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ハリー・スタイルズ ソロ・デビュー・アルバム『ハリー・スタイルズ』発売記念特集

HarryStyles

 ハリー・スタイルズ。いわずと知れたワン・ダイレクションのメンバーの一人であり、テイラー・スウィフトの元恋人としても知られる彼が、全英&全米チャートで初登場1位を獲得したソロ・デビュー・アルバムの国内盤を5月24日にリリースする。その名も『ハリー・スタイルズ』。アコースティックで雄大なロック・バラードとなった先行シングル「サイン・オブ・ザ・タイムズ」や、シングルやアルバムの“本人の顔が一切写っていない”アートワークを通して、ボーイ・グループ出身というイメージを覆す作品性は、既に各所で話題となっている。もちろん、1D時代から積極的にソングライティングに関わっていた彼らしく、手練のミュージシャン達の力も借りて、全曲を自身で作曲。アイドル的なイメージを脱し、表現者としての歩を進める意志と興奮に満ちたアルバムの内容に迫ってみたい。

正真正銘のロック・アルバム

 このアルバムをじっくりと聴いてみることは、ハリー自身がアルバム制作を通して経験したであろう“音楽の旅”を追体験してみるようなものかも知れない。1人の表現者が、新たなスタートを切るまでの誠実なドキュメント。『ハリー・スタイルズ』は様々な意味で、私たちに驚きを与えてくれるリリースとなった。

 まずはサウンド。『ハリー・スタイルズ』はボーイ・グループバンド出身者として、少なくともここ15年の間では異例のソロ・デビュー作品となった。2002年、ジャスティン・ティンバーレイクがソロ・デビュー作『ジャスティファイド』で確立した、“R&Bやヒップホップ畑のプロデューサーとタッグを組んだ、グルーヴィーでダンサブルな(少し)大人のポップ路線への移行”という勝利の方程式に背を向けて、今作はジャマイカのスタジオで数名のミュージシャンと顔を突き合わせて作った、正真正銘のロック・アルバム。ハリーであれば、全力でポップ・シーンに殴り込みを掛けるようなソロ・デビューの選択肢もあり得ただけに、まずはこうした制作スタイルを採用したこと自体、大きな驚きだ。

 ジャマイカでの制作を選んだ理由についてハリーは「そうすることに決めた大きな理由は、外的な影響を受けたくなかったからなんだ。トレンドになっている音楽を耳にしたくなかったし、何て言うのかな、何にも邪魔されず集中したかったんだ」とレーベルのジェネラル・インタビューの中で語っている(※以下、ハリーの発言は全て同インタビューが出典)。そうした結果、アルバムは彼らにとっても「自分たちが聴いて楽しめるもの」になったという。


▲Apple Music Presents – Harry Styles: Behind the Album – Apple

 元々、ローリング・ストーンズやフリートウッド・マックなどの、いわゆる“クラシック・ロック”も好んで聴き、そうした趣味を自らの関わった1D楽曲にも反映してきたハリー。『ハリー・スタイルズ』もまた、そうした嗜好性が全面的に反映された作品となった。ハリー曰く、スタート時点では「もっとロックっぽい感じをイメージしていた」とのこと。その意味では、ローリング・ストーンズを引き合いに出したくなる「オンリー・エンジェル」や、アルバム中最もブルージーかつラウドな「キウイ」が、彼が最初にイメージしていたアルバムのサウンドに近いのかも知れない。

 しかし、制作が進むにつれアルバムは「単なるブルースやロックから、いろんなものを試す実験的な内容になっていった」。『ハリー・スタイルズ』が、リスナーの期待を遥かに飛び越えて、ハリーの創造性の高さを感じさせる作品になったのは、まさにそうした実験精神が結実した楽曲の数々のおかげだ。


ミック・ジャガーと並ぶカリスマ性の持ち主

 ここでアルバムに参加したミュージシャンを改めて紹介しよう。エグゼクティブ・プロデューサーもつとめたジェフ・バスカーは、マーク・ロンソン&ブルーノ・マーズの「アップ・タウン・ファンク」を手掛けて、2016年の【グラミー最優秀プロデューサー賞】を獲得した、まさに今をときめくスーパー・プロデューサー。そんな彼は元々カニエ・ウェストの作品に関わるなど、ヒップホップ畑のプロデューサーでもある。(ロックをルーツに持つハリーとの組み合わせは、デンジャーマウスとベックのコンビを彷彿させる。)トラック制作に留まらず、楽器演奏もマルチにこなす、そんな俊英の存在は、間違いなくアルバムのクオリティを引き上げる手助けとなったであろう。ハリーはジェフの手腕を「彼は、その人の中にあるものを引き出そうとプッシュするのがものすごくうまいんだ」と賞賛。一方、ジェフは、先日公開された『バラエティ』のインタビューの中でハリーを、自身も一緒に仕事をしたことのあるローリング・ストーンズのミック・ジャガーと並ぶカリスマ性の持ち主と高く評価している。


▲Harry Styles performs 'Sweet Creature' (LIVE BBC The One Show)


 その他、ミッチ・ローランド(主にギター/ドラムス)とライアン・ナスシ(ベース)の二人は“Total Navajo”というプロジェクトでも共演するLAのミュージシャン。さらにアレックス・サリバン(キーボード)、タイラー・ジョンソン(プログラミング等)というハリーを含めた6人が、レコーディングの中心メンバーとなったようだ。

 さらに「スウィート・クリーチャー」と「カロライナ」の2曲で、自身もアーティスト活動し、近年はショーン・メンデスやジェームズ・ベイとも共作するキッド・ハープーンが作曲/レコーディングに参加。ハリーが「本物のミュージシャン」と賞賛した彼らは、単に仕事としての枠を超えて、ミュージシャンとしてハリーとの有機的な関係性を築いていった。


▲Harry Styles: Carolina



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    自分もいろんなものを探求してみようと思った」
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「ハリー・ニルソンがやろうとしていたように、
自分もいろんなものを探求してみようと思った」

 サウンド面でのバラエティの豊かさは、本作の特徴の一つ。アルバムは、前述の「オンリー・エンジェル」~「キウイ」のロック路線から、カントリー風の「トゥー・ゴースツ」や、ビートルズの「ブラックバード」風の小品「スウィート・エンジェル」なども収録。「ジャマイカにいたときはハリー・ニルソンをよく聴いていたんだ。それで気づいたのは、彼の曲がすごくバラエティに富んでいるということだった。だから彼みたいな音を目指すというより、彼がやろうとしていたように、自分もいろんなものを探求してみようと思った」とは、ハリーの弁だが、アルバム全体を聴き通せば、彼の言いたいことは手に取るように分かるだろう。

 ロンドンやLAの日常とは異なる、思いきり音楽に集中できる環境でのミュージシャン達との共同作業を通して、アルバムのサウンドの世界は劇的に深化していく。その最も重大な成果が「ミート・ミー・イン・ザ・ホールウェイ」「サイン・オブ・ザ・タイムズ」「ウーマン」「フロム・ザ・ダイニング・テーブル」等、60年代~70年代のサイケデリック・ロックの感触を備えた曲群だろう。例えば、前述の『バラエティ』のインタビューでジェフは、「ミート・ミー・イン・ザ・ホールウェイ」のピンク・フロイドを思わせる、深くエコーの掛かった迫力満点の音響と歌が、その新鮮さを含めて、彼自身にとっても驚くべき成果だったと語っている。


▲Harry Styles - Meet Me in the Hallway (Audio)


 あるいは、「サイン・オブ・ザ・タイムズ」やアルバムの“一切の文字要素が無い”アートワークに暗に示されているように、レッド・ツェッペリンの作品も、レコーディング中の共通のレファレンスの一つだったようだ。ジェフによれば、ハリーは意外にもツェッペリンをよく聴いたことがなかったらしく、ジェフが作品を薦めた。例えば、「エヴァー・シンス・ニュー・ヨーク」のオリエンタルなフォーク・サウンドの由来もおそらくはそこにあるのだろう。

 逆に、ジェフはハリーの読書家ぶりに驚かされたらしく、レコーディング中は、作家のチャールズ・ブコウスキーがバンド内の小さなブームになったそう。ということは、「オンリー・エンジェル」における『バーフライ』(ブコウスキーが脚本をつとめた映画)からのサンプリングは、ハリーのアイデアだったのかも知れない。そんな“バンド”的としか言えない有機的な関係性が、『ハリー・スタイルズ』を形作り、その世界をさらに押し広げていったのだ。


▲Harry Styles - Only Angel (Audio)


ハリーの歌声の魅力をも大きく引き出した作品『ハリー・スタイルズ』

 “バンド”との共作を通して、サウンドの方向性が様々に拡がっていった結果、アルバムはハリーの歌声の魅力をも大きく引き出した作品になった。そもそも、ハリーの歌声は、ソウルフルかつエモーショナルで、単に巧拙では測れないスターの資質をしっかりと備えたもの。そんな彼が、楽器の鳴りも生々しいロック・サウンドの中で表情豊かに歌うのだから、ファンでなくてもグッと来てしまう。ハリー自身「今まであまりちゃんとやったことがなかった」という「サイン・オブ・ザ・タイムズ」のファルセット歌唱はその最たる例。ジャケットのアートワーク同様、生々しいハリーの歌が堪能出来るアルバムなのだ。


▲Harry Styles - Sign of the Times


CD
▲「サイン・オブ・ザ・タイム」

 最後に、「サイン・オブ・ザ・タイム」あるいはこの『ハリー・スタイルズ』のアートワークに注目したい。いずれも共通して、ハリーの後ろ姿だけが写り、アーティスト名も、曲名/タイトルさえも書かれていない(レーベルのロゴだけが入っている)。そこから想起されるのは、前述のレッド・ツェッペリンの『IV』をはじめとした、古のロック・バンドのアートワーク。ロック・ミュージシャンというだけで色眼鏡をかけて作品を判断されかねなかった時代、彼らは「(ルックスやイメージではなく)純粋に作品性だけで評価されたい!」と意気込み、アート性の高いジャケットを作っていた。それにオマージュを捧げたような本作のジャケットを見て、もしかしたら、ハリーもまた、今までのイメージを超えて、純粋に作品性だけで評価されてみたいと、心のどこかで夢見ることがあるのかも知れない、と考えるのは邪推だろうか。

もちろん、私達がそう簡単に過去の自分から逃れることが出来ないように、本作もまた“あの1Dのハリー・スタイルズ”の作品であることからは逃れようが無い。肩のタトゥーも簡単に消えはしないだろう。だが、自ら新しい環境に飛び込み、そこで多くのことを学び、“新しい自分”として世界に臨むことは、誰にでも出来る。『ハリー・スタイルズ』は、1人の才能に溢れた勇敢な若者のドキュメントとして、自分の信じる道を見つめ、新たなスタートを切ることの興奮を教えてくれる。今年公開予定の映画『ダンケルク』への出演をはじめ、表現者として羽ばたき始めたニュー・ハリー・スタイルズの行く末にさらに注目したい。その歩みは、きっと“もと来た場所”に戻る時も、大きな糧となって行くはずだ。


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