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ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』50周年記念特集



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 今からちょうど50年前のこと。1967年6月1日にザ・ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』がこの世に誕生した。本作は、ザ・ビートルズにとって本国英国での8枚目となるオリジナル・アルバムであり、その後発表された作品も含めて、すべての彼らのアルバムの中でも最高傑作と評価されている作品である。ではなぜ、このアルバムが素晴らしいのか。そして、その素晴らしさは今でも通用するのか。そのあたりを検証してみたいと思う。

 本題に入る前に、本作発表時のザ・ビートルズはどのような状態だったのかをおさらいしておこう。1962年にザ・ビートルズとしてデビューしたジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人は、急激に人気を獲得してたった4年しか経っていないというのに、1966年の時点でかなり疲弊していた。というのも、世界的な人気を得たのはいいが、ツアーに次ぐツアーで海外を飛び回り、ファンやパパラッチから追いかけ回されていたからだ。しかも、1966年の6月に最初で最後の来日を実現したのは良かったが、その直後に訪れたフィリピンのマニラでは、身の危険を感じるような事件が起こり、ますますツアーへの意欲を失っていったという。そして、その年の8月にサンフランシスコでコンサートを行った後、ライヴ活動を封印する。



 一方、レコーディングに関しては、コンサートと相反して充実していた。1966年5月には「ペイパーバック・ライター」で複雑なコーラスワークを取り入れ、続く8月発表の「イエロー・サブマリン」では、スタジオでの実験を突き詰めて聴いたことのないような新しいサウンドを生み出していた。同日には7枚目のオリジナル・アルバム『リボルバー』を発表し、いわゆるシングルの寄せ集めではなく、サイケデリックなテイストをふんだんに取り入れたトータリティのある作品として大いに評価されている。そして、極め付けは、翌1967年の2月に発表されたシングル「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」だった。当時の最新機材だったメロトロンを使い、フワフワとしたサウンドに乗せたサイケデリックなナンバーは、ザ・ビートルズ中期における最大の名曲といってもいいだろう。この曲をレコーディングした際に、他にもいくつかの楽曲が生まれていたのだが、それがそのまま『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の先鋭的なサウンドへとつながっていくのである。



▲ 「The Making of Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band」


<“世界初のコンセプト・アルバム”、その構成力>

 では、この『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』とは、一体どういう作品なのだろうか。一般的に、本作は“世界初のコンセプト・アルバム”といわれている。このコンセプトはポールが発案したといわれてり、アルバム全体を架空のブラス・バンドであるサージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドのショウに仕立てるというものだった。冒頭の「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」から始まり、ラストの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の前に、「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のリプライズを配するところなどは、たしかにコンセプチュアルな印象を受けるだろう。サイケデリック時代らしいバラエティに富んだ楽曲がずらっと並べられ、それらの一曲一曲が非常に凝った作りになっている。



▲ 「A Day In The Life」MV


 「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」や「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」、「ホエン・アイム・シックスティー・フォー」といったビートル・クラシックともいえる親しみやすい名曲がある一方で、バロック風のハープシコードとソリッドなギターの組合せによるアレンジがユニークな「フィクシング・ア・ホール」、おもちゃ箱をひっくり返したように賑やかな「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」、ジョージのインド趣味が全開した「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」、ニワトリの声やブラス・セクションなどを取り入れて追い立てられるような印象を受ける「グッド・モーニング・グッド・モーニング」など、異色のナンバーがずらりと並んでいる。これらは、その前の『ラバー・ソウル』や『リボルバー』で培ってきた楽曲作りやアレンジの集大成でもあり、コンセプト・アルバムというひとつの大きな枠組みで重要な役割を担っているのだ。また、本作のラストを飾る「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」にいたっては、美しく繊細なメロディーで始まりながらも、壮絶なサイケデリック・ワールドへと発展するスケールの大きなナンバーで、アルバム最大の聴きどころとなっている。たしかに『ラバー・ソウル』や『リボルバー』には名曲が多数存在するが、アルバムとして通して聴くのであれば『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の全体の構成力にはかなわない。それが本作を名盤として賞賛される理由のひとつなのだろう。



 1967年当時は、いわゆるサイケデリックの風が吹き荒れていた頃だ。ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの『アー・ユー・エクスペリエンスト?』、クリームの『カラフル・クリーム』、ホリーズの『バタフライ』、ザ・ドアーズの『ハートに火をつけて』、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』、ピンク・フロイドの『夜明けの口笛吹き』といったサイケな感覚の名盤が続々と誕生。ザ・ローリング・ストーンズまでもが『サタニック・マジェスティーズ』のような作品を作っていた時代だ。だから、ビートルズのサイケデリック・サウンドへのアプローチ自体は珍しかったわけではない。しかし、ここまでバラエティに富んだ楽曲構成と、トータリティを感じさせるアレンジなどで緻密に構築されたコンセプト・アルバムは、当時はまだ存在していなかった。ザ・ビートルズが参考にしたというザ・ビーチ・ボーイズの大傑作『ペット・サウンズ』も、明確にコンセプトを掲げていたわけでは無いし、その後、ピンク・フロイドやキング・クリムゾンといったプログレッシヴ・ロックと呼ばれるグループが続々と壮大なコンセプト・アルバムを打ち出してくるのは、もう数年先の話になる。



▲ 「Lucy In The Sky With Diamonds」 (Take 1 / Audio)


 さて、発表された当時の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は、実験的な内容であるにもかかわらず、セールス面でも大きな結果を残した。世界各地で1位を獲得しただけでなく、ビルボードのアルバム・チャートでは15週間連続1位という快挙をもたらす。これまでで、売り上げは全世界で3200万枚以上といわれており、彼らのオリジナル・アルバムとしては最高の売り上げを誇っている。そして、もうひとつ大きな結果として、ライヴとシングルのセールスを中心にマーケティングされていたザ・ビートルズのファン層が、このタイミングできっちりとアルバム単位でも不動の地位を確立したことを証明する作品となったのだ。


<色褪せない作品であり続ける理由>

 こうして半世紀もの間、作品としてもセールス面でも大きな評価を得てきた『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。しかし、50年も前の作品を今どのようにして聴き、感じることができるのだろうか。よくいわれる色褪せない作品であるのはなぜなのだろうか。

 ひとつの大きな理由としては、やはりコンセプト・アルバムとしての作品をしっかりと提示できていることだろう。アルバム単位でコンセプトを明確に打ち出すというやり方は、音楽がパッケージからストリーミングへと移行する現在において、ナンセンスなことだと思う方も多いかもしれない。しかし、そういう状況だからこそ、アルバムという形式にこだわって評価を高めることも多い。顕著な例を挙げると、ビヨンセの最新作『レモネード』が大きく評価されたのは、本作が明確にコンセプトを掲げていたからに他ならない。また、ケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』やテイラー・スウィフトの『1989』など、昨今話題になった作品には、コンセプト・アルバムといえる力作が多数存在する。



▲ 「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」 (Take 9 And Speech)


 また、コンセプト・アルバムにも通じるが、オルター・エゴの側面からみても興味深い。オルター・エゴとは別人格を意味することで、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』でいえば、先述の通り、ザ・ビートルズではなく架空のブラス・バンドのショウという設定でアルバム全体が展開されていく。この手法は、デヴィッド・ボウイが1972年発表した『ジギー・スターダスト』でひとつの完成形を生み出したが、その後もプリンスから最近話題のファーザー・ジョン・ミスティにいたるまで脈々と受けがれてきている。ザ・ビートルズにとってはある種のお遊び感覚だったかもしれないが、この手法は、上手く使えば今もなお非常に効果的にアート作品を生み出せるのだ。

 そして、忘れてはならないのが、今見ても斬新なアルバム・カヴァーだ。メンバー自身を含め、古今東西の有名人をコラージュしたこのデザインは、その後現在に至るまで無数のオマージュとパロディーを生み出してきた。ある側面からいえば、その後到来するサンプリング文化を予言しているといいきるのは、ちょっと乱暴すぎるだろうか。いずれにせよ、ザ・ビートルズとしては、『アビイ・ロード』の横断歩道と並ぶもっとも有名なビジュアル・イメージであることには間違いなく、音だけでなく視覚的にも、本作はバンドを代表する作品なのだ。




 このように、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は、この世に誕生してから50年間ずっと、ザ・ビートルズの代表作として君臨してきた。その評価が今後上がることはあっても、下がることはないであろうことは、すでにこれまでの歴史が証明している。そして、50年の節目を迎えた今だからこそ、じっくりと聴いて何かを発見することができる。そういう大切なアルバムなのだ。この機会に、すべての音楽ファンに手に取っていただき、ロックの金字塔の魅力をあらためて感じていただきたいと思う。



▲ 「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band – Anniversary Edition Trailer」

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