2019/03/23 12:00
京都大学で開催された「デジタルアーカイブ学会」で、研究発表を行った。標題は「2010年代におけるJ-Popの世界伝播の変遷~J-MELOリサーチを通じて~」。東京芸術大学と慶應義塾大学の協力で実施した視聴者調査を元に、この10年間の日本音楽の世界での受容を「拡大期」と「縮小期」に分け、解析した。私は、この学会の評議員も務めているが、評議員会で「デジタルアーカイブは『過去』だけではなく『現在進行』の知(記録と記憶)。だからこそ、法的、並びに環境の整備が必須だ」という提言をした。アーカイブを作り出している側にいるからこそ、川の流れの如く、海に流れ藻屑のようになっているコンテンツを、残念ながら目の当たりにしている。天然資源に乏しい日本の財産は「人」。「人」の創作物こそ、最大の「内なる資源」だからだ。
「日本ポピュラー音楽学会」にも所属している。魂が熱い研究者が数多く集い、時には、口角泡を飛ばすような議論が繰り広げられている。ただ、研究発表を聞いていると「いや、実態はそうではないんだよ」と感じてしまうことが、時にはある。若い研究者には、「内側の真実」に触れる場を作りたいと考えている。「Back Stage Pass」を持っていれば、一段上の研究ができるはずだ。登壇を思い出すと、「ロシア・モスクワでのシンポジウム」「英国・ロンドン大学でのセミナー」「日本・衆院議員会館での講師」などが記憶に残っている。どこでも、日本音楽の可能性を、ファクトを携え、スピーチした。
この学会で出会った大阪大准教授の輪島裕介さんと、最近、よく対話をしている。演歌・歌謡曲研究の第一人者だ。昭和歌謡には、ジャズ、マンボ、サンバ、ルンバ、シャンソン、ロシア民謡、ロカビリーなど、世界の音楽のエッセンスが凝縮されている。現在のように、世界中の音楽を瞬時に聴くことができない頃、音源を買い求め、プロが歌唱するレベルに昇華させ、マーケットの受容する「和製ヒット曲」を制作することは、容易ではなかったと思う。時には、誤った世界像を描くこともあった。時間というフィルターを通して残った名曲と呼ばれるナンバーは、「作り手」の「進行形」の思いが詰まっている。決して「昔は素晴らしい」という懐古趣味ではない。「進行形」であることが重要なのだ。
「作り手」と「研究者」の両側に関わっていると、双方の視座の違いが、時には活力を生み、齟齬も作り出していることが分かる。「内側」と「外側」を現在進行形で作り出している私が、少しでも未来を担う人材の力になれば嬉しい。
以前、プロデュースの一端を担った楽曲をテーマにした番組制作をしたことがある。しかし、すぐに困難に直面した。「楽曲」という「主観」と、「番組」という「客観」は、同じ人物が制作することはできないからだ。以後、同じような打診は、お断りしている。平野啓一郎さんの言を借りれば、「分人」という概念が日本にも広まることを祈念している。
楽しみな2020年代が待ち受けている。上海のメルセデス・ベンツアリーナで行われた米津玄師のライブは、その予兆となるものだろう。いま、ワクワク感しかない。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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