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<インタビュー>椎名林檎とGOING STEADYが原点――『ふつうの軽音部』原作者・クワハリの音楽遍歴と、キャラクターが生まれるまで【WITH BOOKS】

Interview & Text:西廣智一
書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】。今回登場するのは、マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にて連載中の漫画『ふつうの軽音部』の原作を手がけるクワハリ。
小学生の頃からJ-POPやJ-ROCKに触れ、一時は教員として高校の軽音部の指導をしていたという彼が、どのような道をたどって『ふつうの軽音部』誕生まで到達したのか。創作における音楽との関係性や『ふつうの軽音部』にちりばめられた自身のこだわりについて、貴重な話を聞いた。
クワハリの音楽遍歴
――クワハリ先生がどんな音楽遍歴をたどってきたのかがすごく気になりまして。これまでどんな音楽を聴いてきたか、好きになってきたかを教えていただけますか?
クワハリ:ルーツというほどのこともないんですけど、僕には3つ上の兄がいて。兄がJ-POPやJ-ROCKが好きな人だったので、その影響で小学生ぐらいからJ-POPを聴きはじめて、中学になると椎名林檎やラルク(L'Arc-en-Ciel)、THE YELLOW MONKEYなどバンドものが特に好きになって、聴くようになりました。で、高校に入ると青春パンクブームが巻き起こっていたこともあって、それまで触れてこなかったGOING STEADYとかガガガSPとか、インディーズシーンのメロコアやパンクロックを聴くようになりまして。大学に入ってからは洋楽ロック、例えばグリーン・デイとかレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)とかも聴くようになり、大人になった今は邦ロックを中心に聴いている感じです。
――『ふつうの軽音部』を読んでいると、今おっしゃったような時代の邦ロックに加え、銀杏BOYZやナンバーガール、ZAZEN BOYSのようなバンドにもシンパシーを感じているのかなと思ったのですが。
クワハリ:そうですね。特に銀杏BOYZはめちゃくちゃ好きでしたね。ナンバーガールに関しては、ちょっと入るのが遅かったので、ティーンの頃に聴いていたっていう感じではないんですけども、今でも好きなバンドです。
――クワハリ先生的にもっとも好きなアーティストとなると、どなたですか?
クワハリ:一番はなかなか決めにくいですね(笑)。最近は特定のアーティストにどハマりするってことはあまりなくて、幅広く聴いている感じですかね。その中で、あえて「人生で一番ハマった」として挙げるならば、椎名林檎とGOING STEADYになるのかな。
――なるほど。その2組はご自身にとって、どういうところが魅力的だったんでしょう。
クワハリ:椎名林檎に関しては、彼女の特徴的な声であるとか歌詞の世界観であるとか、今まで聴いたことがない世界観だったので、とても衝撃を受けました。で、GOING STEADY……銀杏BOYZも含まれますが、それ以前の自分はメロコアとかパンクっていうのはちょっと怖いものとして避けていたところがあったんですけど、一度触れてみるとサウンドがすごくメロディアスで、しかも当時冴えない高校生男子だった自分を肯定してくれるような音楽だったので、そこがすごく刺さったのが大きかったです。
――好きな音楽を聴く一方で、ライブに足を運んだりもしていましたか?
クワハリ:はい。今もそんなにたくさん行くわけではないんですけど、好きなバンドのライブや夏フェスなんかによく行ってます。
――ちなみに、新しい音楽は普段どういうツールを通じて探したり取り入れたりしてますか?
クワハリ:昔はCDショップに行って視聴したりしていたんですけど、最近はYouTubeとか音楽の配信サービスのシャッフル再生とか、「これがオススメ」みたいなので知ることが多いです。
日常生活における音楽のポジションや役割
――最近出会った中で、「これは良かったな」という曲とか作品って何かありましたか?
クワハリ:171(イナイチ)っていうバンドが最近好きで、特に「インターセクション」っていう曲にハマってます。
――どういったところが、クワハリ先生の琴線に触れたんでしょう。
クワハリ:最近のバンドってどれも音数が多くて、曲のクオリティもめちゃくちゃ高い印象が強いですけど、彼らはシンプルなスリーピースサウンドで。男女混合ボーカルなんですけど、男性の方(田村晴信)が昨今よくある高い声のボーカルではなくて、すごく渋い声をしているんです。で、サウンドも結構懐かしい感じのオルタナティヴロックっぽいので、自分的にもすごく好みでした。
――日常生活における音楽のポジションや役割に関して、若い頃と比べて今は変化しているんでしょうか?
クワハリ:若い頃の方が、ひとつのバンドや1枚のアルバムを繰り返し聴いていた気がします。それに対して、今は良くも悪くもいろんなものをつまみ食いしている感じで。特に今は、マンガのネームを考えているとき、それがライブシーンについてじゃなくても、ロックを聴きながらでないとなかなか思いつかないっていうこともありまして。そういう意味では、なくてはならないものですね。
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『ふつうの軽音部』はどうやって生まれたのか

――ここからは『ふつうの軽音部』についてお話を伺っていきます。なぜ先生は音楽を題材にした青春マンガを描こうと思ったのでしょう。
クワハリ:そもそもマンガは商業連載のためとかじゃなくて、趣味として描き始めたものだったんですけど、音楽を題材にした物語とか音楽マンガが描きたいというよりは、自分が過去に軽音部の顧問をやっていた時代がありまして、「大人数の軽音モノのマンガはあまり読んだことないな、もしあったら面白いかもしれないな」と思ったのがひとつ。あと、当時趣味で自分の高校時代のエッセイマンガを描いていたんですけど、自分は女子との関わりが全然なかったので、女子があんまり出てこなくて(笑)。それを描いているうちに、フィクションとして女性を主人公にして物語を作りたいなという気持ちが湧いてきてという、その2つがきっかけになって描き始めました。
――確かに、これまで軽音部を題材にしたマンガの多くは、主人公とそのバンドメンバー中心になって物語が進行していくものばかりで。そういう点でも、『ふつうの軽音部』でのさまざまなキャラクターが交流していく風景はすごく新鮮でした。今おっしゃっていただいたように、クワハリ先生は過去に高校の教員として軽音部の指導をされてたこともあるそうですが、その頃の経験は実際の作中にどの程度活かされているのでしょう。
クワハリ:活かされているとしたら、その舞台ですよね。大人数の軽音部っていうのは人数が多い分、全員が一度に練習できなくて、部室以外に視聴覚室とかで練習したり、中には廊下で個人練習していたりする子もいて。そういう風景は、実際の作中でも活かされています。あと、必ずしも毎日部活に行かなくていいからバイトができるとか、そういう日常風景も反映されているのかな。なので、キャラクターとかそこで起きるドラマに関しては実際に体験したことを参考にしているわけじゃなくて、創作です。
――僕も学生時代、同級生とバンドを組んでいたりしましたが、『ふつうの軽音部』の作中ほどはバンド人口も多くなかったので、部室から溢れて廊下で個人練習するっていうシーンがとても新鮮でした。
クワハリ:軽音部って学校によって形態も違うと思いますし、読む人によっては「こんな軽音部じゃなかった」って言われるだろうな、とは思っていました。僕の場合は土地柄っていうのもあるかもしれないですが、大阪府の公立高校って軽音部が盛んな印象があって。教員時代は何校か行ったんですけど、どこも大人数だった記憶があります。
――クワハリ先生が指導されていた頃、学生の皆さんはどういう曲をよく演奏していましたか?
クワハリ:僕が関わっていたのがもう10年ぐらい前なんですけど、その時はKANA-BOONとかフォーリミ(04 Limited Sazabys)とかONE OK ROCKとか、あとは時代がちょっと違うけどELLEGARDENとかですね。
――主人公の鳩野ちひろを取り巻くいろいろなキャラクターが作中に登場しますが、物語を進めていく中で「こういうキャラクターがいると話が広がるな」とか、ストーリー展開に合わせて生まれたキャラクターもいるのでしょうか。
クワハリ:それはよくありますね。初期は構想してなかったけど、「こういうキャラクターがいると面白くなりそうだな」ということで新たに登場させることも多いですよ。
――そのキャラクター作りをする上で、これまで聴いてきた音楽や歌詞が反映されることは?
クワハリ:知らず知らずのうちに反映されている可能性はあるんですけど、あまり意識的にはやっていないですね。ふわっと登場させてから、「このキャラクターがこう歌うとしたら、こういうバンドの曲が合いそうだな」とか、描いていくうちに固まっていく感じです。
ライブシーンや歌唱シーンについて
――読んでいてすごく印象的だったのが、やっぱりライブシーンや歌唱シーンで。音楽を奏でている場面を絵や文字で伝える難しさってあると思うんですが、クワハリ先生はそことどう向き合ってきましたか?
クワハリ:そこは作画の出内(テツオ)先生の演出が、すごく効果的に表れているのかなと。そのキャラクターが歌っている曲の歌詞は、物語やキャラクターの心情をリンクさせることが多いので、それがうまく表現できるように意識しています。
――そこでの曲選びも重要になってくると思いますが、例えばそのキャラクターが歌った曲によってその後の物語が思いもしなかった方向に進んでいったり、登場する音楽から受ける影響っていうのはあったりしますか?
クワハリ:それはあると思います。それこそ「この曲を登場させたいな」と思った時点で、その曲がより効果的に響くように前後のシナリオを調整することもあるので、登場する曲からの影響はかなり大きいと思いますよ。
――物語の流れから選出される曲も多いと思いますが、クワハリ先生の中で「この曲だけは絶対に使いたかった」というこだわりの1曲って今までありましたか?
クワハリ:たくさんありますよ。最近だと、第119話に出てくるTHE PINBALLSの「ミリオンダラーベイビー」は、連載前から考えていた1曲なんですけど、連載していく中で新しく知ったバンドの曲を出させてもらったりすることもあります。
――THE PINBALLSは2021年に活動休止していて、決して誰もが知るというタイプの存在ではないですが、僕自身は何度も取材してきたバンドなので、その彼らの楽曲を2026年に『ふつうの軽音部』という作品を通じて久しぶりに出会えたことは、すごく嬉しかったです。
クワハリ:そうだったんですね。基本的に自分の好きな曲を取り上げさせていただいているんですが、「ミリオンダラーベイビー」みたいに今この時代を生きるロックファンだけが特に好きな曲だけでなく、時代を問わずいろんな曲を満遍なく登場させたいなとは思っています。
――幅広い邦ロックの中にはEveやyamaのような、いわゆる“歌い手”さんの楽曲も含まれています。そういうバンドの曲を高校生が演奏するという点も、非常に現代的だなと思いました。
クワハリ:そうですね。僕自身もこのへんはめちゃくちゃ好きですし、実際に今の高校生もそういう歌い手さんの楽曲をコピーしていると思うので、劇中で取り上げています。
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クワハリ流『ふつうの軽音部』の楽しみ方
――これから『ふつうの軽音部』に触れてみようと思っている方に向けて、クワハリ先生から「こういうところを意識して読んでもらえると、より楽しめるのでは」というポイントがありましたら、教えていただけますか?
クワハリ:『ふつうの軽音部』って音楽漫画としては邪道で、本当に音楽が好きな人はハマらないんじゃないかな、と最初は思っていたんです。なので、ミュージシャンの方とかが結構読んでくれているのは、自分としては意外でした。僕自身はそんなに音楽のことが詳しいわけではないですし、どちらかというとたくさんキャラクターを出して、そのキャラクターたちが変なところで関わり合ったりして、仲良くなったり敵対したりと関係が変わっていく物語が好きで、主人公のバンドだけじゃなくていろんなバンドも出てくる、しかも主人公は自分のバンドメンバーとしか仲良くしないんじゃなくて、ほかのバンドにもちょっと仲良い奴がいたりする感じが面白いと思っているんです。いろんなキャラが出てきて覚えるのが大変だったりしますけど、そういういろんな人間たちの心の揺れ動きだったり、他者との関わり合いで変化していく心情だったり、そういう群像劇的なところにも注目して読んでいただけたらと思います。
――それだけ登場キャラクターが多いと、「あっ、このキャラクターいいな」って引っかかるポイントが増えるわけですものね。
クワハリ:そう、だから脇役のキャラクターのことを好きになってくれる方もたくさんいて、それもすごく嬉しいんです。その一方で、脇キャラを活躍させる場面が少なくなってしまって、申し訳ないなという気持ちもあるんですけどね。
――クワハリ先生は普段、漫画や小説などを読書するほうですか?
クワハリ:最近はあまり読めていなくて、読書と言えるほど読んではいないんですけど、好きなほうですね。
――ご自身の中で大切にしている1冊ってありますか?
クワハリ:町田康先生の『告白』かなあ。町田康先生の作品って文体がめちゃくちゃ特徴的で、そのノリを浴びているだけで面白いっていうのがあるんです。僕は漫画に関しても、話の完成度も重要だけど、その作品から出ているノリが一番大事だと思っているのでノリが面白いから好きっていうのはありますね。
Billboard JAPANブックチャートについて
――Billboard JAPANのブックチャートについても、お話を聞かせてください。クワハリ先生には8月20日公開の「JAPAN Book Hot 100」をご覧になっていただいていますが、チャートインしている書籍についてどんな印象を持ちましたか?
クワハリ:漫画が文芸書や小説と一緒にチャートインしていて、面白いなと思いました。個人的にも最近、夕木春央さんの『方舟』と『十戒』を読んだばかりだったので、発売からしばらく経ってもまだ売れているんだなと驚きました。
――文庫本化されたことも大きいのかもしれませんね。『ふつうの軽音部』11巻も7月9日公開の「JAPAN Book Hot 100」で18位にてチャートインしています。実際、こういったチャートがあることは、漫画に携わるご自身としてはどういったお気持ちなんでしょう。
クワハリ:これまでBillboard JAPANさんのチャートを見てこなかったので、こうやってチャートインすると嬉しい反面、たくさんの漫画が世に出ている中で自分の本を買ってもらうにはどうしたらいいか、みたいな難しさにも直面して。いろいろ考えるきっかけになりそうです。
――『ふつうの軽音部』はここから物語がさらに進んでいくと思いますが、クワハリ先生は今後マンガに携わりながらどんな人生を送っていきたいですか?
クワハリ:あんまりキャリアのこととか考えない人なんですけど、『ふつうの軽音部』のここからの展開もそうですし、ほかの作品になるかもしれないですけど、「まだこれは出せていないな」という要素がある気がするので、自分の中にあるものをできる限り全部出していけたらなと思っています。


























