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2026/11/06 17:00

<ライブレポート>宝塚トップ時代のナンバーから新曲まで――45周年の記念イヤーに底知れぬ“あやかし”の魅力を放った涼風真世、4年半ぶりの大阪ライブは歓喜の渦に

 妖精の透明感と、悪魔の妖艶さ――両極の魅力を放つ稀有なトップスターとして活躍し、宝塚歌劇団退団後も俳優・歌手・声優として輝き続ける涼風真世が、ビルボードライブ大阪に4年半ぶりに帰ってきた。今年芸能活動45周年を迎え、10月14日に5年ぶりのニューアルバム『Fairy 妖 –Ayakashi–』をリリース。男役時代から魅了し続ける変幻自在の歌声で、宝塚歌劇やミュージカルのナンバー、これまでの絆から生まれた新曲まで披露している。10月24日にはビルボードライブ大阪で、【涼風真世45周年記念ライブ Anthology 妖~あやかし~】を開催。大阪でのライブを待ちわびたオーディエンスの熱量に、何倍もの熱量で返すような圧巻のヴォーカルで会場を揺らした、夜の2ndステージをレポートする。

 5年前に40周年記念アルバム『Fairy ~A・I~ 愛』を発売以降、毎年春にビルボードライブ横浜で公演を重ね、今年4月にも【涼風真世 45周年記念ライブ Anthology】をおこなった涼風。ビルボードライブ大阪には、2022年春以来の登場となり、チケットは1st・2ndステージとも即完売。古巣の宝塚からも近いうえ、入団前に大阪に住んでいたこともある涼風にとって、半ば凱旋とも言えるライブが記念すべき45周年に叶った。

 開演の少し前から、スクリーンに涼風の幼少期からの写真が次々と映し出される。カクテルなどを楽しんでいたオーディエンスは、過去から宝塚音楽学校入学までを振り返る貴重なショットに時折声をあげ、早くもアニバーサリーならではの高揚感に包まれた。定刻になると、白いジャケットに白のパンツというスタイルで涼風が登場。アカペラで<あー 我が名はオスカル>と美声を響かせ、月組トップお披露目公演【ベルサイユのばら】の「我が名はオスカル」を朗々と歌い出す。会場を飲み込むような音圧に、驚く人が多かったに違いない。5名のバンドメンバーがオスカルの凛々しさを象徴するような勇ましいリズムを奏でるなか、伸びやかな歌声を颯爽と届け、華々しくライブがスタートした。

 MCでは「来たで~、大阪!」と涼風は楽しそうに関西弁を操り、一気にあたたかい空気感が漂う。「歌うことが大好きで、こうしてビルボードライブ大阪のステージに立てて幸せです」と喜びの言葉。春のビルボードライブ横浜では初舞台公演からトップ2作目の【銀の狼】までを振り返った涼風が、今回はその先に続くナンバーを届けると伝え、「みんな、最後までついてきてや~」と愛敬たっぷり。拍手と歓声が沸き起こり、そこから男役時代の名曲を存分に披露していった。

 <あー どうすれば 君を忘れることができるだろう>という歌詞で始まる、【珈琲カフェナバル】の主題歌は、深い重低音のロングトーンから聴く者の心を瞬時に捉える。イタリア系の孤児の青年ジュリオを凛々しく演じた涼風の、野性味あふれる魅力がたちまちよみがえった。さらに「あなたの瞳に宿る悲しみを頂いてゆきます」という台詞を男役ヴォイスでスッと口にし、同作の「愛することの悲しみ」を切なくしっとりと紡いでゆく。

 続いて涼風の“あやかし”の原点とも言える、妖精パックを演じた【PUCK】より、「ミッドサマー・イブ」を愛らしい声色で届ける。1992年の上演時、松任谷由実が書き下ろした名曲で、涼風を代表する1曲。これも劇中の台詞から入り、ライブの音楽監督も務める三枝伸太郎のピアノ演奏とともにキラキラと目を輝かせて歌い、そこに妖精パックが舞い戻ったような感覚に。「ハーミア!」という最後の掛け声は、ピュアそのもの。そして、ストリングスの哀愁をおびた美しい旋律とともに、ステージ上は緑色のライトに染まり、【PUCK】の「LOVER’S GREEN」のメロディが。「僕はパック。君が日記に書いた…」そう言って、手を広げながら<この森で 僕は生まれた>と一人ひとりに語り掛けるように歌唱。何重唱ものコーラスもすべて涼風の声(録音)で、森の中いっぱいに彼女の、パックの声が広がっていくようだ。歌の途中から片手を左右に揺らす涼風に、オーディエンスも自然に従い、心地良い一体感が場内を包み込む。

 ショー【メモリーズ・オブ・ユー】より「懐かしき時代 美しき人々」を歌ったのは、建て替え直前の旧宝塚大劇場に向けた、惜別の思いが詰まっているナンバーだからだろう。ゆったりとした曲調ながら、繊細な振幅を繰り返すメロディ。その一音一音に先達への敬意を込めた、彼女ならではの情感に満ちた歌声が心に沁みわたる。涼風は「大劇場の怪人たちがいっぱいいらして、皆さまの魂を感じながら、舞台に立っていたのを思い出しました」と振り返る。見えない“あやかし”を感じる空間で生きてきた涼風の舞台人生。「舞台は生ものと言いますけど、お客様の気、お客様の魂を近くで感じられてありがたいです。歌うことでしかお返しができないと感じながら、今日もこのステージに立っています」。そう語る姿に、歌を愛し、45年間ステージに立ち続けてきた彼女の生き様がにじんでいた。

 ここまでも屈指の歌声に心酔する時間だったが、続く曲で熱はさらに高まっていく。トップ時代の涼風がメフィストフェレスを演じた【ロスト・エンジェル】より「黒い翼」へ。魅惑的な前奏が流れると、「悪魔は欲望と嫉妬の間に生きる」と冷たく言い放ち、青いライトに照らされた涼風が浮かび上がる。その目はもう、人間の魂を狙うメフィストフェレス。涼風のクールビューティな個性と、深い低音から突き抜ける高音への超絶歌唱が炸裂する。

 間髪入れず、「さぁ、ゲームを始めよう」と妖しい声色で語り、同作のナンバー「チェス」へ。今では【エリザベート】の「闇が広がる」として有名な原曲を、涼風が宝塚で初めて披露した伝説のナンバー。たたみかけるような激しいロックサウンドを全身で受け止めるように、身体を沈め、ときにこぶしを上げ、熱く骨太なヴォーカルで歌い上げると、「キャー!!」という悲鳴にも似た歓声が沸き上がった。涼風は照れながら「今は66歳だよ!」とノリよく応える。余韻が冷めやらないその歌声は、衰えるどころかさらにパワーアップし、まさに“あやかし”の域。【エリザベート】の潤色・演出も手掛ける小池修一郎との作品であり、当時を懐かしそうに振り返った。

 そして「宝塚退団公演からこの曲をお聴きください」と、【グランドホテル】より「グランドホテルで」を披露。ブロードウェイのトミー・チューンが手掛けたミュージカルで、余命宣告を受けた会計士オットー・クリンゲラインを演じた涼風が、男役トップという殻を破り、ひとりの人間の生き様を舞台に刻む名演を見せた作品だ。涼風はこの日も、生きる歓びを声色の隅々にまで宿した心揺さぶるパフォーマンス! 舞台で使用した思い出のルームキーをポケットから取り出し、黄金のライトを浴びて歌う姿がまぶしい。

 その【グランドホテル】と共に上演されたショー【BROADWAY BOYS】からの「The Party's Over」で、春の横浜公演から続く宝塚ナンバーのアンソロジーが締めくくられた。ショーで演じたブロードウェイのスター、ジミーが退団公演の涼風と重なるドラマティックな楽曲が、33年を経て再び。「すべての良きことには終わりがあります」と役と同じく語り、ビロードのような質感を湛えた豊潤な低音ヴォイスで、優しく深くメロディを紡ぐ。ミラーボールの煌めきのなか一礼をして歌い終えた涼風は、「本当に幸せな宝塚生活でした。15歳のあの日、修学旅行で宝塚を観ていなかったら、私はこのステージに立っていたのでしょうか。奇跡、繋がりを今感じています。皆さま、本当にありがとうございました」と感謝を述べると、あたたかい拍手が会場を満たした。

 10曲に及ぶ宝塚ナンバーで、興奮冷めやらぬフロア。ライブは中盤となり、かつて大阪・江坂に住んでいたことや関西への愛を語った涼風は、「この曲を歌ってみたいと思います」とにっこり。バイオリンのソロからチェロへと優雅なカノンが奏でられると、その演奏を優しい笑顔で見つめ、「大阪で生まれた女」を披露する。クラシカルなアレンジの旋律に、柔らかな歌声でしっとりと男の心情を重ねていく。この洒落たサプライズは、ラグジュアリーな会場の雰囲気によく映え、粋な余韻を残した。

 さらに涼風は退団後、ストレートプレイや声優、テレビの仕事など幅広く携わってきたことを振り返り、「でも……私はやっぱりミュージカルが好き!」と明るく宣言。歌い手として唯一無二の表現力を持つ涼風は、これまで【マリー・アントワネット】【エリザベート】【貴婦人の訪問】など数々のミュージカルに出演し、拍手喝采を浴びてきた。そんな彼女が45周年ライブでセレクトしたミュージカルナンバーは、新譜にも収録されている2曲だった。

 まず1曲目は、涼風がヴァルトシュテッテン男爵夫人として何度も出演してきた【モーツァルト!】より、「何故愛せないの?」。ヴォルフガング・モーツァルトが父への想いを切なく吐露するナンバーを、男性キーのまま歌う涼風の至芸に心奪われる。スローな旋律から弾むように伸びる高音まで、ビブラートを自在に操って歌い上げるその歌唱に、ヴォルフの心情が細かく刻まれていて感動を誘う。

 さらに「心して歌わせていただきます!」と“気”を込めて届けたのが、【マディソン郡の橋】の「トゥ・ビルド・ア・ホーム」。映画史に残るラブ・ストーリーを難易度の高い楽曲で綴ったミュージカルの冒頭で、涼風演じるフランチェスカが歌った6分近くにわたる大ナンバーだ。ナポリからアメリカ・アイオワ州の家へ嫁ぎ、家族のために尽くしてきた妻。その日常をワルツのリズムに乗せて悠然と歌い進め、やがて壮大に転調するロマンティックな調べの中に、葛藤と、秘めた愛を詰め込む。フランチェスカの芯の強さを物語る表現力、ファルセットを駆使した歌唱テクニックは圧巻。歌い終えると一瞬の静寂のあと、ヒュー!!と拍手喝采が巻き起こり、本ライブの大きなハイライトとなった。

 そんな歓声を受けた彼女が、普段はミュージカルのオファーを受けると、「自分にできるだろうか」と考え、稽古中や本番中も悩みながら進んできたと本音を口にする。繊細なアプローチと努力があってこその45年。「涼風も泣くんですよ!」とおどけてみせるが、堂々した舞台姿からは想像できない、というようなオーディエンスの反応があたたかい。続いて、故郷・宮城への想いを胸に、毎回大切に歌う東日本大震災復興支援ソング「花は咲く」へ。光が降り注ぐような歌唱と、波間に浮かぶような心地良い演奏に、涼風を見つめるオーディエンスも自然と身体を揺らし、穏やかな時間が過ぎていった。

 拍手に見送られ、衣装替えのために姿を消した涼風。その間スクリーンが再び下り、宝塚退団後に出演した舞台作品が写真とともに次々と紹介される。華やかなミュージカル、和物のお芝居など、さまざまなキャリアを重ねてきた道のりを実感するひととき。「Now I’m here」と表示されると、モスピンクのロングワンピースに身を包んだ涼風が! 今の彼女を象徴する新曲「セレナーデ」が、いよいよオーディエンスの前で解き放たれる。【エリザベート】などを手掛ける巨匠シルヴェスター・リーヴァイが、15歳のときに作曲した曲を涼風に提供し、竜真知子が日本語詞をつけた本邦初披露のバラード。<人生は苦くても 愛すれば愛おしい>と、哀愁を帯びたなめらかなメロディを艶やかな低音域の声で操り、人々を酔わせる。これまで数々のリーヴァイ作品に出演してきた彼女は、「リーヴァイさんの曲を聴くと、細胞が活性化されて心が満たされ、幸せな気持ちになります」と打ち明け、笑顔がこぼれた。

 そして、歌手・涼風真世として新たな挑戦となった新曲「ゆらぎ」も初の生パフォーマンス。山崎育三郎作詞・城田優作曲によるこのオリジナル曲について、「私がどうしてもおふたりに、とお願いしました」と涼風。ダイナミックなドラムと重厚なストリングスのアンサンブル、そしてピアノの煌びやかな音色。その豊かなサウンドを包み込む、伸びやかなハイトーンヴォイスを響かせ、研ぎ澄まされた透明感を放つ。新譜の音源よりさらにぬくもりが加わったような「ゆらぎ」を、オーディエンスは涼風と同じく片手を左右に揺らしながら、幸せそうな表情で受け止めていた。

 ライブは終盤となり、「この風の向こうまで」(松井五郎作詞・三枝伸太郎作曲)を優しい声色で歌う。<あなた>と歌うところでは客席に手を伸ばして。涼風プロデュースの真心を込めた楽曲が、客席の一人ひとりにまっすぐ届いていくのを、肌で感じるひとときだった。歌い終えると涼風は、「大好きな歌を歌うこと、皆さまにこうして出会えたこと、私の財産になっています」と45周年の想いを伝え、「いつも私を見守り、支えてくださるすべての皆さまに感謝の気持ちを込めて、この曲を贈ります」と、涼風が作詞した「A-YU-MI(歩み)」を全18曲のラストに届けた。いまや涼風のライブに欠かせない1曲。いつも以上に力のこもった情熱的な歌唱で、ドラマティックなサウンドと共に胸に迫る。ラストの手前のフレーズ、<感謝と愛を……>で演奏がピタッと止まると、目を潤ませた涼風はマイクをはずし、生の声で<ありがとう>と伝える。客席のあちこちで涙を拭う姿が見られ、会場が深い感動に包まれるなか、45周年ライブは終演のときを迎えた。

 熱い拍手に応え再び現れた涼風は、チャーミングな法被姿。「皆さまに愛していただき、涼風は幸せ者です。またビルボードライブ大阪に呼んでくれるかな? 今度は2日間ぐらいやりたいな」と言うと、「フー!!」と喜びの歓声が沸き起こる。この日も「昔、妖精。今、妖怪」と恒例のコール&レスポンスを客席と楽しみ、約1時間20分にわたって、“あやかし”のごとく底知れない魅力を発揮した涼風。45周年を迎えてさらに磨きがかかったその歌唱力は、歌がこれほどまでに人の心を動かすのだと、鮮やかに証明してみせた。再びこの会場で彼女の極上のステージに触れられる日を、心待ちにしたい。

Text by 小野寺亜紀
Photo by 小林邦寿、mk@jeepster

◎公演情報
【涼風真世 45周年記念ライブ Anthology ~空(1st Stage)& 海(2nd Stage)~ in YOKOHAMA】
2026年4月11日 神奈川・ビルボードライブ横浜 ※公演終了

【涼風真世 45周年記念ライブ Anthology 妖~あやかし~】
2026年10月24日 大阪・ビルボードライブ大阪 ※公演終了

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