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2026/02/24 19:00

<ライブレポート>なとり 『深海』の底から見つけた光――23年の人生が水面へと押し上げた、初の日本武道館公演ファイナル

 2ndアルバム『深海』を引っ提げて開催された、なとり初の日本武道館ワンマンライブ【なとり 3rd ONE-MAN LIVE 「深海」】。それはなとりが潜った深海から、リスナーとともに光を見出し、未来へと走り出す潮目のような時間だった。2024年からライブ活動を開始し、わずか約2年で実現した日本武道館2DAYSの最終日は、なとりの23年間の人生と深層心理、そしてさらなるポテンシャルが花開いていた。

 会場に入ると海の中を彷彿とさせる効果音が響き、青い光に照らされたステージ背面と前面に設けられた可動式LEDモニターには海中の気泡が浮かぶ。天井には水面がゆらゆらと揺れるような模様が照射されており、会場はまさしく深海の世界が広がっていた。会場の明かりが薄暗くなるのと反比例してモニターに映し出された泡は数を増し、響き渡る効果音がシームレスに「うみのそこでまってる」につながると、モニターに“深海”の文字が躍り、そこから鮮やかに「セレナーデ」のイントロへとなだれ込む。ステージ中央には四角い箱の上に乗り、真っ白な衣装に身を包み両手を広げたなとりの姿があった。

 モノクロの映像をバックにハンドマイクで身体を躍動させながら歌い、それを下手から西月麗音(Ba.)、神田リョウ(Dr.)、モチヅキヤスノリ(Key)、TAIKING(Gt. / Suchmos)、ジョージ林(Sax. & Flute / BREIMEN)が取り囲む。観客もこの日を祝福するように高らかにクラップを鳴らし、なとり目掛けて歌声やコールを飛ばした。バンドメンバーによるインタールードから「ヘルプミーテイクミー」につなぐと、エレキギターを肩に掛けたなとりは「武道館!」と呼びかける。昂る気持ちをコントロールするように鋭く歌う姿も目を見張るほどに艶やかだ。その後も「EAT」「FLASH BACK」とバンドの瀟洒な演奏を纏うようにスマートかつ毒気を感じさせるボーカルを繰り広げ、瞬く間に観客の心を掴んだ。

 日本武道館の景色に感動を示すと「(『深海』というアルバムは)居心地のいい作品ではないけれど、ライブは手放しに楽しんでいただいていいので」と呼び掛けて「フライデー・ナイト」へ。演奏に乗せて「いやあ、楽しみですねえ。皆さんの上手な歌声がでかい声で聴けるなんて!」と笑う彼はいたずら好きの少年のようで、観客と目を合わせるように、歩み寄って歌唱する。荒々しさと色気が混在する佇まいと歌声は、23歳になったばかりの彼をリアルに感じられた。

 続いての「プロポーズ」はライブという環境も相まって、なとりの歌う歌詞の一つひとつが観客へ向けた思いのようにも響いてきた。それはその後に披露された「恋する季節」「帰りの会」「ターミナル」でも同様だった。甘い香りが立ち込める演出や、星や蝋燭の火といった微かな光のモチーフと暗闇を巧みに用いた照明も手伝って、ふたりだけの世界に包まれるような感覚に陥る。彼のラブソングの世界はとてもミニマルで、愛ゆえに心の奥に生まれる様々な感情を正直にしたためた楽曲が多い。だからこそ観客一人ひとりも、胸の内に秘めた本音を彼の音楽に委ねられるのだろう。

 緊迫感で駆け抜ける「聖者たち」の後は、ダンスナンバーを立て続けに届ける。シンプルなクラブミックスにならないところに、なとりの異端性が発揮されていた。前面のLEDモニターが降下して立体的でブライトな映像演出が施されるなか、Yohji Igarashiによるリミックスの「DRESSING ROOM」を披露し、観客を煽ると同時に自身のテンションも上げていく。ネガティブなワードが連続する「非常口 逃げてみた」も痛快に響き、「Overdose」「SPEED」とリミッターを外すように喜びや胸の高鳴りをあらわにして、その雄々しく爽やかな気魄で観客を巻き込んだ。抑制された衝動や焦燥感が姿を変えた彼の音楽は、一般的なポップスと比較すればどこかいびつで煤けているかもしれない。だがそれを誰かと共有できたときの喜びは計り知れない。なとりがひとり迷い込んだ深海は、聴き手が足を踏み入れた瞬間に楽園やシェルターに変貌することを実感したセクションだった。

 和気あいあいとした空気で観客とコミュニケーションを取ると、なとりは先輩アーティストの日本武道館公演やその姿に憧れてライブ活動に踏み出したことを明かす。そして「先輩の背中を見ているのが楽しかったし、背中を見られている先輩も心地いいんだろうなと勝手に想像していて。俺の音楽やこのライブに憧れて音楽を始めて、『あなたの背中を見て育ってきました』と言ってきてくれるやつが現れることが、俺にとっていちばんの、最高の夢です」「俺の背中を刺したいと思うやつがいたら、いつか武道館に立って俺を見返してやってください」と胸を張った。そこには今後もアーティストとして歩みを止めないこと、さらに成長していくことへの決意も滲んでいた。

 さらに「俺も先輩アーティストたちの背中を刺したいんです。まだ俺ひとりの力じゃ足んねえから力を貸してください。俺のためにぶっ飛ばしてくれますか!?」と観客を焚きつけると「にわかには信じがたいものです」をきっかけにロックナンバーをたたみかけた。「君と電波塔の交信」ではダンサーと動きを揃えるなど、前のめりでありながらユーモラスなステージを展開させる。「IN_MY_HEAD」では観客がタオルを回し、バンドメンバーのソロ回し、本能のままに叫びギターをかき鳴らすなとり……など、この1年半で同曲がキラーチューンとして存分に育っていることがうかがえた。そこから間髪入れずにつないだ「絶対零度」はまさにそのトドメとも言わんばかりの快進撃である。観客となとりが〈その目に映った、全部を抱えて/生きていくんだ、間違いないさ〉と叫ぶように歌う光景は熱狂的かつ爽快で、花火のように美しかった。

 「糸電話」からは弦楽四重奏が加わり、さらに鮮やかな音色で魅了した後、なとりは「次の曲で『深海』は完成します。僕にとってすごく思い入れのある曲です」「気づけば自分の深層心理のようなものを表す曲になったので、今日この曲をもって、『深海』を一旦終わらせたいと思います」と告げる。そうして披露された「バースデイ・ソング」は、なとりの喜怒哀楽や愛憎が激しく渦巻く。苦しくも透き通った音像、喉を嗄らしながら歌うその声は真っ白な光とステージに溶けていき、会場もそれにたちまち飲み込まれていくようだった。

 「今の曲を持って『深海』は無事完成しました」と宣言すると、なとりはあらためて自身の思いを言葉にした。初めて作った楽曲を聴かせた友人から「お前の曲は世界を救う」と言われたこと、その言葉のおかげで活動を続けてこられたこと、その友人との夜中の散歩で偶然武道館にたどり着いたときに「いつか絶対武道館に立つ」と約束したこと、その友人はもっとなとりが大きく成長すると信じていること、だからこそなとりは今も音楽を楽しんで続けていられることを明かし、友人に感謝を告げる。そして家族が当初より音楽活動を応援してくれていたことに触れ、照れ笑いを浮かべながら「何万人もの人が自分の曲を歌ってくれているくらい成長したよ」と家族に呼び掛けた。

 「クローゼットで、たったひとりで曲を作っていたあの時から、いまはこうしていろんな人が観に来てくれています」「皆さんと俺を出会わせてくれた運命は本当に美しいものだなと思います」と噛み締め、なとりはこの日の締めくくりに、自身が初めて制作した楽曲「金木犀」を届ける。金木犀の香りが会場を包み、なとりが最後の力を振り絞るように歌い切ると、夜更けを描いていたモニターの中の映像はいつしか朝を迎えていた。日本武道館公演という節目を迎えた彼の、新たな日々が始まることを示唆するようだった。

 なとりは「これからもどうぞよろしくお願いします」と力強く言い、深々と頭を下げた。6月からのホールツアー【なとり ONE-MAN LIVE TOUR「行進」】は、ソウル、シンガポール、バンコク、台北のアジア4都市に加え、ツアーファイナルとして東京ガーデンシアターでの2DAYS追加公演も決定している。音楽に恋焦がれた少年時代も、夢中になって音楽を作り始めた活動の黎明期も、様々なものを失った苦悩の時期も、大きな目標を達成した今の自分も引き連れて、なとりはまだ見ぬ世界を求めてこの先も自身の音楽の道をまっとうしていくだろう。エンドロールが流れるなかステージを後にする背中は、そんな頼もしさに溢れていた。

Text:沖さやこ
Photo:タマイシンゴ/マスダレンゾ


◎公演情報
【なとり 3rd ONE-MAN LIVE 「深海」】
2026年2月19日(木) 東京・日本武道館

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