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「ストリーミングは儲からない?」「DSPって何?」デジタル時代の音楽業界を支える“データ管理”の重要性をデータ分析のプロに聞いた

Text & Interview: Mariko Ikitake
Photos: 辰巳隆二
音楽が手軽に楽しめる時代。アーティストやクリエイター、そしてレーベルが力を注いで制作した楽曲は、発表されたあと膨大な楽曲の中から私たちに“選ばれて”いる。では、その音楽が私たちの手元に届くまでには、どのような過程があるのだろうか。
音楽専業のデータ分析・デジタルプロモーション・マーケティング会社「arne」の代表を務める松島功氏は、音楽業界を業務量と内容の面で「カオス」と表現する。そのカオスな状態は今に始まったことではないが、音楽を届けるプラットフォームが増えたことで、関わる業務も確実に増えている。
音楽がどのように届けられているのか。その裏にある膨大な時間と人力の結晶を知ることで、これからの「1再生」の重みが少し変わってくるかもしれない。音楽好きの人にも、音楽業界で働くことを夢見る人にも、そして音楽活動をするアーティストやそのサポートをする関係者にも、ぜひ読んでもらいたい。
──日本市場においては、Apple Musicは2015年6月、Spotifyは2016年9月より参入と、早くも約10年が経ち、DSP(Digital Service Provider/デジタル音楽配信事業者)という言葉も広まったように思います。メジャー/インディーという垣根も薄くなってきたと言われていますが、音楽業界をサポートされてきた松島さんは、昨今の動きをどう見られていますか?
松島功:(BMSG代表の)日高(光啓)さんがDSPっていう言葉をよく使われてて、それで知名度が上がった気がします。メジャーとインディペンデントの点で言うと、昨年5月に開催された【MUSIC AWARDS JAPAN】の〈最優秀ニュー・アーティスト賞〉ノミネート5組のうち、メジャーレーベルに所属しているのがOmoinotakeだけだったんですよね。いわゆるメジャーレーベルに所属せずにヒット曲を出す方、大きな事務所や会社もインディペンデントなディストリビューター流通を選択しているところがたくさんいて、そこでもちゃんとヒットが生まれていることはすごくいい状況です。いまは自由に選択できる時代です。
去年だと、メジャーのレコード会社ではなく、いわゆるディストリビューターから配信されている楽曲で年間ストリーミング再生数が2,000万~5,000万回の曲が国内だけで約100曲ありました。国内年間ストリーミングランキングトップ100に入った楽曲のうち17曲、つまり17%がディストリビューター系だったので、20%近くはディストリビューターと個人もしくは会社が一緒になってリリースしてるものです。それって結構すごいことだと思います。

──一般的に「このアーティストはメジャー」「このアーティストはインディー」と意識せずに聴いている方が大多数だと思います。
松島功:もはや誰もそんなの気にしてないですよね。一番わかりやすい例はFRUITS ZIPPERが所属するアソビシステムさんとかKAWAII LAB.ですね。「かわいいだけじゃだめですか?」や「倍倍FIGHT!」など、ディストリビューターとパートナーを組んで多数のヒット曲を出しているカルチャープロダクションです。CD流通は別のパートナーと組んでらっしゃって、それは新しいやり方ですね。
──「1再生=1円」「ストリーミングは儲からない」という話もよく目にします。好きな曲を何度も聴くことで、アーティストへの還元や応援になっているのでしょうか?
松島功:聴いてくださる方次第では1円も行かないですが。でも、それが積み重なれば大きな額になるので、聴く価値はもちろんあります。サブスクで曲を聴いてアーティストを支援する一番いい方法は、有料会員になって聴くことです。これが一番の最短ルート。無料会員だと1再生のターンも低くなるので、とにかく有料で聴いていただくことですね。ファンの方がほかにできることは、グッズを買うとか、ライブに行ってみるとかですかね。あと、年末によく各サービスが「あなたが今年一番聴いた音楽」を教えてくれると思うんですけど、そのときに立ち返ってほしいんです。「わたしは今年、この1位のアーティストにいくら使ったんだろう?」って。そのアーティストのためにできることはあるかなとか、ちょっとでも振り返ってもらえるだけでもいいかなと思います。どうすればアーティストを支えられるかを定期的に考えていただくことも大事かなと。

──結果をSNSでシェアしたり、毎週のように全国各地でポップアップイベントが開催されていたりと、“好き”をシェアすることが宣伝にもなりますよね。
松島功:そうですね。そういう接点が増えることで音楽が聴かれやすい状況はできています。とはいえ競争も熾烈です。ストリーミングで音楽を聴くこともそうですが、アーティストに直接素晴らしさを伝える、勇気を出してライブに行ってみる、新しいグッズをチェックしてみるのも価値はあります。
──日本は世界でも有数な音楽消費大国ですが、世界的に見て有料会員数は多いほうですか?
松島功:まだまだ少ない印象です。有料会員数が多い国や地域で聴かれるほうが1再生ごとの還元率も高くて、アーティストにとってはいいです。例えばスウェーデンでめっちゃ聴かれたらいいですよ。ただ、さきほども話したように、2,000万~5,000万回聴かれるようなアーティストが結構いて、無料会員で聴かれていてもディストリビューターを介していたら結構取り分は多いので、それで生活できてる人もかなりいるんです。メジャー契約すると、いい割合でレーベルに持っていかれますけど、いいスタジオでレコーディングできたり、いいアレンジャーと仕事ができたりするという。メジャーだからできることも多くて、アーティスト側にとってどちらがいいかは、一概に言えないですね。
この先必要なソリューションは何なのか?
──音楽好きなら、音楽業界で働くことを一度は夢見ると思います。データを活用してマーケティングすることも重要な業務で、いろいろと大変と聞くのですが、実際、どういったことが大変なんでしょうか?
松島功:競争も熾烈だけど、やっぱり再現性が高くない点です。同じようなことをすれば全部がヒットするかっていうと、決してそうじゃない。あと、ずっとカオス(笑)。新しいものがどんどん入ってくるし、整理してない過去のものもすっごくある。一番は作品管理の不十分。世間が思ってる以上にデータ管理されていないんです。毎月ものすごい量の曲がリリースされるのに、100曲とかそれくらいのレベルじゃない、膨大な量の過去作品があって、それに手を付けるまで間に合ってないんです。

──その月のものはその月のうちにやっておかないといけないから、どんどん積み上がっていくわけですね。
松島功:音源ファイルが担当者の手元にあり、納品まで行くんだけど、その後どこにあるかとか、把握できていない。それが今だけの曲だけじゃなくて、50~60年前の曲からです。あのときの音源がどこにあって、どういう形になって、保存されているのか――ふと気づいたところでどう解決するかってところもありますね。本当に大きな会社は順番にそれをデジタル化して整理しているんですけど、みんながみんな、そこに注力できるわけではない。その理由は現行の作業があるから。現行の新曲がどんどん出ているので、昔の作品に取り掛かれない会社が本当に多いんですよね。それこそ戦前の曲とか結構厳しいです。あと小さめのレーベルだと自分のハードディスクだけで管理されてて、データが飛んだら終わり。「もう一回配信するために、自分でiTunesストアから買いました」とか「自分でCD取り込んでやりました」とか(笑)。「その運営で大丈夫?」って思うことがあるけど、よくある話なんですよ。誰が書いて、誰が演奏した、みたい情報はCDだとブックレットに書かれているのでまだいいんですけど、配信になってからはそういった情報の管理がぐらついてて。
──ブックレットがあるとしても、データにしなくてはいけないので、結局は手入力でデータ保管しなくてはいけないということですよね。
松島功:早くやらないと相当まずい段階に来てるのは間違いないです。ディストリビューターと組んでいる事務所とか個人の方、小さい規模でやってらっしゃるレーベルとかは、整備がかなり緩いので、その辺を解決することが課題です。でも、なぜそれでもやらないかというと、今の曲をヒットさせたいからです。優先度はそっちのほうが高いですから。でも、なぜ早くやらないといけない理由は、その関わった人がいつまでいるかわからないからです。日本のエンタメヒット曲って戦後から多いわけですが、音源制作に携わってた方が高齢になってたり、誰がスタジオにいて、誰がプロデューサーで誰が編曲していたか、当時の関係者に聞かないとわからないことがたくさんある。個人でレーベルをやってる方も危険ですよね。予想していないことが急に起こるかもしれないので。いわゆるグローバルな基準で管理・整備して記録しておかないといけないっていう。
──一元管理していないと、どんなデメリットがあるんでしょうか?
松島功:音楽サブスクサービスで新しい基準ができたときにすぐに対応できないのと、ほかのディストリビューターに移管するハードルが高くなる。レーベルも個人の方も後世に残すことを考えて、データの一元管理は非常に重要です。また、DDEX(Digital Data Exchange、レコード会社やDSPがデジタル音楽バリューチェーン発展のため国際標準化活動を推進するために設立した団体)の基準に伴ったデータベースを自分たちできちんと管理・保持するところに価値があるんです。伴った形で保持しておけば、今後も比較的安心かと思います。今後新しいサービスが登場したときにも順応しやすいですし、中長期的に見ると、ここからは私の予想なんですけど、DSPの中身のコンテンツを持ってる人、例えば、メタや音源などをデータベースなどで所持している人が強くなっていくと思うんです。AI時代の中で、プラットフォーマーは絶対弱くなると思ってて。中身のコンテンツを持ってるほうが絶対的に強くなる。グローバル基準で管理したデータを自分たちで持ってることがめちゃくちゃ重要になってくるんです。この1~2年で絶対にそうなるので、持ってるほうが絶対いいです。そのあたり、まさにレコチョクさんの「FLAGGLE」というサービスでは、ディストリビューター+αを擁するソリューションパートナーとして、そういった対応にしっかりサポートしてくれるので、非常に使いやすいと思います。

──DDEX対応に伴って、どんな作業が発生するのでしょうか?
松島功:データ入力の項目が多くなります。ご利用のサブスクで曲をひとつ選んでみてください。作詞家、作曲家、アレンジャー、プレイヤーなど、細かなクレジットが出てきませんか? 昔はこんな機能なくて、ある日突然、この機能ができたんです。「表示してくれるのは嬉しいんですけど、誰が情報を記入するの?」っていう話で(笑)。新曲はまだしも、昔の曲の情報をまた遡るのかってね。
──今、Apple Musicを見ていますが、こういう機能があるほうがいいとDDEX側が判断して、データ入力の際に記入しなくてはいけなくなったわけですね。
松島功:そうなんです。でも、元データをしっかり入れてさえすれば、急にAppleがこういうのをやりたいってなっても対応できる。(「FLAGGLE」登録画面を見ながら)パフォーマーの役割をクリックすると、ストリングスやアコースティックギターなどを選択して演奏者を入力することができます。
「FLAGGLE」担当者:僕らはあくまで登録する“箱”を用意しているだけなので、それぞれの情報は皆さまが持ってないといけないのですが、データ登録の情報を用意されていればそこまでお手間がかからないと思います。ID管理ができて、このIDに紐付けて各DSPに向けて出せるので、非常に楽だと思います。
松島功:クレジットをすべて入れなくてはいけないので、DDEX対応の手間が増えたっちゃ増えたと言えますが、各DSPでバラバラだったものが、基準ができたことで整理されました。もしかしたら、Apple Musicでは将来、作曲者でソートしてその方の作品を聴ける機能が始まるかもしれないですよね。アーティストだけじゃなく、関わられたクリエイターにもフォーカスされるいい時代になってます。

──正しい権利者(作詞者・作曲者など)に紐付けられていない音源が多数存在し、ロイヤリティが正確に分配できず、約1億2,000万ドル相当の金額が分配できていないというデータもあります。クレジット管理がしっかりされれば、支払われるべき収益がその方に支払われるようになりますね。
「FLAGGLE」担当者:DDEX対応は弊社だけでなく他社さまも対応されていますが、データベースやID管理のしやすさは他社よりも優位性があると思っています。
松島功:割と簡単に入力しやすそうですね。
──データさえあれば、正直、私でもできる作業ですよね? リソースがなければ、インターンやアルバイトでもできそうかと。
「FLAGGLE」担当者:はい、ルールさえ覚えていただければ、誰でも簡単に登録できると思います。
松島功:Apple MusicとかSpotifyなど、DSPごとにルールが違うんですよ。ジャケ写のサイズも各社違うくらい。何曲以上がEPで、何曲以上がアルバムなのかもそれぞれ違って。アーティストは日本語で曲名を考えるけど、配信のときは海外のことも考えて英語名も入力する必要があります。あえてひらがなで行くっていう考えもありますけど。それもルールに則って登録する必要があります。
「FLAGGLE」担当者:細かなルールを覚える必要はありますね。でも、うちではプルダウンするだけで登録できます。あと、形態に紐づく価格帯を決められますし、うちは自由に決められるところがニーズに合っているかと。
松島功:これはなかなかないですよ。こういったことにすべて対応できるように、「FLAGGLE」は入力項目多めですけど、多めってことは安パイなんですよ。絶対的にそうです。それは間違いない。
ディストリビューター → ソリューションパートナーの時代へ
──海外では、カタログ売却の記事をよく見かけます。それも新たなビジネスでもあると思います。先ほどデータの貯蓄が大切だとおっしゃっていましたが、どれだけ時間と人力をかけられるかにもよると思います。業務が増えている中で、うまく解決する方法は何だと思いますか?
松島功:適切なソリューションパートナーを選ぶことがカギだと思います。今後、カタログ売却事業も増えると思うんです。日本のレーベルもそうだし事務所もそうですけど、一世代で大きくなったところが多い。後継者が事業継続されるところもありますけど、自分たちのカタログをどうにかしないといけないっていう方が今後たくさん出てくるはずです。そこを見据えて、今のうちにやっておかないといけないと思います。完全なメタデータとDDEXデータベースがあるかないかで違いが出てくると思います。
最近よくある終活の話になるんですけど……これはマジな話で、売るには整理整備ができてないとダメなので、結構本腰を入れないといけないと思います。そのままだともったいない部分もあるし、早めに決めておいたほうがいいと思います。
「FLAGGLE」担当者:登録されたデータをもとに、楽曲再生の動きが見えるレポートの可視化も実は今、並行して討議しています。Amazon MusicやApple MusicなどDSPからの速報再生実績データは、2営業日前のデータ連携されることが多く、グラフなどで視覚的に見られる状態をつくろうとしています。
松島功:将来的には普段見れない何かもわかるかもしれない。例えば、作曲作詞じゃない要素でヒットしてることが見えてくるとか。「この人がバイオリンを弾いてる曲は再生数が高い」といったことがわかるようになるかもしれないですね。

























