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熊木杏里 『and...Life』インタビュー

熊木杏里 『and...Life』 インタビュー

 新海誠監督による最新映画「星を追う子ども」の主題歌に起用され、箭内道彦監督の「TBCエステチケット」新CMに新曲『hotline』が使用され、2011年になって更なる注目を集めるようになった熊木杏里。先日は福島で感動的なライブを堪能させてくれたが、ここに至るまでのストーリーには自信を喪失してしまうほどにタイトな現実もあった。また、シンガーにとっては命となる声の変化もあった。そうした状況下で彼女は何を考え、何を得て、待望のニューアルバムにして最高傑作とも言える『and...Life』に辿り着いたのか。約19ヶ月ぶりのインタビューにて本音で語ってくれた。

自信喪失からの復活~才能の自覚(天才の自覚?)

--さぁ!待ちに待ったニューアルバムのリリースです。19ヶ月ぶりのインタビューです。だから今日は整理しなきゃいけないことがたくさんあります。本音トーク、交わしてもらってもいいですか?

熊木杏里:本音トークですか?

--何かあったら後で僕が謝りますんで。

熊木杏里:はい(笑)。

--ちょっと前、録音していないところで話していたとき「最近、自信を失っている」と熊木さんは言っていました。今はどうなの?

熊木杏里:全体的には自信を取り戻したというか、平常心ではいられています。自信を失っていたときは多分、移籍が決まる前だったりして弱っていましたね。どういう風に活動していいか分からないし、周りからの「一緒にやっていこう」という力もないと、灯りがどうしても弱くなっていってしまう。でも今は環境が整って、自分からも「やろう」という気持ちが出たり「やって」って言われることに対してやる気も出るし。あと、最近は訓練も兼ねて弾き語りライブを増やしていて、ひとりで歌うことによって強くなっていける気がしていますね。

--昨年3月 ベストアルバムのリリース以降。それまで所属していた事務所とレーベルを離れてから、熊木杏里はフリーになっていろんなことを独りで抱えていくことになりました。実際にはどういう心境だったの?

熊木杏里:それまで音楽しかやったことがなかったから、正直なところ「生活はどうしていこうか?」っていう部分もあったし。でも「熊木さん、今はどうしているんですか?」っていう連絡をもらえたりしていたので、とにかくライブをやることで表へ出て行こうと。元気であることは知らせなきゃいけないと思ったので。ただ、意外と辛かったです。

--何が一番辛かった?

熊木杏里:助けてくれる人がいないと、自分だけでは何もできないと痛感したんです。それが辛かった。うん……、彷徨いましたね。自分が出ていくことが良い場合と良くない場合があったりするし。ちょっと遅れた社会勉強をした感じ。

--でも2011年を迎えてから、東京国際フォーラムで再びワンマンがやれて、新海誠監督による最新映画「星を追う子ども」の主題歌に起用されて、読売テレビ「かんさい情報ネットten!」の出演を機に『誕生日』がAmazon.co.jpのベストセラーランキングで1位を獲って、更には箭内道彦にその声を評価されてCMソングへの起用や【LIVE福島】への出演と、熊木杏里は高く再評価された訳じゃないですか。この状況にはどんなことを感じていたの?

熊木杏里:再評価か。自分ではよく分かんないなぁ。でも活動していることを少しでも世の中に発信できればいいとは思っていて。そうすれば、少なからずとも反応してくれる人がいるっていうのは、確かに感じましたね。箭内さんの一件も「ここは頑張っておかなきゃ」っていう気持ちでいて、それが【LIVE福島】まで繋がっていったりしているので、前よりもひとつひとつ大事にしなきゃとは思っているかもしれないです。

--前回のインタビューで熊木杏里は「今よりも多くの人に知ってもらいたい。それが私が生きていく上での目標になってるんです」と言っていて、その気持ちは今より強くなっているんですかね。

熊木杏里:知ってもらいたいのは大前提にあるし、出たことのないフェスに出ていくのも「熊木杏里ってこういう人なんだ~」って知ってもらいたいからだし。そこには繋がりが大事で。だから箭内さんもずっと知っていた人だけど初めて今回繋がれて、新海監督とも繋がれましたけど、その関係が途絶えることのない存在になりたいですね。「また熊木さんと何かしたい」と思ってもらえる存在に。なので、縁は大事にしたい。

--「周りの人には「熊木杏里はずっとこの調子で歌っていければいい人なんだろうね」ってよく言われるんだけど、私は絶対に売れたい」とも言っていましたよね。でもこの強い想いが焦りになることはないの?

熊木杏里:「売れたい」というのはずっと思っているから、いつでもじんわり焦ってはいるんだけど、だからこそひとつひとつ大事にしなきゃと思うし、そのすべてが勝負になっている。前なら無造作に作っていた曲とかもあったと思うんですけど、今は自分も世の中のひとりだということを意識して作る。ふと流れてきたときに「こんな風に届いたらいいんだろうな」とか、そういうことを自分自身も意識するようになったのかなと。まぁでも突飛なことをしていこうとは思っていないし、熊木杏里という流れ、道がある中で曲は生まれていくから、そんなには焦っていないですよ。

--なるほど。では、とにかく変わろうとしていた昨年3月と今のテンションは変わらないの? それとも大きく違うの?

熊木杏里:あの頃は先が見えなくて不安でいっぱいだったので。自分の作った曲たとがどういう風になっていくか。それを知りたいのに曲が世の中へ出ていかないという状況が苦しかった。何のアプローチもできないので、テンションは当然ながら違いますよね。

--でも自分の音楽をもっと面白くしていける自信には溢れていましたよね。純度を高めながらも、裾を広げていく作業って普通に考えたら矛盾してるし、非常に難しいじゃないですか。でもそれを可能にする自信があると当時の熊木杏里は言っていました。

熊木杏里:そうですね。それはチャレンジしていました。

--今、どういうところに落ち着いたの?

熊木杏里:アルバム『and...Life』が完成して、最近になってようやく形になった熊木杏里を端から聴ける状態なんですけど「芯は確実にあるな」と思う。それがありながら、私の感じ方とみんなの感じ方は違うかもしれないんだけど、裾も広がっていっているかなと。まだ「辿り着いた」とは言えないですけど、方向性としてはそっちに向けていると思います。前の作品よりも満足していますし。

--今の熊木杏里はどれぐらい自信あるの?

熊木杏里:(笑)。自信……そうだなぁ。反省点って言ってる部分がたくさんあるから、伸びしろじゃないけど、まだ空いている部屋みたいなものがあるのは分かってる。そこを埋めればいいっていう。それが自信なのか、希望なのかは分かんないけど。まぁプチプチは凹んではいるんですけどね(笑)。

--何について凹むんだろう? ライブで失敗したとか? それとも根本的な自分の才能に対して?

熊木杏里:自分の才能については、最近は自信ないことはないな。「天才かな」って思うときもありますし。

--まぁあるでしょうね。あれだけ良い曲書いてるんですから。

熊木杏里:あるでしょうねって! やめて、そういう感じ(笑)。褒められると嬉しくなっちゃから。えーと、大体J-POPって洋楽へのリスペクトがある上に作られていて「○○的」とか「○○っぽい」って言われる訳じゃないですか。私にはそれがないなって。よくモノマネから入るみたいなことも聞くじゃないですか。私、モノマネから入ることがないと言うか、仮にあったとしても気持ち的な部分で(井上)陽水さんぐらいなのかなって。そういった意味ではミュージシャンっぽくないと言うか、すごく感覚的に曲を作っている気がしていますね。だからこそ自分の気持ちがすごく反映されちゃったり、曲にそういう傾向が出てきちゃったり。それは自分でも面白いって思う。

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声の変化~最高傑作『and...Life』の完成

--熊木杏里は9年間変わらずそうですよ。そこが最大の魅力ですから。では、逆に最近の熊木杏里の印象を僕から言わせてください。ここ数年、年齢を重ねていく中で変わってきている部分があると思うんですよ。

熊木杏里:あぁ~。

--それは声。言うならば、熊木杏里にとっての命ですよ。そこが変わっていくことへの戸惑いはあったんじゃないですか?

熊木杏里:「声が出にくいな」とは感じていました。それは年齢的なものではなく、精神的なものなのかなと思っていたんですよ。もしかしたら喉のメンテナンス不足とか、体力的な要因かもしれないんですけど。確かに声の変化はあるなぁ。多分「思いっきり歌っていいよ」っていう状況じゃない時間を過ごしていたからだと思うんですね。スタッフ的な動きもしなきゃいけない時期の自分の精神状態が結構良くなかったので、そういうのも影響していると思います。

--でも今回のアルバム『and...Life』には、すごく良い声がたくさん入っていると思います。先日の【LIVE福島】もそうですけど、ひとつハードルを超えましたよね。以前より更に“気持ちをどれだけ乗せられるか”というところで声を響かせるようになった印象を受けていて。自分ではあのライブをどんな風に評価しているんですか?

熊木杏里:緊張していたし、落ち着かない部分もあったし、声が引っ掛かるなと思うところもあったんですけど、ずっと弾き語りライブをやってきたこともあって“プラス何か”に辿り着かなきゃと自分でも思っていたんですよね。私はピアノも弾いているけど、とにかく歌なんだということで、何かのラインを超えていくぐらいの想いを発信しようという意識で臨んでいました。

--そこがすげぇ良いんですよ。

熊木杏里:多分ね。そこが前は恐怖だったんですよ。そこを飛び越えられないままにいた。というか、そこを知らなかったから、ラインのこちら側で上手に歌っていたような気がして。でも最近はそこを飛び越えると「良いな」ってみんなが言ってくれる。「こんなエネルギー、どこにあったんだろう?」って思うぐらいの何かが発見できた感じがしています。それを今後はもう少しちゃんとした形で届けられるようになりたい。

--あの【LIVE福島】の後日、ブログで「サンボの山口さんは歌声から溢れる感情を 押さえきれない感じで、その姿にも 私はグッときてしまいました」ってサンボマスターについて書いているのが印象的で。今の熊木杏里に彼らのライブはいろいろ響くところがあったんだろうなって。

熊木杏里:そうなんですよね。初めてサンボマスターのライブを観させて頂いたんですけど、歌いながらうわぁ~!ってなるじゃないですか。上手く言えないんだけど「これがライブなんだなぁ。そういうことか」って。ずっとライブでの自分というものを模索していたんですけど、自分も気持ち的にはそういう風に届けようとするライブをしたいと思うようになってきた。そういう自分になってきたのは、楽曲のおかげもあるんですけどね。『ホームグラウンド ~ふるさとへ~』が生まれたのは大きかったかな。

--では、今の自分の歌をすごく受け容れられている状態ではあるんだ?

熊木杏里:そうですね。受け容れられています。ライブにおける声の感じとかはもうちょっと整えたいと思っているんですけど、自分の中での心の持ち方に関しては落ち着いているというか、少し兆しが見えてきたような気がしています。声の種類も前より増えてきているし。前は「ここだけがすごく良かった」っていう感じだったんですよ。『新しい私になって』の「ほんじつ♪」とか『春の風』の「土の♪」とか。でも今はあのテンションだけじゃない、自分の良いところもあるんじゃないかなって。

--そんな最新型の熊木杏里によるミニアルバム『and...Life』(アンド・ライフ)は、どんな意識や想いがあって創り上げていった作品なんでしょうか?

熊木杏里:震災があってからリリースする作品で、半分ぐらいは震災後に作った曲になっているんですけど、今だから歌わなきゃいけない曲を必然的に選んでいったアルバムです。そうしたことによって『and...Life』っていうタイトルも生まれたんですよね。“生きていく”ということを凄まじく感じたというか、自分も“生きているんだな”っていうことを感じていたので。29歳という年齢に至るまでいろんなことを発信していきて、みんながここにいてくれる。その“山あり谷あり”みたいなものをじんわりと感じたし。それがメッセージになって届いてくれるといいなという想いを込めた一枚です。

--今までCDのタイトルを英語表記にしたことなかったよね? でも自然と「これしかない」っていう感じだったんだ?

熊木杏里:完成した後に「ちょっと待てよ」って思いました(笑)。でもサラッと出てきたので、これが良いなと思って。過去は結構悩みに悩んで決めてきたんですけど、ここまですんなり出てきたのは初めてだったので「これにしよう」って決めました。『and...Life』って“いろいろあって生きていく”っていう意味として受け取れるし、このアルバムには合っているのかなって。

--あと、ネットを中心に話題となっているこのアートワーク。熊木杏里が大人の女になってしまったと騒いでいる人もいました。まぁ大人なんですけど。

熊木杏里:すごくメール来るんですよね。友達とかから「久しぶりに写真見たら、めちゃくちゃアダルトになってる。ビックリしました」みたいな(笑)。

--こうしたイメージチェンジにも熊木杏里自身の想いは反映されているの?

熊木杏里:今回は自分が女性であることを意識していたし、例えば『Life』はガッツリそういう曲なんですね。自分は女性であり、焦ることもあるんだけど……って女性そのものを歌っているので。だから可愛い衣装を着させてもらって“ずっとこういう自分になりたかったのかもしれない”自分にしてもらいました。

--そうしたタイトルやアートワーク、そして収録された7つの楽曲たちを通して、このアルバム『and...Life』の仕上がりに自身ではどんな印象を持たれていますか?

熊木杏里:発売日にCD屋さんへ行っちゃいたいぐらいの気持ちです。

--新人みたいですね。

熊木杏里:(笑)。早く置かれないかな、みたいな。思いの外、待ち遠しかったんだなってすごく実感しています。

--今までの作品に比べてもリリースできる喜びが大きい?

熊木杏里:うん! 今回の作品はすべてに合点がいってるんですよ。前はどこかしら納得いかないところがあったり、事足りていない自分がいたんですけど、今回はいろいろ追いついているし、後悔がないんですよ。それはフリーの日々を過ごしてきたことによって、今、自分自身がすごく良い状態に仕上がっているからだと思うんですけど。

--では、そのアルバムの収録曲たちに触れていきたいんですけど、1曲目『Hello Goodbye & Hello』から気持ちの溢れっぷりが半端ないです。自分の中ではどんな立ち位置の楽曲になっているんでしょう?

熊木杏里:これが第一歩の曲だったのかな、このアルバムに辿り着く為の。映画「星を追う子ども」の主題歌ということで「世の中に熊木杏里を新しく広げていかなきゃ」っていう意識で書いた曲ですね。最初「映画にすごく寄り添ってほしい」って言われていたので、そういう曲を作ったんですけど「違います」って言われてしまって。それで「自分の曲としても発信していける曲じゃなきゃいけない」と意識を改めて作り出したときに、一発目で「これだ!」って感じで出来上がったのがこの曲で。そしたらやっぱりこの曲が選ばれたんです。

--『Hello Goodbye & Hello』というタイトルにした理由は?

熊木杏里:映画がそういうお話だったのもあるんですけど、ちょっと自分へのアレもあったかもしれないですね。最後に「君のいないこの世界に Hello」という歌詞があるんですけど「ちゃんとHelloって言えなきゃ」と思っていたし、そういう曲を作っていきたいと思って作った第一弾だったんです。

--前回のオリジナルアルバム『はなよりほかに』からの流れが感じ取れる話ですね。

熊木杏里:あのアルバムはまだ悲しみが深い。淀みの中で微かな希望を見ていた感じだったので。でも『Hello Goodbye & Hello』は「君のいないこの世界に Hello」と言えるようになっている。あと、この曲は気持ちだけは途絶えさせないように歌いました。結果、苦しかったレコーディングを忘れさせてくれる声になっていると思います(笑)。

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今の熊木杏里の象徴~デビュー10周年に向けて

--続く『Life』は、これからの熊木杏里の象徴のような曲になっている印象があって。これこそ今現在の熊木杏里の声だし、歌い方だし、改めてここから動き出していく意思表示なんじゃないですか?

熊木杏里:そうかもしれない。今の自分だから歌える曲だし、書けた歌詞だと思うし、等身大な感じがすごくある。この曲は『and...Life』っていうアルバムタイトルが決まった後に「このアルバムを象徴する曲を作ろう」っていう話から生まれたんですよ。で、イチ女性であり、イチ人間という立場から、環境は違うかもしれないけど、ひとりで頑張っている女の人にエールを送ろうと思って。自分へのエールでもあるんですけど、ちょっとだけ前よりはみんなの痛みが分かるようになっているので、今現在の自分からそういう曲を発信したかったんですよね。

--ちなみに「私なぜ 今急に 愛されたいの??」っていうフレーズはどんな想いや背景があって生まれたんでしょう?

熊木杏里:自分もそうだけど、友達の女の子とかもわりと多く出てくる感情みたいで。ふと「寂しい」と思ったりする、その気ままな女心をみたいなものが自分の中でようやく掴めたんですよ。好きな人もいるし、好きになってくれる人もいるんだけど「愛されたいの」って言ってしまいたいテンションみたいなものが。この表現に関しては、ちょっとだけ新しいドアを開けた感覚になりましたね。今はこういうことを歌っても年齢的に追いついているし、気持ちも追いついているから良いなと思っています。

--3曲目の『Flag』。「こんなにも明るく、まるで子供みたいに歌うんだ? 熊木杏里って」と驚きました。なんで隠してたの?

熊木杏里:(笑)。隠していた訳じゃないんですよ。この曲はですね、ほわっとした感じの歌い方では感情が追いつかなかったんですね。うわぁ~!って声を出していくことでしか表現が出来なかったので、こうなったんです。でも確かにその辺で流れていたら熊木杏里の声って気付かないかもしれませんね。曲自体は岐阜市のPRソングとして作ったんですけど、完全なる応援ソングを求められていたので「思いっきり励まそう」と思って。で、詞は一般の人たちが“信長への恋文”として書いていたものを読んで、みんなの気持ちも反映させながら書きました。

--この曲も既存の歌い方に執着しなくなったことが表れていますよね。ちょっと前の熊木杏里だったら「いや、ちょっと待って」ってなったよね?

熊木杏里:なりましたね。そこでストップが掛かるような歌い方だと思うし。でも今回は思い切れました。ずっと地声で歌ってますからね。地声でここまで歌いきったのは初めてですし、確実に言葉をダンプカーで押してますからね。後先考えない感じ(笑)。

--そして箭内道彦作詞/作曲の『hotline』。最近のライブでは必ずと言っていいほど歌っている曲ですが、この曲と出逢えたことについてはどんなことを思いますか?

熊木杏里:これはね、ミラクルだなと思いますね。最初の段階から歌いやすくって「良いなぁ」と思いながら弾き語りをして。で、箭内さんの前に立ったときにも、すごく緊張はしていたんですけど「きっと気に入ってくれるんじゃないかな」って思っていたんですよ。自分の声にすごく合っていたから。もっと言えば、逆に「箭内さんに聴いてほしいな」ぐらいの気持ちになっていた。箭内さんが「誰かに歌ってほしい」と言っていた瞬間から「箭内さんに向かって歌ってあげよう」みたいな雰囲気になっていたんですよね。それで歌ってみたら、そこからの縁でいろんなものと繋がっていけて、確かに言えることは“自信”になっているんですよ。作詞/作曲は箭内さんだから、私が出来たことは歌うことだけで。そこの表現力を「良い」って言ってくれたことは、私の自信にも勇気にもなっている。で、この曲によって『and...Life』もすごく締まったし。

--当初「死ぬの」というフレーズを歌うことについて、どんなことを考えました?

熊木杏里:みんな死ぬし、その形はそれぞれ違うし、離れ離れになる。今、そのことを歌えば震災のことしか浮かばないし。それで「死ぬの」って問い掛けなのかもしれないけど、言い聞かせかもしれないなという思いもあって。今もなお、見つからない家族や大切な人への生きた想いが本当は届けばいいのになって、見えない“hotline”をすごく感じながら歌っていますね。「ほしいよ ほしいよ 君に繋がるhotline」って歌うときは被災地の光景が浮かんできますし。それでも「歌いたい」と思う。歌うことをすごく必要としてこの曲があると感じているので「今、歌わなきゃ」って思う。

--続いて『クジラの歌』。この曲はどんな想いから生まれたものなんでしょう?

熊木杏里:「クジラの声って知ってますか?」って、映画「星を追う子ども」の制作チームの人に聞かれて。知らなかったので話を聞いたら、クジラの親子は水の中にいれば遠く離れていても会話できるらしいんですよ。その話は歌になるなと思って“遠く離れたところへいる人にもそんな風に声が届くといいな”みたいなところから作り出した曲ですね。あと、このアレンジの中でたゆたいながら歌うのは気持ち良くて。歌詞の雰囲気を見事に捉えて膨らませてくれているアレンジだと思いますね。これはすごく自然に言葉も歌いながら表現できている気がします。

--『be happy!!』。純度を高めながらも、裾を広げていく。考えさせる曲ばかりのアルバムはもういいと前回のインタビューでは言っていましたが、この曲は正にそうした発想から生まれた曲なんじゃないですか?

熊木杏里:そうですね。ここまで全体的にハイテンションになるとは自分でも思っていなかったんですけど、曲が出来たときに「新しいな」と思いながらも、聴いてふわっとなれる。かつポップっていうのは、私の憧れでもあったので(笑)。しかも憧れの武部聡志さんが手掛けて下さったので、バッチリでしたね。まぁすごく緊張したんですけど。緊張のあまり歌えないんじゃないかと思うぐらい。でも歌い終わった後に「いい顔してるね」とか言われて、多分、やり遂げた感覚が自分の中にあったんでしょうね。もう武部さんのスピードや形、オーラについていくのが大変だったので。それだけの人と接することができたことも自信に繋がっています。

--そしてラストの『ホームグラウンド~ふるさとへ~』。東日本大震災 被災地へ売上を寄付するべく配信した曲でもありますが、改めてその経緯を教えてもらえますか?

熊木杏里:あれはね、平賀さんからのメールが後押しになったんですよ。あのときの私はとても静かだったんで。おじいちゃんとかも「杏里ちゃんは何かやらないの?」って言っていたんですけど、何をしていいのか分からなかったんです。自信がない時期でもあったんで。で、たまたま故郷である長野の人から「『ホームグラウンド ~ふるさとへ~』が聴きたい」と言われて。ちょうどその日だったかな。ミラクルだと思ったんですけど「何かやるときにはすぐに力になるから」ってメールくれたじゃないですか。それで「聴きたい」って言ってくれる人がいるなら、この曲を何とか聴ける形には出来ないかと思って。今はみんながひとつのホームグラウンドに生きているってすぐさまに思ったんですよね。だから聴いてもらえたらいいなって。それでレコード会社に相談したら、あの形を取ってもらえたんです。

--今歌うとどんな気持ちになりますか?

熊木杏里:大きな気持ちで歌っているかもしれない。みんな、同じところで生きているんだよって。人と人が繋がろうと思えたらいいなって。そう歌声から感じてほしいと思う。今、この曲を歌うのはすごく心地良くなってますね。自分も実感しているから。「いつも一人じゃなくて、ここは私たちみんなのホームグラウンドなんだ」って手放しに言えるから。

--そんな多種多様な楽曲、想いが詰まったアルバム『and...Life』。今後の熊木杏里にどんな影響を与えていくと思う?

熊木杏里:このアルバム『and...Life』が出来て、初めて過去の作品たちに対していろいろ言えるようになったんで、やっぱり今作には合点がいってる自分がいるんだろうなと思っていて。で、次はこのアルバムを超えていきたいし、そのときはきっと更に満足できる自分がいると思うんですよ。だから歳を重ねていくことを「良いな」って思えるようになりましたね。

--では、今後はどんな曲を作っていきたい?

熊木杏里:弾き語り一本で歌ってもすごく伝わる曲を作りたいなって思う。アレンジする前のネイキッドな状態そのままで、とても力強く放てる1曲みたいなものを作りたい。あと、今後のライブに関しては精神的にも声的にも万全な状態で臨みたいなと思っています。で、表現力豊かに歌って、みんなが新しく「熊木杏里ってこういうアーティストだったんだ」って思ってもらえるように、この『and...Life』の中にある凛とした感じとかグッと来る感じを目指したい。あと、その歌う姿からも何かを放てる自分がいればいいなと思います。

--来年はデビュー10周年です。分かりやすい目標をひとつ、お願いします!

熊木杏里:(笑)。音楽番組を見てたら「熊木杏里、歌ってるね!」みたいな状況にはなっていたいですよね。テレビでも歌いたいなと思っています。

熊木杏里「and...Life」

and...Life

2011/10/05 RELEASE
WPCL-10997 ¥ 2,096(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Hello Goodbye & Hello
  2. 02.Life
  3. 03.Flag
  4. 04.hotline
  5. 05.クジラの歌
  6. 06.be happy!!
  7. 07.ホームグラウンド ~ふるさとへ~

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[CD]

¥3,666(税込)

風と凪
熊木杏里「風と凪」

2010/03/10

[CD]

¥3,666(税込)

はなよりほかに
熊木杏里「はなよりほかに」

2009/11/06

[CD]

¥2,934(税込)

はなよりほかに
熊木杏里「はなよりほかに」

2009/11/06

[CD]

¥3,086(税込)

雨が空から離れたら
熊木杏里「雨が空から離れたら」

2009/04/08

[CD]

¥1,234(税込)

ひとヒナタ
熊木杏里「ひとヒナタ」

2008/11/05

[CD]

¥2,934(税込)

ひとヒナタ
熊木杏里「ひとヒナタ」

2008/11/05

[CD]

¥3,086(税込)

こと/誕生日
熊木杏里「こと/誕生日」

2008/10/22

[CD]

¥1,047(税込)

モウイチド
熊木杏里「モウイチド」

2008/09/24

[CD]

¥1,047(税込)

春隣
熊木杏里「春隣」

2008/05/21

[CD]

¥1,234(税込)

私は私をあとにして
熊木杏里「私は私をあとにして」

2007/10/24

[CD]

¥2,934(税込)

私は私をあとにして
熊木杏里「私は私をあとにして」

2007/10/24

[CD]

¥3,086(税込)

七月の友だち
熊木杏里「七月の友だち」

2007/07/25

[CD]

¥1,234(税込)

春の風
熊木杏里「春の風」

2007/02/21

[CD]

¥1,234(税込)

新しい私になって
熊木杏里「新しい私になって」

2006/11/22

[CD]

¥1,028(税込)

風の中の行進
熊木杏里「風の中の行進」

2006/09/21

[CD]

¥3,143(税込)

流星
熊木杏里「流星」

2006/05/24

[CD]

¥1,234(税込)

戦いの矛盾
熊木杏里「戦いの矛盾」

2006/01/25

[CD]

¥1,234(税込)

私をたどる物語
熊木杏里「私をたどる物語」

2005/04/06

[CD]

¥1,234(税込)

無から出た錆
熊木杏里「無から出た錆」

2005/02/23

[CD]

¥3,143(税込)

殺風景
熊木杏里「殺風景」

2003/03/26

[CD]

¥3,143(税込)

今は昔
熊木杏里「今は昔」

2003/02/21

[CD]

¥1,257(税込)

咲かずとて
熊木杏里「咲かずとて」

2002/08/21

[CD]

¥1,234(税込)

窓絵
熊木杏里「窓絵」

2002/02/21

[CD]

¥1,234(税込)