもレコーディングが一通り終わって、「いや~今回もよかったね~」みたいないつも通りの会話をしていたら「まだ疲れてない?」「大丈夫です」「じゃあちょっとデスボやってみる?」ってなって(笑)。

――では、事前の練習もせず?

樋口:してないですね。その場でやり方を教えてもらって、ぶっつけ本番です。「あー」と「おー」と「ゔぉー」の3テイクぐらいを録って、「あー」が採用されました。録っているときは顔真っ赤だったと思いますけどね、恥ずかしいし、緊張するし、めっちゃロングトーンだし……。

――ちなみに、今後ライブで歌うときは?

樋口:たぶん、生デスボイスやるんだろうな……(笑)。

――生デスボイスを浴びたい人は、ライブに来てくださいという感じですね! 歌詞の方はどのように感じましたか?

樋口:アニメとも、自分ともリンクしている所が多いと思います。特に「何故 生まれ堕ちたの」「どうせ 貰った生命だ」のあたり。これらは『俺100』の「命を繰り返してクエストクリアを目指す」という世界観にも通じるし、一方で私もVTuberとして生を受け、高校2年生として生活しながら配信の世界で活動していて、ある意味では貰った生命とも言えるし。

――最初にデモを聴いたり歌詞を見たときも、割とすぐしっくりきました?

樋口:そうですね。私が歌うタイアップ曲として、これ以上ない曲だなと思いました。樋口楓にしては中二っぽい気もするけど、歌詞にあるどの言葉も、別に私が使わないような言葉ではないですし。逆に私に寄せ過ぎていたら、アニメの世界観に合わないものになってしまう。そのバランス感覚がすごいなって思いました。

――樋口さんは曲作りにも積極的にコミットしていくイメージだったんですが、今回も作家陣とのリテイクやディスカッションはありましたか?

樋口:「Baddest」に関してはほとんど口出しせず、スムーズに進みましたね。他のカップリングは結構口出ししました。

――カップリングの方はどんなやりとりが?

樋口:「Sting or stung」は最初にいただいた歌詞の日本語が難しくて、私の頭が追い付かなかったんです。それに『俺100』きっかけで中高生とかも聴くだろうから、すっと耳に入って、かつかっこいい歌詞にしたくて、作詞担当の平朋崇さんとディスカッションを重ねました。

――ハードロックの「Sting or stung」に対し、3曲目の「Ikiteku.」はポップで女の子らしい曲です。

樋口:生きることは難しいけれど、楽しいんだっていう希望みたいなものを、かわいいサウンドに乗せて伝える曲です。この曲は私がというより、作詞担当の安藤紗々さんが「ここはもうちょっとこうした方が良いと思います!」とブラッシュアップを重ねてくださいました。安藤さんは私の何億倍も濃い人生を歩まれている方で、本当に視野が広くて。樋口楓のことを理解しつつ、同じ女性としての目線で経験してきたことも書いてくださったな、と感じました。

――「Baddest」に戻りますが、ミュージックビデオでは激しいアクションシーンが次々登場します。どのように撮影したのでしょうか?

樋口:もう、すごいんですよ。ハリウッドの合成撮影を想像していただいたらわかると思うんですけど、いろんなロープにつながれて、引っ張られて吹っ飛んだり、転がって弾を避けたり……。最先端の技術を使って、プロのスタントマンを見ているような方々に監修をしていただいての撮影でした。正直、4分の曲に収めるのがもったいなくて。

▲「Baddest」ミュージックビデオ

――すごい、あれ全部ご自身で演じられたんですね。

樋口:MMDとかじゃなく、全部私自身が演じていますね。でも撮影時はグリーンバックの中でひたすら床を這いつくばったりしていたので、完成映像がイメージできなくて。実際のミュージックビデオを見て、「こんなにかっこいい映像になるんだ!」って驚きました。撮影の後は2日くらい筋肉痛がひどかったんですけど、「あの痛みはこの映像のためにあったのか…!」って(笑)。

――CDジャケットは「物語シリーズ」などで知られるウエダハジメ先生が担当しています。これも驚きの人選ですが、どういった経緯でウエダ先生に?

樋口:どなたに描いていただくか、となった時に、今までとテイストが違う方にお願いしたいとは考えていました。私が『化物語』や『まどマギ』(『魔法少女まどか マギカ』)が好きということもあって、ウエダハジメ先生の名前が挙がったんです。でもまさか、あんな大御所の先生に描いてもらえないでしょって思ったんですが、ダメ元でお願いしたら、引き受けてくださいました。

それでできあがったのが、メカ樋口がいて、その上に樋口楓が立っているというあのジャケットです。本当に自分では発想できないイラストを描いてくださって……でも、アニメとも親和性があると思っています。『俺100』ではゲームの中の四谷(主人公)と現実世界の四谷の存在がありますよね。ゲームの中なら無双できるけど、現実世界ではそうじゃない、とか。メカの私とありのままの私に、そういう意味合いを持たせてくださったのかな、と思いました。あくまで私の解釈ですけどね。

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ファンが樋口楓をアーティストにしてくれた

――普段は吹奏楽部に所属してトランペットを担当している樋口さんですが、ボーカル活動を本格的に始めたきっかけは、ファンメイドの楽曲だったんですよね。

樋口:樋口楓の活動を見て、曲を作ってくださったファンの方がいたんですよ。ファンアートでイラストやSS(ショートストーリー)を書く文化があるのは知っていたんですけど、ファンメイドの音楽というのは見たことがなくて。アニメにおける、キャラクターソングと同じような感覚で作ってくださったのかなと思うんですけど。

私自身を表してくれた歌というものがすごく新鮮だったのと、せっかく作っていただいたなら歌うしかないなと。そうしたらいろんな方がさらに曲を作ってくれるようになって、やがてファンメイド曲で、ライブまですることができたんです。

ファンメイド曲がなかったら歌を始めていなかったし、ランティスさんからデビューすることにもなっていなかったし、ましてや音楽を通してVTuberを広めようなんて想いにも至っていなかった。曲を作ってくださった方々や、聴いて応援してくださった方々には本当に感謝しています。

――ファンの方が樋口さんをシンガーにしてくれた感じですね。

樋口:間違いなくそうです。そもそも普段の配信も、リスナーさんがコメントをしてくれていなかったら、配信者としてもVTuberとしても一人の人間としても、今みたいに成長できていなかったと思います。うれしいことはリアルタイムで一緒に喜んでくれるし、残念なことは一緒に悲しんでくれる。一番身近な存在なんですよね。そういうファンのみんなが、成長を促してくれていて。

――同じように音楽活動をされているVTuberさんで、尊敬している方はいますか?

樋口:バーチャルの活動者でいうと、すごく仲良くしてもらっている飯団四季というユニットがあって、そこのYuNiさん、富士葵さん、天神子兎音さんですね。それぞれ別のメジャーレーベルに入っていて、音楽面でのコラボはあんまりしていないんですが、裏で遊ぶときにいろんな話をしています。

みんな自分自身で音楽をプロデュースして、作家さんを見つけて、企画として提案して、ミュージックビデオも自分で考えて……なんというか、大人に言われてやらされている感じじゃなくて、自分の意志を持って取り組んでいるんですよね。私も同じことをしているわけですけど、仲良くしているみんながちゃんと音楽家として活動している一面を見ると、「やっぱりこの人たちすごいな」って思います。

――ありがとうございます。今後、チャレンジしていきたい音楽表現はありますか?

樋口:樋口楓の根っこにあるロックサウンドに軸足を置きつつ、たとえば「ロック×ラップ」とか「ロック×DJ」とか、いろんなものにチャレンジしていきたいです。ただ一番忘れたくないのは、あくまで「VTuber・樋口楓」であること。私がランティスに入ったのはVTuberを広めるためでもあるので、まずはみなさんが「おっ」と思ってくれて、興味を持ってくれるような音楽をしていきたいです。VTuberが他の所属アーティストさんと変わらずに歌っている、という状況を実現したいですね。

――「VTuberも、VTuberじゃないアーティストと肩を並べて歌えるように」という樋口さんの想いは、界隈の今を象徴している気がします。今回のタイアップのような起用は、やっぱりまだまだ珍しいケースだとご自身でも思っていますか?

樋口:めちゃめちゃ珍しいと思います。タイアップが発表されたときも、喜んでくれる声もあれば、ネガティブな意見もありました。ほかのシンガーのファンの方々からすれば、枠を取ってしまうことでもありますし、まだまだVTuberをひとくくりにして見る風潮もありますしね。

だからこそ私は、VTuberじゃないとできないことをしていきたいです。アニメファンの方にとっては三次元の人が出てきたらちょっとびっくりしちゃうこともあるでしょうし、逆に三次元のアイドルが好きな人の世界にアニメキャラが進出してきたら、不思議に思うこともきっとあるはず。VTuberって、その超えづらい壁と壁の間に立っているような存在だと思うんですよ。私たちVTuberがその壁を壊して、手を取り合うきっかけのような存在になれればいいなと思っています。

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