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<インタビュー>THE ORAL CIGARETTESが約4年半ぶりにフルアルバムをリリース――バンドの変化と“過去最高傑作”となった『AlterGeist0000』を語る

インタビューバナー

Interview & Text:蜂須賀ちなみ
Photo:上原俊


 THE ORAL CIGARETTESが、1月22日に約4年半ぶりのフルアルバム『AlterGeist0000』をリリースする。「Alternative(代替)」と「Poltergeist(もう1人の自分)」を組み合わせた造語がタイトルとなった今作は、TVドラマ『マイホームヒーロー』の主題歌「YELLOW」や、TVアニメ『来世は他人がいい』のオープニング主題歌「UNDER and OVER」の他、リード曲「DIKIDANDAN」を含む全13曲が収録。バンドシーンに立ち続けた約4年半の時間や思いが込められたアルバムには、メンバーもたしかな手応えを感じたようだ。

 今回のインタビューでは、アルバムの制作過程から現在のバンドのモード、1月27日からスタートするツアーへの意気込みなどたっぷりと語ってもらった。

自分たちの人生を等身大で表しているようなアルバムになった

――『SUCK MY WORLD』以来4年9ヶ月ぶりのフルアルバムですが、待っていたファンの期待を超えて、余りある傑作になりましたね。完成後の今、どのような手応えを感じていますか?

山中拓也(Vo/Gt):過去最高傑作になったんじゃないかと。遅いですけど、6枚目にして「このアルバムを代表作にしたい」と思っていて。


あきらかにあきら(Ba/Cho):すごいアルバムができたなと思っています。その時々で拓也が感じた「今これをやるべきだ」ということを一つひとつチームで実現していけたからこそ、コロナ禍もずっとバンドシーンにいた自分たちならではの、メッセージ性の高いアルバムが完成しました。これだけ温度の高いアルバムを出せるのはすごく嬉しい。


中西雅哉(Dr):全部で13曲、パズルのピースがバシッとハマりましたね。「ENEMY feat.Kamui」をリリースした時はまだフィーチャリング楽曲=チャレンジで、オーラルのファンの中にはKamuiを知らない人もいるし、僕らもKamuiがどんなパフォーマンスをするのか知らない、という状況でのスタートでした。だけど「この新しいピース、ハマるのか?ハマらんのか?」という感じで、ライブや活動を重ねていくのがすごく楽しくて。



山中:正直「ENEMY feat.Kamui」や「BUG」「Enchant」は、「今の自分が作りたい音楽を」というテンションで「これを伝えるためにはこういう音が必要」というふうに考えながら作った曲で、ライブのことはあんまり意識していなかったんですよ。リリースした時は、「オーラルはこんな曲やらんでいい」とか「オートチューンを使うな」というふうにネガティブな意見も多かった。だけどライブでやった時に、「よかった」という反応をちゃんと得られたんですよね。


中西:最初は「BUG」がライブでメインを張れるような曲になるとは思っていませんでした。


山中:その時思ったのは、SNSに書きこまれているリアクションとライブに来てくれたお客さんのリアクションは、全く別物だということ。



――それもあるし、この4人でリアルタイムで演奏するライブ・バージョンもしっかりいいものにできたからこそ、お客さんの反応もよかったんじゃないかと思います。

中西:そうやって「あっ、ピースがハマってきてる」と思える瞬間がどんどん増えていく中で、去年の夏には「DUNK feat.Masato (coldrain)」という“夏フェスのオーラル”にバシッとハマる曲が生まれて。並行して拓也から新曲が上がってきて、アルバムの全貌も見えてきて、最後のピースとなるようなジャケットもできた。そういうバンドの動きの中で生まれたアルバムやから、やっぱり説得力があるし、厚みのあるアルバムになったなと思います。


山中:なんか、“人生のアルバム”って感じがすごくしますね。Masatoくんとフィーチャリングしたのも、その時期にMasatoくんと濃密に会話をする機会が多かったからやし。「UNDER and OVER」が生まれたのは、『来世は他人がいい』のタイアップのお話をいただいたからやし。今回のアルバムには、俺とあきらがHigher Groundというバンドをやっていた頃にツアーに連れていってくれた奈良の先輩や、DREAMLAND(2022年に始動した山中主宰のクリエイティブ・レーベル)の活動に共感してくれた後輩と一緒に作った曲も入ってます。その時々の「今のこの環境で、 こういう音を鳴らしたい」というイメージを形にしていった結果、自分たちの人生を等身大で表しているようなアルバムになりました。


鈴木重伸(Gt):この4年間の活動をアルバムにちゃんと落とし込めてよかったし、たくさんの仲間たちとアルバムを作れたのは純粋に楽しかったです。僕は元々ギターリフを作るのが好きなんですけど、今回一緒に曲を作った(山岸)竜之介くんはプレイヤー気質の人で。自分と違うタイプのギタリストとの制作はめちゃくちゃ勉強になったし、「ここはまだまだ学べるな」「のびしろだな」と思うタイミングもいっぱいありました。できることが増えると「じゃあ次はこういうことを試してみよう」というふうに考えられるし、あと、DTMを覚えたのも自分にとっては大きな変化で。


あきら:僕が言うのも変かもしれないけど、「ギター弾きまくったろう」みたいなことは減ったよな。その曲に合ったフレーズを弾いてくれるギタリストになったというか。


鈴木:今まではギタリスト目線からしか曲の話をできなかったけど、今はギター以外のことにも興味があるし、全体に目を向けて、「オーラルが鳴らすべき音楽は」という視点で考えられるようになりました。最初はデータのやりとりをするにも「これちょっと分かりにくいで」って教えてもらうみたいな、かなり初歩的なところから始まったんですけど、最近は、拓也と(辻村)有記くんが作った曲を自分で分解してみて、「ここはシンベがこうなっているから、ギターがやるべきことは」というふうに考えたりして。そうやって音楽に向き合う時間が今すごく楽しいんです。



――本当に、過去最高傑作ですよね。山中拓也というソングライターも、これだけのバリエーションの楽曲を形にできるTHE ORAL CIGARETTESというバンドも、世間からもっと評価されるべきだなと。

山中:あははは! それ、ちゃんと書いておいてください(笑)。


――これだけ粒揃いだとリード曲を選ぶのも大変そうです。

鈴木:リード曲を選ぶ会議では、けっこう意見が分かれました。リリース後にツアーがあるので、ライブを盛り上げてくれそうな「DIKIDANDAN」に決まりましたけど、「いや、『Bitch!!』の方が勇ましくて好きだよ」という人もいましたし。


――“俺の心のリード曲”を挙げるとしたら?

鈴木:僕は「Savior Of My Life」ですね。爽やかさとエモーショナルの混ざり具合が絶妙でカッコいい曲だなと最初から思っていたし、拓也がメロで悩んでいたのも、完成した時「すごい曲ができたね!」とその場一緒に喜んだのも記憶に残っています。リード曲を決める会議でも、僕は「この曲、推しましょうよ!」と言ってました。


中西:僕は「愁」と「See you again」がすごく好きです。「愁」はデモを送ってもらった時にヨーロッパにいたんですけど、散歩中に聴きながら「この曲を聴くために日本に戻りたい」という気持ちにさせられて。「See you again」はスタジオのスピーカーから大音量で流した時に、「俺はこの曲を待ってたのかも」と思いました。僕、「もしも行く予定だったライブの開演時間に間に合わなくてラスト1曲しか聴けないとしたら、どの曲を聴きたい?」「たった1曲で、チケット代を払う価値があるような曲って?」という妄想をいろいろなアーティストでよくするんですよ。オーラルだったらこの曲かなと思いましたね。


あきら:「歌詞すごっ!」と思ったのは「DUNK feat.Masato (coldrain)」やし、泉大津の事故があったあとに聴いた「愁」はめっちゃ泣けたし、「Bitch!!」もめっちゃ刺さって。自分はTHE ORAL CIGARETTESの楽曲を一緒に演奏する立場ですけど、「拓也の歌詞に救われた」「曲が近くにいてくれた」という感覚がかなりあります。拓也の書く歌詞のレベルも上がってるし、自分とバンド、自分と拓也の関係性も変わりつつあるからこそ、楽曲がより響くようになってきているのかもしれません。



――中西さん、あきらさんから名前が挙がった「愁」は、どのようなきっかけで生まれた曲なんですか?

山中:インタビューでこんなこと言っちゃいけないと思うんですけど、この曲に関しては語らないようにしてて。今3人が話してくれたように、楽曲の聞こえ方って、その人がその時に置かれている状況によって変わるじゃないですか。「愁」はいろいろな解釈ができる曲だからこそ、聴いた人が感じたことを歪めたくない。昔の俺だったら、言葉で語ることでその楽曲をより聴いてもらおうとしてたと思います。だけど伝えたいことは楽曲に全部詰め込んでいるから、今は余計な言葉つけんとこって気持ちですね。それでリリックビデオを公開した時も「仲間達とファンの皆へ」としか書かなかったんです。



THE ORAL CIGARETTES「愁」lyric video


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『AlterGeist0000』をTHE ORAL CIGARETTSの代表作にしたい


――なるほど。ここ1~2年のインタビューで、「近くにある大切なものに目を向けながら、仲間と楽しくやっていきたい」というバンドのモードと「同時にちゃんと上を狙い続けたい」という志を言葉にしてもらっていましたが、両者の交わるポイントはここだったんだと、音楽で以って提示するようなアルバムで、いちリスナーとして驚きと嬉しさがありました。

山中:前作『SUCK MY WORLD』を作った時は、ちょっとスピリチュアルなメンタルになっていて。平たく言うと「自分たちの手で世界平和を作りたい」という想いがあって、そのためには“今までやりたかったけどやってこなかったこと”を全部やりきろうという気持ちでアルバムを作っていました。そういうことを『SUCK MY WORLD』で一旦やりきって、元いた場所にまた戻ってきた時に、「俺らにはロックバンドシーンの仲間たちがたくさんいる」というところに立ち還った。20代の頃は「もっと大きいところへ」というふうに規模感を重視して活動してましたけど、コロナ禍をきっかけに、近くの人をもっと大切にしていくべきだという気持ちになって。


――そこから仲間のバンドマンやトラックメイカー、ラッパーとの制作が増えていったと。特にヒップホップ・シーンとの接近は、今作のカラーに大きく影響しているかと思います。

山中:俺自身元々ヒップホップが好きやったのと、コロナ以降、ロックが衰退してヒップホップが上がっていく流れがあったから「この人たちは今どういうメンタルでヒップホップやってんねんやろ?」と興味があったんですよね。そうやってラッパーの友達も増えて。周りのやつらとどれだけ楽しく、素晴らしい音源を作っていくかという方向に、音楽を作る姿勢が切り替わって。ちゃんと素晴らしい音楽を作っている自負があるからこそ、「J-POPシーンにも切り込んでいける存在でありたい」「オーバーグラウンドにもちゃんとロックを根付かせたい」という気持ちもあります。



――山中さんが仲間を連れてきて、THE ORAL CIGARETTESのクリエイティブに新たな要素が加わって……という流れの中で、お三方はどんなことを感じていましたか?

鈴木:僕はさっきも言ったように、いろいろな人たちとの制作はとにかく楽しかったですね。


中西:海外の曲のクレジットを見ると「こんなに大人数で作ってるの?」ということもけっこうあるじゃないですか。だから僕は「拓也にも、一緒に曲を形にできる仲間がいたらいいのに」と前から思っていたし、拓也本人にも言っていたんですけど、実際、信頼できる仲間が増えていった結果、曲のクオリティが飛躍的に上がって。デモの方向性も明確になったからこそ、自分も「なるほど、こういう方向性ね」というふうに、よりスピーディーに、クオリティの高いアウトプットができるようになったと実感しています。


あきら:デモのクオリティが上がったことに関しては、シゲ(鈴木)の存在もかなり大きかったと思います。制作期間中、拓也がシゲに相談する場面をたくさん見たんですよ。僕も拓也に相談する前に一旦シゲに持っていくみたいなことをけっこうしましたし、役割が分散されて、拓也の負担が軽くなったんじゃないかなと。


山中:うん、シゲがDTMを使えるようになったのはかなりデカい。あと、バンドのテンションを4人でしっかり共有して、今自分たちが目指すべき場所、シーンの中でやるべきことをみんなで意識できたのも、アルバムの完成度が上がった一つの理由なんじゃないかなと思ってます。



――山中さんの負担が軽くなると、歌詞を書く時のメンタルも変わってくるのではないでしょうか? 自分自身を追い詰めてメンタルを削るのとは違う方法で、自分の中に潜りながら歌詞を書いていったのかなと、今作を聴きながら思いました。

山中:正直自分ではまだ、何が大きく変わったのか分かっていなくて。でも昔は全体をボヤーッと見ている感覚だったのに、今は「自分が生きる上で大切にしたいものは、これとこれ」というふうに明確だから、書くべきことが自然と決まってくるんですよね。そこが変わった部分なのかな。同じように「気に入らないことは、これとこれ」というのも、すごくはっきりしてきているんですけど(笑)。


――(笑)。「OD」の歌詞は、今の自分と昔の自分の会話形式ですね。このアイデアはどこから出てきましたか?

山中:仲良くしている後輩の中に、昔の俺みたいなやつがいるんですよ。そいつが俺に発する言葉に対して、俺は「気にしてないよ」という感じで振る舞っているけど、実は心に引っかかっちゃっている部分もあって。



――どんなことを言われるんですか?

山中:「拓也くん、最近後輩に優しくしすぎちゃう?」って。そう言いたくなる気持ちは分かるんですよ。俺も昔MAHさんに対して、「最近トゲなくなってきたんちゃいます?」と思ってたから(笑)。でも後輩が見ているのは俺が大切な仲間と接している時の姿だけであって、「いや、他の人にどう接してるかは知らんやん」「それで優しくしすぎって言われても」という気持ちもある。そういうふうにいろいろと思うことがあった中で、昔の自分が大切にしたかったことと今の自分が大切にしたいことを曲の中でぶつけてみれば、自分の感覚がより研ぎ澄まされて、見えてくることがあるんじゃないかと思って、こういう歌詞を書きました。書きながら「昔の自分が持っていたこの感覚、今も多少は持っているかも」「捨てきれてないな」と思いましたね。


――そういう割り切れない感じ、白でも黒でもないグレーの感情を扱った曲は久々な気がしました。近年のインタビューで山中さんに言葉にしてもらっていたメンタルの変化は「黒が白になった」くらい大きな変化だったし、だからこそ「信じたいものはこれだ」と明確に歌っている曲が多かったので。

山中:多分、「自分がどういう人間なのか、今このタイミングで確認しとかなあかん」と思ったんやと思います。コロナ以降、自分の人生の目的が変化して、メンタルもすごく楽になって、「こういう生き方が自分に合ってるんや」と思っていたんですよ。まるで自分が生まれ変わったかのような感覚でいましたけど、誰かのちょっとした言葉で「うわっ」と思う自分は、結局昔のまま。そういう部分まで含めて自分だから、麻痺させたまま生きていくのは違う、完全に切り捨てることはできないんやと、この4年間で分かったんですよね。自分自身のことをちゃんと肯定できるように、こういう曲が必要だったのかもしれません。



――最後に、リリース後のツアーについて聞かせてください。1~3月にライブハウス、4月にアリーナをまわるスケジュールですね。

山中:最初に言ったように、『AlterGeist0000』をTHE ORAL CIGARETTSの代表作にしたいと思っていて。そのためにはライブハウスからしっかりまわって勢いを作ろうということで、こういうスケジュールを組みました。


鈴木:ワンマンツアーをまわるのがだいぶ久々なんですよね。こないだのリハーサルでライブハウス編のセットリストを通して演奏したんですけど、アルバムの曲たちがいいアクセントになっているなと思いました。


山中:新曲がお客さんにどのくらい刺さるんかな? と思うと、全国をまわるのがめちゃくちゃ楽しみ。『AlterGeist0000』というアルバムも、THE ORAL CIGARETTESのライブも、ここからどんどんレベルアップしていくんちゃうかなと予感しています。



THE ORAL CIGARETTES「AlterGeist0000」

AlterGeist0000

2025/01/22 RELEASE
PCCA-6351 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Bitch!!
  2. 02.DIKIDANDAN
  3. 03.DUNK feat.Masato (coldrain)
  4. 04.BUG
  5. 05.UNDER and OVER
  6. 06.OD
  7. 07.ENEMY feat.Kamui
  8. 08.SODA
  9. 09.Enchant
  10. 10.Savior Of My Life
  11. 11.YELLOW
  12. 12.愁
  13. 13.See you again

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