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<インタビュー>アーティスト活動35周年の江口洋介が語る、音楽活動への想い



江口洋介インタビュー

Interview & Text: 小松香里
Photos: 筒浦奨太

 アーティストデビュー35周年にあたり、ヒット曲「恋をした夜は」や「愛は愛で」等、全88曲をデジタル配信した江口洋介。俳優としてドラマ『ひとつ屋根の下』『救命病棟24時』、映画『スワロウテイル』『るろうに剣心』『コンフィデンスマンJP』といった時代を代表する作品に出演する一方、80年代後半から90年代を中心に精力的に音楽活動に勤しみ、アーティストとしても強い存在感を放ってきた。音楽活動への想いや6月21日に行う初めてのビルボードライブへの意気込みを聞いた。

衣装協力:レザージャケット&ブーツ(イサムカタヤマ バックラッシュ)、ジーンズ(デンハム・ジャパン)

――アーティストデビュー35周年にあたり、全88曲をデジタル配信されましたが、改めて過去の楽曲と向き合ってどんなことを感じましたか?

江口洋介:久々のライブも決まったので、そこに向けて「どう楽曲をアレンジしようかな」と考えながら自分でも何回も聴いています。俳優としての自分しか知らない人にどういうふうに聞いてもらえるのかなという興味はありますね。40代の時は昔の曲を聴くとちょっと照れ臭くなることもあったんですが、今となってはその時にしか生み出せない曲ばかりだし、全部を肯定的に捉えられるんですよね。サブスクの普及により、CDよりは気軽に楽曲を発表できる感覚を覚えると、早く新曲をレコーディングして発表したいという気持ちになります。昔とは大きく環境が変わった中で、曲を聞いてくれる方々とどう付き合っていくことができるのかなと考えています。

――ご自身ではどういうふうにストリーミングサービスを使っていますか?

江口:やっぱり便利ですよね。最近だとポスト・マローンやVaundyを聴いています。サブスクによって、よりジャンルレスに音楽が楽しめるようになったところはありますよね。Vaundyの楽曲は今の音ではあるんだけど、昔、僕たちの世代が聴いていた音楽にも通じる懐かしさを感じました。サブスクで音楽を聴く時とは別に、部屋でステレオの前で「よし!」と思って聴く時間もあります。

――江口さんの代表曲である「恋をした夜は」や「愛は愛で」の配信もスタートしました。この2曲はロマンチックで人間味あふれるラブソングですが、ご自身のパーソナリティは出ていると思いますか?

江口:2曲とも自然と自分の中から出てきたものなので特に意識はしていないんですが、ラブソングについてじっくり考えた時期があって、友達のことや恋愛、いろんなラブソングを歌いたいなと思ったんですよね。その中で、「恋をした夜は」や「愛は愛で」のように信じる力を書いてみたり。ある種、能天気に「大丈夫だよ」「なんでもうまくいくから」っていうような曲が基本的に好きなんですよね。ラブソングは好きですね。例えばエルヴィス・プレスリーの甘いラブソングも好きですし。


――江口さんのルーツは60~70年代のロックンロールということですが、特に影響を受けたアーティストというと?

江口:まず、ギターを持ってバンドをやる姿に憧れた時期がありました。音楽からたくさんパワーをもらい、自分が作った曲で同じように興奮してもらえたら、こんなにいいことはないなと思いましたね。デビュー当初はニール・ヤングやザ・バンドといったアメリカンロック、あとレーナード・スキナードのような泥臭いサザンロックも大好きで、そういう曲をいっぱい作っていたんですけど、結局ブリティッシュ系に行くようになったんですよね。いちばんのルーツはビートルズなんだと思います。

――例えばアルバム『GOOD TIMES』のタイトル曲等にも晴れ晴れしいカリフォルニア感が出ていますよね。

江口:当時はアメカジも流行っていたし、カリフォルニアへの憧れがダイレクトに出ていますよね。エアロスミスのようなイケイケのロックにも惹かれていました。でもだんだんカリフォルニアのセレブリティみたいな世界があまり好きじゃなくなって、ロンドンのストリートファッションやイギリス人の枯れ感にインテリジェンスを感じるようになったんですよね。紛れもないスターなんだけど、自転車に乗っているような身軽さを感じるポール・ウェラーや、俳優でもアンソニー・ホプキンスやゲイリー・オールドマンのように【グラミー賞】の授賞式にフラッと来るような雰囲気に憧れるようになり、好きな音楽もブリティッシュになっていきました。やっぱりその時々の自分のモードが自然に楽曲に出ていますよね。

――楽曲を作る上で一番こだわる部分というと?

江口:良いメロディが生まれたら、いろんなリズムを試してみますね。最初は単純なエイトビートがいいのかなと思っても、実はちょっと跳ねたほうが良かったりして、リズムによって曲のいろいろな可能性が生まれる。それによってメロディも変わっていきますしね。ただ、自分の心のひだにいちばん触れるのはメロディですね。曲作りは鼻歌から始まることも多いので、自分のことを鼻歌マンだと思っています(笑)。

――曲を作り始めた当初と比べ、作り方が変わっていったところはありますか?

江口:好きなコード進行がもう決まっちゃっているので、最近はそれを崩すところから入ります。ただ、自分の好きなコード進行から生まれた曲はめちゃくちゃいい曲になることが多いですね。こねくり回すより、するっと出ちゃったような曲のほうがハマる作曲家だと自覚しています。それはなんでかというと、本当にいい音楽を聴いた時やいいライブに行った時、いい映画を観た時に気持ちが高揚して、そこから生まれてくるものを信じているからだと思います。ただ、しっかりデモテープを作ることも大好きですね。

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ビルボードで待ち合わせをしたような気分でライブが作れたら

――6月21日にキャリア初のビルボードライブがありますが、どんなライブになりそうですか?

江口:80~90年代によく『MTV Unplugged』というアコースティック・ライブの企画を見ていたんですね。エリック・クラプトンやニルヴァーナ、ニール・ヤングとかが出ていて、それをこぞって録画して何度も見た思い出があって。ビルボードのライブはアンプラグドではないけれど、生っぽいアレンジにするので、繰り返し見た『MTV Unplugged』をイメージしながら準備をしています。いつものようなライブをやることは簡単だけど、せっかくお客さんとも距離が近いし、ちょっとドレスアップして来てくれるお客さんもいるだろうし、こっちも家に遊びに来てもらうような感覚プラス、35周年ですし、プレゼントのようなことができたらいいなと思っています。

――ビルボードのバンドメンバーはギターが真壁陽平さん、ベースがTOKIEさん、ドラムがTRICERATOPSの吉田佳史さん、キーボードがSinさんととても豪華ですよね。

江口:これまでやってきたことを再現しても面白くないので、またライブをやる時のために、いろんなライブを見に行ってメンバーを探していたんです。真壁くんは斉藤和義くんのバンドでフォーキーなアプローチもやっていてアコギもうまい。それで「いいギターだな」と思って一緒にやるようになりました。吉田くんは吉井和哉くんや矢沢永吉さんのバンドに参加していて「いいドラムだな」と思って、だいぶ前に楽屋でお会いした際に「声をかけますから」とお伝えしていたんです。TOKIEちゃんはすごくステージングもカッコいいし、「一緒にやったらどういう化学反応が起きるんだろう?」と思って声をかけました。喋りも交えて、隙があればお酒も飲みながら、柔らかい感じでやれたら俺としてもすごく好きな箱になるんじゃないかなと思っています。特別な場所ではありますよね。お客さんもライブハウスに行く時とはおそらく気構えが違うところもあると思いますし、こちらとしてもお客さんとビルボードで待ち合わせをしたような気分でライブが作れたらいいなと思っています。やっと声出しも解禁され、みんなで「イエーイ!」って叫べる状況になったし、僕が誰かのライブを見て、「最高の一日だったな。明日から頑張るか」って思うのと同じような気持ちになってもらえたら嬉しいですね。絶対に「来て良かった!」って思ってもらえる特別なライブにしたいです。