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<インタビュー>はしメロ メジャーデビューから3か月、次なるEP『百面相』で見せる拡張していく“私らしさ”

Interview & Text:高橋梓
今年8月、メジャーデビューを果たしたシンガー・ソングライターのはしメロ。センス溢れる楽曲をキャッチーな歌声で歌い上げ、じわじわと人気を集めている新進気鋭のアーティストだ。そんな彼女が12月3日に、EP『百面相』をリリースした。表題曲はTVアニメ『顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君』(TOKYO MXほか)のオープニング・テーマになっており、「ときはなて!」以来のアニメ主題歌となっている。さらに多くの人にはしメロの楽曲が届くきっかけになりそうな同作は、どのようにして生まれたのだろうか。本人にじっくり語ってもらった。
「自分らしい“ラブコメサウンド”」
――メジャーデビューから約3か月経ちましたが、何か変化は感じていますか?
はしメロ:激しい変化はないですが、自分の曲がテレビから流れてきたのを聴いた時に「あぁ、メジャーデビューしたんだな」と感じます。楽曲の作り方も特に変わりはないですし、変わらず私らしい楽曲を皆さんにお届けできていると思います。
――ライブやイベントにもご出演されてきましたよね。11月16日は初の主催イベント【はしメロ pre. “Capsule”】も開催されました。
はしメロ:初めての自主企画ライブでしたが、お客さんがめちゃくちゃ温かかったです。他のライブでも楽しく終えることができるのですが、(主催イベントは)本当に温かくて大きな声で歌うことができて。いつも以上に楽しかったと思えました。
――いいライブだったのですね。
はしメロ:そうですね。今まで出演したライブだと、はじめましての方が多くて、徐々にフロアが温かくなっていく感じでした。それが、今回は自主企画ライブということもあり、私のことを知っている人ばかりだったので、最初からずっと温かかったです。それと刺激もあって。ゲストでポップしなないでさん、7coさんに出ていただいたのですが、盛り上げ方がめちゃくちゃお上手なんですよね。私がいちばん最後の出番だったのですが、それまでに会場を温めまくってくれていました。私はいつも曲をやることに集中するタイプなのですが、お二組は元気でアドリブもすごくて。見ていてワクワクしたので、私も盛り上げ上手になりたいと思いました。
――いい刺激もあった、と。そんな中、12月3日にEP『百面相』がリリースされました。表題曲はTVアニメ『顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君』のオープニング・テーマになっていますね。制作はいかがでしたか?
はしメロ:すごく楽しかったです。「ときはなて!」で89秒のアニメサイズを作る経験をしたので、苦戦することもなく楽しみながら制作できました。ただ、「ときはなて!」はテンポを決めるところから作っていたのですが、「百面相」はテンポと一緒に歌詞とメロディも作っていて。そういう違いはありました。
百面相 / はしメロ
――タイトルや歌詞とアニメのフィット感の秀逸さもさることながら、サウンドもかっこいいですよね。
はしメロ:ありがとうございます。今回も「ときはなて!」のアレンジをやってくれた⌘ハイノミさんに担当してもらっていて、楽器の疾走感にこだわりました。止まらずにずっと駆け抜けるイメージでギターリフを続けて入れてもらっていたり、Bメロで拍が変わったりするのもポイントです。
――セルフライナーノーツに「自分らしい“ラブコメサウンド”ができたと感じています!」という文がありますが、はしメロさんらしい“ラブコメサウンド”とは?
はしメロ:歌い方の部分がいちばんわかりやすいかもしれません。『顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君』はラブコメなので、“恋っぽい”声で歌うことをすごく意識しました。あとは効果音。キラリンとか、シュッとか、コメディっぽいちょっと面白い音を入れていて。そういった「かわいい」と「面白い」が詰まっているのが“ラブコメサウンド”だと思っています。
――あぁ、なるほど。ちなみに、“恋っぽい”声とはどう出しているのでしょうか。
はしメロ:語尾が跳ねる歌唱法をしてみたり、発音に工夫してみたりしています。たとえば、〈その面持ち〉という歌詞だったら「そンのンおンもンもンち」という発音。恋をしていることを噛み締めている喜びを表現しています。語尾を跳ねさせたのもウキウキ感を表現していて、途中にはもどかしさみたいなものを表現する「はぁ?」という声も入れていて。すごく表情豊かな楽曲になったと思います。
――たくさんの技術が詰まっているのですね。そして、2曲目の「メルカリで愛が買える時代になったら」は今っぽくて面白い曲です。
はしメロ:タイトルだけ見ると、「どんな曲なんだろう?」と思いますよね。でも意外にも、テーマは人間味溢れるというか。「愛が買える時代になったらどうなるんだろう?」という疑問から作った曲です。
――愛はコンビニで買える/買えないみたいな話は昔からありますが、「メルカリ」というのが今っぽいな、と。
はしメロ:メルカリって、色んな人の色んな商品が売られている場所だと思うので、愛も売れそうだな~と思いまして。この世でいちばん可能性があるのは、コンビニではなくメルカリなんじゃないかなと思っています。
メルカリで愛が買える時代になったら / はしメロ
――たしかに(笑)。しかも歌詞はちょっと毒が感じられる内容なのに、音はめちゃくちゃポップというギャップもいいですよね。
はしメロ:そうですね。歌詞はすごく正直な内容にしようと思って書きました。「愛が買えたらいいのになぁ」なんて、あんまり言わないほうがいいと思うんです。「愛に値段なんてないだろ!」と言われてしまいそうですし。でも、それを正直にテーマにしました。Aメロ~Bメロも人に対する皮肉というか嫉妬というか毒というか、そういった感情を書いています。それに合わせてメロディを暗くするのではなく、明るくポンッと前に進むような感じにしていて。かわいいキャラクターが淡々と歩いていくイメージのメロディですね。サウンドは後からアレンジしていただいたのですが、「おもちゃ箱みたいなアレンジがいいです」とお願いをしました。
――あぁ、なるほど。
はしメロ:この曲はバンドサウンドではないですが、「百面相」のキュンとする感じに通ずるところがあるのかなと思っています。おもちゃやキャラクターのように見えるけど、実は毒があって人間っぽい、と思ってもらえるようにまとめたのがこだわりです。
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歌い方で感じる“進化”
――人気が出そうな曲ですね。そして、「moi -self cover」。6月に電音部に楽曲提供された曲のセルフカバーですが、そもそもタイトルの「moi」にはどういう意味を込めたのでしょうか。
はしメロ:まず、私が「モイ」という言葉を知ったのが、ツイキャスという配信アプリ。配信中「モイ」と流れていて、どういう意味なんだろうと思っていたら「『こんにちは』という意味だよ」と教えてもらいました。それで、電音部さんに楽曲提供をさせてもらうにあたってふたつの意味を持っている言葉を使いたいなと思った時に、パッと「モイ」を思い出して。いろんな捉え方ができるし、これにしようと「moi」という曲を作ることにしました。ちょっと気だるい感じの曲になっていて、遅刻している描写があるのですが、「だらしない人が『こんにちは』と現れても、『“もういい”よ』と跳ね除ける」みたいなふたつの意味を込めて書きました。
moi -self cover / はしメロ
――ダブルミーニング、というやつですね。今更なんですが『地面師たち』を最近観たので、この曲を聴いた時に脳内にピエール瀧さんが駆け抜けていきました(笑)。
はしメロ:「もうええでしょう」ってことですね(笑)。私も今年観たので、ちょっとわかります。でも、作品よりも先にこの曲は完成していましたね。
――時代を先取りしていたんですね。ちなみに、セルフカバーしたことで気づいたことなどはありますか。
はしメロ:声優の秋奈さんこと電音部の(黒鉄)たまちゃんに歌ってもらった時は〈もうええて〉がすごくかわいかったんです。呆れていてもまだ許してくれそうな感じ。でも、私のほうは本当に呆れていて冷たく聴こえて。温度差がすごくて、違いを感じました。そこも魅力なのかなと思いました。
moi / 電音部
――たしかに、はしメロさんの声がむちゃくちゃかっこいいと思いました。あえて違いを出そうと思って歌っていたり?
はしメロ:それが、意識したわけではないんです。曲全体が都会的でクールなイメージで作っているので、自然とそうなったのかもしれません。電音部さんのレコーディングにボーカルディレクションで参加させていただいた時には、「キャラクターの声を全面に出してください」とお願いしたんですよね。たぶん電音部さんと私では「moi」像が違っているんだと思います。
――聴き比べてみるのも面白そうですね。そして、4曲目は「da di do」。収録曲の中でも一際色が違う曲です。
はしメロ:この曲は5年前くらいに制作して、YouTubeにデモ曲をアップしていた曲です。EP『ときはなて!』に収録している「サッカリン」と同じトラックメーカー、seekxさんのトラックを使わせてもらって遊び感覚で作ったのですが、すごく気に入っていて。今回正式に曲としてリリースさせてもらいました。
da di do (demo) / はしメロ Prod.seekx
――ちなみに、制作経緯は覚えていますか?
はしメロ:家で歌うのが恥ずかしかったので、外で作ろうと思って。
――噂の河川敷(※前作『ときはなて!』のインタビューより)ですね。
はしメロ:そうです! この曲はその近くの公園で作りました。その日は曇っていて、周りの木がざわざわしていて少し怖かったんですよね。なので、ミステリアスな曲を作ろうと思って、こういう曲になりました。トラックに「シュッ……シュッ……」という音が入っているのですが、人間の音にたとえると何になるんだろう、と。ざわざわしている木に囲まれて聴いていたら、寝息なのかなと感じて、それを意識して作っていきました。
――歌詞に関してはいかがですか?
はしメロ:連想ゲームみたいにして書いていきましたね。寝息、木のざわめき、不安感、曇りなどのワードから人間像をイメージして。その人を動かしながら歌詞を書いていきました。なので妙にリアルに書けたなと自分でも感じました。
――個人的に「da di do」は歌い方の変化が印象的だと思っていました。とはいえ、他の曲も曲によって少しずつ歌い方が違っていて。どう歌うのかはレコーディングする時に決めるのか、制作段階で自然と決まっていくのか、どっちなのでしょうか。
はしメロ:どの曲も制作段階で大まかな方向性は決めています。あとの細かいニュアンスはレコーディング当日までに決めて、録音するパターンが多いですね。自分の中に正解があって、レコーディングに向けて準備をするタイプなのかな。なので、ボーカルディレクションも最終チェックとして客観的に聴いたときにどうか?というアドバイスを補足的に頂くだけ、ということが多いです。
――たとえば「こういう歌い方をしてみたい」というような部分は、どんなことからインスピレーションを受けることが多いのでしょうか。
はしメロ:いろんな曲を聴いていると、「◯分◯秒の歌い方が好き」というのがあるんですよ。それを自分でもやってみる、というのはめちゃくちゃしています。たとえば、最近だとファントムシータさん。「魔性少女」の42秒くらいの部分、灯翠さんが歌っている〈まるで運命の糸を結びつける〉というところがヤバくて! 初めて聴いた時に「ちょっと待って!」と巻き戻して聴き直しました。ファントムシータの皆さんの歌い方はめちゃくちゃ好きです。参考にさせていただくことが多いです。思い返すと、「かわいい」「恋っぽい」みたいな歌い方は女性アイドルグループから学んでいる気がします。
――「やってみよう」でできちゃうのがさすがだなと思いました。はしメロさんが歌ううえでのモットーなどはあるのでしょうか。
はしメロ:どんな表現をしても「はしメロ」に戻ってくるようにしているというか。違う歌い方をするけど、自分らしい声は絶対に入れています。それと、語尾のテンションにはすごくこだわっていて。聴いていて自分がいちばん気持ちいい音を出すように意識しています。
――「『はしメロ』に戻ってくる」というのが、なるほどなと思いました。
はしメロ:見たことがない道を通っていろんな場所に行ったけど、結局終着点は「はしメロ」だった、みたいなイメージを持っています。とはいえ、新しい歌い方もどんどんやっていきたいと思っているので、進化しているんだなとも感じています。
――もし“往年のR&Bシンガー”のような歌い方をしたとしても、はしメロさんっぽい要素は絶対に残していくというスタイル。
はしメロ:そうですね。今まではあまりなかった歌いこなす系の曲もやってみたいと思っていますが、声の響きなどから「この曲ははしメロだ」とわかるものにしたいと思っています。
――今後の楽曲も楽しみになりました! そして、最近だとライブで歌う機会も増えてきていますよね。レコーディングとの違いも感じているのではないでしょうか。
はしメロ:レコーディングは思ったままの表現で歌っていますが、ライブは少し違っていて。今年はバンドセットでライブをやらせてもらっているのですが、レコーディングよりもメリハリをつけたほうが映えると感じました。音源よりも派手にする部分、音源よりも抑える部分を意識しています。それと、ライブだと自由度が上がるので、「自由にやっています」感を出すというか(笑)。気づいてもらえるかわからないですが、ひとりにでも気づいてもらえたら嬉しいですね。
――『YouTube Music Weekend 10.0 supported by PlayStation』のライブパフォーマンスも拝見しましたが、めちゃくちゃかっこよかったです。
はしメロ:ありがとうございます。かっこよくしようと意識をしたわけではないのですが、ライブだと自然と「やってやろう!」とテンションが上がるんですよね。バンドセットが好きなので、ワクワクしちゃうんだと思います。それが影響して、いつもと印象が違って見えているのかもしれません。
Special Studio Live Performance 【YouTube Music Weekend 10.0 supported by PlayStation】 / はしメロ
――ライブのポリシーなどもありそうですね。
はしメロ:お客さんに絶対に「よかった」と言ってもらえるライブをしようとは思っています。そのためにも、ライブ前のストレッチは入念にしていて(笑)。ラジオ体操の速度を下げてゆっくりやるとすごくいいんですよ。私、もともと体がめちゃくちゃ硬いのですが、ラジオ体操をやるといい感じに体もほぐれるんですよね。気分も高まるので“ライブ仕様のはしメロ”になれます。
――そんなルーティーンがあったのですね。そもそも、はしメロさんにとってライブはどんな場なのでしょうか。
はしメロ:来てくださった皆さんが喜んでくれる場、ですね。私は人に喜んでもらうことがすごく好きなのですが、ライブだと直接それを受け取れるし、終わった後に(お客さんの)感想を見ても実感できるのが嬉しいです。音源をリリースすることも喜ばせるための手段のひとつですが、ライブも喜ばせられる手段のひとつ、という認識です。なので、ライブ一つひとつを丁寧に作りながら、いいライブができるようにしたいと思っています。
――楽しみにしています。そんなはしメロさんにとって、2025年はどんな一年でしたか?
はしメロ:新しい挑戦をたくさんした年でした。楽曲提供や客演参加をさせてもらったり、アニメの主題歌を書き下ろしたり、ドラマの主題歌を担当させてもらったり。それにメジャーデビューも。たくさんの挑戦がありましたが、特に印象的だったのはやっぱりアニメ主題歌かな。主題歌をやれると決まってからずっとワクワクしていて、第1話の放送を観たらクレジットに「作詞・作曲 はしメロ」と書いてあって。すごく嬉しかったことを覚えています。
――来年はどんな一年にしたいですか?
はしメロ:もっとたくさんの人に、はしメロの音楽を知ってもらえるような一年にしたいです。今年の挑戦を経てたくさん成長したので、もう一段階上にステップアップしたいというか。パワーアップしたはしメロの音楽をひとりでも多くの人に届けていきたいと思っています。
EP『百面相』全曲試聴トレーラー / はしメロ
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