2015/04/05 12:00
1週間前倒しとなったダウンロード・リリースがスタートするなり話題騒然。Spotifyでは初日に960万回再生という新記録を樹立し、Billboard 200では2週連続のトップに君臨している。しかし実際に作品に触れてみると、そんなニュースさえも当然としか思えないところに、ケンドリック・ラマーの新作『To Pimp A Butterfly』の凄さはある。
西海岸ギャングスタ・ラップのメッカとなったカリフォルニアはコンプトンで、ごく善良な市民として生まれ育ったケンドリックは、巨大ビジネスと混乱をもたらしたカルチャーとブラック・アイデンティティの「その後」を生きる語り部として、メジャー・デビュー作『good kid, m.A.A.d city 』(2012)によりセンセーションを巻き起こした。
ボリス・ガーディナー「Every Nigger is a Star」のサンプリング・コーラスで幕を開ける新作の冒頭「Wesley’s Theory」は、フライング・ロータスのトラックにサンダーキャットのベースが響き、ジョージ・クリントンや電話口のドクター・ドレーまでが登場。ケンドリックはアンクル・サム(=米国)の視点で詩的なリリックを綴っている。直後に激しいジャズ・アンサンブルとケンドリックのラップが猛り狂い、オールドスクールなトラックに乗せた“King Kunta”は、奴隷制度をテーマにしたTVドラマ『ルーツ』の主人公をモチーフにしているナンバーだ。
アフリカン・アメリカン史とブラック・ミュージック史、そしてケンドリックの成功譚が交錯し、その中をジェットコースターのように駆け抜ける『To Pimp A Butterfly』は、高い文学性とラップ・スキルが執念を帯びて生み出した、激しく揺れるブラック・アイデンティティの現在を映し出すアルバムだ。ファレルが参加した「Alright」では、<“Where do we go, nigga?”(2パックが残したフック)みたいなこの世界を見ていると、俺のプライドは落ちぶれちまうんだ>と嘆き、欲望と寛大さを巡る物語「How Much Dollar Cost」では、最後にロナルド・アイズレーの懺悔するようなコーラスを引用している。
<俺は2015年最高の偽善者だ>と、暴動の中で同胞を傷つけてしまう混乱を語る「The Blacker The Berry」。グラミーの最優秀ラップ・ソング賞を獲得した「I」は、その混沌とした世界の中で<俺は俺自身を愛する>と唱える。そしてクライマックスの「Mortal Man」には、2パックのインタヴュー・テープを用いてあたかも2パックとケンドリックが真摯に語らうような一幕が盛り込まれ、ケンドリックが思いの丈を伝えながら「あんたはどう思う? なあパック、パック、パック……」と締め括られる。『To Pimp A Butterfly』=捕われの蝶とは、一体何者なのだろうか。ぜひ確かめて欲しい。
ちなみに、タイトルの『To Pimp A Butterfly』とは、米国の学校教材としても親しまれてきた、人種差別がテーマの有名な小説/映画『アラバマ物語(To Kill A Mockingbird)』をもじったものだ。激しい怒りや悲しみに満ちながら、ただ単に人種間の争いではなく、更に踏み込んだ社会全体の問題としてブラック・アイデンティティを捉えるラップ・アルバム。繰り返し聴き込むほどに感動が増す傑作である。
text:小池宏和
◎リリース情報
『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』
ケンドリック・ラマー
2015/5/20 RELEASE
2,450円(plus tax)
※歌詞・対訳・解説付き
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