Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>花譜の第2章ライブ【怪歌】開幕寸前、意気込みと憧れの存在・くるり岸田繁と制作した「愛のまま」を語る



花譜インタビュー

Interview & Text: 小町碧音

 2024年1月14日、東京・国立代々木競技場第一体育館で、クリエイティブレーベル「KAMITSUBAKI STUDIO」所属のバーチャルシンガー・花譜の4th ONE-MAN LIVE【怪歌】が開催される。V.W.Pと花譜による2日間にわたるアリーナ公演【神椿代々木決戦二〇二四】の2日目にあたるライブだ。

 花譜のデビューから約5年、楽曲提供を通して花譜の音楽的深化に携わってきたメインコンポーザー・カンザキイオリが、2023年3月に同レーベルの卒業を発表。それに伴い、2019年より続いたライブシリーズ【不可解】が完結した。

 20歳を迎えたばかりの花譜が、第2章【怪歌】への意気込みや、2021年10月から続くコラボシリーズ『組曲』の完結を飾る新曲「愛のまま」について、その想いを語ったインタビューをお届けする。

<インタビュー>「等身大で、全力の、真っ直ぐな歌を届けます」――V.W.Pが2nd ONE-MAN LIVE【現象II-魔女拡成-】にかける思い

――カンザキイオリさんの音楽は、花譜さんの音楽性や表現に、特別大きな影響を与えたと思いますが、いかがでしょう?

花譜:カンザキさんの作る歌詞やメロディで私は自分を表現できるようになったんです。カンザキさんは私に「貴方は人なんだ」と教えてくれるような感じがして、そのおかげで安心して歌うことができました。例えば、「ここの部分はこう歌いたいな」と言った時も、それを受け入れてくれて。最初はカンザキさんの曲を歌わせてもらっている気持ちが大きかったんですけど、だんだんと一緒に作るっていう感覚が芽生えていきました。

――第2章といえる【怪歌】は、どのような点がハイライトになると思いますか?

花譜:この新しいライブシリーズでは、これまで以上にみんなの想像を超える演出が用意されているのはもちろん、変わらない部分と、変化していく部分の両方を鮮明に見せることができると思っています。昨年の日本武道館公演でもゲストの方々をたくさん招いて歌を披露したんですが、今回も、ライブ限定のコラボレーションを見てほしいですね。


佐倉綾音・Mori Calliope・#KTちゃん・長谷川白紙・大沢伸一(MONDO GROSSO)がゲスト出演する

――ゲストの方々との共演では、どんなことを心がけているのですか?

花譜:憧れのアーティストの歌を聴いて、自分が歌う時、その方のスタイルが最初に頭に浮かびますよね。「この曲はこういう風に歌いたいな」って考えると、やっぱりそのアーティストの歌が基準になっているんです。でも、自分らしい歌い方も大切にしたい。それをどうミックスさせるか、今回のライブでも、その試行錯誤を重ねるのがすごく楽しみです。

――「KAMITSUBAKI STUDIO」は、目まぐるしく変化しながら進んできました。今ではたくさんのクリエイターが所属しています。

花譜:活動を始めた時は、バーチャルの世界のことも何も知らなかったんです。でも、だんだん続けていくうちに、花譜は歌だけじゃなくて、いろんなものが詰まって「花譜」になっていったんですよね。花譜はみんなで作っているものだけど、話すのは私。そう気づいてから、「私って何なんだろう?」って、すごく考えるようになりました。

――ライブシリーズ【不可解】のタイトルにもその問い掛けはつながっている気がします。

花譜:分からないという意味が込められているのが、【不可解】でした。実際にこの活動をしていて、自分自身も分からないことが多かったんです。例えば、代々木第一体育館でライブをする時、そのスケールや、どれくらいの人が聴いてくれるのか……数は分かるけど実感が湧かないんですよね。ステージに立っていても、演出がどうなっているのか分からないこともありました。でも、分からないからこそ、信じるしかないんです。自分の予想や希望を信じて、そのまま進むことができる。それに気づけたライブシリーズだったと思います。信じる気持ちが強まったというか、そんな感じですね。


――コラボシリーズ『組曲』の最終作「愛のまま」についても聞かせてください。

花譜:この曲は、10代最後の曲をテーマに、くるりの岸田繁さんと作りました。くるりの曲が本当に大好きで、2023年に一番聴いたアーティストもくるりです。最初は、大好きな音楽を作る人と一緒に曲を作るなんて、恐れ多いと思っていました。岸田さんにどんな曲にしたいか聞かれた時、私は「陽の光を感じるような曲がいい」としか言えなかったんです。それだけで、岸田さんは「もう作れる」と言ってくれました。岸田さんからメロディをいただいて、私が歌詞を書いて、岸田さんと何度かやり取りをして、インパクトのある言葉使いや、改善点などのアドバイスをもらいながら、自分のイメージを言葉にしていきました。その結果、できあがったのが「愛のまま」です。


――どんなことをイメージして歌詞を書いていきましたか?

花譜:特に、夕方の時間が好きなんです。その時間に、くるりの曲を聴きながら帰ったりしていたんですよ。夕方は、自分の中にある大切な記憶とリンクしていて。夕方って、何か特別な思い出や感情が色濃くなる時間じゃないですか。子供の頃は、日が沈むと「帰らなきゃ」って思っていたけど、大人になると夕方は家に帰る時間だという意味合いが薄れてきますよね。そう感じる度に、時を重ねたことを実感して、自分の歴史を振り返るんですよ。大きくなった今は、夜に外に出ていても、誰も怒らない。でも、だからこそ、もう子供じゃないんだなって、少し寂しさを感じることもあります。

――夕方が大人になったことを実感させる象徴になっている。

花譜:20年って、長いようで短いんですよね。出会いと別れが繰り返される中で、前に進みたいって強く思うんですけど、同時に「まだここにいたい」っていう気持ちもある。私は、別れ際に「またね!」ってよく言うんですよ。実際にまた会えるかわからなくても、それを言うだけで、前に進む力になるんです。そう思える人がたくさんいることが本当に幸せなことだなって。岸田さんと一緒に作った曲には、20代になる前の夕方の思い出と、次に進まなきゃいけない切ない気持ちが混ざっていると思います。

関連キーワード

TAG