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<インタビュー>斉藤壮馬のエッセイ集『続・健康で文化的な最低限度の生活』から見つける生活のヒント/生きた「語り」が持つ重要性とは【WITH BOOKS】

Interview & Text: Aayako Kurosawa
書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】に、エッセイ集『続・健康で文化的な最低限度の生活』を発売した斉藤壮馬が登場。
2010年のデビュー以降『ヒプノシスマイク』夢野幻太郎、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』緋村剣心など、声優として数々の作品に出演のほか、オーディオブックや執筆活動など幅広く活躍。本書はVOICE Newtype誌面にて連載された内容を中心に、WEB掲載のエッセイ、書き下ろし文章など30本以上が収録されており、斉藤の生活と思考が綴られている。一つひとつの文章に彼のユーモアと感性が混ざり合い、心地よさと、ふと懐かしい記憶を思い出すような一冊となっている。
8年間綴り続けたエッセイと「本」への想い、思わず涙した小説、朗読を通じて語り手として創造する未来を聞いた。
取り繕わず、喋るように書くこと。
――2冊目の発売おめでとうございます。発売が決まった時の心境はいかがでしたか?
斉藤壮馬:1冊目を刊行してから8年くらい経過していたので、何らかの形で2冊目を出版できたらうれしいな、と思っていたのですが、本を出すこと自体簡単なことではないので難しいのでは…とも思っていたところ、今このような形にしていただきました。
いろんな方に尽力いただいたので感謝の気持ちもあるのですが、ほっとしたというのが正直な気持ちかもしれません。
――1冊目の発売から約8年程ぶりの2冊目ですが、 執筆していく中で変化した部分や、何か大切にしてきた視点があれば教えてください。
斉藤:8年間という期間が非常に大きいなと思っていて。実は、自分が文章を書くきっかけになったのがこの連載(VOICE Newtype連載「健康で文化的な最低限度の生活」)だったんです。
最初の担当編集さんに「本がすきです」という話をしたら、「じゃあうちの雑誌で連載してみませんか?」とお声かけいただいて。そういう経緯で1冊目を出版したんですが、この8年間で、だいぶ文章を書く仕事が増えました。書くことへの筋肉…書き筋といいますか、書くことに対して、どんどん体が慣れていくプロセスが如実にこの8年間でありましたね。書きたいことが書けるようになっていくような、点線が非常に形になっている1冊になったと思います。
文章を書く上で大切にしていることは、そこまで大層なことでもないんですけど、なるべくかっこつけたり、取り繕った言葉じゃなくて、「普通に喋るように書く」ことをだんだん心がけられるようになってきたのかなと思います。
――マイク前以外のお仕事で、自宅での作業や楽曲チェックなど…大人になってからも季節問わず「宿題」に追われていると思いますが、振り返ると「この宿題は大変だったな」と感じるものはありましたか?(学生時代のご経験でも大丈夫です)
斉藤:今振り返ってみると、これは全体につながることだなと思うんですけど、例えば読書感想文や、僕の時代だと朝顔の観察日記、自由研究といったような、自分の視点や継続性を求められる宿題に、苦手意識はなかったんですが、自分が提出したものに対して何の面白みが感じられなかったなと。自分自身のものの見方が常識の範囲内だな…というのは昔から思ってきたので。ペーパーテストで点を取るのは比較的得意だったので、そういう部分は苦手ではなかったけれど、面白みもないような宿題を子供の頃は出していたなと思います。
それは結構今も思っていて、文章を書く時、これはもしかしたら新しい切り口なんじゃないか…って思うことの大体が実は普通のことなんですよね。誰かが思いついて言っていたことであっても、書きたければ書けばいいじゃないかみたいな見方があって。当然そうだと思うんですけどね。でも一方で、捻くれていたい気持ちもあったりするので(笑)。 でも、多分自分にとっての普通は誰かにとっての普通じゃないことであると思うので、自分の普通を疑いながらも信じることができたらいいな、というのが、今の宿題のように思います。
あと、最近の仕事に関してでいうと、それぞれ事前準備をするのは大変ではあるんですが、ありがたいことに朗読系のお仕事もよくやらせていただく中で、作品によっては固有名詞や造語のオンパレードなんです。それに対して、どういう選択肢を当日提示できるように準備するのか、通常の本を読む作業に加えて、朗読という形で表現するための宿題というのはなかなか骨が折れる作業でもありますが、同時に楽しい作業だなと感じます。
――ありがとうございます。いまのお話が、この春新しい生活を始める方や新社会人の方にとって何かヒントを得られるきっかけになれば嬉しく思います。 第2幕にある、「知っている道を歩くのだって楽しいけれど、知らない道を歩くのだって、同じくらい楽しいよなあ。」(「秋の入り口(GREEN DAY)」)という一文が印象に残っているのですが、最近知らない道を歩いたとき、何か発見はありましたか?
斉藤:つい先日の話なんですけど、何度か行ったことのある街で仕事があって、その街はどちらかというとオシャレな人が多いイメージでしたが、その日は中学生ぐらいの方々や若くて活気のある人たちがすごくたくさんいたんです。 行ったことのある場所でも、行く時間やタイミングによって、違う表情を見せてくれるんだなと思いました。ただ、すごい風が吹いていたので、みんな帽子とかが飛びまくってて大変そうでしたね。僕もちょっと荷物を一瞬飛ばしてしまって(笑)。
結局知っていると思っている場所や物事でも、その時々によって実は違う一面があるんだな、というのは最近よく感じます。
- 「過去と未来へ届くように、本に記憶を保存する」
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過去と未来へ届くように、本に記憶を保存する
――今回、中島ヨシキさんの寄稿が収録されています。最初に文章を読んだ時の感想も教えてください。
斉藤:はい。まず、なぜこういう形になったかといいますと、当時の担当編集さんが立案した企画がきっかけでした。二人とも同じ媒体(KIKI by VOICE Newtype)で連載をしていたんですが、その周年イベントで僕とヨシキ君が生配信をするということになり、その生配信の特別企画として、「お互いについてエッセイを書いてほしい」と言われまして。僕が「中島ヨシキという男」を、ヨシキ君が「斉藤壮馬という人」文章を書きました。またそのイベント内で、オーダーがあり、同じテーマ(第2幕「贅沢と浪漫」)で書くことになったんです。
同じ媒体で連載をしている人が、お互いについてエッセイを書き合い、しかもそれをその場で朗読するっていう…声優ならではの、ちょっと特殊な企画でしたね。
ヨシキ君とは、本当に公私ともにかなり長く深い付き合いなんですけど、彼こそまさにユニークなものの見方を持っている人だと思って。だから、どんなエッセイを彼が書いてくれるんだろうと思ったんですけど、もちろんユニークな視点もありつつ、どちらかというと、彼のもう一つの素敵な部分でもある誠実さを感じて、人のことを優しく丁寧に見つめてくれる人だなというのを改めて思いましたね。
自分に関する文章を人に書いてもらって、それをその場で読んでもらうという機会はなかなかないんですけど、非常にこそばゆくも、ありがたいなと思う文章でした。
――お2人にとってとても貴重なご経験だったんですね。 どのエピソードもすごく大事と思いますが、本書の中で特に記憶に残っている内容はありますか?
斉藤:一つ挙げるとすると、 第3幕「葉桜に逍遙」が本当にタイトル通りというか。桜の季節に別の原稿を1本仕上げた後、もう少し書けそうな気がして街に繰り出し、葉桜の下をそぞろ歩きをしている時に見たものや感じたものをそのまま書いた文章になっています。
これは最初にタイトルが思いついた時、多分あと30分ぐらいで書けるだろうなと感じて。実際にそれぐらいで書けたということをエッセイでも書いています。
エッセイというものは、一筆書きじゃないですけど、足や筆の赴くままに書くっていうのも魅力なんじゃないかなと思います。約8年間書いてきた中でも、だんだんと文体であったり、自分の好きなこととか、自分の書き味を体得してきて、いけるかもしれないと思って、実際にふらっと何気なく歩いてみた時に、書けた! というのがすごく印象深いですね。 その逆に、たくさん時間をかけて丁寧に推敲をして紡いだ言葉というものも、とても真摯だと思っています。
――お話を聞いている中で、エッセイのことを考えていない時でも何かピンとくるものがあったら、タイトルが浮かんだり、「これを書こう」という体験が日常的にあるんだなと感じました。
斉藤:そうですね。文章や楽曲制作とかもそうですけど、例えば「5時間あげるのでエッセイを一本書いてください」と言われれば、もちろん書けはするんですが、アイデアの切れ端みたいなものをふとつかめた瞬間の方がインスピレーションが湧くのではないかと思っています。創作モードになっていない時にふわっと思い浮かんだことの方が結果的に面白くなるのかなと思うので、ネタ帳みたいなものを作っているわけではないんですけど、これは取っておこうみたいなアイデアがあったらメモ帳に書き留めることもあります。
――斎藤さんはかなり読書家な印象なのですが、最近読んだ本の中で印象に残っている本や気になる本、作家さんはいますか?あわせて、音楽活動や執筆において、なにかインスピレーションを得ることもあれば教えてください。
斉藤:最近読んだものだと、窪美澄さんの『君の不在の夜を歩く』という一番新しい小説です。
高校時代の同級生5人組の中で一番目立っていた女の子が亡くなってしまって、残された4人のそれぞれの視点で過去と現在を描く内容なんですけど、世代的にメインで描かれる年代が10代くらいから30代後半くらいで、今の自分の視点に重なる部分もありまして、全5章なんですけど、最後の5章目にかなり大きいギミックがあるんです。
すごく身につまされたというか…最近、そういうシンクロニシティって割とあるなと思っていて。別の仕事でも、本を読めば読むほど書けなくなっていく、みたいな。本を読んでいるから書けるってことではないという言説に立て続けに出くわす機会があったんです。窪美澄さんの小説にもそういうような言及があったりするんですけど、小説や他の仕事で出会った文章に突きつけられているように感じていて。非常に苦しいことと感じつつも、窪さんの小説がめちゃくちゃ素敵で、最後僕はすごい泣いてしまったんです。
あと、多分Billboard JAPANさんで初出しになるんですが、この小説を題材にした文章を後ほど書く予定です。
その、突きつけられている部分にインスピレーションを感じているかもしれないですね。
嫌だな、逃げたい、見たくないっていう気持ちもある。究極的に言うと逃げても別にいいことだと思うんですけど、自分が選択する時にいろんなものが浮かんでくるような気がします。
自分の場合は、ジャンルAがジャンルBに影響を及ぼす、というような感覚がよくあって。例えば、今お話ししたのは、文章を読んで、文章のインスピレーションが湧くという話でしたけど、ある小説を読んで、このシーンで特定のコード音が鳴っているように読めるなと思ったら、そういう楽曲が思い浮かんだりとか。芝居と音楽、文章の三つが今の自分を構成する最大要素になっているので、それぞれがお互いに影響を及ぼし合っている感覚がありますね。
――お話を聞いてて、わたしも窪美澄さんの本を読んでみたいと思いました。 本書を読んだとき、幼少期に過ごした山梨県での撮影が斉藤さんにとって大切な時間になったと感じたのですが、過去の自分、もしくは未来の自分にこの本をプレゼントしたらどんな感想が返ってくると思いますか?
斉藤:文章にして記録を残しておけば、未来の自分が再び触れた時にその時の記憶を呼び起こせるんじゃないかと思っています。例えば5年後10年後の自分が読んだら、こういうことを感じていたんだなと、当時の感覚や考えをより鮮明に思い出すんじゃないかなと。本という形で、「記憶を保存しておく場所」としてすごくありがたいな思います。
いつかどこかであった記憶を形にしておく場所としての本っていうのはすごくありがたくて。
だから、過去の自分にとってそれは未来の本だし、未来の自分にとっては過去の思い出の本というか、僕自身も聞いてみたいと思うんですけど、訳知り顔で言われそうな気がしますね。「ああ、こんな感じに書いてたよね」と。
正直校正作業をしていても、これはこの状態のまま世に出すのか、それとも今の自分の文体で上書きするのかっていうのをすごく考えた結果、記憶の場所として残すことが、少し恥ずかしい部分もあるけれど、なるべくそのまま出すことにしたので、それがこの約8年間の思い出の場所になってくれたらいいですね。
ぜひ未来の自分も、恥ずかしがらずに読んでほしいなと思います。
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視覚を通じて、こぼれ落ちる感情を語る。朗読から広がる可能性とは。
――先ほど朗読のお話もありましたが、ほかの方のインタビューでオーディオブックが話題になっていたのを思い出しました。出版社の関心も高まっていると思います。オーディオブックが今よりも普及するためには、何が必要と感じますか? どんな人にもっと聞いてほしいかもあれば教えてください。
斉藤:オーディオブックは今、いろんな形で盛り上がってきていると感じています。
もちろん、オリジナルとしての本や文章があってこそのものだとも思っていて。僕らは基本的に朗読をする仕事をさせてもらっているんですけど、読書との大きな違いとしては、聴覚を使うということなので、いろんなシチュエーションで物語や文章に触れることができるという点は大きいと思います。
例えば運転中や通勤中、移動中だったり。あと、先日恩田陸さんの『珈琲怪談』をオーディブルさんで録音させてもらったんですけど、その時のインタビューで恩田さんが、例えば10分間だけ聞こう、あるいは家事をしながら聞いてみよう、というやりやすさが素敵ですよねとおっしゃって。確かに家事をしながら小説を読むっていうのはなかなか難しいですけど、生活をしながら小説を聴くのは少しハードルが下がりますよね。だから、面白い作品、素敵な文章に、より触れやすくなっているというのは間違いないと思っています。
どんなシチュエーションで楽しむかは人それぞれだと思うんですけど、オーディオブックと一口に言ってもいろんなジャンルもありますが、物語であれば、我々声優がする仕事は情報をただ的確に伝えるということよりも、そこからこぼれ落ちる感情、あるいは情報に紐付いてにじみ出てくる情緒みたいなものを、人間の語り手が身体性を持って語るということが重要なのかと思っています。
既にあると思いますが、例えば絵本の読み聞かせ。絵本を買ってもらって、そこから QRコードを読み取ったら読み聞かせが聞こえるとか、もっと生活に紐付いたような使い方があり得るんじゃないかなと。
さっきお話しした宿題の話、実はオーディブルさんのやつなんですけど、朗読は準備がすごく必要だし、収録も長い期間がかかるけど、僕が芝居の勉強を始めて一番最初に学んだのが朗読だったんです。
なので、自分の役者としての一番コアの部分に朗読があって、これからもお話をいただけたら、なるべく可能な限り語りをやっていきたいと思います。そこから紐付いて、もっと生の朗読劇とか絵本の読み聞かせ、民話の語りとか、そういうものがもっとオーディオブックを通じて、語り語られるっていうやりとりが活性化していってくれたら嬉しいなと思います。
――ありがとうございます。実はBillboardの書籍チャートには、絵本や児童文学、オーディオブックに特化したチャートがまだないんです。出版関係の方から、「いつかそこに特化したチャートも作ってほしい」という声もいただいているので、このインタビュー記事がたくさんの方に届いてほしいと思います。
最後に、この本を手にする読者の皆さんへ一言メッセージをいただけますか? 普段本を読まない方や、どんな方に読んで欲しいという点もあれば教えてください。
斉藤:Billboard JAPANさんで初めましての方も、既に知ってくださっている方も、基本的には生活にまつわるあれこれをその時思ったままに、なるべく自分なりの語り口で気取らず書いてみたつもりです。なので、1編1編も短いですし、さっきのオーディオブックじゃないですけど、1編ぐらいさらっと読んでみようかなとか、今日こんな気分だからこれだけつまみ読みしようとか、いろんな形で読んでいただけるような、読み口としては非常にライトでポップなものになっていると思っています。
文章を読むことに興味がなかったり、あるいは抵抗感があるという方にも、ぜひ手に取って読んでいただきたいですね。その中で、皆さんの心に少しでも触れられるものがあったら嬉しく思います。
ただ、生活って本当に人それぞれなので、そういう人もいるんだなというぐらいの気持ちでお手に取っていただくのも嬉しいなと。自分も文章を書くだけではなくて、読んでくださる方がいて初めて成立するものだと思うので、このインタビューがきっかけで一人でも多くの方に自分の生活に関する文章がお届けできたら嬉しいなと思いますし、そこで何か感じるものがあったら、お便りだったり、いろんな形でご感想をいただけたら非常に励みになります。
自分としては 3冊目を出せたら嬉しいなと思っているので、もし機会があったら、またそちらでもお会いできたら嬉しいです。よろしくお願いします!
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