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<インタビュー>MALIYA、SIRUPが語る――R&Bシーンとカルチャーの在り方(前編)

Interview & Text: 渡辺志保
Photo: SHUN ITABA
本格デビューから10周年を迎え、10月には自身初となるビルボードライブでの単独公演を目前に控えているMALIYAと、来年、SIRUP名義での活動10周年を控えるSIRUP。ともに日本のR&Bシーンが大きく変化する時代を歩み、互いの音楽にリスペクトを寄せてきた2人は、2021年にMALIYAのアルバム『faveur』に収録された「Everybody Needs Love」で初共演を果たした。 今回、2人にこれまでの歩みや日本のR&Bシーンの変遷、カルチャーを育む場所のあり方、そして、これからの活動を見据えた暮らしと音楽のあり方まで、多角的に語ってもらった。
早いようで長くもあった10年間
――MALIYAさんは1st EP『ADDICTED』(2016)のリリースから10年ということで。10周年、おめでとうございます。
MALIYA:ありがとうございます。 この10年、早いようで長くもあった。コロナの期間もあったので、その分ちょっと早い感じもありますけど。思い返したら確かに「10年くらい経ってるな」と。
――SIRUPさんとはほぼ同期のような感じでしょうか?
SIRUP:SIRUPとしては今年が9周年で、来年が10周年目ですね。でも、その前のKYOtaro名義の時代から数えるともう19年目くらいです。

――MALIYAさんが『ADDICTED』をリリースした2016年頃の空気感って覚えていらっしゃいますか?
MALIYA:パッと思い浮かぶのは、今みたいにSNSが発達していなかったってこと。私がYouTubeにカバー動画を上げ始めたのが2014年くらいだったんですけど、それも当時は珍しかったかも。Facebookもやってたと思いますね。そういう環境は今と全然違うなって感じます。
SIRUP:僕はMALIYAがカバー動画を上げているくらいの時から知っていて。あの当時はJ-R&Bのブームとかがあったんですよね。だから、結構現場で会っていたなというイメージもある。イベントもたくさんあって、なんかワクワク感みたいなものは今よりもあったかもしれない。それは、自分たちがSNSベースじゃなかったから、余計そこにワクワクしていたのかも。
MALIYA:私、KYOtaroさんを知ったのが大阪のR&Bイベントの【GIFT】だったと思う。「なんだこの人、ヤバい」って感じたのが始まり。イベントで知り合った人も多かったし、確かに、そういう場がちょこちょこありましたよね。それこそ、「ドラソ(DRAMATIC SOUL)」とか。

SIRUP:「ドラソ」が出てくるの、いいな(笑)。竹本健一さん、RUNG HYANGと、Hiro-a-key(現Nenashi)さん、あとMARU(Fire Lily)さんたちでやっていたイベントにずっと出させてもらってたんですよね。あと、ちょっと違うところだと「SUGAR SHACK」も人気だった時代ですね。Full of Harmony(F.O.H.)が中心になって、その中では三浦大知くんが一番歳も近くて。そういう流れを生む要因の一つとしては、多分EXILEのオーディションとかがあって。オーディションには受からなかったけど、ローカルで活動している人とか、そういうR&Bに根ざしているシンガーがいっぱいいたんですよ。
カルチャーとしての“場所”をつくる
――今、名前が出たFull of Harmonyの皆さんは90年代後半から活動しているグループですよね。その時代も、クラブを起点とした日本のR&Bが盛り上がっていたと思うのですが、そうした世代の方たちとMALIYAさん、SIRUPさん世代の間に系譜のようなものや繋がりを感じることはありますか?たとえば日本のヒップホップ・シーンは2世代、3世代に跨るコラボレーションも盛んだし、多世代の繋がりが強いなと感じるんですけど、ことR&Bはどうなのかなって。
SIRUP:俺は、結構そこはあの時代のウィークポイントだと思っていて、重要なことでもあると思っています。自分がこれからフェス【ROLL & BOUNCE FES】をやるのも意味があって。あの時代の歌モノって、結局ポップスに行くことがゴールやったんですよね。しかも、歌って誰もが認識しやすいカルチャーでもあったし。それに対して、僕の時代は“グループみんなで盛り上げる中で、誰かが勝ち抜いていく”みたいな状態だっただけで、横のつながりにおいても「硬く繋がって一緒にやっていこう」みたいな気持ちはあんまりなかったのかなって。R&Bがカウンターカルチャー的になっていなかったのかもな、と思う。
――私も、以前90年代に活動していた女性のR&Bシンガーの方に「当時、シスターフッド的な意識はありましたか」と聞いたら「そんなに意識してなかった」と仰っていたのが印象的だったんです。
MALIYA:そうですね。 そういう部分に関しては、今、ヒップホップの繋がりが本当に強いから余計に感じるし、“R&Bのシーン”って呼べるものがないなというのも感じます。それに、R&Bといってもジャンル自体がもっと細分化されている。私も一応R&Bというジャンルではあるけど、WONKと一緒にやったり、ジャズ寄りの人たちと絡むこともあれば、ヒップホップのラッパーとコラボすることもある。だから、「団結して一緒にやろう!」みたいな気持ちは、私の中では今もそんなにないかなって感じはしています。

――逆に、そういう“団結”みたいなものがあった方がいいなっていうのは感じることありますか?
MALIYA:イベントがもっとあったら楽しいなって思っていて。ヒップホップのイベントは今、本当にたくさんあるけど、R&Bとか歌モノが好きな人たちが集まれるイベントもあったらいいなと思います。横のつながりも、別にみんなで仲良しこよしがしたいわけではないんですけど、お互いに刺激し合いながら、いい感じにコミュニティが広がっていったり、ファン同士がそこでつながったりして、ライブにも行きやすくなる。そうなったら、もっと楽しくなるんじゃないかなって。
――そこにおいては、まさにSIRUPさんは実践しているイメージがあります。
SIRUP:そうですね。ただ、団結はしなくていいかなと思っていて。僕が常々思っているのは、結局、団結してもそれぞれの利益を求めるところに行き着いてしまうということ。そもそも、R&Bはブラックカルチャーですよね。アフリカン・アメリカンの人たちがそうしないと生きていけなかったという背景があって、そこから生まれて根付いているものがある。それを、そうじゃない国で形だけ真似しても、結局は誰かが自分の利益のために動いていくってことが永遠に続いてしまうんですよね。僕が見てきたR&Bやヒップホップ・シーンでも、盛り上がっては崩れて、また盛り上がっては崩れるという構造はずっと変わっていない。今のヒップホップ・シーンは、それをなんとかしなきゃと思っている人が増えている気がしていて。そういう意味で、同じルーツを持っている人たちで、そのルーツを認識しながら、「そこから自分が助けられた」とか「パワーをもらった」みたいなことを伝えていく場所、共通認識を持っている人たちが集まれる場所みたいなものを作っていく必要があるなと思っています。

SIRUP:ヒップホップとかでも、SNSでバンってバズって、その人たちがずっと団結している雰囲気もあまりないし、一瞬稼いでも「じゃあ、この先どうする?」って感じがするんです。「今、この子が数字を持ってるから、この人にお金を渡してこの人を呼んだら人は集まるでしょ」ってことを繰り返していたら何も変わらない。そうじゃない、資本主義から若干離れたちゃんとしたカルチャーとしての“場所”を作った方がいいなって。もっと思うのは、R&Bとヒップホップって隣接しているようなカルチャーだけど、今の日本のヒップホップの中でR&Bをやっている人は“R&B”と言っていない人が多い。「その辺の境目を何でジャッジするの?」とは思うんですけどね。ラップもほぼオートチューンで歌モノみたいになってるし。(ヒップホップもR&Bも)元はアメリカの音楽だし、アメリカのトレンドの流れから10年遅れでこっちに入ってきていると感じるんですけど、今はそのサイクルがもっと早くなっている。その分、いい波も悪い波も早い。去年の10月末くらいから、アメリカのビルボード・チャートのTOP40からヒップホップの曲が無くなったじゃないですか。「ここでどうしますか?」という問題が目に見えてきているなと感じるんです。
――そこで、実際に自らがキュレーターとなってカルチャーフェス【ROLL & BOUNCE FES】を立ち上げた、と。
SIRUP:R&Bシーンをベースにしながら、ラッパーにもいっぱい出てもらう感じなんですけど、もうちょっと人の営みが見えるような場所を増やしていった方がいいかな、と思って。今、イベントも稼げるから乱立している感じもめっちゃあるし。

――そうなんですよね。イベントが多すぎて、需要と供給がアンバランスになっている状況であるとも感じます。そういう場所を、実際にリスナーの方から求められているな、というムードを感じますか?
SIRUP:うーん。そういう場所を求めている人もいると思うんですけど、多くはないと感じますし、メインストリームではないと思う。だから「やらないといけない」みたいな感覚はあるかな。で、「面白い」って思わせるのが大事だとも感じます。結果的に自分が思っているのは、もう似たようなものしかないから、それ自体が面白くなくなっちゃっている。逆に、アナログな空気感が面白くなっていくとか、その場所に行かないと見れないとかって方向にいっているんじゃないかな。結局、SNSで見たものに対して、「この動画の中に入りたい」と思った人が、その場所にいっている。そうじゃなくて、体験して目撃して「自分しか見れなかった」みたいなものに対してーー結局、アナログな方に需要が来るのかなってことはうっすら思っています。
初披露となるコラボ楽曲「Everybody Needs Love」
――話を戻しますが、お2人の距離が縮まっていったきっかけは何だったのでしょうか?
MALIYA:うーん。KYOtaroからSIRUP名義に変わって、Future SEVENでしたっけ?
SIRUP:今は無き、Future SEVEN !
MALIYA:そこで初めてSIRUPとしてのライブをやった時に観に行かせてもらったんです。KYOtaroから続く一連のムーブメントを見ていて、やっぱりリスペクトしかないし、なんていうか、SIRUPさんは”その先を見ていたくなる人”という感じなんですよね。(世の中の)動きもそうだし、音楽もそう。「今、どういうことをやってるんだろう?」と思ってライブを見に行くたびにアーティストとしての魅力を再認識します。さっきも音楽のルーツについて話していましたけど、まさにそれを体現しているのがSIRUPだと思います。この間、ワンマンライブを見に行った時も、自分の曲をディアンジェロの昔の曲なんかをサンプリングするようにアレンジしながら歌っていたんです。そんなふうに、R&Bやブラックミュージックを知らない人にもシェアしていくということをやっていて、やっぱりイケてるなと思いました。シンガーだと、フェイクの入れ方とか歌い方でルーツが分かったりするじゃないですか。私はそういうところを見るのも好きだから、余計に「かっこいいアーティストだな」って思ってみてましたね。

SIRUP:俺は結構シンプルで、MALIYAの歌が死ぬほど好きで。
MALIYA:ありがたいですね。
SIRUP:だって俺、自分のライブでもMALIYAの「Dancin' in the rain」とかアドリブでマッシュアップしたことあるもん。
MALIYA:ヤバすぎます(笑)。
SIRUP:まず、初めて会った時に「歌やってます」ってなって。あとで見てみたら「めっちゃいいやん」と。そこからあんまり気持ちは変わってないですね、ずっと。そこからめちゃめちゃ活躍してるけど、いちファンとしてのMALIYAへの眼差しはあんま変わってない。周りにいるプレイヤーとかミュージシャンも近いしね。今回のビルボード公演のバンドメンバーもほぼ知り合いだし。
――そういう点が、お2人の音楽性が近いということを自然と示していますよね。
SIRUP:シンガーって歌っているのを聴くと、細かいところまで分かるんですよね。例えばフェイクの音階の感じから、「これは絶対、ネオソウルを聞いてるな」とか「ミュージカルが好きなんやろな」とか。分かる?
MALIYA:それ、めっちゃ分かる。
SIRUP:「このフェイクは、R&Bっぽいポップスに影響を受けてるんやろな」とか。特に今はめっちゃ分かりやすい。そういうところも、MALIYAにフィールするんです。自分はもうめっちゃ根強くネオソウルに影響を受けているんで。MALIYAからもそういうフレイバーがする。でも、本人の持つポップネスもちゃんとある。だから、いろんな音楽にもハマるし、スタイルもクールだし。ベースにはリスペクトがありますね。

――2021年に発表されたMALIYAさんのアルバム『faveur』には、WONKのメンバーやYo-Sea、3houseといったゲスト・ミュージシャンに並んでSIRUPさんも参加されている。2人で歌っている「Everybody Needs Love」はとても普遍的で包容力のあるミディアム・バラードですよね。改めて、どんなふうにして出来上がった曲なのでしょうか。
MALIYA:あの曲は、もともと私がデモを作って、出来上がった時に「誰と歌おう?」と思ったんですけど、もうSIRUPさんしか歌えないような曲だな、と。いつかSIRUPさんとコラボしたいとはずっと思っていたけれど、初めて一緒にやる曲だから、軽くてダンサブルな曲よりも、しっかり意味があって残る曲にしたかったんです。ちゃんと心にも残るタイムレスな曲、いつ聴いても良いと思えるような曲を作りたいという気持ちがあって。曲ができた時に「この曲だったら」と思って、連絡させてもらったという感じです。2つ返事で引き受けてもらえて、嬉しかったですね。
SIRUP:時期もありそうよな。 2021年だから、もう超混沌としてるタイミングで。
――まさにコロナ禍の時期ですよね。
MALIYA:「これから本当にどうなるんだろう」みたいな気持ちもあったし、『faveur』は全体的にそういう想いも乗った作品になっています。『faveur』って「恩恵」みたいな意味があるんですけど、そういう意味でも、アルバムには不可欠な曲だったなと思います。だから、『faveur』の時はリリースイベントもできていなくて、「Everybody Needs Love」は今回のライブで初披露なんです。
SIRUP:ライブでやってないんだ。
MALIYA:そうなんです。だから今回は本当に満を持して披露出来ることが嬉しいです。
――鍵盤の響きが美しい曲なので、実際にライブで聴いたらすごくエモーショナルな気持ちになりそうです。
MALIYA:実際に「Everybody Needs Love」の作曲に携わってくださったキーボードの宮川純さんとベースの越智俊介さんが、今回の公演に参加してくれるんです。だから、私にとってはとても胸アツなセットです。

――当時のレコーディングの様子も覚えていますか?実際に、お互いがリスペクトを送り合う2人が一緒にブースに入ったらどんな感じなのかな?と思って。
MALIYA:めちゃくちゃ食らいましたね。もちろん歌がうまいのは知っているけど、他のアーティストがどんな感じでレコーディングするのかは意外と見ないじゃないですか。レコーディングの日にSIRUPさんはラフな感じで現れて、ほぼワンテイクで録り終えていたのが印象に残っています。
SIRUP:あんまり覚えてないけど(笑)。なんか“結果的に系”やった気がする。
MALIYA:そうそう。「結果、これがいいじゃん」みたいな感じで。私はその前に何時間も同じところをずっと繰り返しレコーディングしていたんですけど、SIRUPさんはほぼワンテイクで録って颯爽と帰っていった。かっこいいっていうか、びっくりしました。
SIRUP:たまたまね。あの時代、コロナもあってヒリヒリしてたから。そもそも、歌詞がすごく良かったし、MALIYAから振ってくれたテーマもよかった。僕、その時期一番ネットで叩かれたりしていた時期だったんで。 だから、曲自体が時代に合ってるし、すごい大事な歌やなと思ったんです。そのタイミングで俺を呼んでくれて、俺がこれを歌ってリリースするってめっちゃ意味あるなと思ったから、集中できてたのかもしれない。
――「Everybody Needs Love」に対する周りからの反応は覚えていらっしゃいますか?
MALIYA:周りも結構褒めてくれましたね。もちろん、ファンの方達の反応も良かったです。なのであとはやっぱり、ライブですね。あの曲は多分生音のライブでやればやるほどもっと良くなるだろうなって思っています。
後編へ続く
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