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<インタビュー>猛烈なデビューを飾った、かつしかトリオ「充実していますが同時にいばらの道を歩いてます」
Interview & Text:石沢 功治 / Photo:SHUN ITABA
日本フュージョン・シーンの最前線を突き進む櫻井哲夫、神保彰、向谷実によって結成し、超大型新人バンドとして猛烈なデビューを飾ったかつしかトリオがデビュー・アルバム『M.R.I_ミライ』に続くフル・アルバム『ウチュウノアバレンボー』をリリースした。スリリングなパッセージも滑らかになぞる卓越したスキルと独創的なサウンドでフュージョンマニアを虜にする彼らに最新作について、そしてアコースティックピアノを中心としたオーガニックなトリオライブをコンセプトとして掲げるビルボードライブ公演について話を伺った。
スリル、スピード、テクニックの面で1980年代の方が良かったねって言われないように
――東京のかつしかシンフォニーホールヒルズを皮切りに、セカンド・アルバム『ウチュウノアバレンボー』を携え全国を周ったホール・ツアーは大好評でした。結果、東京国際フォーラム(ホールC)での追加公演まで完走して最新アルバムの評判もすこぶる良い様子が伺えます。
向谷実:お陰さまで。CD用に1,000枚のサイン色紙を書いたんですけど、会場ですべてなくなってしまって。今の時代はサブスク配信がある中、これは本当にありがたいことです。
神保彰:まず1作目『M.R.I_ミライ』を制作中に“大人げないオトナの音楽”というコンセプトが自然と生まれて、中でもPVを作って配信した「Red Express」は再生回数がすごかったんです。 こういう演奏力が全面に出たような曲を求めてるユーザーの方がいるんだなと。それでセカンド・アルバムは“大人げないオトナの音楽”をさらに突き進めようとなり、1曲目にある「ウチュウノアバレンボー」というものすごい曲が生まれて……1枚目はまだ大気圏にいたんですが、2枚目で遂に宇宙空間へ飛び出しちゃいました(笑)。
『ウチュウノアバレンボー』- ウチュウノアバレンボー
向谷:今回もすべて3人の共作で、今言った「ウチュウノアバレンボー」が特にそうですけど、お互いに、いいね、いいねと言いながらスタジオで何度もやり直しながら仕上げていったわけです。おまけにその曲は何度も転調していて、下がったあとにまた上がったりと実に鍵盤奏者泣かせで。いざ完成したらこれはライブで弾けるのか? と事態の深刻さに気づいたわけです(笑)。
――櫻井さんのベースもこれまでも弾きまくってる曲はありましたけど、さらに上回ってます。
櫻井哲夫:せっかくこの3人が何十年ぶりかに集まってかつしかトリオがスタートしたので、スリル、スピード、テクニックの面で1980年代の方が良かったねって言われないように頑張らないと、というのは基本にあります。
――2曲目の「Zero G」、神保さんは基本的にスネアとキックとハイハットの3つで叩いてますよね。それからスネアの音はエフェクトをかけてるのでしょうか?
神保:タムのマイクをオフにして、しかも左右にパンをふってなくモノラルに近いので、よりドラムの音が前に出るんですよ。スネアはエフェクトではなく、表皮の上に小さなシンバルを置いて叩いているんです。
――ドラムがシンプルなセッティングの「Zero G」ですが、ジャジィーな6曲目「ピンクの仔像」は、こちらは向谷さんはシンセは弾かずアコースティック・ピアノだけプレイしてます。
向谷:“大人げないオトナの音楽”とは言え、ずっと暴れ続けてたらただのヤンチャなおじさんになってしまうので(笑)。それに自分はピアノ弾きという思いもあるので、セカンド作では9曲目のバラードの「天ノ川」もそうですが、今回は結構ピアノを弾いてます。そう言えば「ピンクの仔像」はマイナー調でイチ・ロク・ニー・ゴーを繰り返すコード進行なんですが、ピアノ・ソロのときに櫻井さんのベース・ラインが譜面に書いてることと違ったことをやったもんだから、すごく面白かったんですよね。
――確かコードがCm→Am7(♭5)→D7→G7の繰り返しだと思ったのですが。
櫻井:そうです。で、ベースは通常はコードのルートの音を弾くんですが、そのAm7(♭5)のところで僕はルートAの音ではなくE♭の音に、D7のところでF#の音にいってるんです。抜き足差し足みたいに、なかなかユニークな感じになったかなと。
向谷:確かにそうで、そこでディミニッシュのような響きになってるんです。そういうのもピアノ・トリオの面白さかなと思いますね。
――今ピアノ・トリオという言葉が出て来ましたが、来年1月13日(月・祝)にビルボードライブの東京で、16日(木)に大阪で公演が決まりました。そこでは向谷さんはアコースティック・ピアノのみによるオーガニックなトリオということですので、今おっしゃった「ピンクの仔像」が最も近い感じになるかと。
櫻井:ビルボードライブさんでは、かつしかトリオ名義では1回だけ2023年の横浜でやらせて頂いたんですが、そのとき僕はアップライト・ベースとアコースティック・ベースを曲によって使い分けたんですけど、今回はエレクトリックだけでやります。
向谷:だからアコースティック・トリオだと語弊があるので、オーガニック・トリオにしたんです。今出た「ピンクの仔像」は大丈夫なんですけど、他の曲……例えば「ウチュウノアバレンボー」にしろ「Banana Express」にしろ、エレクトリックのパートがなくなるので、そこもピアノで何かしら弾いてないといけないわけですよ。メロディもシングル・トーン(単音)だと違和感があるので、ハーモニーを付けないとダメだし、今からどうなるか……冷や汗たらたらで。かつしかトリオにいることで充実していますが、同時にいばらの道を歩いてます(笑)。
――セットリストはセカンド・アルバムからが中心になりますか?
神保:そうなりますけど、そこにファースト・アルバムからも何曲かは織り交ぜる形になるかと思います。
――かつしかトリオはこれまでコンサート・ホールが多かったわけですが、ビルボードライブのようなクラブですとまた違った良さがあると思います。
向谷:もちろん客席との距離が近いというのもありますけど、音楽を楽しむための空間をこれまでの歴史の中で作り上げてきたわけで、お客さんも聴き上手な、楽しみ上手な人達が集まっている印象を持ってます。演奏してるときにソロでバーンと決まったときに、ちょうどチキンを食べてる人と目が合ったり(笑)、そういうのもなかなかだと思いますよ。僕もビルボードライブさんにはよくライブを観に行きますから、そういうときは逆にリスナーの立場で楽しませて頂いてます。そういった自分の気持ちを想定しながら、より聴き手の期待に応えられるような演奏をするにはどうしたらいいか……いろいろ考えさせられるので、そういう点でも感謝してますね。
神保:他のプロジェクトでも沢山出演させて頂いてますけれども、お客様はマナーもすごくわきまえていらっしゃるし、リラックスして音楽を楽しまれている。出させて頂くたびにいつも良いなと実感させられます。あと東京はロケーションが素晴らしい! 特にアンコールでステージ後ろのカーテンが開くじゃないですか。あれは何度見ても「おおーっ」て感動します。それから音響は東京ももちろんいいんですが、それに輪をかけて大阪はいいですね。いつも納得のいくサウンドで非常にありがたいです。
櫻井:一昨年(2021年10月18日に大阪、21日に横浜、22日に東京で行われた神保彰ワンマンオーケストラ feat. 向谷実 櫻井哲夫)、そして去年の横浜でのかつしかトリオに出演させて頂いたときを思い起こしてみると、やはり食事やお酒を楽しみながら観ていらっしゃるので、お客さんがエンジョイされているのがより伝わってくるわけですよ。それに僕らのソロに対してのリアクションも肌で感じ取れるぐらいの距離ですので、こちらも演奏していて非常に楽しかったんです。ですから、今から1月のオーガニック・トリオでの公演が楽しみでならないんですよ。
向谷:とにかく曲の感じがアルバムとはがらっと変わりますので、ぜひ楽しみにしていてください!
取材協力:YAMAHA SOUND CROSSING SHIBUYA
ウチュウノアバレンボー
2024/09/11 RELEASE
YCCS-10119 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.ウチュウノアバレンボー
- 02.Zero G
- 03.Moon Liner
- 04.Banana Express
- 05.Brand-New Morning
- 06.ピンクの仔象
- 07.Spaceman’s Shuffle
- 08.Osaka Romantica
- 09.天ノ川
- 10.Living In The Universe
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