ドージャ・キャットが12月15日に神奈川・Kアリーナ横浜で行った、6年ぶりの来日公演【Doja Cat Ma Vie World Tour Japan Show 2025】のオフィシャル・ライブレポートが公開された。

　「深夜ドライブ向きの80年代サウンド」に例えられたドージャ・キャットの5thアルバム『ヴィー』だが、ライブ版は完全に別次元だ。大音量のボーカル、強烈なラップ、鬼気迫る寸劇まで、フルスピードで爆進するグラムロック・ショウのようだった。

　贅沢なサックスが鳴り響き、フルバンド演奏のもと登場したドージャ・キャットは、スターらしくその佇まいだけですべての目線を奪った。赤を基調にした色鮮やかなグラムパンク風のボリュームヘアとメイク、少しアニメ風味なオレンジ色の片目。本ツアーでは公演ごとにさまざまな衣装を披露しているが、コラボレーターのSZAをふくめた海外SNSファンのあいだでも「日本公演がベストルック！」と評判だった。

　早々に人気曲「キス・ミー・モア」に移って驚かされたのは、曲から曲へと途切れることなく展開していくシームレスな構成。かつての特別な夜番組のように、すべてファンキーな世界観で統一されたひとつのショーになっていた。MCも少なめ……というか、観衆に向けて「ダンス！」とチャントして盛りあげていくなど、ファンとの掛け合いすらもショーの一部になっていた。

　会場も温まってきたところでバラードタイム。R&B名曲「アゴラ・ヒルズ」で一気にファンを浸らせた。ポップラッパーとして歌唱に自信がなかったと明かしていたドージャが、そこから猛特訓を積んで挑んだのが今回のツアー。秋の【MTV VMAs】ではアリアナ・グランデやレディー・ガガも拍手喝采させる高音を披露してみせたが、今回の「オール・マイン」のファルセットはあれ以上だったかもしれない。

　ダークラップ「ペイント・ザ・タウン・レッド」では、80年代風の格好をしたバックボーカルの人々も全身で踊り、アリーナ全体がダンスパーティーの狂乱へ。第一幕のしめくくりは、なんと「ニード・トゥ・ノウ」での重厚なギターソロ。ポップやラップファンのみならず、ロックリスナーまで大満足させたことだろう。

　第二幕では、さらにボルテージが上昇。ダンサー育ちの本領発揮とばかりに、ヒールで180度開脚し、四つん這いで床を這いながら歌ってその場を圧倒してみせた。「デーモンズ」では悪霊に取り憑かれたような表情でマイクスタンドを舐めあげ、最後は寝転がってマイクケーブルでがんじがらめに。ドージャにとってはケーブルすら芸術の道具なのだ！　つづく「アーメン！」に入ると突如爆笑しはじめ、そのままラップにつなげた。『ヴィー』のミューズたるキャバレーパンクの女王、ニーナ・ハーゲンへのトリビュートを感じさせつつ、唯一無二のドージャ・ワールド宣言のようなパフォーマンスだった。

　日本でもバズった高速ラップ「ボス・ビッチ」で会場を揺らしたあとは『ヴィー』のテーマ「愛」を体現するフィナーレへ。待望の代表曲「セイ・ソー」から新曲「ストレンジャー」まで、ロマンチックな冒険心がきらめいた。最後には、通常のアンコール形式は行わず。看板シングル「ジェラス・タイプ」で踊ったあともステージに残り、バンドメンバーとリプライズ演奏しながらファンに薔薇を投げ与え、お辞儀してお別れへ。伝説的なテレビ番組のエンディングのごとき余韻ふくめて、ドージャ・ワールドを一貫させたと言えよう。「芸術としてのポップコンサート」とは何なのか、知らしめた一夜だった。

Text by 辰巳JUNK
Photos by 古溪一道